No.1000166

英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

soranoさん

第29話

2019-07-26 23:59:42 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2031   閲覧ユーザー数:1740

 

 

 

同日、PM4:30――――――

 

 

~アルスター~

 

「そ、そんな…………”アルスター”が…………」

「ケルディックすらも比較にならない程の悲惨な状況だな…………」

「ああ…………この様子では生存者は絶望的かもしれん…………」

「…………そしてこの状況を作り出したのも”ハーメル”の時のようにエレボニア帝国政府の関係者と繋がりがある人物によって雇われた”猟兵”によるものなんだろうね。」

「そうね…………ひょっとしたら、”アルスター”を襲撃した超本人である猟兵達はあたしの古巣の可能性も考えられるわね…………」

襲撃の爪痕を残しているアルスターの状況を見たエリオットは悲痛そうな表情を浮かべ、ラウラとユーシスは重々しい様子を纏って呟き、フィーとサラは複雑そうな表情を浮かべた。

 

「……………………」

一方オリヴァルト皇子は幼少の頃にアルスターで暮らしていた当時の自分を思い返し

「ハハ…………今なら当時のレーヴェ君やヨシュア君の気持ちもよくわかるよ…………故郷が祖国によってこんな状況に陥らせられたら、誰だって心を壊すか、祖国――――――いや、世界を憎んでもおかしくないね…………」

「オリビエ…………」

やがて疲れた表情で肩を落とし、その様子をミュラーは辛そうな表情で見つめていた。

「…………とにかく、手分けして町の状況を調べつつ、生存者の有無も確認しましょう。襲撃からまだ1日も経っていないのですから、生存者がいる可能性は十分に考えられます。」

「はい…………っ!」

アルゼイド子爵の提案にトワがその場にいる全員を代表して頷いた。

 

その後アルスターを手分けして調べたアリサ達だったが、生存者は一人も見つからず、一端七耀教会の聖堂に集まった。

 

 

 

同日、PM7:30――――――

 

~七耀教会・アルスター聖堂~

 

「…………だめね、生存者は一人も見つからないわ…………」

「崩壊した建物も隈なく調べたけど、遺体すらも見つからない事を考えると、まさか正規軍が”証拠”を隠滅する為にも早期に処理したのか…………?」

アリサとマキアスはそれぞれ不安そうな表情を浮かべた。

「確かに襲撃があった翌日に襲撃の事実が発表された事も考えるとその可能性は十分に考えられるけど、いくつか気になる事があるのよね…………」

「ん。町のあちこちに戦闘が起こった跡が残っていた。それを考えると襲撃時、誰かが襲撃犯と戦っていた可能性は高い。」

「襲撃犯――――――恐らく猟兵とは思うが、猟兵と戦えるとなると相応の実力がある事が考えられるが幾ら何でもアルスターの民達が猟兵と戦闘をしたとは考え難いな。」

「そうですね…………可能性として考えられるとすれば、偶然アルスターに立ち寄った遊撃士やある程度戦闘能力がある旅人が義憤に駆られるか、自分の身を護る為にも襲撃犯と戦闘をしたというならば、一応納得はできますね。」

一方気になる事があるサラとフィー、ミュラーとアンゼリカはそれぞれ考え込んだ。

 

「気になると言えば…………他の建物は崩壊しているか、焼けていたのに何故この聖堂だけ無事だったのだ?」

「私もそれが気になっていたんです。何故七耀教会の聖堂だけが無事な状態に…………」

ガイウスの疑問に同意したエマは考え込み

「まさかとは思うけど、メンフィル・クロスベル連合とリベールと戦争している状態だとさすがに七耀教会――――――アルテリアまで敵に回す事は不味いと判断して、七耀教会の聖堂だけは避けるように指示されていたのかしら?」

「いや…………――――――”ハーメル”にも小さいながらも聖堂はあったけど、当然他の建物同様襲撃によって破壊された上、聖堂に勤めていた聖職者達も猟兵達に虐殺されたとの事だから、その推測は恐らく違うとは思うのだが…………」

セリーヌの推測を聞いたオリヴァルト皇子は静かな表情で否定した。

 

 

フフ…………変則的ではあるがそろそろ恒例の我が”挑戦”を受けてもらおうか、我が永遠の好敵手と”Ⅶ組”よ。

 

 

「ふえ…………っ!?な、何なの、今の声は…………!?」

するとその時突然の男性の声が辺りに響き渡り、声を聞いて驚いたトワは周囲を見回し

「この声は確か…………」

「ハハ…………まさか”煌魔城”の件が終わってからこんなにも早く再会する事になるとはね。――――――出てきたらどうだい、美を巡る我が最大の好敵手の一人にして怪盗Bとしてもエレボニアを含めた世を騒がせる結社の執行者No.Ⅹ――――――”怪盗紳士”ブルブラン!」

一方声に聞き覚えがあるラウラは表情を引き締め、苦笑したオリヴァルト皇子は真剣な表情で声の持ち主の名前を告げた。すると祭壇の上にブルブランが現れた!

 

「か、”怪盗B”…………!」

「ほう?彼が例の…………」

「あんたがここに現れたって事は”アルスター”の件も”ハーメル”のように結社も関わっていたって事なのかしら!?」

ブルブランの登場に驚きの声を上げたエリオットの言葉を聞いたアンゼリカは目を丸くして興味ありげな表情でブルブランを見つめ、サラは厳しい表情で問いかけた。

「フム、”教授”の件を考えるとそんな風に思われるのも自然な流れではあるが、話をする前に一つ結社の状況を説明しておこう。――――――君達も知っての通り、”盟主”や多くの”蛇の使徒”達がメンフィル・クロスベル連合によって討たれた事で今の結社はもはや”残党”と言っても過言ではない状況だ。そして私や”深淵”殿もそんな残党の一人ではあるが、残党となった他の結社のメンバーの方針とは合わなくてね。私と”深淵”殿は幾ら”盟主”達を失ったとはいえ、美しくもない方針を取る結社とは袂を分けたのだよ。」

「ハアッ!?って事はアンタやヴィータは結社から抜けたっていうの!?」

「それに姉さんは生きていたんですね…………!よかった…………!ヴィータ姉さんは今、どこで、何をしているんですか!?」

ブルブランが口にした驚愕の事実にその場にいる全員が驚いている中セリーヌは信じられない表情で声を上げ、安堵の表情を浮かべたエマは真剣な表情でブルブランに訊ねた。

 

「さて、”深淵”殿にも何やら考えがあるようで、彼女は彼女で独自に動いているようで、私もそれ程把握はしていない。」

「…………それでこのタイミングで何故私達の前に現れたのかな?先程恒例の”挑戦”と言っていたが、まさかその”挑戦”は”アルスター襲撃”と何か関係があるのかな?」

エマの問いかけにブルブランが答えるとオリヴァルト皇子は静かな表情でブルブランに問いかけた。

「フフ、その通り。――――――実は結社と関りがあった”とある組織”が猟兵達を雇って我が好敵手の故郷であるこのアルスターを”第二のハーメル”にするという話を小耳に挟んでね。リベールにて我が挑戦に何度も応えた”剣聖”の娘であるブレイサーロード――――――いや、”ブレイサーオブブレイサー”の”SS級”という”S級”を超える遊撃士協会史上初のランクの昇格祝い代わりにその話をしてあげたのだよ。」

「何…………っ!?」

「エステル達に!?という事はまさか町の至る所に残されていた戦闘の跡は襲撃を受けたアルスターの民達を守ろうとしたエステル達と襲撃した猟兵達の戦闘の跡だったの!?」

ブルブランが口にした更なる驚愕の事実にその場にいる全員がそれぞれ血相を変えている中ミュラーと共に信じられない表情で声を上げたサラはブルブランに訊ねた。

 

「フフ…………”第二のハーメル”を作る為にアルスターを襲撃した超本人である”ニーズヘッグ”の猟兵達には思う所がある彼女達も、さすがにその猟兵達に対しては”慈悲”は必要ないと判断したようでね。彼女達は”協力者”である”嵐の剣神”に従う可憐なる侍従達と共に、アルスターの民達の避難誘導をしつつ襲撃した猟兵達を言葉通り”殲滅”――――――”皆殺し”にしたのだよ。」

「何ですって!?」

「あのエステル君達が”皆殺し”――――――相手が猟兵とは言え”人の命を奪う事”をしていたとは…………しかもセリカ殿の”使徒”達も関わっていたようだが…………」

「”ニーズヘッグ”…………ノルドやルーレでオレ達を阻んだ猟兵達が”アルスター襲撃”の犯人で、しかもカシウス中将の子供達によって殲滅されていたのか…………」

「…………まさかリィン君達に続いてあのエステル君達までそんな思い切った事をするとはね…………まあ、ヨシュア君の事を考えると、”第二のハーメル”を作ろうとした者達を絶対に許せないという彼女達の気持ちもわからなくはないね。」

ブルブランの話を聞いたサラとミュラーはそれぞれ信じられない表情をし、ガイウスは真剣な表情で呟き、オリヴァルト皇子はエステル達を思い浮かべながら重々しい様子を纏って呟いた。

 

「で、でもその話が本当ならアルスターの人達は無事って事だよね…………!?」

「あ……………………」

「その可能性は十分に考えられるな…………恐らく聖堂だけ無事だったのは彼女達がこの聖堂を一時的にアルスターの民達の避難場所として守っていたからだろう。」

「ああ…………エステル君達もそうだがセリカさんの仲間の中には余裕で建物を丸ごと結界で覆わせる事ができる程の相当な実力の魔術の使い手もいるからね。多分その人達が結界でこの聖堂を守っていたのだろう。」

「アンタの昔の仲間は一体どんな非常識な連中なのよ…………」

「いや、その人達も”非常識な存在”である君にだけは言われたくないと思うぞ…………」

ある事に気づいたエリオットの推測を聞いたアリサは呆けた声を出し、考え込みながら呟いたミュラーの推測にオリヴァルト皇子は安堵の表情を浮かべて頷き、二人の話を聞いて疲れた表情で溜息を吐いたセリーヌにマキアスは呆れた表情で指摘した。

 

「そ、それでそのエステルさん達は”アルスター”の人達を護った後、どうしたんですか!?」

「フフ、ここからが我が好敵手とⅦ組に向けた”恒例の挑戦”だ。――――――とはいっても、今回の挑戦は彼女達程ではないとはいえ、私の挑戦に応えた君達にとっては容易な内容かもしれないがね。」

トワの問いかけに対して静かな笑みを浮かべて答えたブルブランの答えにその場にいる全員は冷や汗をかいて脱力した。

「”怪盗紳士”のわたし達への”挑戦”って”アレ”の事だろうね。」

「無駄な言い回しをした謎解きか。――――――俺達も急いでいる。さっさと解いてやるからとっとと内容を言え。」

我に返ったフィーはブルブランに関する今までの出来事を思い返してジト目になり、呆れた表情で呟いたユーシスはブルブランに続きを促した。

 

「フフ…………『六の勇士達によって革新した地の古き戦場(いくさば)の砦』――――――そこに君達が求める”真実”がある。」

「ろ、『六の勇士達によって革新した地』って、もしかして……」

「”六銃士”――――――”クロスベル帝国”か…………」

「間違いなくそうでしょうね。そして『古き戦場(いくさば)の砦』とは恐らく、クロスベルにある遺跡の一つである”太陽の砦”の事だと思います。」

ブルブランが出した問題内容を聞いてすぐに答えを察したエリオットは信じられない表情をし、アルゼイド子爵とサラは静かな表情で答えを口にした。

「フッ、”答え”は自分達の目で確かめてみたまえ。」

そしてブルブランはステッキを取り出して周りにバラの花弁を舞わせてその場から消えようとした。

 

「――――――一つだけ聞きたい、我が好敵手。何故君は幾ら結社とは袂をわけたとはいえ、わざわざエステル君達に”アルスター襲撃”の兆候がある事を伝えて、”アルスター襲撃”を未然に防ごうとしてくれたのだい?」

「フフッ、盟主亡き後の”結社”を”美しくないもの”に墜とした”道化師”達への意趣返しのようなものだ。」

オリヴァルト皇子の問いかけに対して髪をかき上げて静かな笑みを浮かべて答えたブルブランの答えにオリヴァルト皇子を除いたその場にいる全員は冷や汗をかいて脱力し

「――――――心して置くといい、我が好敵手とⅦ組よ。”深淵殿にとって始まるのがあまりにも早すぎる想定外の物語”であるメンフィル・クロスベル連合とエレボニアの戦争の件を含めた”終焉の物語”…………結社もそうだがリベールやクロスベルの英雄たる”ブレイサーオブブレイサー”達や”特務支援課”すらも”脇役”であり、”主役”は別にいる。君達が”主役”の一部となった”灰色の騎士”達と同じ”舞台”に立てる事ができるかどうかは、君達次第だ。」

「ま、待ってください!”ヴィータ姉さんにとって始まるのがあまりにも早すぎる想定外の物語にして終焉の物語”とは一体何なのですか!?」

ブルブランは謎めいた言葉を残し、エマの制止の言葉を無視してその場から消えた。

 

「…………結社やエステル君達、そして”特務支援課”すらも”脇役”という事は”主役”はやはり、宰相達とリウイ陛下達――――――メンフィル・クロスベル連合なのだろうな。」

「ハハ…………あのエステル君達すらも”脇役”だなんて、冗談抜きで”リベールの異変”とは比べ物にならない”異変”がエレボニアに起こるかもしれないね…………」

「…………とにかく、まずは艦に戻ってクロスベル帝国の入国方法について話し合いましょう。」

ブルブランが消えた後ミュラーは重々しい様子を纏って呟き、オリヴァルト皇子は疲れた表情で溜息を吐き、目を伏せて黙り込んでいたアルゼイド子爵はカレイジャスに戻る事を提案した。

 

 

同日、PM8:00――――――

 

~メンフィル帝国軍・ヴァリアント・ブリーフィングルーム~

 

一方その頃”太陽の砦”の異変を解決してエル・プラドーを手に入れた後拠点である戦艦に戻って仮眠したリィン隊の軍位持ちのメンバーはリィンからブリーフィングルームに集まるように指示された為、ブリーフィングルームに集まって待っているとリィンが部屋に入ってきた。

「…………どうやら全員揃っているようだな。」

「それで兄様、私達を集めた理由は何でしょうか?」

「もしかして何か臨時の作戦行動にわたし達も参加する事になったからでしょうか?”エレボニア帝国征伐”が本格的に始まるのは予定では3日後と聞いていますが。」

集まっているメンバーを確認したリィンが呟くとエリゼとアルティナが訊ねた。

 

「いや…………新たに義勇兵が二人リィン隊に所属する事になったから、その顔合わせの為に集まってもらっただけだ。」

「え…………義勇兵の方達が私達の部隊にですか?」

「おいおい、アルフィンちゃんが配属されてまだ1週間も経っていないのに、もう新しい追加メンバーが来るなんてどうなってんだ?」

リィンの説明を聞いたセレーネは不思議そうな表情をし、フォルデは戸惑っていた。

「その事なんですが…………新たに配属される事になった義勇兵は二人とも色々と深い事情があって俺達の部隊以外に配属される事は適正ではない為、急遽俺達の部隊に配属される事になったそうです。」

「”私達の部隊に配属されるなければならない程の深い事情”………まさかとは思いますが、アルフィンさんのように、エレボニア帝国の関係者が義勇兵としてメンフィル帝国軍に所属してきたのですか?」

リィンの話を聞いて考え込んだステラはある事に気づき、リィンに確認した。

 

「ああ。――――――ちなみにその内の一人はアルフィンとエリスの”後輩”で、もう一人もアルフィンにとっても知人になる人物だ。」

「え…………一人はわたくしとエリスの”後輩”で、もう一人の方もわたくしにとって知人の方ですか?」

「まさかその私と姫様の”後輩”という義勇兵の方は――――――」

リィンの答えを聞いたアルフィンが呆けている中心当たりがあるエリスが信じられない表情を浮かべたその時

「――――――待たせたな。二人とも入ってきてくれ。」

「「失礼します。」」

リィンが扉に視線を向けて入室の許可を口にすると、扉が開かれるとそれぞれ旅装にメンフィル帝国軍の紋章をつけたクルトとミルディーヌ公女が部屋に入ってきた。

 

「「ミルディーヌ!?」」

「フフ…………宣言通り、それぞれ無事なご様子でお会いする事ができましたわね、姫様、エリス先輩♪」

自分を見て同時に驚きの声を上げたエリスとアルフィンに対してミルディーヌ公女は静かな笑みを浮かべた後ウインクをし

「…………お久しぶりです、アルフィン皇女殿下。皇女殿下のご無事な様子をこの目にする事ができて、安心しました。」

「クルトさん!?ミルディーヌもそうだけど、どうしてクルトさんまでメンフィル帝国軍に…………!?」

会釈をしたクルトに話しかけられてクルトに気づいたアルフィンは再び驚きの声を上げた後信じられない表情でクルトを見つめた。

 

「えっと………お互いに色々と話したいことはあるかもしれないが、まずは自己紹介をしてくれ。」

「かしこまりました。――――――此度(このたび)”諸事情”で祖国エレボニア帝国に刃を向ける事を覚悟し、メンフィル帝国軍の”義勇兵”の一人になったミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンと申します。ちなみに私の愛称は”ミュゼ”ですので、今後私の事はどうか”ミュゼ”と呼んでくださいませ♪」

「”ヴァンダール子爵家”当主マテウス・ヴァンダールが次男、クルト・ヴァンダールです。メンフィル・クロスベル連合側になる事を決意されたアルフィン皇女殿下の御身をお守りする為に”ヴァンダール子爵家”から派遣されてきました。以後お見知りおき願います。」

エリスとアルフィンの様子を見て困った表情を浮かべたリィンに自己紹介を促された二人はそれぞれ自己紹介をし

「ええっ!?カ、”カイエン”という事はまさかミルディーヌさんはあのカイエン公の親類に当たる方なんですか…………!?」

「フフ、クロワールは私にとって”叔父”になります。」

「カイエン公の”姪”…………聖アストライア女学院に通っている事だけは情報局の情報にはありましたが…………」

「しかも代々エレボニア皇家の守護職についていたヴァンダールまで、幾らアルフィン皇女殿下の護衛の為とはいえ、何故”敵国”であるメンフィル軍に…………」

驚きの声を上げたセレーネの問いかけに静かな笑みを浮かべて答えたミルディーヌ――――――ミュゼの話を聞いたアルティナは考え込み、ステラは信じられない表情でクルトに視線を向けた。その後二人はそれぞれ事情を説明した。

 

「そんな…………わたくしのせいで、クルトさんもそうですがオリエさんまで、祖国であるエレボニアを裏切る事になるなんて…………女学院の寮に残していった手紙にもわたくしの事はもはやエレボニア皇女としては相応しくない為、エレボニア皇家とは縁を切った小娘として扱うようにと書いておいたのに、どうして…………」

「…………確かにオズボーン宰相達帝国政府や、政府の判断に同意したユーゲント皇帝陛下はアルフィン皇女殿下の捜索を打ち切る事を決められましたが、アルフィン皇女殿下の廃嫡や縁戚関係を抹消するような事は行っていません。それにメンフィル・クロスベル連合についた皇女殿下はリィン少佐の目的――――――”戦争で活躍してエレボニアを存続させる事”を協力する為に、敢えてメンフィル帝国軍に身を投じたとの事。ならば例え帝国政府から代々続いていた皇族守護職のお役目を奪われようと、ヴァンダール家が代々誇りとしている本懐を遂げるだけです。ですからどうか、自分や母の事でご自身の事を責めないでください。自分もそうですが母も、”自らの意志でメンフィル・クロスベル連合につくことを決めた”のですから。」

事情を聞いて悲痛そうな表情を浮かべたアルフィンにクルトは静かな表情でフォローの言葉を伝えた。

「ですがクルトさんは本来、セドリックの護衛でしたのに…………」

「…………その皇太子殿下の護衛も、先程説明しましたようにオズボーン宰相達帝国政府によって解かれた今の自分では皇太子殿下のお傍でお守りする事もできません。――――――ならば、せめて戦後の皇太子殿下の御立場や御身をお守りしたいという理由もありますから、どうかお気になさらないでください。」

「クルトさん…………」

クルトの決意を知ったアルフィンは複雑そうな表情を浮かべた。

 

「…………ミルディーヌ。”ヴァイスラント決起軍”だったかしら。どうして貴女は”ヴァイスラント決起軍”のトップである”総主宰”という立場でありながら、メンフィル帝国軍の義勇兵になったのかしら?」

「トップである”総主宰”を欠いた状態なんて、””ヴァイスラント決起軍”にとっては色々と混乱すると思われるのですが…………」

「ふふっ、”ヴァイスラント決起軍”に関しては元々オーレリア将軍とウォレス准将にお任せする手筈になっていますし、いざとなれば今後の動きについて通信で指示を出す事も可能ですから心配ご無用ですわ。それに私がメンフィル帝国軍の義勇兵になった理由も先程説明したはずですが?」

エリスとセレーネの指摘に対してミュゼは静かな笑みを浮かべて答え

「確か叔父であるカイエン公が内戦で姫さんにかけた迷惑の償いをする為に、メンフィル軍に身を投じた姫さんを支えたいという理由だったよな?」

「エリスさんはその理由を聞いても何か納得できない部分があるんですか?」

フォルデはミュゼがメンフィル帝国軍に入隊した理由を思い返して口にし、ステラはエリスに訊ねた。

 

「ええ…………ミルディーヌの性格を把握している私や姫様からすれば、ミルディーヌがそんな殊勝な事をするなんて思えないんです。」

「そうよね…………?今の状況を考えるとわたくしがメンフィル帝国に向かうと察していながら、止める事もしなかったのは、メンフィル・クロスベル連合と予め繋がっていてわたくしがリィンさんのお陰でわたくしの処分が実質軽くなっているようなものだと知っていてもおかしくないのよね…………」

ステラの問いかけに頷いたエリスはジト目でミュゼを見つめ、エリスの言葉に続くようにアルフィンは困った表情を浮かべてミュゼを見つめた。

「まあ…………女学院でお世話になったエリス先輩と姫様には内戦では御力になれなかった分も含めて今回の戦争では御力になる為に、祖国に刃を向ける悲壮な決意をして”ヴァイスラント決起軍”を纏め上げて私自身はメンフィル帝国軍に入隊したというのに心外ですわ…………クスン。」

「そんなわざとらしい態度ですと、逆に先程説明して頂いた貴女の意図が怪しく思えてくるのですが。」

二人の指摘に対して心外そうな表情を浮かべて答えた後わざとらしく鳴き真似をしたミュゼの行動にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アルティナはジト目で指摘した。

 

「ミ・ル・ディー・ヌ?」

「あぁ…………!再会して早速エリス先輩の”それ”を久しぶりに見る事ができて、感激ですわ♪」

そしてエリスは威圧を纏った笑顔を浮かべてミュゼに問いかけ、それに対してミュゼは嬉しそうな表情を浮かべて答え、その様子を見守っていたリィン達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「クスクス、このままですと話は進みませんので”おふざけ”はこのくらいにして…………――――――メンフィル帝国軍に入隊した”本当の理由”はエリス先輩ご自慢の”灰色の騎士”様であるリィン少佐に私の魅力を知って頂いて、私もエリス先輩や姫様のようにリィン少佐の将来の伴侶にして頂く為ですわ♪」

「え”。」

「「「「……………………」」」」

意味ありげな笑みを浮かべて答えたミュゼの答えにその場が凍り付いたように固まった後リィンは表情を引き攣らせて声を出し、セレーネ、エリゼ、エリス、アルフィンは呆けた表情で固まっていた。

 

「という訳で私の事を知って頂く為に、今夜リィン少佐の部屋を訪れても構いませんか…………?」

「ちょっ、当たっている…………!頼むから離れてくれ…………!というか君とは今日会ったばかりなのに、何でいきなりそんなことを言うんだ!?」

怪しげな笑みを浮かべてリィンと腕を組んでわざとらしく胸を当ててくるミュゼの行動にリィンは慌て始め

「あぁ…………!わたくしもまだリィンさんと腕を組んだことがないのに…………!」

「ミルディーヌ!兄様から離れなさい!」

我に返ったアルフィンは恨めしそうな表情でミュゼを見つめ、エリスは真剣な表情で声を上げてリィン達に近づいてミュゼに注意した。

(うふふ、さすがご主人様♪この調子だと、まだ落ちていない自分の部隊の他の女の子達も落とすんじゃないかしら♪)

(しゃ、洒落になっていませんよ、その推測…………)

(あぁ…………!アルフィンに続いて更なる高貴なる身分の女性を惹きつけるとはさすがは更なる”英雄”としての名声を求めている我が主です…………!)

(お互いリィンと契約して日は浅いけど、ユリーシャって何気にベルフェゴールと考えが似ているような気がするのよね…………)

リィン達の様子を見てからかいの表情を浮かべたベルフェゴールの推測にメサイアは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、嬉しそうに目を輝かせているユリーシャの様子にアイドスは冷や汗をかいていた。

 

「やはりリィン少佐は不埒ですね。」

「え、えっと………この場合はちょっと違うような気がするのですが…………」

「ハア…………兄様が”Ⅶ組”と決別すれば少しは兄様の”悪い癖”もマシになると思っていたのに、むしろ悪化しているじゃないですか……………………」

「”Ⅶ組”の女性の方でリィンさんに想いを寄せている人達が今のリィンさんの状況を知ったら、どう思うでしょうね…………?」

ベルフェゴール達のようにリィン達の様子を見守っていたアルティナはジト目で感想を口にし、アルティナの感想にセレーネは冷や汗をかいて指摘し、エリゼとステラは疲れた表情で頭を抱えて溜息を吐いた。

 

「あの…………こちらに来る前に、公女殿――――――いえ、ミュゼは僕と母、それとメンフィル・クロスベル連合の使者の方達と共にアリシア女王陛下達にご挨拶をしたのですが…………実はミュゼがミュゼもメンフィル帝国軍に入隊した事を説明して、その理由がリィン少佐と結ばれる事を説明した時に、オリヴァルト殿下や”Ⅶ組”の方達も同席していましたから、少なくても”Ⅶ組”の方達はミュゼがリィン少佐を狙っている事はご存知かと。」

「ええっ!?」

「ハハハハハハッ!って事はあの公女さんは”Ⅶ組”のリィンに落とされた女連中に”宣戦布告”をしたのかよ!今回の戦争で”Ⅶ組”の連中と相対する時が来る事が”色々な意味”で楽しみになってきたな♪」

困った表情を浮かべて答えたクルトの説明を聞いたセレーネは驚きの声を上げ、フォルデは腹を抱えて笑った後口元に笑みを浮かべてリィン達の様子を見守っていた。

 

こうして…………リィン達に更なる新たな心強き仲間が加わった。

 

 

一方カレイジャスに戻ってクロスベル帝国の入国方法について話し合ったアリサ達はオリヴァルト皇子の提案である『クロスベル帝国政府に入国許可を取って正面から堂々と入国する』という信じ難い提案に難色を示しつつも、他に良い案もなかった為オリヴァルト皇子の提案に乗る事にした。

 

そして翌日カレイジャスはエレボニアとクロスベルの国境にして、メンフィル・クロスベル連合軍が駐屯しているベルガード門へと向かった――――――

 

 

 

え~…………予告通り今回の話で判明しましたがエステル達にアルスターの件を教えたのはまさかのブルブランでした。まあ、閃4の事を考えると予想できていた人達もいるかもしれませんね。なお、ブルブランがエステル達の事を話す時のBGMは空3rdの”Cry for your Eternity”だと思ってください♪

 

 

 

 

 

 

 


 
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