No.1053381

英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

soranoさん

第121話

2021-02-04 00:43:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1662   閲覧ユーザー数:1478

~カレイジャス・ブリッジ~

 

「セ、セリーヌ!?どうしてそんなことを言うの……!?」

複雑そうな表情で呟いたセリーヌの意見を聞いたその場にいる全員が血相を変えている中エマは信じられない表情で訊ねた。

「エリゼの心に言葉が届く人物が今のアタシ達の中にはいないのだから、どれだけアタシ達が言葉を重ねても無駄だと思うのよ。」

「”エリゼの心に言葉が届く人物”というと……」

「リィンにエリス、後はもしかしたらセレーネもそうかもしれないね。」

「ちょっ、全員今は僕達の中にいない所か、エリゼさん側―――――メンフィル側の人物ばかりだから、エリゼ君の心に届く人物達を通して僕達の言葉を届ける事が最初からできないじゃないか……!」

「まあ、あの場にはアーちゃん達もいたから、ひょっとしたらアーちゃん達があの時のボク達に向けたエリゼの言葉をリィン達に伝えている可能性は一応あるとは思うけどね~。」

セリーヌの意見を聞いたガイウスが考え込んでいる中、フィーが答えを口にするとマキアスは表情を引き攣らせ、ミリアムは疲れた表情で呟いた。

 

「リィン君達以外だと、エリゼちゃんの”師匠”を務めているエクリアさんの言葉でしたら、エリゼちゃんの心にも届くとは思うのだけど……」

「エクリアさんはイリーナ皇妃の専属侍女長を務めている関係で当然メンフィル側だから、どの道エクリアさんに頼るのも厳しいでしょうね。」

「エクリアの”真の主”のセリカの口利きならエクリアも協力するとは思うが、セリカが面識の薄い連中の為にそこまでするとは思えねぇしな。」

「はい……少なくてもこの戦争の間はエクリアさんに会う事自体が難しいですもんね……」

ある人物を思い浮かべたアネラスとシェラザード、アガットとティータはそれぞれ複雑そうな表情を浮かべた。

 

「それとエリゼ君の心に言葉が届く人物が今のお前達の中にはいない事もそうだが、”戦後の彼女の立場”を考えるとお前達がエリゼ君に接触できる機会は中々訪れない可能性が高いだろうな。」

「ふえ?”戦後のエリゼさんの立場”ですか?」

「”戦後の立場”って事はエリゼちゃんが”普段の立場に戻る”ってことですよね?――――――あ。」

「なるほどね……エリゼの普段の立場は”リフィア殿下の専属侍女長”だから、リフィア殿下―――――いえ、メンフィル皇家に伝手がないサラ達が戦後のエリゼに接触できる機会は少ない事は確実でしょうね。」

「ああ……エリゼが仕えているメンフィル皇帝の跡継ぎのあの皇女はハチャメチャな行動は多いが、それでも普段は異世界にあるメンフィルの帝城に滞在して執務をしている事で当然エリゼも普段は異世界にいるだろうから、エリゼがゼムリア大陸自体に姿を現す機会はせいぜいあのハチャメチャ皇女関連や公務、後は休みを利用して里帰りやシュバルツァー達に会いにいく時くらいだろうな。」

「それらに加えて戦後のリィン様達の立場も考えると、お嬢様達がエリゼ様にお会いできる機会は非常に少ない―――――下手をすれば”皆無”かもしれませんわね。」

重々しい様子を纏って呟いたミュラーの推測を聞いたティータが不思議そうな表情で首をかしげている中、アネラスは答えを口にした後ある事に気づくと呆けた声を出し、シェラザードとアガット、シャロンはそれぞれ複雑そうな表情で答えた。

 

「”戦後のリィン君達の立場”って………――――――あ……っ!」

「……リィンは今の時点で既に”軍団長”を任されている上軍位も”少将”なんだから、リィンが軍を辞めなければリィンはそのままメンフィル軍の上層部の一人としてゼムリアにあるメンフィルの領土もそうだが、異世界にあるっていうメンフィルの領土のどこかにあるメンフィル軍の要塞や基地、もしくは皇族の親衛隊の幹部クラスとして配属されるだろうから当然トールズに復学するなんて事はないだろうな。セレーネとエリスはどうするかはわからねぇが……どう考えても戦後二人がトールズやアストライアに復学する希望は持たない方がいいだろうな。」

「そうだね……リィン君の”パートナードラゴン”として、どんな時であろうとも常にリィン君の傍でリィン君を支えているセレーネ君がリィン君を差し置いて自分だけトールズに復学するなんて事はできない事もそうだが、セレーネ君とエリス君もトールズやアストライアに限らずエレボニアのあらゆる学術機関では”居辛い立場”になるだろうから、例えトールズやアストライアに復学したとしてもすぐに自分から辞めるだろうね……」

不安そうな表情で呟いた後ある事に気づいてトワが声をあげると、トワの代わりにクロウとアンゼリカがそれぞれ重々しい様子を纏って答えた。

「セ、セレーネ達がトールズやアストライアに限らず、”エレボニアのあらゆる学術機関では居辛い立場になる”ってどういう事ですか!?」

アンゼリカの話が気になったエリオットは不安そうな表情で訊ね

「………みんなも知っての通り、今回の戦争でエレボニアは既に多くの犠牲者を出していて、当然その”犠牲者”の中には”トールズやアストライアを含めたエレボニアのあらゆる学術機関に通っている生徒、教師達の両親、親類”も間違いなく含まれているだろうから、自分達の身内が死んだ原因となった連合―――――それもメンフィル軍の”義勇兵”として戦っていた二人に対してその人達は思う所がある……ううん、身内が殺された恨みで二人に酷い言葉をかけたり、もっと酷い場合は周りの人達を巻き込んで二人に”いじめ”をすると言った二人に危害を加える可能性は十分に考えられるよ……」

「しかも内戦と今回の戦争で色々な意味で有名になったリィンの”身内”でもあるから、二人に対する”怒り”や”恨み”は更に強まるかもしれないわね。」

「ま、敗戦国の国民の立場でメンフィル軍の上層部の関係者に危害を加えれば”自分達がどうなるか”くらいは簡単に想像できるだろうから、ハーシェルがさっき言ったような事態は起こらないにしても、二人が周りの連中から遠巻きにされて孤立するのは目に見えているな。」

「それは………」

悲しそうな表情で答えたトワと複雑そうな表情で答えたサラ、そして疲れた表情で呟いたアガットの推測を聞いたガイウスは辛そうな表情で答えを濁した。

 

「も、もしかしてリウイ陛下達―――――メンフィル帝国の政府の人達がリィンさん達の退学届けを用意したのも、その件もあったんじゃ……」

「その可能性は高いでしょうね。この戦争でエレボニアが”敗戦”すれば、エレボニアの学術機関に通っていた彼らは”居辛い立場”になってしまう事は目に見えているでしょうからね。」

ある事に気づいて複雑そうな表情を浮かべて呟いたティータの推測にシェラザードは重々しい様子を纏って肯定し

「ハハ……それを考えるとアルフィンがメンフィルによってエレボニアからの追放処分を受けさせられたのはアルフィンにとっても、不幸中の幸いだったかもしれないね……」

「はい………今回の戦争の原因の一つである”ユミル襲撃”は”貴族連合軍にその身を狙われていたアルフィンがメンフィル帝国領であるユミルに滞在し続けた事で起こってしまった事”なのですから、アルフィンを逆恨みするエレボニア人が出てきてもおかしくありませんからね……」

「…………ッ………!」

「ユーシス………」

疲れた表情で呟いたオリヴァルト皇子の推測に頷いたセドリックは辛そうな表情を浮かべ、二人の話を聞いて辛そうな表情で唇を噛みしめて身体を震わせているユーシスに気づいたミリアムは心配そうな表情でユーシスを見つめた。

 

「後アンタ達、わかっているの?今のエリゼの考えを否定するって事はエリゼの考え――――――『実力主義が正しい事であり、皇族とは自分達が特定の人物を贔屓しても誰も文句を言えない存在』を否定するって事になるから、エリゼがそんな考えをするようになった理由――――――”実力主義”のメンフィルもそうだけどエリゼ達を贔屓しているメンフィルの皇族達の事を”間違っている”って言っているようなものよ。」

「そ、それは………」

「メンフィルや”英雄王”達は既に”結果”を出しているから、文句のつけようがないよね。」

「ハッ、そもそも皇族連中が揃いも揃って戦闘民族である事がオレ達の世界からすれば”非常識”なんじゃねぇのか?」

セリーヌの指摘に反論できないマキアスが答えを濁している中フィーは複雑そうな表情で呟き、アッシュは鼻を鳴らして指摘した。

「そういう訳だから、どう考えても無理な事は放置した方がアンタ達の為でもあるわよ。どうせ普段は異世界にいるエリゼと接する機会なんて中々ないでしょうし、戦争が終わったらエリゼもリィン達の事を考えてアンタ達に対する接し方も戦争が始まる前の接し方に戻すと思うわよ。」

「で、でもそれって、エリゼさんが私達に対してうわべを取り繕って接しているって事じゃない……!そんなの、私達が納得できないわ!」

「お嬢様………」

セリーヌの言葉に対して反論したアリサの様子をシャロンは心配そうな表情で見つめ

「Ⅶ組(わたしたち)としてもそうだけど、”魔女”としても私達もリィンさんやエリゼさん達に対して責任を取る必要があるわ、セリーヌ。私達がリィンさんをヴァリマールの起動者(ライザー)に導いた事でリィンさん達を私達の事情や戦いに巻き込んでたくさんの迷惑をかけたのだから、その”償い”や”恩返し”をしなければおばあちゃん達もそうだけど、リィンさん達にも顔向けできないわ。」

「………………………………」

辛そうな表情で指摘したエマの言葉に反論できないセリーヌは複雑そうな表情で黙り込んだ。

 

「……でも、どうしたらエリゼちゃんが僕達の事もそうだけど、ユーゲント陛下達を見直してくれるんだろう……」

「えっと……それに関しては既に方法はわかっているよ。」

そしてエリオットが複雑そうな表情で呟いたその時、トワが意外な答えを口にした。

「本当かい、トワ?」

「一体どんな方法なんだ?」

トワの答えを聞いたその場にいる全員が驚いている中アンゼリカとクロウは驚きの表情で訊ねた。

 

「うん……それはわたし達自身がリィン君みたいに何らかの職業で出世して高い地位に就いて、将来リィン君達を何らかの形で支える事だよ。」

「オレ達がリィンのように……」

「……なるほどね。エリゼが信じているのはメンフィルの考え――――――”実力主義”で”灰色の騎士”達との過去に結んだ絆によって今も彼らを支えているセレーネ達や黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)の関係者達の事は感謝しているような言い方をしていたらしいから、自分達の”実力”で出世して将来の灰色の騎士達を何らかの形で支えれば、貴方達に対する考えも見直す可能性は十分に考えられるわね。」

「えとえと……でも、リィンさんってメンフィル帝国の軍人さんですよね?軍人さんのリィンさんを何らかの形で支えると言っても、わたし達がエステルお姉ちゃん達と一緒に戦ったようにリィンさんと一緒に戦うか、おじいちゃんやギルドの受付の人達みたいなサポートしか思いつかないんですが……」

トワの答えを聞いたガイウスが目を丸くしている中シェラザードは納得した様子で呟き、ティータは戸惑いの表情で疑問を口にした。

「あはは、確かに今のリィン君は軍人だけど、Ⅶ組のみんながレンちゃんから聞いた話だと、リィン君は将来”公爵家”に爵位が上がったシュバルツァー家の当主として、メンフィル帝国の領土になる予定のクロイツェン州の統括領主に就くことが内定しているって話だから、軍人としてのリィン君を支える事は難しくても”貴族”や”領主”としてのリィン君を何らかの形で支える方法は他国の関係者のⅦ組のみんなでもできると思うよ。」

「まあ、問題はいつシュバルツァーが軍人を辞めて領主家業に専念する事になる事と、そいつらがどんな職業でどこまで出世する必要があるかだな……」

ティータの疑問にアネラスが苦笑しながら指摘し、アガットは疲れた表情で呟いた。

 

「アルノール皇家(ぼくたち)に関しては”血統主義”のエレボニアを変える事でしょうね。」

「そうだね………まあ、その前にエレボニア帝国やアルノール皇家の存続が許されるかどうかも問題だが………それ以前にエリゼ君にも約束したようにシュバルツァー家への恩賞や賠償をどのようなものにすれば、エリゼ君達は納得してくれるかだろうね。アルノール皇家が差し出せる最高のものですぐに思いつくのは”帝国の至宝”と称えられているアルフィンをリィン君にあげる事だけど、アルフィンは内戦の件でメンフィル帝国に差し押さえられてしまったからね……」

「皇女殿下を”借金のカタ”のような扱いをするな、阿呆。」

複雑そうな表情で呟いたセドリックの意見に頷いたオリヴァルト皇子は疲れた表情で答え、オリヴァルト皇子の言葉にミュラーは顔に青筋をたてて指摘した。

 

「わたし達の場合は、”将来”って意味を考えると”本来の歴史の未来のわたし達”が参考になるだろうね。」

「そうだね……その点を考えるとこの中でアリサ君が将来もそうだけど、軍人としてのリィン君を支える事が簡単かもしれないね♪」

「そういや、”本来の歴史”だとアリサはラインフォルトグループのARCUSⅡと魔導杖部門の責任者になったって話だから、ARCUSや魔導杖だったら軍関連にも役立つだろうからアリサがラインフォルトグループの幹部クラスになってリィンを優遇するとかすれば軍の上層部の一人になった今のリィンを支える事も可能だし、領主になったリィンの助けになる事もわりと簡単かもしれねぇな。」

「ふふ、さすがはお嬢様ですわ♪例え因果が変えられてお嬢様とリィン様はどんな事が起こってもいつか必ず結ばれる事になる赤い糸で結ばれるようになっていますもの♪」

「あ、あのねぇ………”今の私”はラインフォルトグループに就職する事を決めた訳でもないんだから、勝手に私の将来を決めないでよね。」

フィーの言葉に頷いた後からかいの表情を浮かべたアンゼリカの指摘を聞いたクロウはある事を思い出して苦笑し、シャロンにからかわれたアリサは顔を赤らめてジト目になって反論した。

 

「そういえば…………ラインフォルトグループで気になっていたがルーレ占領後のラインフォルトグループは今どんな状況なんだ?エルミナさんはイリーナ会長と交渉するような事は口にしていたが……」

「その事なんだけどね……アリサ君には先に伝えておいたのだが………連合の上層部達――――――エルミナ皇妃やエフラム皇子達と占領後のノルティア州の事についての交渉をした際に判明した事なのだが、イリーナ会長は本社ビルどころか、ノルティア州にある宿泊施設やラインフォルトグループの施設にも滞在していなかったとの事だ。」

「え……そうなんですか?」

「という事は仕事の関係で連合による侵略時偶然ノルティア州から離れていて、ルーレを含めたノルティア州が連合に占領されてしまった事で帰るに帰れない状況になってしまったと言った所でしょうか?」

ガイウスの疑問に答えたオリヴァルト皇子の話を聞いたエリオットは目を丸くし、サラは自身の推測を口にして確認した。

「はい、連合はその推測をしているとのことです。それとシュミット博士もルーレ大学には滞在しておらず、連合による侵略が始まる数日前にルーレを発っていたとの事です。」

「シュミット博士まで……」

「……この状況でその二人が揃ってルーレから出払っている事に作為的なものであるように見えるな。」

「ああ……ひょっとしたら黒の工房の本拠地が潰された上アルベリヒが動けない状態になっている可能性が高いって話だから、それを補う為かもしれねぇな。ラインフォルトグループの施設があるのはノルティアだけじゃないんだろう?」

「ええ。ノルティア州程ではありませんが、他の三州にもラインフォルトグループの工場施設等は存在していますわ。」

セドリックの説明を聞いたエマが心配そうな表情を浮かべている中、真剣な表情で呟いたユーシスの推測に頷いたクロウはシャロンに訊ね、訊ねられたシャロンは静かな表情で答えた。

 

「クロイツェン州は真っ先に連合に占領されちゃったから、当然その二人もクロイツェン州にはいないだろうから、まだ占領されていない西部のどちらかの州か、もしくは帝都にいるかもしれないね~。」

「ん………ちなみに連合はその二人を指名手配とかはしていないの?」

ミリアムの推測に頷いたフィーは真剣な表情でオリヴァルト皇子達に訊ねた。

「現在の所はその二人の状況は判明していない為、指名手配まではしていないとの事だ……――――――ただし、ラインフォルトグループ本社ビルもそうだが、ノルティア州のラインフォルトグループの各工場施設は全て連合の監視下に置かれた上、帝国軍の戦力強化の為に発注されて完成していた兵器や武装は全て連合が強引に買い取ったとの事だ。」

「そ、そんな………」

「まあ、連合からすれば敵の戦力の強化を防ぐ為の当然の措置ってやつだろうな。」

「ああ……ラインフォルトの施設で量産されていた兵器や武装を”徴収”じゃなく、”買い取って”いるだけまだ良心的だな。」

「た、確かに……戦争で敵国の領土を占領したのですから、普通は占領した領土にある軍にとって有効な物資は”徴収”するでしょうし……」

ミュラーの説明を聞いたティータが複雑そうな表情を浮かべている中静かな表情で呟いたアッシュの推測にアガットは頷き、アガットの言葉を聞いたアネラスは複雑そうな表情で呟いた。

 

「それとエルミナ皇妃からは戦後”ラインフォルト家”がクロスベル帝国に帰属するつもりがないのであれば、”ラインフォルト家”の”実家”であるラインフォルトグループの本社ビルの24Fと25Fをクロスベル帝国政府に相場の2倍の金額で売却してもらう事が決まっている事をアリサ君達――――――”ラインフォルト家”の関係者達に伝えるように言われたんだ。」

「本社ビルの24Fと25Fというと”ラインフォルト家”の住居スペースだったな……」

「………………………」

「クロスベルに帰属しなければ、実家を売って出ていけって幾ら何でも横暴じゃないか!?」

「というかその口ぶりだと、クロスベルがラインフォルトグループを乗っ取っているも同然の言い方だよね~。」

「エルミナさん………」

アンゼリカの話を聞いたラウラはある事を思い出し、アリサは複雑そうな表情で黙り込み、マキアスは真剣な表情で声を上げ、ミリアムは疲れた表情で呟き、ガイウスは複雑そうな表情でエルミナを思い浮かべた。

「まあ、実際ミリアム君の言う通りだと思うよ。昨日の交渉の時に戦時中の状況でエレボニアにとって敵国である連合に占領されたノルティアの民達の生活に支障がでないようにする交渉の時にアルノール皇家とログナー侯爵家が保有していたラインフォルトグループの株を相場の金額で全て連合に売却する事が決まったから、ラインフォルトグループの”大株主”はメンフィル帝国政府とクロスベル帝国政府と言っても過言ではないからね。」

「なっ!?そ、それじゃあ連合がその気になれば……!」

「――――――アルノール皇家とログナー侯爵家が保有していた株数の合計は会長が保有している株数を上回りますから、株主総会でイリーナ会長を”解任”する事も可能ですわ。」

「……………………」

疲れた表情で答えたアンゼリカの話を聞いてある事に気づいたマキアスは驚きの表情を浮かべてアリサに視線を向け、シャロンが静かな表情で答えるとアリサは複雑そうな表情で黙り込んでいた。

 

「えとえと……今の話を聞いて気になったのですけど、ギルドはメンフィル・クロスベル連合に対して交渉等はできないんでしょうか?”ラインフォルト家”は”民間人”の枠に入りますから、遊撃士協会の案件だと思うんですが……」

「う、うーん……規約にある保護義務の対象はあくまで”民間人自身”であって、”民間人の財産”は”規約”に含まれていないから詐欺や恐喝等と言った犯罪行為が起こらなければ正直介入はできないんだよね~。」

「おまけにその件は両帝国の政府が関わっている事で当然”国家権力”も間違いなく関係しているでしょうから、規約の一つである『国家権力に対する不干渉』に該当する事で例え依頼されたとしても請ける事も厳しいと思うわ。」

「ただでさえ、トヴァルがユミルの件をやらかしたこともあるからな………しかも、権力で相場と比べても明らかに安い金額で強制的に売却させられるならともかく、”相場の2倍の金額の売却”だと”正当な取引”として成り立つから、遊撃士(おれたち)が割って入る余地はねぇんだよ。」

「それらの件を考えるとラインフォルトグループの株の件もそうだけど連合がラインフォルトグループの各工場にあった兵器や武装を”徴収”じゃなく、”購入”したのは遊撃士協会の介入を防ぐ為であるかもしれないわね。」

ティータの質問にアネラスは困った表情で答え、シェラザードとアガットは疲れた表情で答え、サラは苦々しげな表情を浮かべた。

 

「話を戻すが、ラインフォルト家がクロスベルに帰属するのであれば、住居スペースを売却する必要はないし、イリーナ会長の立場を奪うような事はしない上、アリサ君やシャロン君もラインフォルトグループに限らずクロスベル帝国の領土内で何らかの仕事に就職するのであれば優遇するし、アリサ君達が望むのであればクロスベル帝国の有力者達――――――軍や政府、警察の上層部もそうだが、ユーディット嬢のようにクロスベルに帰属する事を決めた元エレボニアの貴族等との面会や取引等の仲介もすると言っていたよ。それとラインフォルト家のクロスベルに帰属の有無に関わらず、シャロン君が今後”紅き翼(わたしたち)”側として活動するのであれば連合の”抹殺対象”からシャロン君を外す事は確約するとの事だ。」

「ハッ、あからさまにわかりやすい”餌”じゃねぇか。」

「でも、その気になれば結社の”執行者”としてオズボーン宰相達に協力していた事で連合に”抹殺対象”として狙われていたシャロンさんを対象から外す代わりにアリサちゃん達がクロスベル帝国に帰属するように促す事もできたのに、それをせずにシャロンさんを”抹殺対象”から外す事をクロスベル帝国の皇帝の”正妃”の一人のエルミナ皇妃が”確約”してくれたことは僥倖だし……その………考えようによってはそっちの方が戦後のリィン君達に接触しやすいから、アリサちゃんの場合はクロスベルに帰属する方が”色々な意味”でいいと思うよ。」

「え……それってどういうことですか?オリヴァルト殿下の話ですと、クロスベル帝国の上層部を紹介するという話ですから、メンフィル帝国の関係者のリィン達は無理だと思うのですが……」

オリヴァルト皇子の話を聞いたアッシュは鼻を鳴らして厳しい表情を浮かべ、静かな表情で呟いたトワの話が気になったアリサは不思議そうな表情で指摘した。

「メンフィル帝国はクロスベル帝国と”連合”を組んでいる――――――つまり、”同盟関係”である事で当然互いの関係も良好だろうから、同盟国の正妃の頼みとあらばメンフィル帝国も自分達の国で大出世したリィン君もそうだがエリゼ君と会える手配もしてくれるんじゃないかい?」

「あ………………その………帰属の件に関しては家族と話し合って考えた上で決めます。」

「ああ、君達の”未来”の為にも私達に遠慮せずに考えて欲しい。エルミナ皇妃もすぐには答えを求めるつもりはないと言っていたから、少なくても今回の戦争が終結して、戦後のラインフォルトグループやクロスベルの状況が落ち着くまでは待ってくれると思うよ。」

「それと現在ラインフォルトグループの本社ビルは連合の監視下には置かれていますが、アリサさん達の訪問は制限していないとの事なので、身分証明書を提示すれば本社ビルに入れてくれるとの事です。」

「かしこまりましたわ。」

トワの代わりに答えたアンゼリカの説明を聞いたアリサは呆けた声を出した後複雑そうな表情で答え、アリサの答えにオリヴァルト皇子は頷いて助言し、セドリックは説明を補足し、セドリックの説明にシャロンは頷いた。

 

「――――――それで?昨日のアンタの加勢の時からずっと気になっていたけど、アンタは一体どんな心境の変化があって結社から離れてあのタイミングでかけつけて、あたし達の加勢をしたのかしら?」

「サ、サラ教官。そういう事はシャロンさんが自分から切り出してくれるまで待てばいいじゃないですか。」

真剣な表情でシャロンを見つめて説明を要求するサラの様子を見たマキアスはシャロンに視線を向けた後気まずそうな表情を浮かべて指摘した。

「ふふっ、お気遣いありがとうございます、マキアス様。元々聞かれたら答えるつもりでしたから、どうかお気になさらないでください。」

「シャロン………」

「……それで私達が黒の工房の本拠地で皇太子殿下とミリアム君を奪還してから、何があって結社から離れる事を決めたんですか?」

苦笑しながら答えたシャロンの様子をアリサが心配そうな表情で見守っている中アンゼリカは真剣な表情で続きを促した――――――

 

 


 
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