・オリジナルキャラクター紹介
袁燿(えんよう)・・・・・・一刀と美羽の娘で真名が美麗(みれい)。
母親同様にに蜂蜜が大好きな女の子。
母親と蜂蜜が同じぐらい好きでその次に一刀が好き。
多忙な美羽に会えない寂しさを内に秘めながらも一緒にいられる時間を望んでいる。
張蔡姫(ちょうさいき)・・・・・・一刀と七乃の娘で真名が志乃(しの)。
張勲の子孫が見当たらなかったのでこのようになりました。
七乃が美羽のことが大好きと同じで美麗が大好き。
まさに四六時中一緒にいて、幸せそうな美麗を見るが大好き。
実は一刀よりも美麗のほうが大好きで、それを知った一刀が数日寝込んだほど。
(蜂蜜水の愛情と想い)
美羽の娘である袁燿こと真名が美麗と七乃の娘で張蔡姫こと真名が志乃は仲良く庭に座って蜂蜜水を舐めていた。
彼女達の母親同様、志乃は美麗にはとことん甘く、過保護なところがあった。
「美麗ちゃん、美味しいですか?」
「うむ。とても美味なのじゃ♪」
姉である志乃は美麗が美味しそうに舐める姿を見て微笑みを絶やすことはなかった。
「さすが母上の蜂蜜じゃ」
「そうですね~。美羽様がお作りになる蜂蜜はみんなに評判ですよ」
すでに呉を代表する品として有名になっている美羽が作る蜂蜜は魏や蜀にも輸出をしてそれなりの評価を得ていた。
一刀の提案で美羽と七乃が経営する養蜂場は初めこそ問題がいろいろとあり上手くできなかったが、この数年でなんとか納得のいくものができるようになった。
「こんな蜂蜜水をいつも舐めれるのは妾は幸せじゃ♪」
「私も美麗ちゃんのその顔が見れて幸せです♪」
仲の良い姉妹というより志乃はどこかシスコンに発展しているほど美麗と離れることはなかった。
「美麗、志乃」
そこへやって来たのは休日の一刀と氷蓮、それに彩琳の三人だった。
「父上♪」
「お父様♪」
二人は父親が目の前に座ると嬉しそうにする。
「それってたしか美羽のところの蜂蜜水だよな?」
「はい♪美羽様のところですから味はもう格別ですよ」
「父上も舐めるのじゃ」
そう言って蜂蜜水の入った壺を一刀に差し出し、それを一口舐めると一刀は嬉しそうにする。
「本当だ。これならどこで売っても売れるよな」
「どれどれ……。あ、これ凄く美味しい」
「本当ですね。さすがは美羽様です」
一口ずつ味見をした三人は満足のいく感想をもらした。
ここに美羽がいればこれでもかというほど嬉しそうにしていたが、今も養蜂場に七乃と一緒に行っているため留守だった。
「そういえば美羽様って最近、あまり戻ってこないわよね?」
「そうですね。何でも注文が凄くて毎日のように養蜂場で寝泊りをしているみたいですよ」
昔の美羽では想像もできないほど蜂蜜に関しては熱心で、蓮華からも全権を預けられるほどの信頼があった。
その為か屋敷には月に一度戻ってくるかどうかというほど最近は忙しく、そのことで美麗と志乃は少し寂しく思っていた。
「仕事もいいけどたまには戻ってきて美麗や志乃と遊んであげてもいいのに」
「そうですね。美麗ちゃんと志乃ちゃんも寂しいですよね」
そんな二人の心情を察してか氷蓮と彩琳は気にしていた。
「妾は大丈夫じゃ」
「本当か?」
「母上に会えないのは寂しいけど、こうして母上の作った蜂蜜水があるから妾は寂しくないのじゃ」
美羽と七乃も娘達を忘れたわけではなく、蜂蜜水がなくなる頃合を見計らっては良質の蜂蜜水と手紙を送っていた。
それがあるから美麗と志乃は寂しさを和らげることができたが、それでも母親の温もりを感じたいと思っていた。
「お父様」
「どうした?」
志乃はそっと一刀の横に行き耳元でこう囁いた。
「美麗ちゃんは毎晩、私にしがみついているんです。本当は寂しくて寂しくて堪らないのです」
「だろうな」
「お手紙だって最初は読んでいたのですけど、最近はまったく読もうともしないのです」
手紙を読んだところで母親が戻ってこないのなら同じことだと美麗は志乃の愚痴をこぼしたことがり、それが志乃も気になって仕方なかった。
「でも寂しいのは美麗だけじゃなく志乃もだろう?」
「私は美麗ちゃんがいますから」
笑顔を見せるがどこか影がかかっていた。
言葉で言うほど志乃も寂しくないと思っていなかった。
美羽に対する七乃の態度は娘が産まれても変わることはなかったため、志乃としては自然と美麗にすがるようになっていた。
「でも、このままじゃ美麗が可哀想よ」
姉として氷蓮は妹達の境遇が可哀想と思い何とかしてあげたかった。
「美麗ちゃん、母上に会いたいですか?」
彩琳の思いもよらない言葉に美麗は蜂蜜水を舐める動きをとめて姉達の方を見た。
そしてその表情は寂しさが今にでも零れ落ちそうだった。
「会いたい」
視線を壺に落として今にでも泣きそうな美麗に志乃は慌てて慰める。
その様子を見て彩琳と氷蓮、それに一刀はどうするか相談を始めた。
「しかし、美羽をどう説得するんだ?」
蜂蜜に関しては右に出る者がいないというほどの実力者(?)の美羽が自分から打ち込んでいる仕事なためそう簡単には会えないのではないかと一刀は不安に思った。
「確かにこの前、愛ちゃん達が遊びに行ったときも七乃様が相手をして美羽様は出てこなかったみたいですからね」
「それってちょっとひどくない?」
「でも、国益に反映していることですから、あまりご迷惑を掛けるわけにもいかないと思いますし」
あの蓮華ですら認めるまでに成長した美羽なのだ。
仕事の邪魔をするのはどうかと彩琳は思ったが氷蓮はそうではなかった。
「でも美麗が寂しい思いをしているのよ。私達がいくらいようとも母親である美羽様の温もりを長いこと感じないと辛いわよ」
大人の事情というものは理解したうえで氷蓮は可愛い妹が寂しい思いをするのを見逃せなかった。
自分は彼女達の姉であり守ってあげなければと思っている氷蓮は何としても美羽に会わせたいと思っていた。
「それに聞いた話だと美羽様は今度また魏や蜀に販売に行くみたいよ」
「本当ですか?」
「もしそうなったら、月一どころの話じゃないわよ」
下手をすれば半年、一年という長い時間出かけることになり、会いたくても会えない状態になってしまう。
そうなってしまえばいくらなんでも美麗が可哀想過ぎる。
「しかし、私達はおろか、父上が説得してもダメなのでしょう?」
「こればかりは俺でも無理だな」
美羽に養蜂場を任せたいと思ったのは誰でもない一刀だったため言い出しにくかった。
では他に何か良い方法があるのかといえば、三人の頭の中には何も思いつかなかった。
結局、何もいい考えが浮かばないまま何日か過ぎて美羽と七乃が久しぶりに屋敷に戻ってきた。
そして三日後に呉を出発して魏や蜀に出かけることを全員がそろったところで話した。
それを聞いた美麗と志乃は何も言わずだた黙って夕餉を食べ、一刀と氷蓮、それに彩琳は言うべきかどうか迷っていた。
「美麗」
美羽が俯いている美麗のところにやってくると、美麗は一瞬嬉しそうにするが次の言葉でそれも消し飛んでしまった。
「妾はしばらく出かけるから志乃と一刀達と一緒にいい子にしておるのじゃ」
そう言って取り出した蜂蜜水の入った壺を美麗に持たせた。
母親が丹精込めて作った蜂蜜水を本来ならば喜んでいた美麗だが、この時ばかりは様子が違っていた。
「こんなものはいらない!」
大声でそう言うと美麗は壺を床に叩きつけた。
壺は見るも無残に砕け散り、中に入っていた蜂蜜水は恨めしそうに床に飛び散った。
「な、何をするのじゃ美麗!」
「そ、そうですよ、美麗様!」
さすがの美羽と七乃も予想外の行動に驚きを隠せなかった。
美麗の隣に座っていた志乃もどうしたらよいのかわからず、オロオロとするばかりだった。
「妾はこんなものいらないのじゃ」
「な、何を申す!妾が美麗のためにと一生懸命に作ったのじゃ。それをこんなもったいないことをするとはどういうことじゃ!」
蜂蜜を雑に扱うことはたとえ娘でもやっていいわけではなかった。
美羽はせっかく娘の為にと思って渡した蜂蜜水を台無しにされたことが頭にきていた。
「妾はこんなものよりも母上にいてほしいのじゃ」
日頃の溜め込んでいた寂しさをぶつけるように訴える美麗。
だが、今の美羽にはそんな娘の気持ちに気づくことができなかった。
「妾は忙しいのじゃ。それは美麗もわかっておるはずじゃ」
「それでもいてほしいのじゃ」
幼い子供がゆえに母親に温もりを必要とする。
それは志乃も同じ気持ちだったが、自分には美麗がいてくれる、大好きな姉妹や父親がいてくれる。
だが、それ以上に母親の温もりを求めているのが美麗だった。
壺に入った蜂蜜水がいかに母親の愛情が込められていてもそこからは肌を通して感じられる温もりはなかった。
「わがまま言うでない。妾は忙しいのじゃ」
「それならもう母上の蜂蜜水なんかいらないのじゃ!」
「な、なんじゃと!」
「母上の蜂蜜水などほしゅうない!」
大好きな蜂蜜水よりもさらに大好きな母親がいてくれないのであれば、蜂蜜水をもらっても嬉しくもなかった。
その想いを伝えているはずなのに上手く言葉にできない。
そして、それを聞いた美羽は人生で初めて人に手を上げた。
それも自分の愛娘に対して。
「美羽!」
それを止めようとした一刀だが間に合わなかった。
一瞬の静寂の後、涙を流し身体を震わせる美麗。
「母上なんて大嫌いじゃ!」
大声でそう言って泣きながら食堂を出て行き、それを志乃と氷連、それに彩琳が後を追った。
「美羽、叩くことないじゃないか」
どんなに傲慢な態度を取ろうとも、どんなに人の神経を逆撫でしようとも決して手を上げることをしなかった美羽に一刀もつい声が大きくなってしまった。
「妾は何も悪くないのじゃ。一刀はそれでも妾よりも美麗の肩をもつというのか?」
「本当に悪くないと思っているのか?」
「当然じゃ」
寂しくないようにと蜂蜜水と手紙を送っており母親として娘のことを愛している美羽は自分のしたことは間違っていないと主張する。
そして本来であればここで七乃も美羽の味方になるはずが、今回ばかりは違っていた。
「お嬢様。私も今回は美麗様の味方ですよ」
「な、なぜじゃ!」
「だって~、お嬢様のその暴虐無人な態度で他の人に迷惑を掛けているのはいいのですが」
「「「「「(いいのか?)」」」」」
その場にいた全員が同じことを思った。
「だからといって美麗様の気持ちも少しは考えてあげないとダメですよ」
「ど、どうしてじゃ。妾は美麗が寂しくないように文も添えておるのじゃぞ?」
「それでもですよ。私もひとのことを言えないので強くはいえませんけど、美麗様は蜂蜜や文よりもお嬢様と一緒にいたいのですよ」
普段の七乃は美羽の味方であり、どんなに暴走をしても決して見放すことのない忠臣であるが、自分達の娘に対しての態度は少しばかり気にしていた。
そして味方のはずである七乃からも自分を非難する言葉が出てきたことにショックを隠しきれない美羽は次第に涙目になっていく。
「妾は……妾は何も悪くないのじゃ!」
そう叫んで食堂から走って出て行く美羽に七乃も慌てて追いかけようとしたが、それを雪蓮が止めた。
「私が行くわ。貴女はここにいなさい」
「で、でも」
「今、貴女が追いかけても何も解決はしないわよ?それでもいいの?」
七乃の性格を考えると今回ばかりはいい方向に行くとは思えないと感じた雪蓮はそう言い残して食堂を出て行った。
「まったく母娘そろって賑やかじゃの」
祭は苦笑いを浮かべるとその場にいた者達は同じように思えた。
「お嬢様と美麗様は似ていますから」
長年連れ添ってきた七乃だからこそ美羽の気持ちも理解でき、美麗の気持ちも理解していた。
正直なところ、養蜂場の件も魏や蜀へ行く件も誰かが代行で行ってよいものだった、美羽がどうしても自分が行くと聞かなかったため、仕方なくそれに従っていた。
「しかし、このまま拗れて出かけたら余計に収拾がつかぬ気がするがの」
「そうね。一刀、何か良い方法はないかしら?」
祭と蓮華だけではなく、他の全員からも視線を集める一刀も今回ばかりはどうしたらいいものかわからなかった。
「雪蓮と氷蓮に任せるしかないと思う。同じ母親と娘としてね」
父親ではわからないこともある。
それならば同じ立場の者同士が時間をかけて話をすればよいと思っていた。
「あ、あの、お父様」
そこへ志乃が一刀のところへやってきた。
「美麗ちゃんのところに行ってきます」
それだけを言い残して志乃も食堂を出ていった。
「ぐすっ……ぐすっ……」
自室の寝台の上に膝を抱えて泣いている美麗。
そこへ入り口をノックする音が聞こえてきた。
「美麗、入るわよ。いいわね?」
そう言いながら返答を待たず中に入ってきた氷蓮と彩琳は入り口を閉めると、美麗のいる寝台に座り込んだ。
そして泣きじゃくる妹の頭を優しく撫でていく。
「ずっと寂しかったのよね」
普段の明るさなど微塵も感じさせないほど美麗は涙に浸っているだけに、氷蓮や彩琳も同じ娘として気持ちが痛いほど伝わっていた。
「でも美羽様だって美麗のことが嫌いになったわけじゃないのですよ」
「ぐすっ……そんなのわかっておるのじゃ」
自分のことをいつも心配してくれているからこそ蜂蜜水と文を送ってきている美羽を嫌いになるわけがなかった。
だがそれでも母親の温もりを長いこと感じない幼子ほど不安にならないなどありえないことだった。
「確かに美羽様ももう少し美麗のために時間を作ってあげたらいいのにっては私も思うわ」
「母上は妾よりも蜂蜜の方が好きなのじゃ」
「そんなことないわよ。さっきのだってあんたのことが本当に可愛いから我慢できなくてひっぱ叩いただけよ」
「蜂蜜水を台無しにしたから怒ったのじゃ」
美麗は顔を埋めてしまい悲しみにさらに身を委ねていく。
問題が問題なだけに怒ることもできない氷蓮と彩琳はどうしたものかと考える。
部屋中を見回していると机の上に山積みになっている文を見つけた。
「これって確か」
立ち上がり一つの文を開いていく。
そこにはいつも寂しい思いをさせていることに対する謝罪や美麗のことをいつも思っていると書いていた。
その上で上質な蜂蜜ができれば一番に美麗のために送っていると書かれていた。
(美麗のことばかり書いているわね)
昔では想像できないほど美羽は親バカになり、養蜂場も将来産まれてくる美麗に美味しい蜂蜜水を口にさせたいという気持ちがあった。
(確かに数多くの言葉よりも抱きしめてもらう方がいいですから)
氷蓮と彩琳はいつも自分を抱きしめてくれていた雪蓮や冥琳のことを思うと、その部分が不足している美麗に何とかしてあげたいと思った。
問題はどうしたらそれが上手くいくかということだが、有効な手段が今のところ見当たらなかった。
(困ったわね。何かいい方法ないかしら?)
姉として妹の境遇を見過ごすほど薄情ではない氷蓮と彩琳は文を一つ一つ開けては読んでいく。
何か手がかりになるものがあるかもしれないと思ったが、見つけ出すことは出来なかった。
そこへ入り口をノックする音が聞こえてきた。
「氷蓮お姉様、彩琳お姉様、美麗ちゃん」
氷蓮は入り口を開けるとそこに立っていたのは三人を追いかけてきた志乃だった。
「中に入ってよろしいでしょうか?」
「いいわよ。入りなさい」
頭を下げて志乃は中に入り、寝台の上で泣きじゃくる美麗の横に座った。
そして氷蓮と同じく頭を撫でていく。
「美麗ちゃん、そんなに泣かないでください」
「ぐすっ……ぐすっ……」
志乃は氷蓮達の方を見るが、氷蓮と彩琳は顔を横に振るだけで何も言わなかった。
「そんなに泣いてしまうとせっかくの可愛い顔が台無しですよ?」
「そうよ。パパの娘ならいつまでも泣かないの」
氷蓮は志乃の反対側に座り美麗を慰める。
二人の姉に慰められても泣き止むことをしない美麗にどうしたものかと氷蓮と彩琳、それに志乃は思った。
「美麗が泣いていると志乃まで泣いてしまいますよ?」
彩琳は美麗の前に椅子を持ってきて座り、優しく諭していくがそれも効果は無かった。
だからといって親に頼ってよいという問題でもなかった。
自分達のことは自分達で解決しなければいつまでたっても成長しない。
氷蓮と彩琳もう一度文を読んでいく。
「美麗はどうしたいのですか?」
氷蓮達がいかに助言をしたところで美麗本人がどうしたいのかわからなければ手の打ち施しようもなかったため、彩琳は聞いた。
「妾は……ぐすっ……母上といたいのじゃ……」
「美麗ちゃん……」
志乃ももらい泣きしそうなほど悲しそうな表情になっていく。
「母上と一緒に蜂蜜水を口にしたいのじゃ」
ほんの少しでもいい。
そういった時間を美麗は欲しかった。
それさえ叶えられれば、我侭も我慢する。
寂しさも志乃達といれば我慢できる。
「美麗ちゃん」
我慢できなくなった志乃も美麗と共に泣いていく。
「二人ともそんなに泣かないで」
彩琳は二人の妹をそっと抱きしめる。
このままでは彩琳までも泣きたくなったが、ここで自分が泣いてしまえば収拾がつかなくなってしまうと思いぐっと我慢した。
「仕方ないわね」
氷蓮は頭を掻きながら意を決した。
「美羽様のところへ行くわよ」
「「「え?」」」
これにはさすがの三人も驚き、姉の方を見た。
「どうする、美麗?ここで泣いていても何も解決しないわよ?それでもいいの?」
何か行動を起こさなければ解決できないこともある。
氷蓮は自分達で考えてもダメならば本人同士で話し合うのが一番だという考えに達していた。
「あんたが本当に美羽様といたいのならきちんと言いなさい。自分の我侭を思いっきりぶつけなさい」
「ぐすっ……姉上……」
「どうなの?」
「ぐすっ……ぐすっ……いく……」
涙顔でありながら姉の言うとおりにすると美麗は言った。
彩琳も志乃も自分達に良い方法が無い以上、氷蓮の言うことが正しいであろうとお思い、それに従うことにした。
その頃、美羽は庭に出てベンチの上に娘と同じように膝を抱えていた。
そこへゆっくりと何も言わずに雪蓮が隣に座ってきた。
「妾を笑いにきたのか?」
「笑って欲しいの?」
「…………」
美羽は雪蓮のほうを見ることなくただ俯いていた。
「親子喧嘩がみっともないだなんて言わないわよ。私もよく氷蓮とやりあっているから」
「そのわりには仲が良いのじゃな」
「当たり前じゃない。大切な娘よ。喧嘩もするけどそれ以上に仲良しよ」
かつては不本意な主従関係、敵同士、そしていつの間にか同じ平和の世に生きる二人。
親になり同じ年を重ねていく。
いつしか、そこには過去のような関係ではなく、新しい関係が生まれていた。
「ねぇ美羽」
「なんじゃ?」
「本当は美麗と一緒にいたいと思っているのでしょう?」
「どうしてそう思うのじゃ?」
「同じ母親としての勘よ」
いくら蓮華の信頼を得て大好きな蜂蜜を作ることができるようになっても、その心の中には美麗の喜ぶ姿が美羽にはあった。
一緒にいられない時間がある以上、自分の代わりになってくれるものは蜂蜜水しかなかった。
だからこそ、蜂蜜水の入った壺を叩きつけられた時、彼女は初めて人が憎いと思ってしまった。
それも自分の愛娘にである。
「のう雪蓮」
「な~に?」
「妾はどうしたらよいのじゃ?」
人生で初めて体験することに戸惑う美羽からいつもの元気さはどこにもなかった。
「知らないわよ」
それに対して雪蓮はばっさりと切り捨てた。
「な、な、なぜじゃ!」
「あのね、どうしようかなんて思う前にやることがあるわよ」
「何するのじゃ?」
雪蓮の言いたいことがわからない美羽。
「自分で考えなさい。それにここで私が解決策を出しても貴女と美麗の問題なのだから意味が無いのよ」
「お主、昔からぜんぜん変わっておらぬ」
「言っておくけど、昔の恨みなんて今はないわ。ただ、同じ母親として意見を言っているだけよ」
雪蓮としては早く仲直りしてもらわないと他にも影響を与えかねないと懸念していた。
良い意味では純粋無垢、悪い意味では世間知らずの美羽だからこそ、自分で考え自分でどうするかを決めなければならない。
(それが母親なのよ。だから自分で頑張ってみなさい)
ある意味、雪蓮の優しさなのかもしれなかった。
「妾は…………」
答えを導き出せない美羽は俯きどうすればいいのか悩むばかり。
そんな彼女を静かに見守る雪蓮は答えなど簡単すぎるから見えないのだろうと思っていたが、それを言うほど親切心はこの時なかった。
黄昏から夜に変わっていく中で雪蓮はふと後ろを見た。
「美羽、ちょっと席を外すからしばらく考えていなさい」
それだけを言って雪蓮は立ち上がりその場を去っていった。
静けさだけが美羽を包み込んでいく中、ふと横を見るとそこには同じように俯いている美麗が座っていた。
「み、美麗、なぜここにおるのじゃ!?」
周りを見渡すが雪連の姿はどこにもなかった。
美麗は何も言わずにただ俯いているだけだったため、美羽も雪蓮を探すのを諦めて俯いた。
さっきの今だけに二人の間には何とも言えない空気が流れていた。
「あの二人大丈夫なの?」
「さあ、本人達次第ね」
「姉上、これはさすがに可哀想に思えますが」
「美麗ちゃん……」
廊下の影から見守る四人。
どちらが動こうというわけでもなく、ただ同じように俯いているだけの後姿にため息が漏れる。
「ねぇ、ママ」
「な~に?」
「どちらが先に謝るか賭けない?」
「あ、姉上!?」
この状況下で賭け事を持ち出してくる氷蓮の不謹慎さに彩琳は注意をする。
「冗談よ。そんなにムキにならないでよ」
「姉上の冗談はいつも冗談ではすまないのですから」
「あ、あの、お姉様、もう少し声を小さくしないと……」
志乃の一言で氷蓮と彩琳は口を押さえたが、幸いなことに美羽達には気づかれていなかった。
「雪蓮様、美麗ちゃん達、仲直りできるでしょうか?」
「さあ、こればかりは本人達次第ね。私達はただ見守るだけよ」
自分達が原因ならば自分達で解決しなければ本当の意味での解決にはならない。
雪蓮の言葉に志乃も早く二人が仲直りしてくれること祈った。
「そうだ、志乃」
「はい?」
「ちょっと一刀のところに行ってもらえるかしら?」
「お父様のとこへですか?」
不服そうに答える志乃に雪蓮は笑顔で言葉を続けた。
「もしあの二人を仲直りをさせたいのならそのきっかけがあればいいのよ。その為には一刀のところへ行ってある物を貰ってきなさい」
「ある物?」
志乃は何を持ってくるのだろうかと考えていくと、一つだけ思い当たるものを見つけた。
「わかりました。すぐ行ってきます」
志乃は雪蓮の言うきっかけになるものを得るために一刀のいるところへ向かった。
「ママ、何を取りに行かせたの?」
「ある物よ♪」
「ある物…………あ、なるほど」
雪連が何を持ってくるように言ったかを彩琳は理解した。
「何よ、彩琳もわかったの?」
「姉上もわかっておいでのはずです」
「持ってくるっていったら…………アレ?」
「アレです」
氷蓮はなるほどと納得して美羽と美麗の方を見る。
だがそこにはさっきとまったく変化の無い状況が続いているだけだった。
そして今は志乃が戻ってくるの待つしかなかった。
そうしている間でも美羽と美麗は一言も会話が成立していなかった。
お互い胸のうちにある素直な言葉を言えば何も問題なく和解できるのだが、あの袁術とその娘である。
簡単にはいかなかった。
「美麗……」
長い沈黙を破ったのは母親の美羽。
何とかして解決しなければと無意識にそうさせたのか、美羽は美麗を見ないで話していく。
「妾はもう怒っておらぬぞ。だから気にするでない」
「…………」
「じゃがせっかくの蜂蜜水をあのようなことをしてはもったいないのじゃ」
「…………」
「妾がまた新しい蜂蜜水を持ってくるから気にするでない」
「…………」
どんなに話をしていっても美麗は母親の方を見ようとしなかった。
そればかりか今にでも泣きそうな表情になっていた。
「美麗、妾はどうしたらよいのじゃ?」
娘と今まで良好な関係だと思っていただけに美羽はどうしたらいいのかわからなかった。
「妾は美麗の母じゃ」
「…………」
「何も言わぬならもう知らぬ!」
さすがに我慢の限界か、美羽は立ち上がりこの場から去ろうとしたが、美麗はそれに気づくと手を伸ばして美羽の手を掴んだ。
「なんじゃ?」
どこか冷たく答える美羽に美麗は手を掴んだまま俯いてしまった。
握られた手からは震えが伝わってきたが美羽はあえて何も言わずにただ美麗を見ていた。
「母上…………」
言葉が出ない。
それが美麗にとって勇気のいることだったが、喉まで来ている言葉が声にならない。
「妾は忙しいのじゃ。もし何もないなら部屋で休むぞ」
「は、母上!」
今、この手を離せば二度と自分のところへ帰ってきてくれない。
その恐怖が美麗を襲い、耐え切れなくなってとうとう泣き出してしまった。
「な、なぜ泣くのじゃ!?」
このまま振りほどくほど美羽は薄情ではなかったため、泣くじゃくる美麗を抱きしめた。
それでも泣き止まない美麗。
「ど、どうしたのじゃ。あ、妾が何か嫌なことをいったのか?」
「ぐすっ……ぐすっ……ぐすっ……」
しがみついてくる美麗を美羽は慌ててしまい、周りを見て誰かに助けを請おうとしたが雪蓮達は柱の影にかくて見えなかった。
「な、泣くでない。美麗は妾の娘であろう?」
泣き止まない美麗を何とかして落ち着かせようとするがまったく効果が無い。
そればかりか逆に声が大きくなっていくばかりで、このままでは屋敷にいる者達に気づかれてしまう恐れがあった。
「七乃~~~~~、どこじゃ~~~~~!」
こんな時には七乃がいれば何とかなると思ったが、ここには頼りの七乃の姿は無かった。
そして次第に美羽も不安になり涙が零れ落ちそうになる。
「どうしたんだ、美麗?」
そこに現れたのは一刀と灯りを持っている七乃と志乃だった。
「七乃~~~~~!」
「はいはい、お嬢様の七乃ですよ~」
安心したのか美羽は美麗を抱きしめたままその場に座り込んでしまった。
庭を灯りが照らしていく。
「どうしたんだ、美羽、美麗?」
二人の傍によって抱きしめる一刀。
それで我慢の限界を迎えた美羽も娘に負けないほど泣き始めた。
「まったく、いつまでたっても美羽はお子様だな」
「そうですね~。でも、そんなお嬢様を見ると胸の鼓動が早まります」
「七乃さん、それはどうかと思うよ」
今になっても美羽の困っている姿に快感を得ている七乃に一刀はとりあえず注意を一つ入れた。
そうしているうちに雪蓮達もやってきた。
「美羽、美麗、とりあえず座ろうか」
一刀と志乃に支えられながら美羽達はベンチに座った。
ほんの少し落ち着いてきたのか二人は俯いたまま、それでいてお互いの手を握り合っていた。
「話は七乃さんと志乃から聞いた」
二人の前に腰を下ろした一刀は二人がどうしてこうなったかを七乃と志乃から聞いたため、自分が出るべきだと思った。
一刀を前にしても二人は涙が止まらず、黙って一刀の言葉を聞いていた。
「美麗、言いたいことがあるのならきちんと言うんだ。そうしないと通じないこともあるんだぞ」
優しい声に美麗は戸惑いながらも頷き、ゆっくりと顔を上げてく。
「母上」
涙を拭き取ることなく美麗は母親を見る。
そこには寂しさと悲しみによって染められた表情があった。
「妾は……母上と……一緒にいたい……」
溜め込んでいたものをゆっくりと声に出していく美麗。
心のどこかでそれは自分の我侭だとわかっていながらも言わずにはいられなかった。
寂しい気持ちをこれ以上、この幼い娘が背負うことなど不可能だと一刀達は感じ取っていた。
「母上と一緒に蜂蜜水を舐めたい」
どんなに良質でもそこに大好きな母親がいなければ味などなかった。
それでも志乃達を心配させないように明るく振舞っていた。
まるで自分に嘘をつくように。
美麗にとって二言を言うだけでも勇気のいることだった。
「よく言えたね、美麗」
そんな愛娘の頭を優しく撫でる一刀。
「美羽。美麗はずっと我慢していたんだ。いつかは自分と一緒に美羽が作った蜂蜜水を舐められる日をね」
そう言って一刀は七乃にあるものを出すようにと目で合図をした。
頷いた七乃はそっと取り出したのは両手に乗るほどの大きさの壺だった。
「な、七乃、それは……」
「はい♪お嬢様が美麗様のために作られた蜂蜜水ですよ♪」
「それはまだ出来ていないのじゃ!」
「それがですね~残念なことについ先ほど出来上がったのですよね~」
それはそれは残念そうに言う七乃だが顔は笑っていた。
「しかもこの蜂蜜水の名は『麗』でしたよね?」
「七乃~~~~~!」
秘密を暴露されたごとく美羽は七乃に非難の声を上げたが、七乃はまったく意に介していなかった。
「あ、口が滑ってしまいました♪」
まったく罪悪感なく言う七乃に一刀達は苦笑いを浮かべていた。
そして七乃はその壺を持って美羽のところへ行き差し出した。
「お嬢様、そろそろ素直にならないとダメですよ~」
「…………」
「素直になればお休みをあげちゃいますよ?」
お休みという言葉に美羽は素早く反応した。
どうするか散々迷った挙句、差し出された壺を手にしてそれを美麗に差し出した。
「美麗。これは妾が美麗のためだけに作った蜂蜜水じゃ。一緒に舐めてはくれぬか?」
美羽は申し訳なさそうに言いながら美麗からの答えを待った。
誰もが見守る中で美麗は差し出された壺を空いている手の上に乗せると母親の顔を見た。
「母上……」
「ダメかの?」
娘に寂しい思いをさせていたことにようやく気づいた美羽は今更こんなことをしても許されるのだろうかと思った。
「本当?」
「もちろんじゃ」
美羽の偽りの無い言葉にさっきまで寂しさと悲しみに沈んでいた美麗の表情に笑顔が戻っていく。
それを見て一刀達もホッと肩を撫で下ろした。
「妾が作った蜂蜜じゃ。ほっぺが落ちるほど美味じゃぞ」
そう言って一度美麗の手を離して壺を開けて指に蜂蜜水をつけ、それを美麗の口に入れていった。
「どうじゃ?」
娘の為に作った蜂蜜水の味を美麗が喜んでくれるだろうかと不安な気持ちで見守る美羽。
それに対してしっかりと味わった後、美麗は瞼を閉じたまま涙が零れ落ちていく。
「ど、どうしたのじゃ!も、もしかして……」
美味しくなかったのかと思った矢先、美麗はこれまでに見たことのない幸せそうな表情を涙を添えながら見せた。
「とても美味なのじゃ」
これまで与えられた蜂蜜水のどれよりも甘く、そして温かなものを感じた。
美麗が求めていたものがここにあった。
「母上、とても美味なのじゃ」
「当然じゃ。妾が美麗のために作った蜂蜜水じゃぞ」
一刀達はそれだけではないと口にはしなかったが思った。
美麗は美羽と一緒に舐めることのできた蜂蜜水だからこそ美味しく感じたのだと。
今までにないほどの幸せな味。
「よかったですね~お嬢様♪今まで頑張った成果ですよ♪」
七乃も自分のごとく喜び、志乃もようやく美麗に本当の笑顔が戻ったことが嬉しかった。
「まったく、二人とも手間をかけさせてくれたわね」
雪蓮は半分呆れたように言いながらも仲直りができたことが嬉しかった。
それからその場にいた全員で美羽の新作である『麗』と名づけられた蜂蜜水を堪能した。
誰もがその味に満足をし、これならば誰もが喜ぶ絶品になることは間違いないと賞賛の声を送ったが、美羽はこれは商品化にするつもりはないと言った。
「だってこれはお嬢様が美麗様のためだけに作った蜂蜜水ですからね。どうしても欲しいのならそれなりのものを頂きますよ?」
さりげなくえげつないことを言う七乃に頭を抱える志乃。
当然、氷蓮達はもっと欲しいとせがむが、七乃の笑顔の前には通用しなかった。
「だから妾は美麗にだけといったのじゃ」
美羽はこうなることを予測していたらしく、七乃を珍しく恨めしそうに見ていたが七乃はまったく怯むことは無かった。
「だってこれを作るのにどれだけ予算をちょろまかしたかお嬢様もご存知でしょう?」
「「「「ちょろまかした?」」」」
「はい♪これ一つ作るだけでもそれはそれは大金がかかりましてね。さっき美麗様が叩き割った時はもう泣きたくなりましたよ♪」
試作品を台無しにされたと嬉しそうに言う七乃に美羽と美麗以外の全員は唖然とした。
「道理で最近の支出が多いと思ったらそういうことか……」
頭を痛める一刀だが、目の前の美羽と美麗の幸せそうな笑顔を見ると文句も引っ込んだ。
「ちなみにその予算ってどれぐらいなの?」
「たしか……これだけ?」
雪蓮達に指を七本立てると誰もが言葉を失った。
特に彩琳はそんなことが蓮華にばれたらどうなるか想像するだけで身震いを覚えた。
「蓮華にばれたら冗談抜きで「私がばれたらどうしたのです?」……げ!」
思わず声を裏返してしまった雪蓮が振り向くとどこか呆れた表情をしている蓮華と思春が立っていた。
「さ~て、私は部屋でお酒でも呑もうっと♪」
「あ、私も一緒に呑んでもいい?」
「雪蓮様、今宵は私もお邪魔させていただきます」
そう言って雪蓮達は全速力で逃げた。
鮮やか逃亡ぶりに蓮華はため息をつき、残りの者を見ようとしたらそこにいたのは美羽と美麗、七乃と志乃の四人だけで一刀の姿はどこにもなかった。
「蓮華様、一刀ならあそこです」
思春が完全に呆れた声で足音を立てないで逃亡を図っている一刀を指差し、蓮華もまたため息が漏れた。
「一刀、あとできちんと説明をしてもらうわ。幸いなことに今日は私のようだから」
黒い笑みを浮かべる蓮華に一刀は逃亡を諦めて肩を落とした。
そして美羽達のところへ戻り覚悟を決めた。
「それはそうと美羽。貴女に言わなければならない事があるの」
「何をじゃ?」
「三日後の魏、蜀行きなのだが、先方がどうやら都合がつかなく一月ほど延ばして欲しいとのことよ。つまり私が言いたい事はわかるわね?」
蓮華としてはこれまでほとんど休むことのなかった美羽を強制的に休ませる手段をとった。
呉にも利益をもたらしている美羽の功績に報いるために一月の休暇を与えるつもりだった。
「その間、今まで美麗が寂しがったのだからしっかりと母親として一緒にいてあげること。いいわね」
ある意味、主命としてそれだけを言い残して蓮華は思春と共に一刀を無理やり連れて屋敷の中に戻っていった。
「美麗、妾と一月一緒にいてくれるかの?」
今まで満足に一緒にいることすらなかった美羽は美麗にそう言うと、美麗は嬉しそうに頷いた。
「では私と志乃ちゃんもご一緒して四人で遊んじゃいましょう♪」
「賛成です」
七乃と志乃も嬉しそうに言う。
蜂蜜水を舐めていた美麗はそれをやめて美羽の方を見た。
「どうしたのじゃ?」
そこには笑顔で自分を見てくれている大切な母親がいてくれる。
それだけで美麗はこれまで感じていた寂しさがまるで嘘のように消えていった。
「母上、さっきのこと……」
「気にしなくてよいのじゃ。妾はあれぐらいでは怒らぬぞ」
「でもあの時、どう見ても本気でひっぱ叩いたとしか見えませんでしたよ~」
「です」
せっかく仲直りをしているのに七乃と志乃は炊きつけるかのように言うが、その表情は楽しそうだった。
「妾の娘があれぐらいでは落ち込まぬ」
「母上……、あれは少し落ち込みかけたのじゃ」
「な、なに!?」
「ほ~ら、お嬢様らしくないことをするから美麗様も困っていますよ~。お嬢様はあんな暴力など用いずとも立派に人様に迷惑をかけることは天下一品なのですから♪」
「そうじゃろそうじゃろ♪」
いつもの美羽に戻り、七乃としてはこれでもかというほど嬉しそうだった。
「美麗ちゃん、よかったですね」
「うむ♪」
この一月、ずっと一緒にいられる喜びに笑顔が絶えない美麗。
「そうじゃ、美麗。今度は妾達と一緒に魏や蜀にいくかの?」
「あ、それはいい考えですね♪そうすれば美麗様も寂しくないですし」
「うむ。そうなればいつでもこうして二人で蜂蜜水を舐められるぞ」
「ああん、お嬢様。私達にもおすそ分けしてくださいね♪」
完全にいつもの四人に戻ってその後も賑やかに話をしている姿を一刀達は廊下で温かく見守っていた。
「でも美羽が美麗のためだけに作った蜂蜜水だなんて、昔から随分と変わったわね」
「変わったというよりか成長したんだろうな。母親としてね」
「ならば、もう少し母娘の時間を持つべきよ。そうしないと美麗だって我慢できないわ」
雪蓮や蓮華達と同じように一刀もそうあって欲しいと思った。
その意味では一月の休暇は美羽にとっても美麗にとっても有意義な時間になる事間違いなかった。
「きっと想いは同じだと思うよ。蜂蜜水があったから美麗はこれまで我慢できたんだと思う。あれがなければとっくの昔に泣きじゃくっているよ」
「美羽の娘だしね」
「そして仲直りできたのも蜂蜜水のおかげ。あの二人には蜂蜜水はかけがえのないものなんだよ」
仲良く蜂蜜水を舐める姿は微笑ましいものだった。
「ねぇ一刀」
「うん?」
「これが幸せなのよね」
「そうだな。幸せ人それぞれで違った形があるからな。さしずめ、あの二人は蜂蜜水のような幸せだと思うよ」
その甘さによって人に幸せをもたらす。
そう思うと美羽の蜂蜜好きは一刀達にとっても嬉しい事なのかもしれなかった。
「母上、美味なのじゃ♪」
「そうじゃろそうじゃろ♪」
「本当に美味しいですね♪」
「はい♪」
美羽達の幸せは呉の夜をも甘く幸せなものにしていった。
(座談)
水無月:今回は作成期間が短くすみました。
雪蓮 :ここ最近にしては珍しいわね。
水無月:なぜか構想があっという間にできてしまいました。まさに不思議です。
雪蓮 :まぁ更新が早いのはいいことだと思うわ。
水無月:そして実はここで一つ勘違いをしていました。
雪蓮 :勘違い?
水無月:実はこの話を書く前まですっかり美羽と七乃の存在をロストしていました。そして思い出して書いたのはいいのですが、そこで十回予定の娘編が十一回になりました。
冥琳 :つまりいつもどおりのミスなのだな?
水無月:うっかりしていました。というわけで次回の第十回プラスオマケということで一回分増えました。
雪蓮 :ということみたいなので娘編がもう少し続くのでよろしくね♪
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娘編第九弾!
今回はすっかり忘れかけていた美羽と七乃の娘達のお話です。
いよいよ残り二つになりました。
しかし、ここで予想外のことが起こってしまったためにもしかしたらもう一回ほど伸びそうな予感です。
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