{ 作者からの連絡 }
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
かなりお待たせしましたが、やっと半分ほど書けましたので、此方に投稿いたします。
相変わらず忙しい日々が続いており、此方に投稿する日が遅くなりますが、気長にお待ち下さい。
それでは中途ですが、本文をお楽しみ下さい。
◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆
【 裏話 の件 】
〖 南方海域 連合艦隊 にて 〗
行方不明だった一刀が現れ、大喜びしていた艦娘達も、普段とは違う様子に先程までの喧騒は鳴りを潜め、静かに見つめるしかない。
華琳達も固唾を呑みながら見守る中、大声で叫びながら小舟で近付こうと足掻く一刀。 彼は焦燥感に駆られつも懸命に漕ぎ続けた。
だが、彼女達との距離は地上に居る時とは違い、幾ら進もうと努力するものの、その努力を嘲笑うかの如く、殆ど差が縮まらない。
元々、海は潮の流れ、波の大小、風の強弱により絶えず千万変化する流動的な難所であり、有り合わせの道具で向かうのは、自殺行為である。
それに、今は感情を高ぶらせているので、元気そうに振る舞う一刀だが、本来は本格的な治療が必要な身。 いつ体調が崩れるか分からない。
このまま行動すれば、永遠に辿り着かないのは自明の理である。
だが、そんな一刀を補佐するのが、付き添う護衛の艦娘達。 最初に赴任した鎮守府から共に過ごした、信頼厚い古参艦の艦娘達だ。
『ま、待ってろよ! 必ず、必ず行くからな!!』
『おいおい、提督。 そんなフラフラな操縦で俺に当てんなよ。 ったく、邪魔だな!( 方向が擦れてるじゃんか……軌道修正っと! )』
『て、天龍……俺の操縦に干渉す………』
『やだぁ~、自分からおさわりに行ったのに、天龍ちゃんへ責任転嫁するなんて~。 もう、絶対に許さないから~』
『す、すまん、悪かったッ! この通り! 後で、しっかり謝らせてもらうからッ!!』
彼女達は名目的には護衛だが、実際は船の軌道修正。 敵艦は既に排除されている状態なので危険も少ない。 早い話が、ただの付き添い。
これでは、《 立場の愉悦に浸る高慢ちき 》に見えるが、決してそうではない。
本当は何かしらあれ手伝いたいのは山々なのだが、その申し出を拒否したのは一刀本人。 心配する彼女達を前に、頑なに我を通したからだ。
『…………提督、本当に私達の助力は要らないのか? この長門や皆が手を貸せば、楽に進む事も直ぐに会うことも可能なのだぞ?』
『………ハァハァ……ハァ……さっきも……話し……たがな! か、彼女は……努力しない……人を……毛嫌い……するんだ! だから……俺は!!』
『Oh! ストイックな提督も魅力的ネ! だけど……提督を想う気持ち、他の誰にも負ける気なんて無いワ! 昔のPartner( 恋人 )でも、ネ!!』
長門達には合流した際、説明は済んでいる。
窮地を救ってくれた謎の軍勢。
その軍を率いる、近寄り難い美女や美少女達。
奇抜で愉快、だけどチートな変態集団。
彼ら、彼女らは、提督である一刀の前世、一介の学生だった時に遭遇した────外史の住人だと。
勿論、それなりに簡潔で明快に説明……できたか分からないが、理解できている筈だ。
話をした一刀が提督という肩書きを持ってしても、余りにも空想、御伽話的、途轍もなく嘘臭く、とても信じられない誇大な与太話だ。
だが、古参の彼女達は信じた。
現に艦娘達は類稀な(たぐいまれ)な機会を出来事に遭遇し、更には《起死回生》の言葉通りという想像不可能な体験を受けた身の上。
何よりも、《 信頼する提督 》から《 誰よりも先 》に《 秘密を打ち明けてくれた 》という、乙女の事情が大きかったようだ。
だから、まあ……少し嫌みが増えるのも、仕方が無いのかも知れないが。
そんなこんながありながら、華琳達の側へ船はユックリと進んで行った。
◇◆◇
【 内輪 の件 】
〖 南方海域 連合艦隊 にて 〗
この一刀……いや提督の慌てぶりを見た事情を知らぬ艦娘達は、思わず目を瞬(しばたた)かせるしかなかった。
ほんの数日間だが共に行動し、今では敬愛するまでになった提督が、あんなに感情を露(あらわ)にするなど、自分達の時には無かったのだから。
中には、混乱する艦娘も────
『ぷぅ~! なんかぁやだ! あんな提督さんなんてぇ見たくない! ふてくされてやる!!』
『もしかして、私は……お邪魔だったのでしょうか? そ、そうですよね……こんな面倒な子……』
その中でも特に……瑞鶴は面白くなさそうに頬を膨らませ、潮は分かりやすく意気消沈させた。
性格も経緯も違う二隻だが、提督に関わって救われた動機は一緒。 そんな気になる提督が、自分達を助けてくれた女性に高揚しているのだ。
果たして、この艦娘の痛む胸中に宿りしは……幼き嫉妬か、はたまた早熟な悋気か?
そんな感情を持て余す二隻に、静かに近付く者が居た。
『……行方が分からなかった提督が、こうして無事に帰還されたのだ。 喜ぶこそあれ、そのような表情では提督に心配されるぞ?』
『『 日向さん!! 』』
『まあ、何があったかは知らないが、こう言う場合こそ落ち着きが大事だ。 私と一緒に瑞雲を数え、心を静かに落ち着かせようじゃないか』
戦友を心配して声を掛けてくれた日向に、自分達が抱える胸中の凝り(しこり)を伝えようし、日向は察しつつも柔らかく受け止めた。
しかし、日向の言葉に違和感を感じ、しきりに首を傾げらぜるえない二隻。
何か腑に落ちない単語を聞き付けたのだが、当の言い出しっぺは早くも実行していた。
『落ち着け……《瑞雲》を数えて落ち着くんだ……
《瑞雲》は多用途に役立つ孤高な水上機……私に前進する勇気を与えてくれる………』
『やっぱり聞き間違えじゃなかったぁ!!』
『え? ず、瑞雲……? え?』
目を瞑り一生懸命に瞑想する日向に向け、抗議や戸惑う二隻。 そんな慌ただしい周辺の状況に瞑想を中止した日向は、少し不機嫌な表情で瑞鶴達へ再び伝えた。
『何をしている? 早く私と共に『瑞雲』を数え心を落ち着かせるんだ。 瞼の裏に夕日へ向かう瑞雲の雄飛を! あの尊い姿を浮かべながら!』
『あのねぇ! 何で私達が! 瑞雲を数えなきゃいけないのよッ!?』
『これか? これはだな……古来から伝わる《 数息観 》という禅の観法を私なりにアレンジしたものだ。 これを行うと実に気分が高揚───』
『心を落ち着かせなきゃならない場面で、逆に高揚なんかさせたら駄目に決まっているでしょう!?』
日向の力説する話に、全力でツッコミを入れる瑞鶴。
そんな何時もの漫才の如機会やり取りの側で、小さく手を上げる潮が申し訳なさそうに発言する。
『あ、あの! 瑞鶴さんは航空母艦ですから……納得できますけど……わ、私は……駆逐艦なので……』
『ん? 心配はいらんぞ。 瑞雲の教えは航空母艦だけではなく、駆逐艦だろうが拒む理由に当たらない。 まずは体験してみるが───早い!』
『ひっ、嫌ぁぁああああ!』
『その半被、どこから取り出した───って、なに普通に着せようとするの!? 幾ら日向さんでもそろそろ止めないと爆撃するよ!!』
この日向の発言は、落ち込む二隻を励ますためにと、わざと行ったボケなのか?
それとも、瑞雲教による教義の為せる業なのか?
謎の日向の行動により、騒ぎは別の混迷に呑み込まれ、やがて鎮静化するのであった。
【 援護 の件 】
〖 南方海域 連合艦隊 にて 〗
一刀の身体は、僅か数日だけ離れていただけなのに、その疲労感は半端ない。 無事が安心した故の疲れが出たか、それとも何か別の要因か。
それと同時に、無理をして小舟を漕ぎ続けたため、今にも倒れそうな雰囲気を纏っている。
『おい提督! そんなふらついた動きで、アイツのところに行けると思ってんのか!?』
『………行く、必ず行って……伝えないと……』
そんな様子なので、天龍達が心配し休むように提案するが、頑なに意見を変えない一刀。
ついには、気が短い天龍が動き出し────
『チッ、何時もオレらの心配しやがる癖に、自分の身体も心配しやがれよ。 ───ほらッ!』
『お……おいっ!!』
衰弱している一刀を軽々動かして、天龍は自分の肩へ一刀の腕を回し、身体を支えながら小舟を誘導し始めた。
『ふん………そんなに行きたいのなら、艦隊中で一番強い天龍様が、特別に肩貸してやるよ』
『…………悪いな、天龍』
『うっせえ、黙って静かに……貸りられろよ』
そんな様子を見ていた艦娘の一隻は、楽しそうに、実に楽しそうに笑う。
普段よりも、より柔らかい笑顔で。
『もう、天龍ちゃんたらぁ~ホントに素直じゃないんだから~うっふふふ』
『な、何だよぉ!? 何か文句あんのかッ!!』
『別にぃ……いいんじゃないかなぁ? うふふふふふっ♪』
『わ、笑ってんじゃねぇ! 龍田!!』
天龍の苦情は龍田に軽くあしらわれた。
だが、一刀の安心した様子を横目で確認し安堵した天龍は、なるべく最小限に動きを抑えつつ先頭として目標地点へ向かう。
一刀が目指した、あの少女の下へ……と。
【 待望 の件 】
〖 南方海域 連合艦隊 にて 〗
『うむぅぅぅ~~ッ、遅い! 遅い過ぎるぞ、北郷めっ!!』
『春蘭、殺気を無闇矢鱈に撒き散らすのは、いい加減に止めなさい。 あの娘達に要らぬ警戒と敵がい心を与えるのは、最終的に私が困るのよ』
『も、申し訳ありません! 華琳様!!』
そんな一刀を待つのは、華琳……だけではない。
『………ったく、北郷の奴め。 華琳様を何時まで待たせるつもりなんだ………』
『はぁ…………何度も同じ言葉を繰り返すなんて、何時から猪から鸚鵡(オウム)になったのよ、春蘭。 今ので、ちょうど十回目なんだけど?』
『わ、私は、華琳様への対応に不満を───』
『そんなに心配なら、行ってくればいいじゃない。 この近辺は制圧されたから危険は少ないし、鸚鵡でも猪でも護衛は勤まらないわよ』
華琳の後方で控えるのは、不機嫌そうな顔をした《 魏武の大剣 》こと春蘭。
そして、もう一人────
『っと言うか、お前こそ! 華琳様の護衛なら私一人でも十分だ! 一刀に逢いたければ、さっさと行ってくればいい!!』
『………か、一刀に………』
『うん?』
『どんな顔して……逢えばいいのよ。 まだ、あの頃の謝罪さえ……していないのに………』
『………………桂花……』
猫耳頭巾を深く被り、顔を見せない小柄な少女が佇む。 まあ、誰かと言えば隠す気もなく、魏の筆頭軍師の桂花である。
因みに、他の三国の将達は、周辺の警戒をしつつも一刀との対面できることを待ち望み、華琳達の後方、更に離れた場所で待機中。
天龍達以外の艦娘達も、一刀の後方、言わば三国の将達と対面するように陣取り、一刀の護衛任務や周辺の警戒を強めている。
そんな中、前方に現れた一刀一行を見つける華琳。 だが、その表情は喜色ではなく、逆に寂しげな微笑むを浮かばせるだけであった。
【 謝罪 の件 】
〖 南方海域 連合艦隊 にて 〗
天龍の助力により、華琳達の前に辿り着いた一刀。 しかし、かなり疲労困憊の状況で来たため、視野狭窄となった一刀は気付かない。
華琳の後ろに誰が居るのか、を。
『………か、華琳』
『………………』
掠れた声で少女の大事な名で呼ぶが、とうの少女は聞こえないのか目を閉じたまま。 後方の二人も一刀に対して口を開こうとはしない。
更に呼び掛けると、ようやく華琳が返事をした。
『二日振り………と言っていいのかしら。 その様子だと、私のこと……思い出せた?』
『─────ッ!?』
その発する声質は平坦そのもの。 だが、発した言葉に万感の思いが込められた事を感じ、一刀の顔は思わず強張り、目を見開く。
感じたのは──────『待ち人の想い』
この少女の前より消え去りて、こうして再会するのに幾星霜を重ねた。 かの時代より単純に考えても、約千八百(1800)年間。
だが、心情としては……それ以上だろう。
《 一日千秋 (いちじつせんしゅう) 》という言葉もあるのだ。 実質の期間より遥かに長い間、心労を掛けたのは間違いない事実だ。
少し憂いを含む少女からの問いに対し、一刀は唇を噛みしめ姿勢を正し見つめ返した後、まるで神に懺悔する罪人の如く謝罪を行う。
『も、勿論だ! 君を思い出すのに……こんなに遅くなって……ごめん!』
『…………………』
一刀とも提督として、長年に渡り艦娘達と共に過ごした身。 その心痛を察せれるのは、何度も何度も実体験し痛感していたからだ。
そもそも艦娘達の最大の目的とも言えるのは、海域を支配する深海棲艦の排除、そして世界を交わる海上交通の復活。
その為に、艦娘達は鎮守府内で生活しつつも《 遠征 》で資材等を調達、《 演習 》で経験値や熟練度の獲得、《 出撃 》への意欲を高めるものだ。
《 出撃 》……文字通り、鎮守府から出港し、敵対する深海棲艦達との交戦という、一大イベント。
勝てば、海域の解放と資金資材の確保となり、大いに鎮守府は潤う結果になろう。
だが、負ければ多大の損害は勿論、最悪は……艦娘達にとって実質の死別となる【 轟沈 】が待ち受けていた。
だから、艦娘達を家族と公言する一刀は、向かう海域の情報を出来る限り取り寄せ、出撃する艦娘達には可能な限り最新装備に変更し向かわす。
それでも一刀は心配し、出撃した艦娘達の行き先に向け、執務の合間に無事の帰還を祈ることを欠かせなかった。
『本当に、本当に………ごめん!!』
そんな辛い想いを、こんな少女に抱かしたまま、長い歳月を待ち続けさせた自分は────
そう考えると、一刀の頭は自然と下がり、謝罪する彼の目から光る物が頬を伝わる。
古の記憶を思い出した彼の足下に、波飛沫とは違う塩辛い水が、古びた舟板を濡らすのであった。
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今回は作者の都合で色々と。詳細は本文にて。 1月11日に続きを付け加えました。