恭一達は吹雪の魔女を倒し、スペイン風邪は無かった事になった。
どんな事件も、どんな現象も、魔女を倒せば全て取り消せる。
それがこの世界の法則である……とジュウげむは語った。
「自然現象や既に起こった出来事は俺達人間じゃどうこうできないはずなのになぁ」
「でも、魔法少女はそれができる。もしかしたら、魔法少女は神様なのかな?」
ジュウげむと契約すれば一つだけ願いが叶い、さらに歴史を変える魔法少女になれる。
一見するといい事しかないようだが、その実、魔法少女になるという事は、過酷な戦いを強いられるという事になる。
昨日までは普通の人間だった少女が、ジュウげむと契約して戦いの道を歩むのは、普通では耐えられないだろう。
「まり恵は……それでも魔法少女になったのか?」
「ええ、どうしても叶えたい願いがあったから」
魔法少女になれば、魔女と戦わなければならない。
それでも、少女は自分の願いを叶えるためにジュウげむと契約し、魔法少女になった。
ある意味、一番身勝手で、一番献身的だった。
「ま、俺としては地道にコツコツやっていくのが、一番良い手段じゃないかなって思ってる。
だって、代償を払った願いって……一番、嬉しくないだろ?」
「未来が見えない癖に、偉そうに」
「それは、魔法少女になりたい奴も未来が見えた方がいいんじゃないか」
「願いを叶える事の何がいけないのよ!」
恭一はあくまで、普通の少女が魔法少女になるのを拒んでいるだけだ。
しかし、それを理解できないまり恵は、怒った。
「あたしが魔法少女にならなかったら、今頃、あたしのお母さんは死んでいたかもよ。治らないかもしれないから、あたしは渋々魔法少女になっただけ」
そう、まり恵は望んで魔法少女になったわけではないのだ。
恭一は胸を締め付けられる。
「分かったら、あなたがやりたい事をやりなさい。あたしには、あたしのやるべき事があるから」
そう言って、まり恵は去っていった。
「恭一君……」
まり恵が去っていった後、入れ替わりに奈穂子が現れる。
「ああ、奈穂子か。大丈夫だ、お前は俺が守る」
恭一は先程、まり恵とぶつかり合ったのが嘘のように、笑顔で奈穂子に接した。
だが幼馴染の奈穂子はそれが嘘の笑顔だと見破る。
「恭一君、まり恵ちゃんに何をしたの?」
「いや……その……」
「なんだか、心の底から笑ってないみたいだよ」
「……仕方ないな」
恭一は観念して、奈穂子にまり恵を怒らせた事を話した。
「そうだったんだね。まり恵ちゃん、結構傷ついちゃったと思うよ。明日、謝りに行ってきてね」
「ああ」
悪気はないが、恭一はまり恵を傷つけてしまった。
魔法少女になってほしくないのは奈穂子だけのはずなのに、他の人に押し付けてしまった。
「今ならジュウげむの気持ち、少しだけ分かった気がするな。あ、もちろん、悪い意味で、だぞ!」
ジュウげむは、言葉巧みに少女を誘い、魔女と戦う魔法少女にする。
特に、切羽詰まった状況にいる少女はジュウげむにとって付け入る隙があるらしい。
「いいか、奈穂子。追い詰められても、絶対に魔法少女になるんじゃないぞ。魔法少女になったら、碌な目に遭わないからな」
「……うん」
奈穂子には、魔法少女になってほしくない。
それが、恭一の「願い事」だった。
しかし……。
「どうしてキミ達人間は、無駄な事が好きなのかな。奈穂子は魔法少女になる運命なのに。
普通の魔法少女ではどうしようもない災いが必ずこの町に降りかかるのに。……まあ、人間にはそんな事、分かるわけないか」
ジュウげむが、空の上でほくそ笑んでいた。
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魔法少女になればどんな願いも叶うが、その代償は……。
主人公は魔法少女に対し、疑問を抱くようになる。