No.109012

連載小説91〜95

水希さん

第91回から第95回

2009-11-26 13:42:46 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:462   閲覧ユーザー数:456

ひとしきり買い物を楽しんだ私。

気付いたら一時間経っていて、

いくつかのお店で、いくつかの買い物をしていた。

 

 

 さて、楓の様子を確認するか。

「まずはメールで呼び出すか」

『楓~、こっちは買い物終了。

そっちはどう?

どっかで落ち合おう』

 こんな内容のメールを打った。考えるまでもない、単純なものだ。

「さて、返事は来るかな」

 ブーン ブーン

 ケータイのバイブが鳴る。

「お、早い」

 楓は結構ケータイ不精だ。こんなにさっさと返事が来るなんて珍しい。

 私は早速ケータイを開いた。

「何々?」

『場所は?』

 う! なんて手短な。ま、それが楓らしいんだけど…

「さて、どこにするかな」

 私は買い物済んだし、加藤君の所まで行ってもいいんだけど、問題は楓だ。

楓は今戸のお店で買い物をしてるか分からない。真っ最中だとすると…

「下手にお店は出られないか…」

 じゃあ…

『場所は今いるお店の中でいいよ。お店の名前を教えて』

 これなら大丈夫だろう。

「さて…」

 私はネイル用の小粒たちを物色しながら返事を待った。

「…」

 ブーン ブーン

「お、来た」

 どれどれ? 私は再びケータイを開いた。

『店の名前が分からん。なんか、Bで始まる名前』

 な!

「何これ…」

 どうしよう。どうしよう、この楓の適当っぷり。

 私は途方に暮れながら、案内板に向かった。

 

 

~つづく~

キーワードは「B」

楓は「B」で始まるブランド名のお店にいる、て言って来た。

ま、それはいいんだけど…

 

 

「はぁ」

 案内板を前に、私はため息一つ。だって…

「このフロア、全部Bで始まる名前だっつの…」

 フロアごとにお店の名前やブランド名の頭文字を統一させるのが、

ここのやり方。これじゃあ、探しようがない。

「仕方ない。案内板を写メすれば伝わるっしょ」

 幸い、案内板に載ってるお店の名前は、全部それぞれの字体で書かれてる。

これを写メすれば、ぱっと見で分かるはずだ。

「えいっと」

 いやぁ、技術の進歩はすごいもんだ。後は、楓の返事を待つばかり。

「………」

 少しして、楓からの返信が来た。少し、遅いかな?

「えぇっと?」

『分からん』

 げ。何だって!

「わからんって…どんだけいい加減なのさあの子…」

 えぇい! こうなりゃ片っ端から回るしかない!

 それが効率的かどうかなんて、私には見えなかった。とにかく探すのみ、

その思考に支配されていた。

 お店を片っ端から回れば、絶対再会できる。一応、

『そのお店から動かないで』

 とは伝えておく。

「さて、探すぞ!」

 私は早足でフロアを駆け抜けた。

 

 

~つづく~

フロアを駆け抜ける私。

さあ、どこの店にいるんだ!

 

 「Bosh」「Breche」「Benty」「Bwelg」…

「えーい、一体どこにいるんじゃ!」

 駆け抜ける駆け抜ける。お店の人にしてみれば、「さっきのお客さん、

なんで急いでるんだろう」なんて変な人に映ってるだろうな。

「次は『Brosso』、ここで最後のはず!」

 どこだ! さっそくお店の中に入り、中を探してみた。

「えぇと…ここが最後だから、絶対いるはず!」

 楓~、どこだ~!

「て、なんでいないの?」

 あれ? おかしくない? ねえ。

 私は焦るよりも何よりも、クエスチョンマークだった。

「えーと…?」

 仕方ない。お店の人に訊こう。私はケータイを開いて、前楓からもらった

自分撮り写真を開いた。

「あのー」

「はい」

 そして、おもむろにその画像を見せる。

「この子、来ませんでした?」

「あぁ、そのお客様でしたら、他のお店に行かれましたよ?」

 えぇっ! 動かないでって言ったのに!

「それって…いつ頃ですか?」

「ん~、五分くらい前でしたね」

 五分前か! じゃあ微妙だ! 気付くタイミングにもよるだろうし。

「ありがとうございました!」

 でも、今まで会わなかった上にここにいないとすると、どこだ?

 どこにいるのか、私は思案を巡らせた。

(楓が移動するとしたらどこだ。楓が私のメールに気付いたのはいつだろう)

 よし、あそこしかない!

 

 

 私は狙いを定めてあのお店に向かった。

 

 

~つづく~

一つの確信を持って私が向かったのは、「Benty」。

ここは、スポーツカジュアルな服を売ってるんだ。

 

 

「ここなら!」

 まずは店の中を探す。

「えぇと…?」

 いない?

「なんで?」

 なんでいないんだ? もちろん、ここが正解だって保証はないけど…

「あの~」

 私はここでも例の作戦に出た。これなら確実だ。

「はい、なんでしょう」

「あの、この子、いませんでした?」

 楓の自分撮り画像に、店員さんは訳知り顔になった。よし!

「あぁ、このお客さんでしたか。このお客さんなら立った今…」

「え?」

 た、立った今? ちょっとそれ、どういう事?

「立った今、出て行ったんですよね?」

「えぇ」

 なんで言う事きかないんだ! 楓は!

「あの、どこに行ったか、分かりませんか?」

「あぁ、そこまでは…でも、エレベーターの方に出て行きましたよ?」

 ふむ。

「ありがとうございます!」

「え? ??」

 くそー! 行き違いも、言うことを聞いてないのも、なんでなんだー!

 

 

私は再び駆け出した。

 

 

~つづく~

エレベーター方面に向かったと言う情報を元に駆け出す私。

とりあえず、エレベーターへ一直線だ。

 

 

「他のお店に行く可能性もあるけど、今は除外!」

 エレベーターまではすぐだ。駆け足、てわけには行かないけど、

早足で言ったらすぐにたどり着く。

「ん、あれは!」

 エレベーター脇の案内板の前に、見慣れた小娘がいる。

「楓!」

「? おぉ、えりか。どしたの」

 ようやく会えた楓は、随分ひょうひょうとしてる。

「どしたのじゃないよ! なんで一つ所にいないのさ!」

「へ。なんで?」

 ぬなっ! まさかメールをチェックしてない、て可能性はないはずだ、

なのにこの反応はなんでじゃ!

「メールしたじゃん! 動かないでって」

「あぁ、そういえば。すっかり忘れてた」

 え?

「忘れてた? そんなの通じないよ、全く…」

「でもなぁ~」

 でも? 何か言い分でもあるんだろうか。

「でも、何」

「メール見た時は、動かないでいようって思ったんだよ。でもさー、

服見てたらついついいても立ってもいられなくなっちゃって、忘れちった」

 はぁ、ため息だよ。

「楓…もういいや」

「もういいの?」

 楓に何かを期待するのは、それだけで難しいって、改めて悟った私。

「で、買い物は大丈夫?」

「ああ、そうだった! それそれ! 来て!」

 え?

 

 

私は楓に引っ張られるままに、どこぞのお店へと連行されて行った。

 

 

~つづく~


 
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