No.1057361 空飛ぶ戦車ドクトリン 第七話 初めての同胞(トモダチ)後編三日月亭さん 2021-03-22 19:04:15 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:454 閲覧ユーザー数:454 |
"これをお前に読まれている事を願って"
手記をしたためている、この世界に落ちたお前の事を思って…。
もし俺の知ってる奴でなければ問題ない、この文字は読めないからな。
この世界の連中は意図的に言語と人種を間引かれたから、この手帳に書いてある"日本語"は読めるものはいない。
だから今から書かれている事を理解できるのは俺とこれを読めるお前だけだ。
俺と"たたかう"為お前は恐らく色々なものを失ったと思う。
お前はそういうやつだった、あの男に挑んだのも、魅せられて、殺されたのもお前が先だったな。
今のお前はまさに自由だ、過去を消して今ここにいるだろう。
でも俺もお前も火をつけられてしまい、あの夢に恋焦がれ切望しているだろう。
これはお前に向けた、お前がなくしたものを記しておく。
存分に使ってくれ…また会う日まで…。
「おい、トロイ…もしかしてこれが読めるのか?」
手帳を黙ってている俺にギュンターが話しかけてきた、まぁ沈黙すれば誰だって読めたと思うわな。
「あぁ…」
俺の気のない返事にほかの三人もざわめく。
「最初の方はよくわからん図形だったが、最後の方に"殺すと脅せば面白い反応が見れるだろう"って書いてるぞ」
俺がそういうとギュンターは俺から手帳を奪い取り確認する。
「ギュンター、担がれたんじゃないか?その渡された相手に」
四人はがやがやと俺の話を聞くことなくあーだこーだと言い出している。
「さて、トロイ今回来てもらったのはだな…」
数分の後、ギュンターは今までの出来事をなかったの様にふるまった。
「恥ずかしいのは理解するがせめて、担いだのが誰かとなんで俺がそうだと思ったのかぐらい説明してくれないか?」
俺の話題の続行に空気を読めって顔でギュンターは見てくるが、あいつがどこで何をしているのか?気にならないと言えば嘘になる。
「…誰からに関してだが、これに関しては一切口外出来ない済まない、それでトロイ、君に目星を当てた理由に関してだが…簡単に言えばだ…」
「…」
「この手記をくれた人間が教えてくれた特徴と我々の秘密が影響するんだ」
手記の持ち主に関しては教えてくれなかったが、俺を指名した理由は単純明快だった。
つまり俺が考えた戦法戦術は過去に魔術師が考えた事だったのだ。
手記の差出人がギュンターにホシビトの末裔である貴族以外でこういう考えを持ってる奴がいたらもしかしたらホシビトかもしれないぞそしてそいつが当たりならこの手記が読めるだろうから試しに読ませてみたらいいだろうと言ったのだそうだ。
「にしても残念ね、もしこの人が当たりなら私たちが集めてる蔵書のほとんどが分かるってことなのにね」
ギュンターが、事の次第の説目を終えると各々喋り始める、気になることを言ったのはエレーナと言う女性であった。
「本?」
俺はつい反応してしまう。
「そう、曾祖父の時代からある本なんだけどかつてこの世界にあった言葉か異世界の言葉か判断つかないんだけどさ、何が書いてあるか知りたくて…、もしトロイがホシビトなら本の中身読んでもらおうと思っていったのよ」
エレーナの言葉に円卓の皆が頷く。
「軍曹本当は読めるのに嘘をついてはないだろうな?」
ヨハンが俺に高圧的に詰めよってくる。
よく見ると彼も小さな本を一冊持っている。
「ふーん…」
興味なさげな顔をして誤魔化すが、実際中身が非常に気になる、もし"面白い"ことが書いているなら是非読みたいものである。
「中身は実際一切わからないのかい?」
好奇心に負けてつい、俺はギュンターに尋ねてしまう。
「さっぱりだ、解ってることと言えばこの手記と同じ…だと思う文字ぐらいなんだよな」
…つまりは日本語が使われているという事か…。
まぁ誤魔化した以上は深く突っ込むのは野暮ってもんだな。
「とりあえず、呼ばれた理由は分かったがこれで解散か?」
ここで得られるものはないだろうと思い俺はつい切り上げに入ってしまう。
手記の中身を頭の中で反芻したいのだ。
「いや、そうじゃない」
口を開いたのはアリエンだった。
「このファイルなんだが、君がまとめたものだよね?」
アリエンが懐から俺が書いていた、あの日中将から取り上げられた例の物があった。
「あ…なんでそれが…スタインバックのじいさん…」
「じいさん?」
「いえ中将に取り上げられたはず…」
そうあの日、スタインバックのジジイに俺の考えをボロクソに言われて後日軍人の集まりに持ってかれて帰ってこなかった例のファイル。
「そう、兄がスタインバック中将から借りてきたものだ」
そう言いながら俺の黒歴史を眺め続けている。
「この計画書には一個欠点があるんだ」
…晒し者は慣れているが、こんな所まで来てされるのか…。
「既存の技術で無理くり運用しようとしているからバカな運用方法にみられる」
えーっと?
「戦車は空を飛ばないが、戦車並みの装甲を持った空飛ぶ兵器があったら?」
つまりどういうことだ??
「ギュンターにピエロを演じさせてまで君を連れてきた理由だよ、これが」
「この計画書に関して君に色々聞きたくてここまで来てもらったというのが本音だ」
「悪いが、ギュンターの出した手記はあくまで可能性があるからついでに聞いてみようって皆で決めただけに過ぎない」
アリエンはそういうと俺の方を計画書越しに覗き込むように見ている。
「つまりどういう事だ?」
俺はつい思ったことを口にしてしまうが、言葉使いが気に入らなかったのかヨハンがこっちを睨んでくる。
「…です?」
語尾を訂正する。
その小さなやり取りの後、アリエンは俺の計画書の隣に自身が書いたであろう計画書を出し俺に読むよう薦めてきた。
「失礼して…」
その内容は俺とは違うアプローチではあるが現在の対ヘクサォ国境戦争に向けた計画書であった。
しかも中々クレイジーな内容で俺が戦車を飛ばす工夫をしていたのに対しこっちは…。
「大型の爆弾?」
俺の言葉に誰反応しない、読み終えるまで待つ姿勢だったのか沈黙を守っている。
大型の爆弾、それも大砲で発射するものであったが重量と大型化に伴う建造費と等の兼ね合いで計画はとん挫したという感じであった。
金持ちの道楽で賄える金額ではないんだろうな。
しかしこの計画は、俺の空飛ぶ戦車ドクトリンとは違った見方だがこれはこれで問題を抱えているともいえる。
10トン級の爆弾を敵防衛基地に撃ち込んでしまうというとんでもない計画だ。
今の大型の野戦砲でもそんなことは出来ないというか出来たとしても巨大化甚だしく運用するには結局列車を使うか、恐ろしく飛距離を伸ばす必要があるが10tもの榴弾を飛ばす技術はこのフェルキアや下手したらよその国にも存在しないだろう。
つまりこの作戦はその技術があって成立する計画ってわけだ。
他人の作戦の穴ってなんでこうもわかっちゃうんものかな本当。
「根本的な作戦内容は違うが、何かシンパシーを感じる計画書ですね」
俺は読み終えた合図として率直な感想を述べた。
だが俺の計画書と比べたら月とスッポンだ、このアリエンが持ってきたのを計画書というなら俺のはただの落書きだ、一生懸命資料は漁って作ったつもりだが検証量と計算の数が違い過ぎる。
恐らくこの席にいないアリエンの兄貴が軍人的視点から考えて弟が学者としての視点でまとめ上げたんだろうな、現段階の技術では不可能な点に目をつぶって。
「でも、ここまでしっかりしたものが作れるならこんな荒唐無稽な作戦計画なんて止めて、自分が言うのもなんですが現実的な計画に切り替えたほうが…」
他人の事になるとつい冷静になってしまう、俺はいいのだ死んでも馬鹿がしたくてここに来たんだからやりたいようにやる。
だがこいつらがそういうことをする理由が皆目見当もつかん。
もしかしてホシビトの末裔だからってのが関係してるのか?
「…それは出来んのだ、我々がこの国の主導権を握る為には必要な事なのだ」
俺の問いかけに答えたのは意外にもヨハンであった。
俺の知る限りではリアリストの男だ、こんな絵に描いた餅に熱を上げるなんて。
「軍曹、私が無知蒙昧な男に見えるか?」
思考が表情からにじみ出ていたらしい、神妙な顔で俺に問いかけてきた。
「いいえ、むしろ逆の立場と考えていました」
ヨハンはその言葉を聞いてそうだろうといった顔をする、そして静かに話し出した。
この計画が必要な理由を。
このアリエンが持ってきた計画は言わばこの小国であるフェルキアを守るために必要とされた計画であること。
そして発案者はルドヴィング兄弟ではなく、この国の大統領だという事だそうだ。
「大統領が…なんでそんな計画を…」
その問いには、ヨハンから引き継ぎギュンターが口を開いた。
「簡単に言えば、この土地は大国の緩衝地域としての力が強い、その地政的立地の所為かヴィージマ・ヘクサォの影響力が大なんだ。」
「大使館を通じた内政干渉が強いってことか?」
「そんな生ぬるいものじゃないよトロイ、議員の過半数が大国の息がかかった奴だ」
驚いたな、だがそれ以上に驚かされる事実をギュンターは語る。
大統領も例に漏れずホシビトの末裔らしく、フェルキア人として現状のフェルキアを見て辛酸を舐めていると言った所か、愛国心があるもんだな大統領。
「あくまで大統領の秘匿命令では両大国の侵攻を食い止めたうえで政治的優位性を保持して講和に持っていくなのだ、そこでルドヴィング兄とヨハンで効果的な方法を考えていたわけだが…」
「政治的優位性を保持したという所に傾注しすぎて現実的ではなくなったってわけか」
ギュンター途中で言い淀んだところに俺が付け加える。
図星のようで男性陣は暗い顔をしているが、紅一点のエレーナだけは顔色がよい。
「何暗い顔をしてるのよ、全く偉そうな地位についてる癖に情けないわねー!」
中々の女傑だなとこの一言で俺は思った、何よりプレッシャーを感じてないのが救いだな。
「まぁ自分で力になれるなら、力になりますよ」
俺の言葉に、少なくともギュンターとアリエンは表情が明るくなる、ヨハンはどうだろう、口角が上がったようにも見えたが気の所為ともいえるな。
何はともあれこっちとしては、公式ではないにしても、"貴族"しかもある共通点を持った秘密結社の様なのはちと気になるが、兎に角高位の人間とこうも簡単にパイプをつなげるのは有難い。
上手く使わせてもらうとするか。
「それじゃ!タン・ディクター作戦の計画を練るわよ!」
…たん…え?、作戦名ありきで計画練らなきゃいけないのか…前途多難だな。
まぁ、俺の作戦にシンパシーを抱いてくれたこの世界での同胞(トモダチ)の期待には応えれる程度には頑張るとしますか。
俺が"あそこ"で無くしたものも、律儀な"アイツ"が残していてくれたわけだし、収穫はあったわけだし、その分だけでも協力させてもらうとするか。
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今回は挿絵はお休みです。
兎に角前中後編なんて書いたが、後編がとにかく長くなってしまった。
理由としては小説書いたことある人アルアルだと思うんですが、フワフワした話がどんどん固まって、なんか長くなったというあれです全く失敗しました。
でもまぁ異世界転生なんてこんなものだと思っています。
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