「お久し振りです、趙累殿」
「お久し振りです、呂蒙殿」
お互い礼をし、フッと微笑む
樊城の城門
其処には、二人の男女が立っていた
一人は、呉の代表である呂蒙
もう一人は、蜀の荊州代表である趙累であった
「まさか私よりもお早いとは・・・これは、呂蒙殿も眠れぬ夜を過ごしたと見える」
「あはは・・・わかりますか?」
「なになに、私もですからな」
言って、趙累はぴしゃりと自身の頭を叩いた
彼は、齢50をこす老齢の文人である
また武にもある程度精通しており、有事の際は最前線で軍を指揮できるほどには軍略にも通じていた
そんな彼の人当たりの良い笑みにつられ、呂蒙も笑みを浮かべる
「毎年のこととはいえ、いまだ慣れることはありません」
呂蒙の言葉
趙累は、“然り”と頷いた
「しかし、誰かがやらねばならんのですよ
とはいえ、この老兵には荷が重い」
そう言って、趙累はまた笑った
「そういえば、馬良殿は今回は来ないのですか?」
ふと、呂蒙が言った言葉
それに対し、はじめて趙累の顔が曇った
「彼女は、辞めました
なに、どうやら・・・嫌になってしまったようですな」
この一言
“そうですか”と、呂蒙は声をおとす
気持ちはわかった
痛いほどにわかった
故に、彼女は改めて思う
この問題を、一刻も早く解決しなければならないと・・・
≪真・恋姫†無双-白き旅人-≫
第二十五章 樊城にて、君を待つ
ーーー†ーーー
晴天の空の下
流れゆく、美しい景色
耳を澄ませば、まるで風が唄っているようだ
「良い天気、だな」
そう言って、彼は笑う
彼の名は北郷一刀・・・天の御遣いと呼ばれ、そしてこの大陸に安寧をもたらした男だ
今は司馬懿仲達を名乗り、こうして天下を旅している
しがない・・・“白き旅人”だ
「さて、次は・・・何処に行こうか?」
『ぶるあああぁぁぁぁあああああんんん、まだまだイクゾおらあああああああああ!!!!!』
おらああああああぁぁ・・・
ぉらぁぁぁあああ・・・
ああああ・・・
ぁぁ・・・
「一刀っ!
しっかりせぇ、一刀!」
「はっ・・・!?
なんだ今、おれもしかして気絶してた!?」
バッと、体を起こし彼は頭を抱える
そんな彼の姿に、彼を起こした霞は“そうや”と苦し気な表情を浮かべる
「一刀がウチらのために、樊城に急いでくれるって・・・無理したんや」
「あぁ、そうだ・・・思い出したよ」
言って、周りを見渡してみる
比較的大きめな馬車の中・・・霞、雪蓮、華雄、雛里のいつものメンバー
それに加え、荊州で出会った馬良、馬謖、袁術、張勲の姿があった
「そっか、俺・・・樊城に向かってたんだった」
彼は思い出す
自分たちは今、樊城に向かっていたのだ
自身が用意した、馬車に颯爽と乗り込み
目指す場所へ向け、全速で駆け抜けていたのだ
「アカン、一刀・・・馬車の速度がまた、おちてきとるっ!」
「っ!」
彼は思い出す
霞が今言った言葉を
これが、“自分の仕事”だと
「一刀っ、これを!」
叫び、雪蓮が投げてきたものを受け取る
それは、一本の鞭だった
彼はそれを握りしめ、馬車の先頭へと向かった
そして彼は、その鞭を・・・
「おらぁ、おせぇぞこの駄馬がぁぁぁああああああ!!!!」
「あっふううぅぅぅぅぅううううん、滾る!!!!滾るわああぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
泣きながら、全力で振るうのだった・・・
ーーー†ーーー
「うぅ・・・俺っ、俺もう嫌だよこんな仕事!」
泣きながら、馬車の隅っこに座り込む一刀
そんな彼の肩を苦笑しながら叩くのは馬良だ
「そ、そんなこと言ったってしょうがないだろ
私たちが叩いたって、効果がないんだから・・・それに、気持ち悪いから正直無理だし」
「うぅ・・・本音隠す気ゼロなのが、いっそ清々しい」
「あのぅ、司馬懿さん
大変申し上げにくいのですが~、また馬車の速度が~・・・」
「くそがぁ、燃費悪すぎんだろおおおぉぉぉおおお!!!!!」
「あふうううううううん!!
愛が、愛が溢れるのおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
張勲の言葉
“バッシィ!”と音をたて、振るわれる鞭
瞬間、馬車・・・貂蝉は再び速度を上げていく
「くそ・・・だから、だからこれだけは使いたくなかったんだよ!!」
“ダンっ”と鞭を叩きつけ、一刀は泣いた
それはもう、泣いた
「ま、まぁおかげで予想よりもだいぶ早く樊城に着けそうですし」
雛里の言葉
一同は苦笑いと共に、大きく頷いていた
馬謖の家から、樊城までの道のりはまともにいけば通常ならば半月はかかる
しかし、この馬車・・・もとい貂蝉は、このままでいけばその行程を半分以上も縮める勢いで駆けていた
否、駆け抜けていた
しかも、その速さに対して馬車の揺れは全く無い
貂蝉曰く、並々と水がそそがれたコップを溢さなくなるまで峠を走りこんだらしい
まぁ、意外と快適だということだ
袁術と馬謖に至っては、“馬車を見た瞬間に眠りについたほど”だ
「こんなの、もう一頭持ってるなんて・・・流石は、魏の種馬だな」
「華雄さん、それほんとこのタイミングで言うの止めて
まじで、天に帰りたくなるから」
ともあれ、旅路は順調
一行はこの高速馬車に乗り、まっすぐと駆け抜けていく
渦中の場所、樊城へと
ーーー†ーーー
「満寵様、失礼します」
樊城にある、執務室
その一室に兵士の声が響く
それに対し、満寵は“どうした?”と筆を止めた
「“例のモノ”が、完成したと報告が入ってまいりました」
「ほう、何とか間に合ったか」
言って、満寵は笑みを浮かべた
「相当、急がせてしまったからな
無理を言ってすまなかったと、現場の皆に伝えてくれるか」
「御意」
礼をし、兵士は駆けて行く
その姿を見送り、彼は“ふぅ”と息をついた
「“舞台”は出来上がりました
あとは、貴方が・・・“風が吹くだけですぞ”」
そう言って、窓から見つめる空
どこまでも広がる快晴に、彼は思いを馳せるのだった
ーーー†ーーー
「あれ、何かな?」
樊城に向かう途上
桃香は、ふとそんな声をあげた
それに対し、朱里は首をかしげてしまう
「お城、のようですが
おかしいですね、こんなところにお城なんてなかったはずですが」
言って、見つめる先
その城壁の上・・・旗がはためいていた
それをじっと見つめ、朱里はさらに首をかしげる
「あの旗も、見たことがありません
城門は開けっ放しだし、人の気配もない・・・本当に、何なのでしょう」
「一応、樊城についたら満寵さんに教えてあげたほうがいいよね」
「そうですね
今は場所を覚えておいて、念のために警戒しながら通り過ぎましょう」
朱里はそう言って、兵に指示を出す
そして、再び見つめるのは旗だ
「いったい、何なんだろう・・・」
呟き、彼女は仕事に戻る
その、つぶやきの先
彼女たちが通り過ぎた城の上
そこには・・・“晋”と書かれた旗が、風に揺れはためいていた
あとがき
今回は、かなり短かったです
まだ繋ぎのようなお話です
次回から、本格的にお話が進んでいきます
では、またお会いしましょう
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二十五章です
今回は、話の都合上かなり短いしまじめです
次回から、本格的に進んでいく予定となります
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