ひとしきり買い物を楽しんだ私。
気付いたら一時間経っていて、
いくつかのお店で、いくつかの買い物をしていた。
さて、楓の様子を確認するか。
「まずはメールで呼び出すか」
『楓~、こっちは買い物終了。
そっちはどう?
どっかで落ち合おう』
こんな内容のメールを打った。考えるまでもない、単純なものだ。
「さて、返事は来るかな」
ブーン ブーン
ケータイのバイブが鳴る。
「お、早い」
楓は結構ケータイ不精だ。こんなにさっさと返事が来るなんて珍しい。
私は早速ケータイを開いた。
「何々?」
『場所は?』
う! なんて手短な。ま、それが楓らしいんだけど…
「さて、どこにするかな」
私は買い物済んだし、加藤君の所まで行ってもいいんだけど、問題は楓だ。
楓は今戸のお店で買い物をしてるか分からない。真っ最中だとすると…
「下手にお店は出られないか…」
じゃあ…
『場所は今いるお店の中でいいよ。お店の名前を教えて』
これなら大丈夫だろう。
「さて…」
私はネイル用の小粒たちを物色しながら返事を待った。
「…」
ブーン ブーン
「お、来た」
どれどれ? 私は再びケータイを開いた。
『店の名前が分からん。なんか、Bで始まる名前』
な!
「何これ…」
どうしよう。どうしよう、この楓の適当っぷり。
私は途方に暮れながら、案内板に向かった。
~つづく~
キーワードは「B」
楓は「B」で始まるブランド名のお店にいる、て言って来た。
ま、それはいいんだけど…
「はぁ」
案内板を前に、私はため息一つ。だって…
「このフロア、全部Bで始まる名前だっつの…」
フロアごとにお店の名前やブランド名の頭文字を統一させるのが、
ここのやり方。これじゃあ、探しようがない。
「仕方ない。案内板を写メすれば伝わるっしょ」
幸い、案内板に載ってるお店の名前は、全部それぞれの字体で書かれてる。
これを写メすれば、ぱっと見で分かるはずだ。
「えいっと」
いやぁ、技術の進歩はすごいもんだ。後は、楓の返事を待つばかり。
「………」
少しして、楓からの返信が来た。少し、遅いかな?
「えぇっと?」
『分からん』
げ。何だって!
「わからんって…どんだけいい加減なのさあの子…」
えぇい! こうなりゃ片っ端から回るしかない!
それが効率的かどうかなんて、私には見えなかった。とにかく探すのみ、
その思考に支配されていた。
お店を片っ端から回れば、絶対再会できる。一応、
『そのお店から動かないで』
とは伝えておく。
「さて、探すぞ!」
私は早足でフロアを駆け抜けた。
~つづく~
フロアを駆け抜ける私。
さあ、どこの店にいるんだ!
「Bosh」「Breche」「Benty」「Bwelg」…
「えーい、一体どこにいるんじゃ!」
駆け抜ける駆け抜ける。お店の人にしてみれば、「さっきのお客さん、
なんで急いでるんだろう」なんて変な人に映ってるだろうな。
「次は『Brosso』、ここで最後のはず!」
どこだ! さっそくお店の中に入り、中を探してみた。
「えぇと…ここが最後だから、絶対いるはず!」
楓~、どこだ~!
「て、なんでいないの?」
あれ? おかしくない? ねえ。
私は焦るよりも何よりも、クエスチョンマークだった。
「えーと…?」
仕方ない。お店の人に訊こう。私はケータイを開いて、前楓からもらった
自分撮り写真を開いた。
「あのー」
「はい」
そして、おもむろにその画像を見せる。
「この子、来ませんでした?」
「あぁ、そのお客様でしたら、他のお店に行かれましたよ?」
えぇっ! 動かないでって言ったのに!
「それって…いつ頃ですか?」
「ん~、五分くらい前でしたね」
五分前か! じゃあ微妙だ! 気付くタイミングにもよるだろうし。
「ありがとうございました!」
でも、今まで会わなかった上にここにいないとすると、どこだ?
どこにいるのか、私は思案を巡らせた。
(楓が移動するとしたらどこだ。楓が私のメールに気付いたのはいつだろう)
よし、あそこしかない!
私は狙いを定めてあのお店に向かった。
~つづく~
一つの確信を持って私が向かったのは、「Benty」。
ここは、スポーツカジュアルな服を売ってるんだ。
「ここなら!」
まずは店の中を探す。
「えぇと…?」
いない?
「なんで?」
なんでいないんだ? もちろん、ここが正解だって保証はないけど…
「あの~」
私はここでも例の作戦に出た。これなら確実だ。
「はい、なんでしょう」
「あの、この子、いませんでした?」
楓の自分撮り画像に、店員さんは訳知り顔になった。よし!
「あぁ、このお客さんでしたか。このお客さんなら立った今…」
「え?」
た、立った今? ちょっとそれ、どういう事?
「立った今、出て行ったんですよね?」
「えぇ」
なんで言う事きかないんだ! 楓は!
「あの、どこに行ったか、分かりませんか?」
「あぁ、そこまでは…でも、エレベーターの方に出て行きましたよ?」
ふむ。
「ありがとうございます!」
「え? ??」
くそー! 行き違いも、言うことを聞いてないのも、なんでなんだー!
私は再び駆け出した。
~つづく~
エレベーター方面に向かったと言う情報を元に駆け出す私。
とりあえず、エレベーターへ一直線だ。
「他のお店に行く可能性もあるけど、今は除外!」
エレベーターまではすぐだ。駆け足、てわけには行かないけど、
早足で言ったらすぐにたどり着く。
「ん、あれは!」
エレベーター脇の案内板の前に、見慣れた小娘がいる。
「楓!」
「? おぉ、えりか。どしたの」
ようやく会えた楓は、随分ひょうひょうとしてる。
「どしたのじゃないよ! なんで一つ所にいないのさ!」
「へ。なんで?」
ぬなっ! まさかメールをチェックしてない、て可能性はないはずだ、
なのにこの反応はなんでじゃ!
「メールしたじゃん! 動かないでって」
「あぁ、そういえば。すっかり忘れてた」
え?
「忘れてた? そんなの通じないよ、全く…」
「でもなぁ~」
でも? 何か言い分でもあるんだろうか。
「でも、何」
「メール見た時は、動かないでいようって思ったんだよ。でもさー、
服見てたらついついいても立ってもいられなくなっちゃって、忘れちった」
はぁ、ため息だよ。
「楓…もういいや」
「もういいの?」
楓に何かを期待するのは、それだけで難しいって、改めて悟った私。
「で、買い物は大丈夫?」
「ああ、そうだった! それそれ! 来て!」
え?
私は楓に引っ張られるままに、どこぞのお店へと連行されて行った。
~つづく~
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
第91回から第95回