No.1116518

恋姫英雄譚 鎮魂の修羅52

Seigouさん

尖鋭の修羅

2023-03-16 17:40:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1585   閲覧ユーザー数:1372

蓮華「な、一刀が曹操に付いたですって!!!??」

 

小蓮「う、嘘だよね、あの一刀がそんな・・・・・」

 

思春「間違いありません」

 

鴎「確かです」

 

明命「はい、おまけに董卓軍や官軍を含めた多くの将兵が曹操に付きました」

 

炎蓮「くぅ~~~、曹操に先越されちまったか」

 

粋怜「まさか、あの一刀君がとはね」

 

祭「ああ、曹操に一手も二手も先を越されたのう」

 

明命「おまけに、遠目ではありましたけど、一刀様の身に纏う氣が、何というか・・・・・」

 

鴎「ええ、黒くなっていたんです・・・・・」

 

炎蓮「そいつは邪気ってやつだな」

 

祭「あの妖術のであるか」

 

炎蓮「ああ、あれは妖術使いにしか見られない特徴なんだがな」

 

粋怜「一刀君は、妖術とは無縁だったはず、ということは・・・・・」

 

炎蓮「どうやら天の御遣いってやつは、堕ちると邪気をその身に纏うようだな」

 

蓮華「堕ちる、それはどういう事ですか?」

 

炎蓮「文字通りの意味よ、俺達はあいつの純粋さを舐めていた・・・・・そういうこった」

 

小蓮「それくらいに、一刀はこの大陸の為を思ってやっていたってこと?」

 

亞莎「闇に堕ちる程の純粋さで行動していたという事ですか・・・・・」

 

穏「純粋さというのは残酷ですからね~、あらゆる意味で・・・・・」

 

粋怜「希望を持ってやっていた分、それが裏切られた時の絶望というのは半端ないものですからね・・・・・」

 

梨晏「一刀、大丈夫かな・・・・・」

 

今ある思い人の心境を想像し、梨晏は胸が締め付けられる思いだった

 

雷火「天と言えども、しくじる時もあるか・・・・・」

 

包「ま、絶対的なものなんて無いという、良い教訓となったと思いましょう・・・・・」

 

この二人は、前々から孫堅軍と交流をしていたため、建業に残っていた袁術軍の撃退に一躍の貢献をした

 

もともと炎蓮と雷火はそれ以前からの付き合いであるし、雷火にとって美羽に仕えるようになったのは、業務上の成り行きのものでしかなかったのだ

 

思春「それともう一つ、袁術軍も曹操軍に取り込まれました」

 

蓮華「袁術まで曹操に付いたっていうの!!?」

 

小蓮「ちょっと待ってよ、いい報告が一つもないんですけど・・・・・」

 

雪蓮「袁術ちゃんにこれまでの借りを返せなかったのは、癪と言えば癪ね」

 

冥琳「ああ、奴を迎え撃つ準備をしていたが、無駄に終わったな」

 

思春「その過程で、劉備軍は荊州に逃れたようです」

 

百合「朱里が・・・・・」

 

細作達の報告は聞けば聞くほど、これからの道程に暗雲を齎すものだった

 

雷火「ここに来て、時世が急速に動いておるのう・・・・・」

 

包「ええ、あの反董卓連合から一気にきな臭くなってきていますね、一体何があったのやら」

 

炎蓮「そういやお前等には言っていなかったな・・・・・梨晏、説明してやれ」

 

梨晏「あ、はい・・・・・実は、ですね・・・・・」

 

そして、ここで初めて、孫堅軍は外部に反董卓連合の真相を伝えるのだった

 

雷火「むぅ、漢王朝はそこまで駄目になってしまっておったのか・・・・・」

 

包「ま、これも身から出た錆というものです、それを削ぎ落すのを疎かにすれば、そうもなりますよ・・・・・」

 

雷火「太祖劉邦も、嘆かれておることじゃろう・・・・・」

 

漢王朝が残した栄光や伝説を教えとして受け、その統治を体験している世代である雷火からすれば、この真相はショックでしかなかった

 

炎蓮「へっ、いちいち死人のご機嫌取りなんざしてんじゃねえっての!」

 

雷火「炎蓮様、それは先人に対する冒涜というものじゃぞ!」

 

炎蓮「死んだ人間の為に出来る事なんざ何一つあるか!!俺達に出来ることはな、今を生きる人間の一人として今この瞬間に何が出来るかを考える事だけだ、そいつは過去の人間どもだって同じなんだよ!!」

 

雷火「・・・・・・・・・・」

 

包「お師さん、もう過去に縋り付くのは止めましょう・・・・・漢王朝の伝説は、ここまでです」

 

雷火「・・・・・これも時代の流れか」

 

天を仰ぎ、かつての栄光を噛み締めるも、それを振り払う

 

もはや時代は、過去の栄光に縋り付くことさえ許さないのだ

 

炎蓮「話が終わったとこで、俺達に休んでいる暇なんざねぇぞ・・・・・紀霊の野郎、置き土産ならぬ、空土産を残していきやがったからな♪」

 

粋怜「そうね、なにせあいつときたら・・・・・」

 

こうなることを見越していた巴は、只では転ばなかった

 

孫堅軍に対する意趣返しと言わんが如く、建業の宝物庫から一つ残らず宝をぶん取っていったのだ

 

綺麗さっぱり空となっている宝物庫を見て、当初一同は愕然としていた

 

空城の計ならぬ、空宝の計とでもいうべきか

 

炎蓮「はっはっは~~~、やるじゃねぇか紀霊の野郎♪♪♪」

 

祭「うむ、それでこそ大殿様が認めた将じゃ♪♪♪」

 

穏「笑い事ではありませんよ~!!」

 

亞莎「これでは、この建業の内政は一からやり直しも同然です・・・・・」

 

冥琳「その通りです、嘲笑も時と場合を考えてください」

 

炎蓮「へっ、美周郎ともあろう者が情けねえこと言ってんじゃねえ!!これくらいの損失、直ぐに埋めて見せろや、これから先こんな程度の出費じゃ済まねえんだぞ!!」

 

冥琳「・・・・・それは尤もでございます」

 

炎蓮「こうなりゃ、揚州平定を急ぐぞ・・・・・時間が経てば経つほど、あの宦官の孫がのさばると思いやがれ!!!」

 

雪蓮「ええ、まだ私達は足元さえもおぼつかない状況・・・・・山越、宗部、宗伍の奴らを排除しなくちゃならないわ!!」

 

冥琳「穏、亞莎、百合よ、これからが我ら文官の正念場と思え!!」

 

亞莎「は、はい!」

 

穏「うぅ~~、また眠れない夜が続きそうですねぇ~・・・・・」

 

百合「朱里が頑張っているんですもの、お姉ちゃんも頑張らないと!」

 

雷火「包よ、ワシ等も気張る時ぞ!!」

 

包「あぁ~~、やっぱりそうなるんですねぇ~~・・・・・」

 

本当に戦というのは金食い虫も良い所である、仮に勝利したとしてもその出費に見合ったものが還ってくるかと言えば、そんなことは稀である

 

かつての一刀の言う通り、戦の資金を全て内政に回せたらどれだけいいか

 

そんな魅惑的な誘惑を振り払い、孫呉は地盤固めを急ぐのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荊州に渡った桃香達は、涙と焔耶の好意で十数万の難民達の世話をしてもらう事となった

 

その過程で、その十数万の、実に半分以上が、この南陽に残りたいと言い出したのだ

 

自分で付いてきたくせに厚かましいと思うかもしれないが、その気持ちは痛いほど分かる

 

それ程までに、この南陽の治世がずば抜けているという事は自分達も分かっているからだ

 

それ故に、残りたいという彼らを止めることも、非難することも出来なかった

 

あらゆる意味で、情けないと思うと同時に申し訳ないとも思う、何せこれから自分達は彼らを巻き込む戦いを展開するのだ

 

自分達を慕って付いて来てくれた彼らを、いずれ自分達は殺すこととなる

 

最早、言葉もなかった、自分達には理想を語る資格すらも無いのではと思えてくる

 

そんな中、桃香達は荊州州牧、黄忠こと紫苑に面会する為、襄陽を訪れたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涙「え、そんな、一刀様が・・・・・」

 

焔耶「そんな馬鹿な、あの北郷殿がそんな事になるなんて、信じられるか!!!」

 

朱里「紛れもない、事実であります」

 

雛里「はい、疑うというのでしたら、陳留に細作を放てば直ぐに分かることでしょう」

 

涙「・・・・・・・・・・」

 

焔耶「・・・・・・・・・・」

 

余りに自信に満ちた伏龍鳳雛に、二人は黙り込まされた

 

天の資料を授けられ、それにどれだけ助けられたか分からない涙は、一刀を尊敬してやまない

 

涙の護衛をしながら、町の発展を見てきた焔耶も涙と同じく一刀を心の師としていた

 

なにせ、熊を素手で倒したり、一切無駄のない動きでチンピラを倒し、璃々を助けたのだから

 

武においても一刀は焔耶の目標であり、彼の背中を追いかけて、暇を見つけては鍛錬に勤しんで来た

 

紫苑「こうなることは、想定していたけどね・・・・・」

 

桔梗「ああ、やはり理想は理想、という事かのう・・・・・」

 

璃々「一刀様・・・・・」

 

紫苑と桔梗は、立場が立場である故、同盟を無闇に結ばなくて良かったと思うが、同時に南陽の成果を見ているため、その気持ちは複雑であった

 

璃々は、只々只管に一刀の身を心配するのみだった

 

愛紗「いずれは、ここに曹操が攻め寄せて来ます、その時は、あの北郷一刀もやってくるでしょう」

 

鈴々「なのだ、お兄ちゃんの力は、分かっているはずなのだ」

 

紫苑「私と桔梗は、直接彼の力を見たわけではないから何とも言えないけど・・・・・」

 

桔梗「焔耶、涙よ、どう思うか?」

 

焔耶「もし、あの人がここを攻めるとなると、脅威としか言わざるを得ないかと・・・・・」

 

涙「こここ、怖いです、怖過ぎですうううううううう!!!」

 

この反応を見るに、冗談でも酔狂でもなさそうだ

 

桃香「それで、なんですけど・・・・・私達は、王朝の復興をしたいと思っているんです」

 

桔梗「確かにのう、話の限りでは朝廷は滅んだも同然と言えるか」

 

紫苑「ええ、これは自滅したとも言えるけど・・・・・」

 

朱里「違います、朝廷は曹操が滅ぼしたも同然です!!!よって私達は、曹操を滅ぼし、陛下に代わって漢王朝を再興しなければなりません!!!」

 

桔梗「お、おおう・・・・・」

 

紫苑「え、ええ・・・・・」

 

「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」

 

いつになく力の入った朱里の物言いに、劉備軍一同も黙り込む

 

周りを巻き込んででも事を成すという覚悟が滲み出ていた

 

おまけに華琳を滅ぼすという言動には驚愕ものだった

 

ついさっき危機を救ってもらい、払い切れない程の借りを背負っている相手を滅ぼすなどなかなか言えるものではない

 

それと同時に、この言動には誰も何も言えなかった、何せ自分達に恩だの義だのと言っている余裕など無いのだ

 

それが分かっているからこそ、朱里も強気のゴリ押し交渉を敢行しているのだ

 

これも伏龍の謀だとすれば、末恐ろしいと言える

 

雛里「そこで何ですが、王朝の再興をする上で、私達は纏まった土地を探しています」

 

桃香「はい、どこかに良い土地はありませんか?」

 

紫苑「そう、ですね・・・・・蜀の地はどうでしょう?」

 

雛里「蜀と言いますと・・・・・益州ですか?」

 

桔梗「うむ、ワシ等は益州州牧、劉璋とも交流があるのじゃが、こやつがなかなかの無能者でな」

 

紫苑「最近の益州は、賊の闊歩が目に余る無法地帯と化しています、あの者にはあれだけの広大な土地を統治する能力も器もありません」

 

雛里「この地を桃香様の徳によって統治すれば、との事ですか?」

 

紫苑「ええ、益州の治世はこの荊州にとっても得ですので」

 

朱里「承知しました、では益州平定の際にはご支援を頂きたく存じます!!!」

 

紫苑「え、ええ・・・・・承知したわ・・・・・」

 

桔梗「見た目に反して、中々に迫力のある女子じゃのう・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美花「なるほど、承知仕りました」

 

星「次は、益州であるか」

 

白蓮「あそこの評判で、いい報告を聞いたことがないな」

 

雷々「そんなに酷いの?」

 

電々「う~~ん、あんまり商売に向かない所は嫌だなぁ・・・・・」

 

雫「大丈夫です、私達が商売をし易くすればいいだけの話です」

 

雷々「そうだね、雷々達がやればいいだけの話だよね♪」

 

電々「よ~~~し、張り切っちゃうぞ~~~♪♪」

 

朱里「では、準備出来次第、出発します!!」

 

鈴々「うう、何だか最近の朱里、怖いのだ・・・・・」

 

愛紗「ああ、なんだか鬼気迫るものが有るな・・・・・」

 

報告を聞いて、一同はまだ見ぬ土地に思いを馳せる

 

雫「白蓮さん、星さん、一つ聞きたいことがあるんですが」

 

白蓮「なんだ?」

 

星「ん?」

 

雫「あの南陽の町なんですけど、あれは本当に幽州と同じ政策で統治されていたんですか?」

 

星「ああ、間違いない」

 

白蓮「一刀の奴、狙ってやったわけじゃないとはいえ辛い置き土産を残していったもんだ・・・・・」

 

星「まったくです、覚悟がいちいち揺らぎますな・・・・・雫は、一刀殿に興味があるのか?」

 

雫「あ、はい、あれほど緻密な同盟内容を考えるお方と、一度ゆっくりとお話をしたいと日頃から思っていました」

 

白蓮「確かに、凄い奴だよ・・・・・どうして、こんな事になってしまったんだろうな・・・・・」

 

星「ええ、このような時世を恨む他ありませんな・・・・・」

 

この二人は、まだ反董卓連合と袁紹軍侵攻の真相を桃香達に伝えていなかった

 

なにせこの情報は劇薬である、これほど多くの人間を巻き込んでいる中で公開しようものなら、状況がどう転ぶか全く分からない

 

今は胸の中にしまっておく方が得策である

 

白蓮「(私は、どうすればいいんだろうか・・・・・)」

 

特に一番葛藤をしているのは白蓮である

 

おそらくは、この大陸で最も天の知識を一刀から授けられているのだから

 

この乱世の行く末を僅かながら知っているため、このまま桃香に協力し続けてもいいものかと、疑問ばかりが募る

 

いっそのこと話した方がスッキリするかもしれないが、その場合、あの朱里に消されそうだ

 

どう考えても盲目的かつ暴走気味になっている伏龍の手前、白馬将軍も指を咥えるしかなかった

 

雫「(・・・・・御遣い様、やっぱり、会いたいです、会ってお話がしたいです)」

 

二人の反応から見るに、自分の想像を超える人物であることが伝わってくる

 

あのような姿を見た後でも、幻滅するどころか、逆に会いたい気持ちが強くなる

 

まるで恋い焦がれる乙女のように、雫は陳留の方角を見ながら、かの御遣いの心身を案じるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

袁術軍を、戦うことなく吸収した曹操軍

 

しかし、いきなりこれだけの人数の処遇を決定するのは無理があるため、まずは徐州の警備隊に付いてもらった

 

建業の宝物庫から根こそぎぶんどって来た宝を、資金源として活用することとした

 

主だった者に報告することも必要なため、美羽、七乃、巴は陳留へと招かれた

 

そんな中、美羽達は、反董卓連合と北郷包囲網の真相を聞かされることとなる

 

美羽「な、何じゃと、そんなしょうもない事じゃったのか!!!??」

 

七乃「これは、酷いものですねぇ~~・・・・・」

 

巴「袁紹様、あなたはどこまで支離滅裂が過ぎるのですか!!?」

 

麗羽「はい、全ては私の盲目が招いたことです、美羽さんをはじめ多くの皆様を巻き込みました・・・・・お好きなだけ詰っていただいて構いません」

 

美羽「・・・・・・・・・・」

 

七乃「・・・・・・・・・・」

 

巴「・・・・・・・・・・」

 

手を腹部に据え丁寧に一礼する、その余りの礼儀正しさに、三人は唖然とする

 

侍女の服に身を包み、かつての傍若無人な振る舞いは鳴りを潜めている

 

あの鬱陶しいドリルヘアが無くなり、さっぱりとした出で立ちとなっている

 

これが本当にあの麗羽なのかと疑いたくなる位の変貌ぶりであった

 

華琳「麗羽は、陛下と劉協様の侍女として暮らすこととなったわ・・・・・袁家は取り潰しで、袁本初の名も剥奪されているわ、そう認識しなさい」

 

美羽「ま、待つのじゃ、まさか妾も・・・・・」

 

華琳「この件に関しては、あなたは無関係よ・・・・・とは言っても、袁家の信用は地に落ちているには変わりないため、その血筋であるあなたにも悪影響は確実に出るわね、よってあなたの家も取り潰しも同然となるかしら」

 

美羽「・・・・・・・・・・」

 

華琳「よって、袁家の命運はあなたの肩に掛かっていると思いなさい、袁家を生かすも殺すもあなた次第という事よ」

 

七乃「・・・・・お嬢様、これはもう頑張るしかありません!」

 

巴「はい、私達も粉骨砕身の気概で臨みます、美羽様もお覚悟を!」

 

美羽「うぅ~~~、こうなったらやけくそなのじゃ!!!袁家は妾に任せるのじゃ!!!」

 

彩香「因みに、反董卓連合と北郷包囲網の真相は公にはしていませんので、口外は一切しませんように」

 

七乃「まぁ~~、そうなりますよねぇ・・・・・」

 

巴「これほどの情報を今公開するのは、得策ではありません」

 

美羽「それは、なぜなのじゃ?」

 

桂花「それが分かる分には成長して見せなさい・・・・・まったく、先が思いやられるわ」

 

本当に袁術軍を招き入れても良かったのかと、若干後悔がチラついてきた

 

一刀「話は終わったか、なら次は俺だ・・・・・美羽、俺が渡した天の硬貨を出せ」

 

美羽「え?・・・・・おお、そうなのじゃ、一刀から貰ったこの硬貨、そろそろ光が消えそうじゃからまた頼むのじゃ♪」

 

かつて、大陸一周の旅で揚州を訪れた際、五百円玉に回天丹田をかけ直してもらった

 

持ったまま眠ると必ずいい夢が見られるため、喜んで懐から取り出し一刀に渡した

 

だが

 

一刀「っ!」

 

掌に邪気が集中し五百円硬貨に残された氣が消失した

 

そのまま握り込むと嫌な音を立てて、五百円硬貨は見るも無残な形となった

 

美羽「な、何をするのじゃ!!?」

 

七乃「そんな、せっかくの夢見枕が・・・・・」

 

巴「一刀、どうしてこんな・・・・・」

 

一刀「これからは、こんなものに頼れると思うな、自分の力だけでやり遂げて見せろ」

 

そして、一刀は玉座の間を退室しようとする

 

桂花「ちょっとあんた待ちなさい、これから全員の処遇を決めるのに、どこ行くのよ!!?」

 

彩香「ええ、稟と風もこれから帰ってくるのですから、その報告も聞かねばなりませんよ!」

 

一刀「俺の処遇は勝手に決めればいい、報告も後で聞く」

 

氷環「私は、隊長様と同じ部隊、部署であればそれでいいですわ」

 

炉青「ウチもあに様と同じ所がいいどす、というかそれ以外はお断りどす」

 

菖蒲「私の部隊も解体されていますので、一刀様と同じであればどこであろうと構いません」

 

この言葉を残して、4人は玉座の間を去っていった

 

桂花「なんて自分勝手な奴らなの、なら本当に勝手に決めさせてもらうわよ!!」

 

麗春「であれば、私も一刀の部隊にしてもらうぞ、そして軍師として一刀の指揮をするのだ♪♪♪」

 

彩香「一刀君、本当に変わってしまったのですね・・・・・」

 

華琳「・・・・・・・・・・」

 

その変わりように、華琳も正直驚いていた

 

あの邪気を見ても、これまでの一刀とは対極のものだと分かる

 

おまけに誰に対しても、あの空丹や白湯をも呼び捨てにし、タメ口をきくようになっている

 

変わったのは良いが、その変化が悪い方向に行くのではないかと、内心穏やかではいられなかった

 

美羽「一刀のやつ、本当におかしくなったのじゃ・・・・・」

 

七乃「私は、以前の一刀さんの方がいいです・・・・・」

 

巴「もう、かつての一刀を見ることは叶わないのでしょうか・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「・・・・・お前達まで来る必要は無いぞ」

 

氷環「私はどこであろうと、隊長様と共に在りますわ」

 

炉青「あに様と一緒なら、火の中水の中どす」

 

菖蒲「どこまでも一緒に行きたいです、一刀様」

 

一刀「好きにすればいい・・・・・それとその様とか何とかという呼び方、改めた方がいいぞ」

 

氷環「私にとって、隊長様は隊長様ですわ♪」

 

炉青「はいな、あに様はあに様どす♪」

 

菖蒲「これからも、一刀様とお呼びします♪」

 

一刀「・・・・・好きにしろ」

 

三人を引き連れた状態で、街に繰り出す

 

その途端に、それまで明るかった町民がザワザワと取り乱す

 

本来なら美女三人を引き連れた男を見て、嫉妬やら艶羨やらの感情をぶつけられる所であろうが、自分達から距離を置こうとする

 

その目は、完全に白い目で見るそれでありながら、恐怖を宿すものだった

 

何せ一刀の雰囲気ときたら、近寄れば真っ二つにされそうなそれであり、なにより体から常に邪気が立ち昇っているため、一般人は畏怖の籠った感情しか出てこないのだ

 

菖蒲「(以前は、こんなことは決して起こらなかったのに)」

 

幽州にて北郷隊を率いて治安維持をしていた時の一刀は、本当に町民から慕われていた

 

迷子の子供を親の元まで連れて行ったり、老人を家まで送ったり、商人の荷車を押して手伝ったりと、困っている人達を助けて回り、常に人に気を配っていた

 

文官筆頭になってからも、天の知識による改革を行っていき、民の評価はまさに天を突く勢いで上昇していた

 

それが今はどうだ、これまでも陳留の街に繰り出していたが、常に民から怖がられ目も合わせてもらえない有様である

 

氷環「(隊長様、私は常に隊長様の味方ですわ)」

 

炉青「(ウチは何があってもあに様を守って見せるどす)」

 

せめて自分達だけは、一刀の味方であり続けようと決意を新たにする

 

その時

 

季衣「あ、兄ちゃん♪」

 

流琉「こんにちは、兄様♪」

 

今日は非番の曹操側近が現れる

 

氷環「ああん、またお会いしましたわね、愛らしい季衣ちゃん♪」

 

炉青「流琉ちゃん、お持ち帰りぃ~~どす♪」

 

季衣「うわわ、氷環姉ちゃん、やっぱり凄い////////」

 

流琉「ろ、炉青さん、そ、そんなにしたら・・・・・はにゅ~~~~/////////」

 

かつての反董卓連合の時と同様に、再び二人は氷環と炉青の包容力に包み込まれる

 

最初に会った時から、季衣と流琉は二人のお気に入りだったので、真名を預け合っていた

 

沙和「あ、一刀さんなの~♪」

 

真桜「菖蒲はんも、お疲れさん♪」

 

菖蒲「沙和さん、真桜さんも、お疲れ様です」

 

一刀の邪気にもう慣れている人間は、物怖じせずに近寄ってくる

 

三羽烏の中のこの二人は菖蒲、氷環、炉青ともそれなりに仲が良く、真名を預け合うに至っていた

 

唯一

 

凪「・・・・・・・・・・」

 

氷環「・・・・・・・・・・」

 

炉青「・・・・・・・・・・」

 

菖蒲「・・・・・・・・・・」

 

この四人の仲だけは、冷え切っていた

 

沙和「三人とも、そろそろ凪ちゃんと仲良くしてほしいなの~・・・・・」

 

真桜「まだ根に持っとるんかい、ええ加減お互い水に流しゃええやろに・・・・・」

 

鉢合わせた途端に空気が絶対零度にまで落ち込んだような感覚に陥る

 

それ程までに、あの反董卓連合でのお互いの物言いが尾を引いている様だ

 

一刀「三人とも、それくらいにしとけ」

 

菖蒲「一刀様、しかし・・・・・」

 

炉青「あんなことを言われて、何とも思わないんどすか・・・・・」

 

氷環「ええ、とても許せるものではありませんわ・・・・・」

 

一刀「それも全て、俺の過ちが招いたものだ・・・・・凪、すまなかったな、この三人が失礼をした」

 

凪「いえ、私も言い過ぎたと反省しています・・・・・申し訳ありませんでした」

 

一刀「謝る必要はない、俺が全て間違っていた、お前は全面的に正しい」

 

凪「そんな、私はそこまで・・・・・」

 

一刀「俺の言動こそが全て間違いだった・・・・・今まですまなかったな、お前の言葉を否定してしまって、俺が馬鹿だった」

 

凪「いえ、分かっていただけただけでも、十分です♪♪」

 

ようやく分かってもらえたと、胸を撫で下ろす

 

かつての自分の言動に、若干の後ろめたさがあったが、これでスッキリした

 

胸を張って、警備に戻ろうとした

 

その時

 

「泥棒―――――――――!!!」

 

「「「「「!!!???」」」」」

 

叫び声がした方向を向くと、人込みの中から一人の男が脇に袋を抱えて飛び出してきた

 

どうやら、ひったくりの様だ

 

沙和「あ~~~、いけない人なの~~!!」

 

真桜「この陳留で傾くなんざ、根性あるやないかい!!」

 

季衣「僕も手伝うよ!!」

 

流琉「はい、許せません!!」

 

陳留の治安を乱す輩を、一斉に確保する体勢に入るが

 

凪「待つんだ、皆!!」

 

沙和「え、何々、どうしたの~?」

 

真桜「凪、早う捕まえんと!」

 

凪「分かっている、ここは一刀様に任せよう」

 

そのひったくり犯は、ちょうどこちらに向かってきていた

 

かつて、幽州の治安責任者を務め、自分に治安維持のやり方の一つを教えてくれた人がどうするのか見てみたかった

 

凪「・・・・・・・・・・」キラキラキラキラ

 

一体どのようにあのひったくり犯を確保するのか、凪は目を輝かせながら成り行きを見守る

 

しかし

 

「へっ、うすのろが♪♪」

 

凪「え!!?」

 

そのひったくり犯を、一刀はスルーした

 

一刀の脇を通り抜け、ひったくり犯は逃走していった

 

真桜「ちょっ、なんでやねん!!」

 

沙和「え、沙和達がやれってことなの~!!?」

 

通り過ぎていくひったくり犯を、咄嗟に二人は追いかけて行った

 

季衣「に、兄ちゃん、なんで・・・・・」

 

流琉「ど、どうしたんですか、兄様・・・・・」

 

凪「なぜ何もしないのですか、一刀様!!?」

 

氷環「当たり前でしょう、あなたはかつて隊長様にこう仰いました・・・・・あなたの訳の分からない理屈に縛られるくらいなら、いっそ獣の如く生きた方がまだマシ、と」

 

凪「そ、それは・・・・・」

 

菖蒲「であればあなたは、あなたと同じように獣の様に生きている人間を咎めたり、非難したり、ましてや捕まえるなんてことをしていいと思うのですか?」

 

炉青「はいな、あに様のことをただの馬鹿だの狂人だのと言っていたくせに、余りに筋の通らない物言いどす」

 

凪「そんな、私は、そのような意味で言ったのではなく・・・・・」

 

氷環「では、どのような意味で言ったのですか?」

 

炉青「はいな、しっかり説明してほしいどす」

 

菖蒲「ええ、今すぐ説明してください」

 

凪「・・・・・・・・・・」

 

そう言われても、どう説明したらいいか分からなかった

 

自分の言動が激しく矛盾している自覚があるため、何も言えない

 

仮に、あらゆる犯罪、違反行為、トラブルがこの世から無くなったとしよう、そんな世の中を想像してみて欲しい

 

想像した人に質問をする

 

警察、裁判所、居る?

 

そんな世の中になろうものなら、警察や裁判所など無用の長物でしかなくなる

 

悪あってこその正義である、悪が存在しない正義など正義たり得ない

 

だから、正義を語る人間は悪とやらを成す人間に感謝しなくてはならないのだ

 

なにせ、彼らのお陰で正義はおまんまを食うことが出来、存在意義を保てるのだ

 

凪の言い分の通りなら、ああいう人間を犯罪者呼ばわりなど出来るはずもない

 

何せ、ああいった人間こそがある意味誰よりも経済に貢献しているからだ

 

仮にそれが悪であったとしても、それら全ては必要悪である

 

それが無くなってしまったら、経済がうまく機能しなくなるからだ

 

よって、彼らは必要な存在なのだ、殺人、窃盗、強盗、全部好きにやらせればいい

 

不謹慎だというなら、そういう人間に問いたい

 

見た目は子供、頭脳は大人な名探偵や某少年の事件簿、ああいった作品がなぜ人気があるか、その理由を考えたことはあるか?

 

それは、こういったリアルで起きた事件も参考にしているからである

 

リアルで事件が起きるからこそ、あらゆるサスペンスやミステリーの作者は刺激やインスピレーションを得て、人気の作品を生み出せるのだ

 

逆に言えば、こういった事件が起きてくれなければ、あらゆるサスペンスやミステリーは成り立たないと言える

 

なにせこれは、犯人という火付け役、事件を起こす人間が居なければ始まらないのだ

 

俗に言う犯罪者と呼ばれる人間は、そういったネタを世の中に提供しているのである

 

それを否定するというのであれば、全てのサスペンス、ミステリー作品の制作は全面禁止である

 

そうでなければ辻褄が合わない、リアルで起きた事件をネタにした作品など、その事件の被害者からすれば、不謹慎極まるものでしかないのだから

 

その作品がベストセラーになろうものなら、被害者の心情は推して知るべしだ

 

自分達が巻き込まれた事件が、仕事のネタや、お涙頂戴的な事に使われる・・・・・笑える話ではない

 

かつての石川五右衛門や鼠小僧次郎吉が一番いい例だ

 

彼らの行いは、後の世では義賊伝説として語り継がれている

 

それは、歌舞伎の演目や様々な催しに利用され、現代に計り知れない経済効果を齎している

 

実際の彼らは、そのような義賊的な行いなど一切していないというのにだ

 

という事は、あのひったくり犯の行いも、いずれは莫大な富を生み出す可能性があるのだ

 

そんな彼らを捕まえるのは、甚大な損失と言える

 

記者やニュースキャスターも、そういった事件が起きてくれたら、1週間は食い扶持に困らない、という話を聞いたことがあるか?

 

なにせ、その事件をネタに記事を書きワイドショーを続けられるのだ

 

世の中に死の商人とやらがいるとすれば、彼等もまた死の商人と言える

 

戦争をしている地域に武器を輸出して大儲けをすることだけが死の商売だというなら、勘違いも甚だしい

 

よく、人の命に価値は付けられない、などとほざく輩がいる

 

ではなぜ、この世には、生命保険やら死亡保険やら終身保険などというものが存在しているのか?

 

これこそが正に、命に値段を付けている典型的な例である

 

死の商人を批判する者やその輩は、これら全てを撲滅する努力をしているか?命に値段が付く全ての制度や商売を批判しているか?

 

そんな話は聞いたことが無い、なぜなら、それをして一番困るのはその輩自身だからだ

 

命に値段が付かなくなって一番困るのは、他ならぬ人間自身である

 

死の商売なんてものが存在するなら、それは常に自分達の周りに存在するのだ

 

その事実から目を背け潔白を決め込んでいる輩こそが、一番質が悪い

 

世に言う悪党と呼ばれる輩より、よほど姑息と言える

 

死の商売に自分達も加担していることに気付いていないのだから

 

季衣「凪ちゃん、それ本当なの・・・・・」

 

流琉「兄様に、そんなことを言ったんですか・・・・・」

 

凪「それは、その・・・・・」

 

二人の視線に目を合わせることが出来ない

 

その眼差しの中には、明らかに軽蔑のそれが入り混じっている

 

氷環「隊長様は、ご自身の言葉にしっかりと筋を通されました、であれば今度はそちらが自分の言葉に筋を通す番なのではありませんか?」

 

炉青「そうどすな・・・・・まさかあれだけの啖呵を切っておいて、自分は筋を通さないつもりどすか、どんな餓鬼の物言いどすか」

 

菖蒲「はい、ご自身の言葉には責任を持って下さい」

 

凪「・・・・・・・・・・」

 

氷環「言う事が無ければ、隊長様の事をどうこう言わないで欲しいものですわ・・・・・これからも頑張って下さい、獣の楽進さん♪」

 

炉青「はいな、これからも獣の如く生きてくださいどす~♪」

 

菖蒲「失礼いたします」

 

凪「・・・・・・・・・・」

 

ぐうの音も出ない、自分の言動から派生した痛烈なブーメランに、言葉もなかった

 

沙和「ああもう、凪ちゃん手伝ってなの~!!」

 

真桜「こいつ、ちょこまか逃げ腐りおって!!」

 

「へへっ、この町の警備ってやつは、噂程じゃねぇな♪」

 

どうやら足に自信のあるひったくりの様だ

 

警備を嘲笑うかのように、元の場所に戻って来た

 

氷環「あ、隊長様!」

 

炉青「あに様、危ない!」

 

菖蒲「避けてください!」

 

「トロ臭ぇぜ、うすのろが♪♪」

 

再び一刀の脇を通り抜けようと、押し退けようとしてくるが

 

一刀「・・・・・うるさい奴だ」

 

「はっ!!??」

 

次の瞬間、ひったくりの見る風景が上下逆転する

 

凪「っ!!?・・・・・凄い」

 

今の一刀の動きを殆んど目で追うことが出来なかった

 

以前に一刀から聞いた無刀術を構成する柔術の体捌き

 

気が付いた時には、犯人はうつ伏せで地面に這い蹲っていた

 

そして、うつ伏せになったひったくりを足で踏みつけ、動きを封じる

 

沙和「あ、一刀さん、捕まえてくれたの~♪」

 

真桜「なんや、決める時は決めるんやな♪」

 

凪「一刀様、やはりあなた様は♪」

 

その鮮やかな手並みに、周りは感嘆の声を漏らすも

 

「くそがっ、どきやがれ!!」

 

一刀「世の中に不満があるなら自分を変えろ、それが嫌なら目と耳を閉じ、口を噤んで孤独に暮らすんだな」

 

「な、何を訳の分からないこと言ってやがる!!?」

 

一刀「そうか、それすらも嫌か・・・・・なら・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                 死ネ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴキィッッッ!!!!

 

季衣「え、兄ちゃん!!?」

 

流琉「ひっ!!?」

 

ひったくりの首を極め、そのままへし折る

 

首が明後日の方向に傾き、骨が折れる嫌な音が周囲に響き渡る

 

凪「か、一刀、様・・・・・」

 

沙和「え、こ、殺しちゃったの・・・・・」

 

真桜「い、いくら何でも、やり過ぎ・・・・・」

 

事を見守っていた周りの町民達も慌てふためき、所々から悲鳴が上がっていた

 

凪「一刀様、どういうつもりなんですか!!!??」

 

一刀「なんだ、何か問題があるか」

 

凪「あります、この犯人は、死罪を言い渡される様な罪は犯していません、それにあなたなら無傷でこの者を無力化できたはずです!!」

 

一刀「おいおい、見ての通り無傷だろう、せっかく通りを血で汚さないように気を使ったってのに」

 

凪「そのような事を言っているのではありません!!」

 

一刀「おかしなことを言うな、お前はかつて俺に言ったよな・・・・・武術とは、人を壊す為にあると」

 

凪「そ、それは・・・・・」

 

一刀「俺はあの時、武術は格闘にのっとった人間の体を使った表現法なんてほざいていた、それは全て誤りだった」

 

映画スター、ブルース・リー?こいつはとんだ偽善者であり、こいつの言葉など全て詭弁である

 

世の中に誤った武術の在り方を吹き込み、人々から人間らしさを奪った独善的な行いをしただけの詐欺師である

 

そもそも、武術という人間を傷付けることを前提とした代物に対し表現法などという概念を持ち込んでいる時点でお門違いというものだ

 

これが詭弁でなくて何だというのだ?

 

一刀「すまなかったな、お前の言う通り、武術というのは人を殺す為にある、それが全てであり、真実だ」

 

凪「・・・・・・・・・・」

 

炉青「ま~~~た筋違いな事を言っとるんどすか、この楽進さんは!」

 

氷環「あなた、いくら何でも都合が良すぎると思いませんか?」

 

菖蒲「はい、自分の姿を鏡で見てみたらどうですか?」

 

凪「私は・・・・・私は・・・・・」

 

もう、どう言ったらいいか分からなかった

 

自分の迂闊さを呪うと同時に、如何に自分が自分の言動に責任を持っていなかったか

 

それを思い知らされるばかりだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳「何ですって!!!??」

 

彩香「あなた達、一体何をやっているのですか!!!??」

 

凪「も、申し訳ありません!」

 

沙和「ご、ごめんなさいなの!」

 

真桜「か、堪忍や・・・・・」

 

いきなり飛び込んで来た報告を聞いた一同は、目を見開いた

 

あの温和な彩香も、今回は声を荒げている

 

斗詩「一刀様、なんてこと・・・・・」

 

猪々子「本当に、変わっちまったんだな、兄貴・・・・・」

 

悠「・・・・・・・・・・」

 

ただいまの玉座の間では、この三人の処遇が決められている真っ最中であり、話を聞いた三人は神妙な気持ちを隠せなかった

 

風「お兄さん、どうしてそのような・・・・・」

 

稟「いくら何でも粗雑が過ぎますよ、一刀殿・・・・・」

 

幽州、冀州の現況を報告しに来た風と稟も、鉢合わせた報告に唖然とするしかなかった

 

華琳「一刀、あなたなんのつもりなの!!!??」

 

桂花「そうよ、何の権限があって刑を執行しているのよ!!!??」

 

秋蘭「如何に不貞を働いた輩といっても、何の裁決も無しに勝手に殺すなど、失態以外の何物でもないぞ」

 

彩香「一刀君、あなたもかつて幽州宰相を務めていた身、これが何を意味するか分らない筈が無いでしょう?」

 

一刀「一体何を言っているんだ、お前達にとって不都合な人間が一人この世から消えただけだろ」

 

桂花「本気でそんなこと言っているわけ!!!??」

 

秋蘭「そのような行為、民に恐怖を植え付けるだけにしかならんことは分かるだろう」

 

一刀「なおの事都合がいい、恐怖によって統治すれば、勝手に人間は従ってくれる」

 

桂花「私達がしたいのは恐怖政治じゃないわよ、いい加減な事を言わないで!!」

 

一刀「おかしなことを言うな、死刑制度とて立派な恐怖政治の一つだというのに」

 

桂花「こいつ、ああ言えばこう言って・・・・・以前から町民から苦情が入っていたのよ、変な黒いものをまき散らす輩がいるって!!」

 

一刀「ああ、間違いなく俺だな」

 

桂花「自覚があるなら引っ込めなさいよ、いつもいつもそんな黒いものを立ち昇らせて、薄気味悪いうえに気が散るのよ!!」

 

一刀「今更何を言っているんだ、今の今まで何も言わなかったくせに・・・・・それにこいつは前の氣と比べて攻撃により向いている、見た目なんざどうだっていい」

 

桂花「あんた・・・・・まさか前の方がマシだったとか言うんじゃないでしょうね!!??」

 

一刀「そんな訳がないだろう、以前の俺は綺麗事をほざいてばかりの幼稚な餓鬼だった、それはお前も言っていた事だろう・・・・・まさかお前まで餓鬼の理屈をほざくんじゃないだろうな」

 

桂花「・・・・・華琳様ぁ、駄目です、私じゃ無理ですぅ」

 

春蘭「まったく、軍師が言い負かされていたら世話ないな・・・・・おい北郷、貴様氣の使い手ならその制御くらい出来るであろう、引っ込めるくらい簡単であろうが」

 

一刀「お前こそ人の覚悟を何だと思っている、これは以前の俺を卒業した証であり、その表れだ」

 

春蘭「そ、そうなのか」

 

一刀「そうだ、お前にだって分かるだろう、華琳の家臣として一生を捧げると誓った時の覚悟を、その時の気分の良さを覚えているはずだ」

 

春蘭「その通りだ、あの時の清々しさときたらかつてないほどだった♪♪」

 

一刀「その時のお前と同じで、俺もかつての自分を卒業出来て良い気分なんだよ」

 

春蘭「そうか、それならしょうがないな♪」

 

桂花「ちょっと、一瞬で言い負かされるどころか、言いくるめられてるじゃないのよ!!」

 

春蘭「ああ、しまったぁ!!!」

 

秋蘭「まったく、姉者は暫く黙っていてくれ・・・・・北郷、かつて為政者であったお前なら分かるであろう、これがどれだけ拙いかを」

 

一刀「あの善政だのなんだのと訳の分からない政策を敷いていた頃の俺か・・・・・今となっては黒歴史だな」

 

秋蘭「お前の幽州での政策は、私とて評価している、幽州が発展したのは紛れもない事実だからな」

 

一刀「下らないな、結果はお前も知っての通り、焼け野原が残るのみだ」

 

秋蘭「そこまで卑下する事ではないだろう、お前は結果しか見ていなさ過ぎだ」

 

一刀「なんだ、結果を残してこそじゃないのか、過程などどうでもいい、結果が全てだ」

 

秋蘭「結果さえ出れば、民に不信感を与えても構わないと?」

 

一刀「ああ、構わない」

 

秋蘭「お前は、華琳様に悪名の不名誉を着せる気か!?」

 

一刀「何を言っているんだ、そんなもの悪名でも何でもない、仮に悪名であったとしても悪名とて立派な名声だ、あの月が一番いい例だろうに」

 

秋蘭「月、だと?」

 

一刀「そうだ、お前達はどうしてここに居る・・・・・月が暴君董卓という悪名を被ってくれたから反董卓連合が出来たんだろう、そのおかげでお前達は覇道という大義名分を得ることが出来た、違うか」

 

秋蘭「・・・・・・・・・・」

 

一刀「それ以前に、十常侍、傾、瑞姫達が漢王朝を腐敗させなかったら、お前達はここに居ないだろう、ならばお前達は彼らに感謝しなければならないぞ」

 

秋蘭「・・・・・まるで、我らが、漢王朝の腐敗を望んでいたかのような言い分だな」

 

一刀「望もうと望まなかろうと、それを利用し肖っていたことは事実だろう」

 

秋蘭「・・・・・・・・・・」

 

これら全ては真実である、なにせ月を生贄とすることを良しとしたのである

 

そんな自分達が、どうして十常侍や傾や瑞姫の批判など出来るのか

 

余りの正論に、秋蘭も黙り込まされた

 

一刀「まったく、お前らの器の小ささときたら・・・・・それで良く覇道だなんて言えたもんだな」

 

華琳「なんですって?」

 

一刀「お前達はこれまで何人殺してきた、そしてこれから先何人殺す・・・・・多くの屍の山を築いてきて、これからも築き続けるんだろ・・・・・そんなお前達が、高々人一人の生き死ににどうしてそこまで大騒ぎをする」

 

氷環「はい、そんなあなた方が人の命の尊さを語ったところで、少しも心に響きませんわ」

 

炉青「はいな、そんなお門違いな物言い、聞く耳持たんどす」

 

菖蒲「ええ、何処までも筋が通っていません」

 

人殺しが人の命の尊さを語るなど、片腹痛いことこの上ない話である

 

だからこそというなら、死刑制度は今すぐ廃止である

 

それでなければおかしいであろう、その理屈なら世に言う殺人鬼とやらが、一番命の尊さを知っているという事になるのだから

 

そんな彼らを殺してどうする、命の尊さを一番知っている者を殺してしまったら、それこそ一番の損失である

 

一生懸命に頑張ることが宝だとするなら、戦場は宝の山という事になる

 

それを否定するというのであれば、目の前のこいつらは何だ?

 

こいつらこそが、真っ先に否定されるべき対象と言えるであろう

 

華琳「・・・・・ええそうね、私としたことが大切な事を皆に伝えそびれていたわ」

 

そして、一刀の言葉に吹っ切れたのか、華琳は改めてこの場の全員に向き直る

 

華琳「ここに居る者全てに言っておくわ、日常で人を殺せば罪に問われますが、戦場では殺した数だけ英雄になれる、それが政というものよ!!」

 

秋蘭「・・・・・そうです、それが政の本質というものです」

 

華琳「正当化?結構、屁理屈?結構、詭弁?結構、開き直り?・・・・・大いに結構!!!」

 

桂花「そうですとも、全て結構です!!」

 

華琳「私の好きな言葉は、天上天下唯我独尊、そうでも言っていなければ、覇道などやっていられないわよ!!!」

 

春蘭「その通りです、覇王曹孟徳はそうでなくてはならないのです!!」

 

華琳「一刀、徐栄、張済、徐晃、あなた達に七日の謹慎を言い渡すわ、しばらく頭を冷やす事ね」

 

一刀「・・・・・分かった」

 

氷環「仰せのままに」

 

炉青「分かったどす」

 

菖蒲「失礼します」

 

沙汰に素直に従い、四人は玉座の間を退室し、自室へと引き上げていった

 

風「・・・・・稟ちゃん、お兄さんをこのままにはしておけません」

 

稟「同感です、今のうちに手を打っておかなければ・・・・・」

 

二人は、報告を後回しにし、一刀を追いかけて行った

 

季衣「華琳様、僕、ますます分かんなくなってきました・・・・・」

 

流琉「はい、もうちんぷんかんぷんです・・・・・」

 

春蘭「季衣、流琉よ、お前達もそろそろ大人になれ」

 

彩香「ええ、二人の年でこの様な事を言うのは酷ですが、ここで乗り越えねば、その先はありません」

 

流琉「その大人というのが分からないんです、正直こんな滅茶苦茶な事を言うのが大人なら、それって子供とどう違うんでしょう・・・・・」

 

季衣「うん、兄ちゃんの方がよほど筋を通していると思う・・・・・」

 

秋蘭「確かに、とんでもなく矛盾しているのだろう、致命的と言ってもいいのかもしれん・・・・・しかし、そんな致命的な矛盾を常に抱えているのが、我ら人間というものなのだ」

 

桂花「そうよ、それを飲み込んでこそ、ようやく大人と言えるのよ」

 

季衣「・・・・・・・・・・」

 

流琉「・・・・・・・・・・」

 

そう言われても、納得し難い所が多過ぎる

 

言っていることの理屈が分かるようで分からない

 

やはり子供が大人の理屈を理解するのは、並大抵ではないという事だ

 

華琳「凪、あなたにも七日の謹慎を命じるわ」

 

凪「え、私もでありますか!!?」

 

桂花「当たり前じゃない、なによその警備隊にあるまじき物言い、あんた自分の立場を分かっているわけ!!?」

 

春蘭「そうだ、警備隊を預かる者として、自覚が足りないぞ!!」

 

彩香「凪、あなたもかつて一刀君に向かって、感情的になって、その様な物言いをしてしまったのでしょう・・・・・しかし、そんな野盗の様な理屈を許す程、この陳留は寛容ではありません」

 

秋蘭「我らは将ではあるが、それと同時に為政者であることも忘れてはならない、それを忘れようものなら、我らは蛮族も同じ、それを肝に銘じるんだ」

 

凪「・・・・・分かり、ました」

 

そして、凪も沙汰に素直に従い退出していった

 

沙和「え、え~~と、凪ちゃんが謹慎という事は・・・・・」

 

彩香「ええ、二人には凪の分まで働いてもらいます」

 

真桜「んなあほな、今でさえ忙しゅうてたまらへんのに!」

 

桂花「何とかして見せなさい、これは命令よ!!」

 

彩香「これから先、こういったことは増えていくことでしょう、今のうちに慣れておくことです」

 

真桜「り、了解や・・・・・」

 

沙和「分かったなの~・・・・・」

 

これからの仕事量に鬱な気持ちを隠せず、二人も退出していった

 

季衣「・・・・・やっぱり僕、納得できない!!」

 

流琉「はい、兄様の所に行ってきます!!」

 

桂花「ちょっと二人共、待ちなさい!!」

 

静止の声も聞かず、二人は走り去っていった

 

彩香「やはり、あの二人にはまだ早いですか・・・・・」

 

華琳「そうね、大人の理屈というのは、子供には理解し難いものよ」

 

桂花「はい、筋を通すだけではやっていけないことを理解しなければなりません」

 

春蘭「何を言う、我らは我らの道を行く、これほど筋の通ったことがあるか!!」

 

秋蘭「姉者、我らにもこれまで数えきれないほどあっただろう、曲げられない筋を通す為に、曲げねばならない筋があったことを」

 

春蘭「そんなものあるか、我らは常に華琳様の道を信じて突き進んできたのだ、何を馬鹿な・・・・・」

 

桂花「はあっ!!?あんたあの時の事をもう忘れたわけ、本当に頭の中に大鋸屑しか詰まっていないみたいね!!」

 

春蘭「なんだとおおおおおおお!!!??」

 

桂花「私は一生忘れないわよ、あの反董卓連合であいつの情けを受けた屈辱を!!」

 

春蘭「う・・・・・」

 

秋蘭「そうだ、我らは華琳様の覇道に泥を塗ったのだ、それを忘れてはならない」

 

彩香「ええ、常勝無敗の英雄など居ないのは重々承知です・・・・・それでも、あれは間違いなく私達の汚点の一つです」

 

秋蘭「確かに北郷包囲網で、我らは北郷に借りを何倍にもして返しただろう・・・・・だが、この失態は永遠に我らの中に残るんだ」

 

彩香「その通りです、突っ張ってばかりで、成り立つような職務ではないのです」

 

春蘭「・・・・・・・・・・」

 

斗詩「・・・・・あの、私達は」

 

猪々子「あたい達の事、忘れてない?」

 

悠「勝手に盛り上がらないで欲しいんだが」

 

今回の騒動は、不審者の取り締まり中に偶然起きた事故として処理されたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷環「んふふふ、やりましたわ、隊長様ぁ♪」

 

炉青「七日間、あに様と一緒に居られるどす♪」

 

菖蒲「しばらく静かに暮らせますね♪」

 

一刀「・・・・・お前ら、謹慎というのは自室でするものじゃないのか」

 

氷環「あら、自室で謹慎する様にとは言われていませんわ♪」

 

炉青「七日もあに様と一緒に居られないなんて、死んじゃうどす♪」

 

菖蒲「同じ内容で謹慎するのですから、問題ないのでは♪」

 

一刀「・・・・・好きにしろ」

 

謹慎を命じられた全員が、一刀の部屋に集中していた

 

三人とも甲斐甲斐しく一刀の世話に勤しんでいる

 

一刀「因みに、寝る時はどうするんだ」

 

氷環「もちろん、隊長様と布団を共にしますわ♥//////」

 

炉青「あに様にウチの初めてを捧げるどす♥///////」

 

菖蒲「ぜひ、添い寝もさせて下さい♥///////」

 

一刀「・・・・・言っておくが、俺はお前達を抱くことは無いからな」

 

必要以上に密着してくる三人に、困り果ててくる

 

これからこの三人の扱いをどうするか、これも課題の一つとなろう

 

そんな和気藹藹な後宮空間を訪ねる者達が居た

 

風「失礼します、お兄さん」

 

稟「一刀殿、先ほどの話、聞いていましたよ」

 

訪ねてきたこの二人は、怒りやら悲しみやらを携えた複雑な表情をしていた

 

風「お兄さん、どうして風達が来たか、分かりますよね」

 

稟「いくら何でも過度が過ぎますよ」

 

一刀「なんだ、まさかお前達まで、たった一人が死んだ程度であれこれ言い出すんじゃないだろうな」

 

氷環「ええ、とても覇道を歩む人間の台詞とは思えませんね」

 

炉青「皆さんの覚悟なんてそんなもんどすか、そんな程度の覚悟で曹孟徳に従っとるなんてちゃんちゃらおかしいどす」

 

風「皆さんまでそんなこと言うんですか?」

 

稟「日常にまで覇道の理論を持ち込まないでいただきたいです」

 

菖蒲「それもおかしい話です、あなた方が一番日常を巻き込んでいるという自覚があるのですか?」

 

風「そんなもの風達にだって分かってますよ~!」

 

稟「私達は、ままならない世に生きる血の通った人間です、完璧など求めないで下さい!」

 

一刀「とても完璧主義の華琳に付き従っている者の台詞とは思えないな・・・・・覇道という法に照らし合わせれば、この程度でぎゃあぎゃあ喚いているお前達はみっともないぞ」

 

風「法とて人間が作った物なんです、不完全に決まっています~!」

 

稟「グダグダと屁理屈を並べないで下さい!」

 

一刀「またおかしなことを言い出すな、その屁理屈とて立派な理屈だろうが」

 

理屈と膏薬はどこにでも付く、という諺がある

 

これは、膏薬が体のどこにでも付けられるように、理屈をつけようと思えば、どんな事柄にも尤もらしい理屈が付けられる、という意味である

 

しかし、この諺の厄介な所は、この諺そのものが理屈と膏薬であることだ

 

つまり、この世の中に理屈と膏薬でないことなど、只の一つたりとも無いと、この諺は言っているのだ

 

かつての一刀の言葉が天の御遣いの理屈というなら、華琳の言葉とて単なる覇王の理屈なのだ

 

一刀「お前達は、どうも人の話を聞いている様で聞いていないな」

 

稟「それは、どういう意味ですか?」

 

一刀「お前達は、この世界がどんな仕組みで動いているか、それを考えたことはあるか」

 

風「この世界の、仕組み・・・・・」

 

一刀「そうだ・・・・・稟、お前は俺に言ったよな、運命を受け入れろと・・・・・その通りだよ、この世界は全て運命により動いているんだ」

 

稟「は、それはどういう事ですか?」

 

一刀「俺が漢王朝の再興に失敗したこと、麗羽が幽州を攻めたこと、華琳が覇道を歩む事、さっきのひったくり犯が死んだこと・・・・・それら全ては、最初から決定していた事なんだよ」

 

風「つまりお兄さんは、この世界は運命論と決定論で作られていると言いたいのですか?」

 

一刀「その通りだ」

 

稟「何を馬鹿な、この世は人によって導かれていくのです!自分が失敗したからと言ってそれが全て運命によるものと言うなら、それこそ只の言い訳です!」

 

一刀「今のこの状況が、既に過ぎ去った過去だとしたらどうだ」

 

稟「な、何ですって・・・・・」

 

一刀「お前達と初めて出会った時にも言ったよな・・・・・俺は、二千年後の未来から来たと・・・・・であれば、俺はこの乱世の行く末、結末を知っていると思わなかったのか」

 

風「・・・・・・・・・・」

 

稟「・・・・・・・・・・」

 

一刀「であれば、この世界の流れはどう足掻こうと、俺の知っている結末に必ず辿り着く、というよりそこにしか辿り着かない・・・・・そう考えるのが自然だろう」

 

風「そんな、そんなこと・・・・・」

 

一刀「これこそが、稟が言っていた・・・・・運命・・・・・というものだろう」

 

稟「私は、そのような意味で運命などとは・・・・・」

 

炉青「本当にどいつもこいつも都合がいいどすな」

 

氷環「はい、自分の言葉の意味を自分に都合よく解釈しているとしか思えません・・・・・ご自身とて、その運命の輪の中に居ることを理解していないでしょう」

 

菖蒲「そのご様子だと、自分は例外だと無意識にでも思っていたのでしょう・・・・・厚かましいと思わないのですか?」

 

風「・・・・・・・・・・」

 

稟「・・・・・・・・・・」

 

一刀「安心しろ、俺は華琳の覇道には付き従う・・・・・そう確約している以上、最後まで付き合うさ」

 

これでこの話はおしまいと言わんが如く、一刀は椅子を傾け窓に向き直る

 

その直後

 

季衣「兄ちゃん!!」

 

流琉「兄様!!」

 

チビッ子二人が突入してきた

 

氷環「ああん、来てくださったのですわね、季衣ちゃん♪♪」

 

炉青「流琉ちゃ~~~~ん、すりすりすりすり~~~~♪♪」

 

季衣「うむぅ~~~、息が出来ない/////////」

 

流琉「く、苦しいですぅ~~~~///////」

 

菖蒲「氷環さん、炉青さん、このままでは季衣さんと流琉さんが////////」

 

氷環「ああ、ごめんなさい!」

 

炉青「生きとるどすか、流琉ちゃん!?」

 

その乳圧から解放された二人は、肩で息をしながらも一刀に向き合った

 

一刀「で、何をしに来たんだ」

 

季衣「うん・・・・・僕、やっぱり納得できないんだよ!」

 

流琉「はい、兄様が間違っているだなんて思いたくありません!」

 

一刀「間違っていたんだよ、俺の主張、主義、思想、全てが大間違いだった」

 

季衣「そんなこと・・・・・」

 

流琉「あんな尊いことが間違いだなんて・・・・・」

 

一刀「すまなかったな、かつてお前達に平和だのなんだのと下らないことを吹き込んでしまった・・・・・あの言葉は全て忘れろ、そしてお前達はこれからは人を殺す事に邁進していけばいい、それが正しい事であり、それが華琳の覇道というものだ」

 

風「季衣ちゃん、流琉ちゃん、聞いてはなりません!!」

 

稟「もう一刀殿の言葉に耳を貸してはなりません!!」

 

一刀「は、何を言っているんだ、お前達だろう、俺のような人間になってはならないと、この二人に言っていたのは」

 

菖蒲「はい、私も聞いていましたよ、一刀様の言動は完全に常軌を逸した誇大妄想だと」

 

氷環「は!!?言っていることが支離滅裂ではありませんか!!」

 

炉青「どこまでも一貫性のない物言いどすな、そんなんじゃ信用を無くすどすよ!!」

 

風「皆さんは度が過ぎるんですよー!!!」

 

稟「どちらにせよ、この二人は碌な大人になりません、行きますよ、二人共!!!」

 

季衣「え、ちょっ、風、稟!!?」

 

流琉「に、兄様、私達は兄様の味方です!!」

 

氷環「季衣ちゃん、そのような手のひら返ししかしない優柔不断な大人になってはなりませんよ!!」

 

炉青「流琉ちゃん、自分の言葉には責任を持つ、そういう大人になって下さいどす!!」

 

酷い慌て様の風と稟に季衣と流琉は引っ張られていくのだった

 

そしてこれ以降、二人は運命という言葉を口にすることは、二度となかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麗春「一刀よ、私はいつだってお前の味方でいるからな」

 

桂花「あんたも好き者ね、あんな気味の悪いものを立ち昇らせている相手を、よく好きでいられるわね」

 

麗春「舐めるんじゃないぞ、たとえどのような一刀であったとしても、私の一刀への愛は不変のものだ・・・・・お前とてそうであろう、仮に華琳様がどの様に変わったとしても、お前の忠義が揺らぐことは無いと思っていたんだが、そうではないのか?」

 

桂花「そんなわけないじゃない、華琳様は華琳様よ!!」

 

麗春「では、私と一刀の事をどうこう言わないで欲しいものだな♪」

 

桂花「ぐっ・・・・・」

 

どうも最近の王座の才は歯切れが悪い様だ

 

トラブルによって元袁紹軍将軍達の処遇決定が中断されてしまい、この者達を一時部屋に送っている最中だった

 

悠「・・・・・はっはっはっはっはっ、良いぞお前、気に入った、それでこそ一途というものだ♪♪」

 

麗春「おお、分かってくれるか♪♪」

 

悠「ああ、あたしも一刀の事が好きだからな・・・・・あたしの真名は悠だ♪」

 

麗春「では、一刀好きの好として、我が真名を送ろう・・・・・麗春と呼べ♪」

 

桂花「麗春に続いて悠姉様まで・・・・・どうしてあんな奴がこんなに人気があるのよ・・・・・」

 

悠「そいつは歪んだ思想だな、あたしはお前をそんな風に育てた覚えは無いぞ」

 

桂花「いつ私が悠姉様に育てられたんですか!!?それに歪んだ思想だなんて、いくら悠姉様でも許しませんよ!!」

 

悠「良かったじゃないか、お前らの望んだ通りの御遣いになったんだ、万々歳だろうが♪・・・・・だってのに、今度は前の方がマシだった?・・・・・お前ら、天の御遣いに対して、一刀に対してどこまで都合がいいんだ?」

 

桂花「それは・・・・・」

 

麗春「その通りだ、何でもかんでも自分の掌で都合よく回らねば気が済まない・・・・・そんなひん曲がった根性、完全に十常侍の理屈だろうが!」

 

悠「そうだ、そういう意味では、一刀の言う通りだったんだ・・・・・十常侍の処刑は失敗だった、お前達はあいつらに名誉勲章を渡しても足りないほどの恩義があるからな」

 

桂花「・・・・・悠姉様まで、狂ってしまったんですか」

 

悠「狂っている・・・・・その言葉、そっくりそのまま返してもいいよな?」

 

桂花「・・・・・・・・・・」

 

覇道という道を突き進む自分達が、狂っているという言葉を使うなど、論外と言える

 

何せ自分達がこの世一とも言える狂った道を選んでいる以上、人の事をどうこう言えた義理ではないのだから

 

桂花「・・・・・それでも、私は麗春と悠姉様が正常とは思えません!!」

 

悠「それこそ愚門だな、自ら狂う事をよしとしなければやっていけない、それが今の世の中じゃないのか?」

 

麗春「その通りだ、逆に言えば、狂っている奴こそが正常と言える♪」

 

桂花「・・・・・そんなもの、分かっていますよ」

 

悠「いんや分かってないな、自分達がどれだけ厚かましくて図々しい事しか言っていないか、まずはそれを理解する事だな・・・・・話はそれからだ」

 

斗詩「・・・・・こうなったら、私も狂うことを良しとします!!」

 

猪々子「だな、ようやく吹っ切れたぜ、あたいは兄貴について行くぜ!!」

 

そして、この四人の真名の預け合いが始まった

 

ただの真名の交換だというのに、一刀好きが相乗効果となりまるで宴の様などんちゃん騒ぎとなっていく

 

桂花「・・・・・ならどうすれば良いっていうのよ、私達は何をどうしたらいいっていうのよ!!!??」

 

盛り上がるこの四人の喧騒に、桂花の叫びは空しくかき消されるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Seigouです

 

今回も、かなり重要なシーンでありますので、二万字越えの大仕事となりました

 

おそらくこの鎮魂の修羅の中でトップレベルに長いので、休み休み読んで頂ければと思います

 

阿修羅伝の方なんですが、あと二,三話したら書くつもりだったのですが、もう少し後に伸びそうです

 

この鎮魂の修羅の方が長いので、バランスを考えて投稿していかないとおかしくなってしまいますから

 

待て、次回・・・・・


 
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