第68話 譲れないもの
平穏に春を迎え、時は移ろい、晩夏。ついに孫家との第一回合同軍事演習が開催されることになった。今回は俺たちの領土で開催されることになり、孫堅、孫策、周瑜、黄蓋の4将がこちらに来ることになっていた。ひとまずこちらからの初回参加者は、桃香、俺、愛紗、鈴々、星、悠煌、霧雨と朱里、藍里、福莱、水晶が参加、と決めている。そして今日は彼女たちを迎える日だ。
「劉備殿に一刀君たち! 久しぶりだな! 元気そうで何よりだ。ひとまず自己紹介といこうか。」
「炎蓮! 炎蓮たちも元気そうで何よりだよ! そうだね。まずはそこからだ。」
という流れでこちらの自己紹介をしてから、炎蓮たちの自己紹介を待つことに。
「孫策、字は伯符よ。本当に強そうな将が揃っているのねえ……。一騎打ちもしてみたいわね!!」
「はあ……。周瑜。字は公謹。以後よろしく。」
「黄蓋、字は公覆じゃ。音に聞こえる劉備軍の武勇、どれほどのものか拝ませてもらいますぞ。」
炎蓮はともかく、孫策さんはわりかしフレンドリーだけど、周瑜さんと黄蓋さんはそこまで友好的というわけでもなさそうだ。やはりあの盟約の意味がわかっているのはここにいる中ではこの2人だけ、ということなのかもしれない。
「すまない、演習に入る前に厠を案内してほしいのと、水をもらえないだろうか? 遠出で少し疲れてしまったようだ。」
「む……? この間も頭痛がするとか言っておったが、冥稟、おぬし本当に大丈夫か?」
「冥稟だらしないぞー。」
周瑜さんがそう頼むと、黄蓋さんと孫策さんがそんな声をかけてきた。
怖いっちゃ怖いけど、あの周瑜とちょっと話ができたらおもしろいかも、そう思ったので俺が案内に行くことにした。
「俺と甄が案内するよ。こちらです。」
「すまない、ありがとう。」
そうして厠へ向かう途中、俺はいるはずのない人物を見つけてしまった。天和たち3人だ。
「天和! 軍事演習には関わらないで城下の民衆を診るって約束したろ?」
「彼女らは……?」
「あはは……。ごめんなさい。他国の人がこれだけ来るなんて初めてだから気になっちゃって……。って、あなた!?」
何かの間違いがあってからでは遅い、ということで天和たちは軍事演習に関わらないようにと決めていたのだった。気になるのはわかるけど……。ところが、周瑜さんを見ると血相を変えた。
「すみません、最近、頭のこのあたりが痛みませんか……?」
「なぜそれを……? 北郷殿、彼女はいったい……?」
「彼女は少納言。お抱えの医者だよ。」
そう言いつつ、頭の中では様々な考えが思い浮かぶのを止められなかった。史実でも演義でも郭嘉や周瑜は早死にする。郭嘉のほうは何とか方法を考えてみたけど、周瑜は。
殺して恨みをかうのならともかく、勝手に死ぬのならその方が明らかに俺たちには利が大きい。放っておいたら死ぬところに生かすチャンスを与えてはさすがにヤバイ人物としか言いようがない。
「とりあえず用を済ませて戻ろうか。天和たちもおいで。」
結局6人に増えて戻ることになった。いやホントどうしたらいいんだこれ? 天和に言えば治さないことを考えてくれるんだろうか。普通に考えて無理だよなあ……。天和の性格はもう嫌と言うほど知っている。病人がいるのに治すなと言ったところで聞く耳を持つはずがない。
「む……? 彼女らは?」
「少納言、たちで、医者だそうです。どうも私には悪いところがあるようで。」
炎蓮の問いにそう答えた周瑜は何かを悟っているような笑顔を見せた。
「ここで、言ってよいのですか?」
「構いません。」
「このままなら……。5年はもたない。でも私なら半年もらえれば普通の人と同じ寿命まで治してみせることはできる。」
「なんですって!!!! あなた、もう一回言ってみなさい!! よくもそんなでたらめを!!」
「やめなさい雪蓮。自分の命数は自分が一番良くわかっているよ。」
「え…………。」
天和の言葉にかみついた孫策さんだったけど、止めたのは他ならぬ周瑜さんだった。マジか。確かに、周瑜さんも天文を見ることができたりするのなら自分の寿命もわかるのかもしれない。
「天和! いくら同盟相手といえども将来、敵になるやもしれぬ人物を治療するなどと……。医術を使う相手は選ばねば……。」
と、霧雨が至極ごもっともなことを言った。でも言うこと聞かないんだろうなあ……。天和だしなあ……。
「私は医者です! 私は医こそ仁術だと思っています! 命に軽重はなく、そこに敵も味方も関係ありません!! あるのは患者かそうでないか、それだけです!」
愛紗たちは苦笑いしていた。
「天和ですからね……。本人たちが良いのならば、こちらに滞在して治療するのは良いのではないでしょうか。」
周瑜を俺らの領土というか本拠地に半年滞在って……。普通にあり得ないというか機密抜かれたら目もあてられないよな……。どうしたらいいんだ。
「今、冥稟を半年失うのは……。ようやく揚州が落ち着いてきたところじゃというのに……。」
「そこは大丈夫です。蓮華様たちがなんとかしてくれます。」
黄蓋さんが困ったような口調でそう言ったけど、周瑜さんはそれを一蹴した。うーんこっちに滞在させて治す方向にいってしまう……。
「おい。なんで俺じゃねえんだ。」
「反乱の鎮圧は炎蓮様や雪蓮を頼りにしておりますよ。しかし、本当に良いのですか? 劉備殿?」
「同盟相手の将を治すことに、何か問題はあるの? 天和ちゃんの技術は本物だから、周瑜さんも大丈夫だと思います。でも……。多少の行動制限や監視はつけざるを得ません。そこは許してください。」
「もちろん、機密もあるでしょうしそんなことは大丈夫です。」
結局、桃香がそう言ったことですべて決まった。最低限はねじこんでくれたからなんとかなるかなあ……。もうこうなったら腹くくるしかないか。
「冥稟が治るまでの間、月に一度は私が様子を見に来るから!! 今日は治療の様子も見せなさい!!」
「それは周瑜さんさえよければ構いません。」
「もちろん構わない。ところでもう一つ。私の真名は冥稟だ。どうか預かってほしい。それと、治療費はいかがいたそうか?」
「今さらお金もらうのもどうかと思うし、私決めちゃっていい? あと、私の真名は桃香です。改めてよろしくおねがいね。」
若干涙目の孫策さんだった。内部では色々あるみたいだけど、やっぱり心配は心配なんだなあ……。そして周瑜さんの真名をもらうことができた。それだけ信頼してくれるということか。
さて桃香は治療の対価に何を要求するつもりなんだろうか。
「構わねえぜ。ただ、現実的なもので頼む。」
「交易、しませんか?」
ここでそれを言うか。桃香、切れ者になったなあ……。こっちからは食料とか布製品やら出せるだろうか。揚州の特産品というか、あるものっていうとやはり海産物なのだろうか。行ったことがない土地だしあまり詳しくないけど、南の特産物なら取れるものは違ってくるはずだ。
「炎蓮様、願ってもないことかと。」
「そうだな。それでいいならありがたい。細部の詰めは冥稟、任せていいか?」
「かしこまりました。」
あっさりと了承してくれた炎蓮たちだった。詰めは朱里あたりに任せるとしようかな。さて、本題の軍事演習をそろそろ始めなくてはいけない。
後書き
なろう板との共存とかそのへんの色々はクリエイタープロフィールのところから見られる更新情報に追々書いていこうと思います。
なかなか構想を練る時間と書く時間が取れませんが、なんとかがんばっていきたいと思っております。
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第5章 “貞観の治
周瑜の真名は原作とは変えています。正直自分でも違和感あるのですがやむなしです。