弱いということは罪なのでしょうか?
願い求めることは悪なのでしょうか?
力ない誰かが泣いているのが許せなくて
それが正義だと信じて、少年は師の下を飛び出しました
けれど少年は知りました
守るものが大きくなるほど、切り捨てるものも大きくなるのです
理想への情熱と、絶望による痛みが同じくらいになった時
彼は朱色の世界で一人の少女に出逢いました
Swallowtail Righteous
益州、錦屏山のとある一角にある一軒家。
その屋根の上に、男が一人寝転がっていた。
あたりを澄んだ夜気が包み込み、虫の音と木々の微かな葉擦れの音だけが響いている。
そんな中、何をするでもなく真っ直ぐに空を見上げ、星辰の輝きを眺めながら黄昏ていた。
「……ん?」
ふいに、その視界の端に流れる光が映った。
「流星、か?いや……」
男は上体を起こし、その光のほうに向き直る。
光は消えることなく、それどころか遥かなる黒天の彼方から、闇をを切り裂いてこちらに向かって落ちてきていた。
そしてその光は、男の見ている中、少し離れた前方の森の中に落ちた。
その瞬間、流星の落ちたと思われる場所から、天の果てまで届かんばかりの光の柱が立ち昇り、やがて消えた。
「おいおい……」
男はしばし呆気にとられていたが、警戒を高めあたりの様子を注意深く探る。
しばらくして、あたりに何も変わりがないことに安堵しかけたが、
「……っていうか、あそこは―――ちっ!?」
何かに思い当たると、弾けるように屋根から飛び降り、疾風のごとく駆け出した。
―――時間を少し遡り、錦屏山の森の中。
『鍛錬』と呼ぶには語弊がありすぎる日課の後、一人の少女が近くの川で水浴びをしていた。
(……ふぅ。まったく……師匠は大雑把というかなんというか、適当過ぎる。さすがに今回は殺意を覚えたぞ)
身体のいたるところが、少し動かすだけで痛み、そのたびに今日の出来事を思い出し眉間にしわを寄せていた―――
『よしというまでやっていろ』
いつも通りの指示を出し、少女の師匠はその場を後にする。
そういわれて黙々と一人打ち込みを続けること『一日』。朝日が昇らぬうちから始めて、日が沈むまで。もはや腕をあげることすら出来なくなったころにようやく戻ってきた。
『すまん、あまりに日差しが気持ちよかったもんでつい寝ちまった』
もはや息をするのも億劫だったはずの少女は、龍牙を手に猛然と師匠に襲い掛かった。
しかし師匠たる男はバーサーク化した少女を軽くあしらい、本当に動けなくなった少女を引きずって、仮の宿となっている小屋に戻ったのだった。
―――その後、しばらくして多少体力が回復した後、軽い食事を取り、食後の運動がてらに手合わせをして、現在に至る。
いまだ熱をもった身体に、緩やかに流れる水が気持ちいい。
澄んだ空気に流れる水の音、空を見上げれば雲ひとつない満天の星空。
ひどい一日ではあったが、今日は気持ちよく眠れそうだと思った。
(ん?あれは………流れ星?)
不意に見上げた空に、一際輝く星を見つけた。
星にしては少し違和感を感じ、視線を離せず注視していたのだが、
(まずい……っ!?)
と、直感するも少し遅かった。流星は、真っ直ぐ少女のいる場所に向かい落下し、瞬く間に少女を巻き込み、あたりを真っ白に染め上げた。
『それじゃあ、行って来い!汝らの行く先に幸多からんコトを―――』
そんな声をどこか遠くに聞きながら、一瞬の浮遊感に包まれたかと思うと、次の瞬間には衝撃と共に水浸しになっていた。
(………これは嫌がらせか?)
恐らくどこかの川か池(手足が地についている以上、海ということはない)だろう。
以前来た時のように気を失っているということはなかったが、閃光に包まれたため目を閉じていたし、感覚的には一瞬のことだったので何が起こったのかはよくわからなかった。
というか、ものすごい滑った。下が水ではなく荒野だったりしたらモミジオロシになっていること請け合いというくらい水の上を滑った。
心の中で(故意か仕様かはわからないが)乱暴な転送をしたリクに文句をいいながら、頭を軽く振って目を開ける。
視界に映る辺りの様子から、どうやらどこかの森の中のようだ。
森の中…もし着地したのが水の上でなく木の上とかだったら………。
木の枝に串刺しになって息絶えている自分、というシュールな想像をしてしまい頬が引き攣る。
いつまでも水の上で寝転がっているわけにもいかないので、起き上がろうと地面に手をつく―――
むにっ
(…………?)
―――と、片手に伝わってくる感触がおかしい。あったかくてやわらかくていつまでも触っていたくなる様なそんな感触。
三国一の種馬とまで呼ばれたことのある一刀にとっては、ある意味馴染みの感触。
もしかしてヒナを下敷きにしてしまっているのでは、と一瞬あせったが、ヒナはすでに陸にあがり(水にぬれてすらいない)『じ~っ』とこちらを見つめていた。
不思議に思い、視線を下にむける。
―――少女と目が合った。
そこには見たことのない、いや………どこか、よく知る女の子の面影をもつ青い髪の少女がいた。
しかもなぜか全裸。白い肢体が眩しい。
そういえば、水上スキーの途中、何かにぶつかった気がしないでもない。
そして確信した。これは嫌がらせだ、と。
『もしも着地地点がずれていたら木の枝に串刺しに』なんていうのは無駄な、いやむしろ易しい心配だった。
間違いなく奴はすべて計算した上で、寸分の誤差もなくこの状況を作ったのだろう。朱里に勝るとも劣らぬ神算鬼謀。どこまでもわからない奴だ。
などと冷静にそんなことを考えているように見えて、一刀は今の状況を把握できず真っ白になっていた。
相手もそうなのだろう。しばらく―――といっても時間の感覚が狂っているので実際はそれほどでもなかったのかもしれない―――呆然と見詰め合っていたが、不意に少女が動いた。
ゆっくりと視線を下へ。そこにあるのは少女の裸体とその胸の上におかれた手。この上なく犯罪チックな光景だ。
そしてゆっくりと視線を上へ。再び目が合った。
少女の頬がみるみる朱に染まっていく。小刻みに震えている気がするのは、一刀の気のせいではないだろう。
現状に理解が追いついていないが、とてもまずい状況というのだけは解った。この空白の時間は、もうながくは続かないだろう……。
先手必勝。
このままだと俺は死ぬと、一刀の直感が告げていた。故にこの状況を打破すべく一刀は行動をおこした。
「こ、こんばんわ」
と、笑顔で挨拶。人にあったらまず挨拶は基本。
(……ダメだ、俺は今、混乱してる)
ただし此処で必要だったのは基本ではなく臨機応変な対応だったので危険回避は失敗。
「―――まずは人の上からどかぬかあぁぁぁ~~~っ!!!!」
顔を真っ赤に染めた少女の怒りを買い、その小さな身体からは想像もできないような力で殴り飛ばされた。
一刀は綺麗な放物線を描いて飛び、暗く冷たい水の中に沈んでいった。
着水の数瞬前、一刀は視界いっぱいに広がる夜空を見て思った。
―――ああ、今夜はこんなにも月が、きれい………だ
―――BAD END―――
「貴様!一体何者だ!?」
何とか生きていた一刀が起き上がり仲間になりたそうにこちらを――違った。
一刀が足の着く場所まで戻ってくると、少女が問い質す。
手にはどこか見覚えのある紅い槍を持ち、よほど急いだのか、衣を羽織ってとりあえず帯を締めただけという姿をしていた。
しかし、油断なく構え、こちらを警戒している。
「いや、怪しいものじゃないからまずは落ち着「………目にした女は幼女から老ゲフンッ熟女まで喰っちまう(性的な意味で)天の種馬とはこの方のことで、す」ちょっと?!ヒナさん!!?」
「なっ!?おのれ、この化け物め!」
「いや、おかしいよね!?なんでそんなにすんなり信じるの?!」
「問答無用!この趙子龍、いまだ未熟な身なれどそう易々と喰えると思うな!」
「―――えっ、趙子…って、ちょっと待ってって!?」
いうが早いか、少女は裂帛の気合と共に飛び掛ってきた。
不意を衝かれた形になり、一刀はその動きに対応することが出来ない。
何とか避けようとはするが、視界に映るその一撃が自らに直撃するだろうことを確信していた。
「マトリックス!」
「なっ!?」
(…………は?)
しかし――刀に向かって突き出された鋒先は、空を切った。
「くっ、奇怪な動きをっ!!」
「へぅぅ!ほぁぁ!!はわわ!あわわ!!」
(ちょっ!なんだこれ!?おわっ?!あぶなっ!?)
少女の槍が繰り出す連撃はまさに舞。
しかしその尽くが、一刀をとらえることなく虚しく空を切る。
「ぬっふうぅぅん!」
「なっ、バカな!?――くっ!」
一刀は理解不能な雄叫びとともに、少女の鋭い刺突を”受け止めた”。
白刃取りの要領で。素手で、だ。
少女は力任せに槍を引き戻しながら、弾ける様に後方へと下がる。
一刀もそれに合わせ距離をとる。
半ばパニックに陥っていた一刀だったが、少しずつ落ち着きを取り戻す。
直前の攻防で体が勝手に動いたのは記憶の中にある経験によるものなのだと考え、心の中で身を守る術を叩き込んでくれた人たちに感謝する。
――しかし、自分はあんな動きをしたことがあっただろうか?
そんな疑念が湧いたが、今はそんなことを考えている場合ではないと、その思考を放棄した。
混沌とする状況の中で理解したこともあった。彼女は趙子龍。かつての友であり、大切な人だった星に間違いないということ。
(しかし、なぜ子供?!というかさっきから気付かないようにしてたけど、俺もなんか小さくないか?)
軽い混乱状態の一刀を他所に、対峙している少女の緊張は高まっていく。
すぐに飛び掛ってこないのは、警戒しているからか。
「………一刀」
「っ、ヒナか?」
趙雲とのにらみ合いが続く中、不意にヒナが声をかけてきた。
もしかしてこの状況を何とかしてくれるのだろうか?
一刀は淡い期待を胸に、趙雲を視界から外さないようにヒナを視界に入れる。
ヒナが何かを投げてよこした。
それを片手でキャッチする。
"一刀は刀を手に入れた"
……ぇ?ちょっと?ヒナさん?
「………がんば、れ」
「煽るなよ!!!」
「………?、抜き身のほうが、よかっ、た?」
「余計に危ないから!!!というか、そういう問題じゃない!」
ダメだこいつ。はやく何とかしないと。
可愛い外見にだまされていた。ヒナは間違いなく"奴"の同類だ。
一刀は項垂れたい気持ちでいっぱいだった。
色々と手遅れな気がしてならない現状の収拾をつけるために、臨戦態勢の趙雲を何とか隙を見つけて抑えるしかない、と覚悟を決めて趙雲に意識を集中する。
(臨戦態勢の趙雲の隙を見つけて…………ってできるかぁ!!)
一刀は、自分の思考が生み出した無茶振りに、思わず刀を地面に叩き付けたくなる衝動に駆られたが、さすがに自重した。
そこで不意に気付いた。
(……趙雲、なんか滅茶苦茶疲れてないか?)
よく見れは、呼吸は乱れ、肩で息をしている。
視線は鋭く一刀を睨みつけ、油断なく神経を尖らせているようにみえる。
「………………」
「………………」
一刀が、前へ踏み出し距離をつめる。
「っ!?……くっ!」
趙雲の反応が鈍い。
一刀は、それが演技でないことを祈りながら勝負に出た。
「せいっ!」
「はっ!!」
交錯。
「っ!?」
一刀は、刀で槍を受け流し、そのまま一刀は互いの身体が触れ合うほどに肉薄し、そのまま足を払い趙雲を投げた。
たった一合すらまともに交わせずに一刀に接近を許すほど動きが鈍っている趙雲に、それを防げる道理はない。
趙雲は受身も取れずに背中を強打した。
「かはっ……けほっ……っ!」
こうして、拍子抜けするほどあっけなく決着がついた。
「………無念だ」
なぜか最初から疲労困憊だった趙雲は、あっさり抵抗を諦めた。
「もはやこれ以上の無様は晒すまい。煮るなり焼くなり好きにするがいい!」
悔し涙で瞳を潤ませながら、趙雲は気丈を装ってそう叫ぶ。
「いや、なにもしないから。お願いだから落ち着いて話を聞いて」
いったい、趙雲には一刀がどんな悪逆非道な奴に見えているのだろう。
状況が状況だったし、趙雲の反応もわからなくはないけれど、それでも一方的に過ぎる気がする。
”なぜか”子供の姿の一刀が賊に間違われるということもないと思うのだが。
「……本当か?」
「本当だよ」
「……妖ではないのか?」
「普通の人間だよ!?」
妖だと思われていた。
「………では、私を喰ったりは?」
「するわけ「………きっと、もっとおいしくなるまで待って食べるつもりです(性的な意味で)」ちょっとお前は黙ってろ!!!」
いつの間にかすぐ傍にやってきていたヒナに対して、一刀はちょっとキレ気味だった。この娘には本当に調教が必要なのかもしれない。
「さ、さっきは私を押し倒していたではないか」
頬を朱らめる趙雲。
「事故です!不可抗力です!!!」
そういうと、なぜか不機嫌そうな顔になる。
(なんでさ!?)
「………どうやら、本当に私をどうこうするつもりは無い様だな」
「わ、わかってくれた?」
「うむ」
どうやら理解を得られたようだ。
「よかった、それじゃあ―――」
しかし、一刀は言葉を最後まで続けられなかった。
ゴスッ!
趙雲が無造作に振るった龍牙の一撃を受け、再び宙を舞う。気を抜いていたため、避ける事も受けることも出来ずまともにくらい、吹っ飛ぶ。
その一撃で綺麗に意識を刈り取られた一刀には、その後に趙雲の言った言葉を聞くことは出来なかった。
「それはそれ、これはこれ。初対面の乙女の裸体をじっくり観賞した挙句、あまつさえ胸まで触るなど…。峰打ちにしてやっただけありがたいと思うのだな」
―――流星が落下してから数刻後
「無事か馬鹿弟子!」
川の畔に辿り着いた男が目にしたのは、ピクリとも動かず川に漂っている少年と、それを引っ張って岸に運んでいる少女。そして半脱ぎ、もとい服を着ている最中の弟子の姿だった。
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一刀がチート風味
一刀が時々壊れる
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