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恋姫†無双 真・北郷√13 中編
おまけ
拠点 雛里03亞莎01
鄴城 書庫
『頑張る二人』
/亞莎視点
「私のように未熟な者でも……御遣い様のお役に立てるのでしょうか……」
私は書庫で勉強の為の本を探そうと、この鄴城の書庫に来てみたのですが、
「……凄い。……あ、これはどんなに探しても見つからなかった兵法書っ! ああっ! こっちは昨日出たばかりの最新民政書。わ、わぁ~穏様に見せたら失神しそうですっ」
棚には数え切れないほどの、本。本。本。その棚もずっと奥まで続き、椅子や机も沢山並んでいて、私の他にも大勢の方がお勉強されています。
「その声は亞莎さん? なにか本をお探しですか?」
「ひ、雛里様!」
雛里様が私にお声をかけてくれた! 感激ですっ! 北郷軍で最高の軍略を誇り、冥琳様さえ敵わないと仰っていた……私にとって雲の上に居るような御方です。
「あああああの、もも、申し訳ありませんっ!」
「あわわっ? ど、どうしたんですか?」
私のような者が雛里様と同じ書庫にいるなんて! 申し訳なくて私は両袖で顔を隠します。と、そこに……。
「お! 雛里と亞莎じゃないか。二人とも仲良くなったみたいだなー。俺も一緒に勉強して良い? って、お邪魔かな?」
「ふえっ? 全然ちっとも、そんなことは、ありませんっ!」
「ひぁうっ! だだ、大丈夫ですっ」
突然、雛里様の後ろから現われた?(良く見えません)御遣い様に驚き、私達は大声を上げてしまいました。
御遣い様の笑顔はとても眩しくて、私は目を両袖で覆います。目を開けそっと雛里様を見ると、大きな帽子のつばを下に引っ張って、私のように目を隠されていました。それがなんとなく私と似ていて、嬉しいと感じてしまいます。
それから私と雛里様は軍略書。御遣い様は、『娘の気持ちが分かる父親の本』という題名の本を一生懸命読んでいらっしゃいます。
「雛里様ほどの御方でも、まだお勉強されるのですか?」
「一手、生まれればまた一手……軍略とは絶えず成長を続ける、化け物のようなモノです。軍略書の中には机上の空論でしかないものもあります。が、このようなものの中の何かをきっかけに、閃くものもあります」
雛里様の目が琥珀色の光を帯びていて、先程までとは全然違う真剣なお顔です。
「そうして栄養を与え続けなければ、私の頭の中の化け物は死んでしまうのです」
「私も雛里様のようになれるでしょうか……」
私はもともと無い自信が更に無くなったような気がします。
「なれます! 絶えず成長を続けようと努力する気持ちがあれば! だから一緒に頑張りましょう♪」
「!? はいっ。努力します! なんだか自信が湧いて来ましたっ! 一生懸命頑張りますっ!」
雛里様が先程仰ったお話。それは絶えず努力する事の大切さを私に教えようとしてくれたのかもしれない……。私はやる前から諦めていた……でも気持ちが負けてはいけないんですね! 他の人と比べるのでは無く、昨日の自分に負けない事。それなら出来そうです!
――――。ヒソヒソ
「あわわっ も、申し訳ありません」「はぅっ、すす、すひっすみません」
興奮し過ぎて、また他の方に迷惑をかけてしまいました……恥かしくて私は顔を隠します。
「……本当に二人はそっくりだな。見ていて飽きないよ。くすくす」
雛里様と顔を見合わせると、お互い真っ赤な顔を必死に隠していて、御遣い様の仰る通りそっくりでした。雛里様はにっこり笑うと、
「亞莎ちゃんって呼んで良いかな♪」
「はいっ! 雛里「ちゃんで!」ちゃ、ちゃん」
「うんうん。二人の友情を祝って俺がなにか奢ろう! さー街に行こう」
御遣い様の国、北郷はとても優しい方達ばかりです。私はこれからもずっと頑張り続けたいと思います。
「ご主人様。最近出来たお店のごまだんごが、とってもお美味しいそうですよ。猪々子さんに教えてもらいました」
「猪々子が言うなら間違いないなー。亞莎、ごまだんごは? 甘い物は平気かな」
「あ、はいっ! おふたりにお任せします!」
三人で食べたごまだんごは、ふんわり香ばしく、とても甘くて……、
「美味しいね♪ 亞莎ちゃん」
「はい♪(ぱくっ)」
「(もぐもぐ)……ん~? 少し冷めてるかな」
そして『暖かくて』美味しかったです。
おまけ
拠点 三羽烏03穏01祭01
鄴城の離れ 李典絡繰工房の前
『天つ空』
/語り視点
「ねーねー真桜ちゃん。それなんなのー?」
「飛行機っちゅう空を飛ぶ絡繰や。模型やけど」
「……翼があって、まるで鳥のようだな」
真桜は最近出来たゴムを使い、一刀に教わったゴム動力の飛行機の模型を作っていた。
『空を飛ぶ絡繰』
真桜にとってなによりも魅力的な言葉だ。作業をしながらも目がキラキラと輝いている。
「おっしゃ! 出来たでぇ。このぷろぺらを、こ~ぐりぐりっと回してぇ♪」
「わくわく♪」
「ごくっ。本当に飛ぶのか? 真桜」
飛行機の模型が出来上がり、真桜が子供のような笑顔で飛ばす準備をする。一刀の意匠を聞いてからずっと期待に胸躍らせ作ってきた飛行機の模型。その初飛行がいま実現する。沙和も凪も空を飛ぶという絡繰に期待を込め注目する。
「ていっ!」
ブーン
「おおっ! 飛んだっ! 空に飛んでくっ! やった! やったでー!」
「わわ、ホントに飛んだの! 凄い凄い、やったの!」
「空を飛ぶ、か……気持ち良さそうだな」
空を鳥のように飛んでいく飛行機の模型。それを追いかけながら三人が走っていると、
「ほぉ、なんとも素晴らしい光景じゃ。空を飛ぶ、その瞬間を見る事が出来るとはのぅ」
「本当ですね~この前の気球と言い、出来ない事は無いって思えてきますね~」
その様子を遠くから祭と穏が見守っていた。まだ人が飛んだわけでは無いけれど、近いうちに飛べる気がして来る。頑張れば夢は叶う。と、そんな希望が湧いてくる。
「こんなところで酔うている場合では無いか……。儂は呉が負けた時に宿将としての役目は終わったかと思ったのじゃが、こんなに凄い未来を見せられては……もうじっとしてはおれんの」
「祭さま……ご主人様の事、お認めになるのですね~」
赤壁で負けてから落ち込み気味だった祭が元気になった様子に穏は安心する。そして彼女はこれからも北郷の武将として頑張ると言い放つ。
「うむ、酒に逃げるのはもう止めじゃ。この老骨で見事、空を飛んで見せようぞっ! ……いつの日にかのう。かっかっかっ!」
「祭さま……それは少し~元気になりすぎでは~♪」
元気になりすぎた祭に、呆れながらも笑顔を絶やさない穏。と、そこに、
トスッ
「あっちに落ちたのー♪」
「人がいるぞ」
「祭様と穏ちゃんやな~」
飛行機の模型が落ちる。真桜、凪、沙和が追いかけてきて祭達の元へ集まってくる。
「お主達、良い目をしておるな。主殿は、ほんに良き将に恵まれておるのう」
「それは~ちがうの♪」
「私達が主君に恵まれたのです」
「大将は最高の王やで!」
祭が突然話しかけても三人はきっちりと答える。自分達の胸に刻んだ想いを。
「ふむふむ~こうやって巻いて飛ばすんですね~。えいっ」
ポトッ
「あやや~」
「あっちゃ~穏ちゃん、何しとるん」
「穏ちゃん、巻き方逆だよ~」
「大丈夫、壊れてない」
穏はすでに三人と仲良くなっており、楽しそうに笑い合う。しかし穏はいきなり小声になり真桜に近付くと、
「(真桜ちゃん、穏が頼んでおいたアレ。出来ましたか~?)」
「(『ナかせた女は☆の数!? あんたが大将君一号』やね? ばっちりやで)」
「わぁ♪」
なにかを確認して嬉しそうに歓声を上げる。どうやら裏があるらしい。
「なんじゃ? あんたが大将?」
「なんでもありません!」
「ふむ……穏、お主、隠し事か?」
「いえいえ♪」
穏は悪い癖を抑える為、真桜に相談しているらしい。彼女なりに頑張っているようだ。
「……真桜。あ、アレなのか?」
「大将君一号? あーご主人様の「こらーっ!」凪ちゃん、ごめんなの……」
凪は一度見た事があるため、直接的な表現を伏せて確認しようとするが、沙和が口を滑らせようとした為、その言葉を途中で遮って沙和を睨み付ける。
「まあまあ。ウチも穏ちゃんに色々手伝うてもろてるからなぁ、力になりたいんやわ」
「真桜ちゃんが真面目なの!」
「真桜ちゃん~! ぐす、穏、感激です~」
「……いや、あの」
一見感動的な場面だが、アレがアレだけに……凪はどう突っ込んで良いかわからない。
「若いもんはいいのう……」
「祭ちゃん♪ 沙和が若返らせてあげるの!」
「さ、祭ちゃん!?」
ひとり寂しそうにしていた祭の呟きに沙和が激しく反応する。お洒落魂に火が付いたようだ。
「沙和にお任せなの♪ ささっ、いこー♪」
「う、うむ。可愛く頼むぞ?」
「はいなのっ! ご主人様もイチコロなの!」
沙和に手を引かれ、連れて行かれる祭。とても嬉しそうである。
「うふふ~。これで書庫の本が読み放題です~♪ それでどんな機能が~? わくわく」
「(ここを……こう…やね)」
「ふむふむ(ごくり……私も欲しいな)」
再び、興奮を隠せず頬を紅潮させて真桜に詳細を聞きだす穏と、手持ち無沙汰な為に聞き耳を立てていたら思わず欲しくなってしまった赤い顔の凪。
真桜の仕事は終わらない……そして沙和のおしゃれ魂も止まらない。
凪の探究心も……始まったばかりだ!
おまけ
拠点 天地人03秋蘭02春蘭02美羽01七乃01
鄴城下町 多目的公演舞台 武闘館(室内)
『飛び入り可能(かのう)夏侯姉妹?』
/語り視点
「ねーねー前座の芸人さん。今日、間に合わなくなったみたいだよ~どうしよー」
「凪さん達は休みだし、困ったわね」
「いなくても困らないって。ちぃ達だけで充分♪」
開演前の控え室で、出番を待っていた天地人の三姉妹。最近は彼女達に憧れて芸人を目指す者も増えていたが、交通は馬での旅が主体の為、必ずしも予定通りにはいかない。
「衣装変えの時間と出資してくれているお店の宣伝準備の時間があるじゃない」
「あーそっか! 誰か知り合いでもいれば……」
「わたし、誰かいないか探してくるねー♪」
……
「七乃、お前が作る人形は素晴らしい出来だな。今度、華琳様を作ってくれないか?」
「ふふっ。春蘭さんの等身大人形だって凄い精巧ですよー。私、感動しちゃいました♪ 私も是非、美羽様人形を作って欲しいくらいです♪」
街の中を歩く四人連れ、春蘭、七乃を先頭に少し遅れて、美羽、秋蘭。最近互いの腕を認め、趣味が合う友人として先頭の二人は仲が良くなっていた。
「七乃にも仲の良い友人が出来たようで、妾も安心なのじゃ♪ そろそろ主君離れせねば一人前になれぬしの」
「ふふっ 美羽の言う通りだな。姉者に戦以外で趣味が合う友人ができるとは。私も少し姉者離れをして友を探すとしようか」
最近、民にふれあい、気になった事も勉強して善悪の判断がつくようになった美羽は、七乃が自分に感けてばかりな事を心配していた。そんな美羽を見て、自分も成長しなければならないと秋蘭は感じる。
「美羽様~。美羽様にも何か御作りしましょうか? 秋蘭さんもご希望をどうぞ♪ そんなに時間もかかりませんし、つ・い・で、ですから♪」
「うむ。お兄様を頼むのじゃ!」
「私にも作ってくれるのか……姉者を頼む」
「は~い♪」
春蘭の等身大人形は、七乃の作る物より作成時間も手間もかかる為、七乃は余りそうな時間で美羽と秋蘭の希望も承る。春蘭製美羽様人形に凄まじいまでの期待をしているのが分かる。つまり、もう作る事が確定したという事である。
「秋蘭の分まですまんな。よし! 七乃の為に美羽人形は心を込めて作るとしよう」
「ありがとうございます♪」
そして七乃の作戦通りに春蘭もやる気になる。毒舌は薄れても天然で策士のようだ。
「あー美羽ちゃん達、見ーっけ♪ あのね、手伝って欲しい事があるんだけどー」
そんな和やかな雰囲気の四人を天和が見つける……。
「ふむ、ぜーんーざ。とは何をすれば良いのだ? 秋蘭」
「姉者……今の説明を聞いていなかったのか」
「う……すまん。良く分からなかった」
「私達が準備をしている間、お客さんを飽きさせないように芸をして欲しいんです」
前座とは、本来主役の前に演じたりする事ではあるが、天地人☆姉妹の公演は衣装を頻繁に変えながら公演する為(服のスポンサーの宣伝等)衣装直しの時間や休憩の時間に、仮面雷弾ショー等で、飽きさせない演出をしている。その合間のつなぎ役をまとめて前座と称している。
「うむ、妾に任せるが良いぞ! 民に希望を与えてみせるのじゃ!」
「美羽様っ! 素敵~♪ 最高ー♪」
美羽は歌が上手い為、既に乗り気である。主役を食いかねないほどの実力がある彼女は、可愛い容貌と透き通った歌声で民にも大人気。特に御老人に不動の支持者がいる。
「芸か……私は戦う事以外、何も出来んぞ?」
「姉者、私に任せておけ」
「秋蘭? うむ」
そして開演時間になり、飛び入り芸人はその芸を披露する……。
「妾の歌を聞いて欲しいのじゃ!」
「袁術様ーーっ!」「ほああああああああーーっ!」「袁術ちゃーん!」
……
「皆の笑顔が妾の力なのじゃ。喜んでもらえて良かったのう」
「はい♪ 美羽様」
まず開演は実力のある二人が確り仕事をして盛り上がっている。次は、
「天が呼ぶ♪」
「地が呼ぶ!」
「人が呼ぶ」
「オオォォーーっ!」「待ってました!」「天・地・人! 天・地・人!」
「天の♪」
「歌い手!」
「民へと謳う」
――。
「「「幸せ掴めと轟き叫ぶっ!」」」
「オオオォォーーーーッ!」「オオオォォーーーーッ!」「オオオォォーーーーッ!」
「天・地・人! 天・地・人! 天・地・人! 天・地・人! 天・地・人!」
本命の主役、北郷の広告塔、天地人☆姉妹が大歓声に包まれて舞台に踊り出る。既にお馴染みになった掛け声が武闘館全体を大きく揺るがす。
……
「な、なあ、秋蘭。本当に大丈夫なのか? 余りの迫力に、き、緊張して来たぞ」
「こんな事もあろうかと華琳様に作って頂いた衣装がある。姉者、これを」
「応!」
何故秋蘭がこんな事態を想定できたのかを全く疑問に思わず素直に服を着替える春蘭。胸が大きく開いた黒い服の上に、皮で作られた黒い上着、黒い男物のズボン……。
「どうだ秋蘭?」
「姉者、さんぐらすも掛けてくれ」
「応! こ、これでいいのか?」
「ああ」」
答える秋蘭も上着は無いけれど上下は同じ服。緊張した春蘭とそのまま出番を待つ。
「凄く盛り上がったねー♪」
「美羽も今や主役級よね!」
「私達も負けてられない」
天地人の三人も公演を終え、一旦舞台を降りて着替えに向かう。
「さあ、姉者。戦いの時だ」
「なんだと!? 戦いなら、この私に任せろ!」
緊張していた春蘭は、秋蘭の『戦い』という言葉に反応してスイッチが切り替わる。ところが舞台に上がろうとすると、何故か壁が一枚用意され入り口を塞いでいる。
「姉者。あの壁を壊してくれ」
「ふんっ、こんなもの」
ドガッ
「壁にもならぬわっ!」
ドゴーン ガラガラ
観客席では突然の爆音と共に丈夫な石の壁を突き破って現われた謎の黒尽くめの女性に驚き、一体何が起きたんだ。と、注目が集まる。そして、現われた女性の言知れぬ迫力に息を呑む。
春蘭が舞台を見渡すと、仮面雷弾の敵役の怪人が子供をひとり抱きかかえていた。
全て秋蘭の演出である。
「貴様っ! 罪も無い子供を一体どうするつもりだ!」
「はっはっは。連れて帰り怪人として育てるのだ!」
「そんな事はさせん!」
何も教えてはいないが秋蘭の筋書き通りに話は進む……。
やがて始まる戦闘員と春蘭の大乱闘。太い木の棒で殴りかかる戦闘員の攻撃を春蘭は素手で軽々と受け止め、その棒ごとへし折り相手を舞台の下へ吹き飛ばす。
「いーーっ!」
バシッ
「ふん! それで本気なのか! 出直して来い!」
ドカッ ベキッ
「きーーっ!」
舞台の下には柔らかいマットが敷いてあり、敵役も一流の体裁きで上手く衝撃を殺す。
観客は春蘭の圧倒的な強さに大興奮。手に汗握り戦いの行く末を見守る。
「なかなかやるな! だが……この俺に勝てるかな?」
「なんだとっ!」
春蘭が怪人を凝視する。怪人が指で挑発するように、この俺に。と、自分の胸を差すと、
そこに『我が名は、ぼけなす』とくっきり書いてあった。
「ぶっ飛ばすぞ、ぼけなす!」
相手の名前が判ったことで、さあ、ぶっ飛ばそうと思った春蘭だったが、
「うえーん、こわいよー」
「さあ、どうする? はーっはっはっは!」
「くっ、人質をとるとは……」
小さな子供を盾に取り怪人が勝ち誇るように笑う。たーみ姉ちゃんのピンチだ! その時……。
ビュッドス
「ぐぁッ」「あぅ~」
「いまだっ! もう安心だぞ!」
「うんっ!」
怪人が怯んだ一瞬の隙をつき、その腕から子供を救い出す春蘭。子供も笑顔だ。
「こんな矢で、俺が倒せるものか!」
「おかーさん、こわいよー」
「なんて奴だっ!」
飛んできた矢は怪人の背中に当たったものの刺さらず下に落ちていた。勿論、鏃を潰してあるからだが、子供は矢が効かないと思い怪人の強さを恐れたようだ。もちろん春蘭も……。
「姉者! 大丈夫か」
「おお! 秋蘭だったのか。助かったぞ!」
餓狼爪を片手に駆け寄る妹を見て、春蘭は嬉しそうに笑う。サングラスの為に口の端が釣り上がっているだけにしか見えないが。秋蘭は怪人を睨むと声を張り上げる。
「我等、夏侯姉妹! 貴様のような悪党は絶対に許さん!」
「許さんぞ!」
「今日はこの辺りで勘弁してやろう。さらばだ! はーっはっはっは!」
悪党らしい決め台詞を残し、新しく開発されたピアノ線で天井に釣られた怪人が、その翼を広げるようにして空へ逃げていく……。
秋蘭が用意した筋書きはここまでであったが、怪人がピアノ線を体に付けた金具に掛けている瞬間(怪人の目は金具に向いている)それを隙と見た春蘭は、
「逃がさんっ! 隙ありぃぃーーーーっ!」
ドカッ
「ぐはっ」
ガラガラドシャーン
恐ろしいまでの反射神経で怪人に渾身の跳び蹴りを入れる。怪人はそのまま舞台の奥に吹き跳び転がり落ちていく。怪人の中身は秋蘭の副官で、屈強ではあるが大丈夫だろうか……。
「オオオオォォーーーーッ!」
「おかーさん!」
「おかえりなさい♪」
鮮やかな幕切れに観客は大盛り上がり。子供も母親の腕の中に……めでたしめでたし。
こうして夏侯姉妹は華々しくデビューした……。
……
その後、有名になった二人は数々の催しに呼ばれるようになったのだが、通常の春蘭は馬鹿……ではなく、純粋? いや、無邪気な為、勇ましさとのギャップで仕事で疲れきった商売人の心を癒し人気を集めるようになる。秋蘭も姉の可愛さを世に理解してもらって満足している様子。天然な姉とクールな妹は、癒し系芸人夏侯姉妹として、大陸にその名を残したとか?
おまけ
拠点 雪蓮01冥琳01二喬01
鄴城 雪蓮自室
『呉「ピーーッ」!?』
/語り視点
雪蓮と冥琳は激しい戦いの末、強敵が多い事からひとまず休戦し、互いの利益の為にも協力し合う事を決めた。作戦担当、冥琳。実行部隊、雪蓮、大喬、小喬である。
「そう言えばハニーに言われた通り、お医者さんには診てもらったんでしょ?」
「ああ、華佗という五斗米道の医者に診てもらった。ハニーの言う通り無理をし過ぎていたらしい。もう少し遅かったら取り返しがつかないところだったと言われた」
喧嘩の原因ではあったが、冥琳の体が気になる雪蓮は一応確認する。
「だった。と、言う事は?」
「間に合った。と、言う事だ。何度か通って休養をしっかり取れば、もう安心らしい」
「そう……良かった。もう! 心配したんだからね」
「むぅ、それはお互い様だろう」
冥琳の体はもう安心。と、心配事が無くなった雪蓮はいつも通りの調子で文句を言うが、心配させられたのはこっちだと冥琳が反撃する。
「あはは……ごめん。でも、ハニーなら何とかしてくれるって思ったんだもの」
「ああ、私も周りが見えていなかった。雪蓮がいなくなったのも私のせいだったな」
だが、今度はお互いに反省して謝り合う。
「冥琳……でもこれで安心ね。四人でずっと一緒に暮らせるわ。あ! 子供も入れるともっと増えて楽しくなりそう♪」
「子供か……色々と本を買って見たが、とてもやりがいがありそうだ。愛する男の子供を育てる……早く味わってみたいものだな」
二人の話は、次第に未来に向かって進む。明るい未来? へと。
「あははっ、冥琳ったら。子供を育てる前に、ヤルことがあるでしょ?」
「そうだったな。雪蓮、すぐに準備をしてくれ。行動を開始するぞ。既にハニーの予定は把握し、作戦は順調に進んでいる。あの二人のおかげでな」
この場にいない大喬と小喬は北郷一刀を他の者から引き離し、冥琳の部屋へ誘い込む為に頑張っていた。勿論二人とも乗り気である。今頃……。
「冥琳。頼りにしてるわよ♪」
「ふふっ。謀略ならば桂花や稟にも負けぬ自信がある」
冥琳 私室
「大喬ちゃん、小喬ちゃん。首尾はどう♪」
「ふむ。どうやら巧くいったようだな」
大喬と小喬が一刀を簀巻きにして、寝台(冥琳が用意した特大の物)に転がしている。
「雪蓮、冥琳……これは一体? 説明してくれ。冗談だよな?」
「お待たせー! もう分かってるくせに♪ 希望を作りましょ♪」
「ハニー、私も我慢の限界だ……許してくれ。とりあえず三人は欲しいな」
「私は、雪蓮様と冥琳様が満足されてからで良いです」
「私もお姉ちゃんと一緒で♪」
美女四人に取り囲まれた一刀は分かってはいても一応確認する。本当にいいのか? と、
「じゃあ、三回ずつかしら?」
「異存は無い」
「ごめんなさいっ」
「この幸せもの~♪」
「え、いやいや、一度に三回しても子供三人できないから……それはおかしいって」
ずいずい迫る四人に、退路が無い一刀は汗を一筋かきながら尤もな反論をするが……。
「問答無用♪」
「今回は私の勝ちだな♪」
「御遣い様~♪」
「お姉ちゃんが一番なの!?」
飛びかかった四人はまだ知らない。追い詰められた彼が夜の英雄だと言う事を……。
その数刻後の深夜、冥琳の部屋に許しを請う嬌声が響き渡る……その全ては女性……なぜか五人分。
……
ちりん。
翌日、四人が目覚めた時には北郷一刀の姿は既に無く、何事も無かったように綺麗な服を着て整えられた寝台に寝かせられていた。
「これは……?(凄かった……もうハニー無しじゃ生きられないかも♪)」
「うぅ……腰に力が入らん(勝ったつもりが完敗だった。だが癖になりそうだ)」
「……御遣い様ぁ♪(素晴らしい夜でした)」
「痛た……って夢じゃない!(壊されるかと思った……でも良い♪」
それぞれが昨夜を思い出し実感する。天の御遣いを追い詰めてはいけないと。
「それにしても途中からもうひとり……誰かがいたような?」
「私も、っく。途中から意識が朦朧としていたが、誰かいた気がするな」
「私は気付きませんでしたよ?」
「お姉ちゃんは最初に気を失ったからね!」
謎は続く……?
おまけ
拠点 蓮華01思春01
鄴城 蓮華 私室
『ニャン寧!?』
/蓮華視点
思春のハニーに対する態度がおかしい……一度聞いてみないと。そう決意して私は親友を呼ぶ。
「思春」
ちりん。「っは! 蓮華様、なにか御用ですか?」
短く呼ぶだけで現われる思春。でも首と頭……首輪に鈴を付け、頭にねこのみみ? いつも聞こうとすると逃げてしまうから、先に……。
「思春、逃げないで答えて頂戴。その格好は一体?」
「蓮華様。それを聞いてはなりません。世界の理(ことわり)に触れます」
!? 一体何が……毅然と言い放つ思春にその言葉の重みを知る。
「でも私はあなたの主よ。聞く権利くらいはあるでしょう?」
「……蓮華様も私の様になるかも知れませんが、それでも聞きたいと仰られるのですか?」
ごく……私は開けてはならない扉を開けようとしているのかしら……。
「どうしても、と……?」
「ハニーと関係があるのかしら?」
「はっ! 私は取り返しの付かない過ちを犯しました」
もう聞くしかないわ!
「話しなさい」
「御意。あれは赤壁の時です……」
……
そして私は後悔する事になる。白い悪夢が……迫る。
気が付くと私はねこみみを付け、華琳のような侍女の服に身を包んでいた……。
「これは一体? この格好は……」
ねこみみを取ろうとすると、何かが近付いてくる気配がする。地の底から響くような連続する音の連なり。真っ白な世界で、白い悪魔が……私をどこまでも追いかけて……来る。
「きゃぁぁーーーーっ!」ガバッ
……ここは寝台の上? ……来ている服はいつもの私の服。
「……夢? だったのかしら」
ちりん。「蓮華様、どうされました? 今、悲鳴が聞こえましたが」
ねこみみと鈴の付いた首輪を着けた思春が現われる。……聞いてみようかしら。
「思しゅ」
「蓮華様、二度目はありません」
!? 体が震えてくる……聞いてはいけない! 絶対に。
……
/語り視点
そう誓う蓮華の私室の外、扉の前で白き冥土が静かに微笑んでいた。
後編へ続く
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恋姫†無双は、BaseSonの作品です。
自己解釈、崩壊作品です。
2009・11・10修正。