漫画的男子しばたの生涯一読者
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漫画的男子しばたの生涯一読者

■読切も新連載もてんこ盛り 〜単行本未収録作品

それでは最後。単行本未収録作品で今回もしめくくり。

「まるごし刑事」 【最終回】 作:北芝健+画:渡辺みちお  
まるごし刑事
「まるごし刑事」
作:北芝健+画:渡辺みちお
もしかしたらこの作品については、最近最終回を迎えた作品の中では、ある意味一番の大物かもしれない。「漫画サンデー」12/11 No.48(実業之日本社)において、ついに名物連載「まるごし刑事」が最終回を迎えた。単行本はすでに67巻も出ており、連載は全788回。単行本第1巻の発売は15年前の1986年である。実のところ筆者はまるごし歴は浅く、単行本もほとんど未読なのだが、それでもここは「ご苦労さまでした」といわせていただきたい。
「七人のナナ」 【新連載】 作:今川泰宏+画:国広あづさ  
七人のナナ
「七人のナナ」
作:今川泰宏+画:国広あづさ
最近萌え萌え度をとみに強めている「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)にまた一つニューパワーが見参。11/22 No.50から始まった「七人のナナ」は、主人公の少女・ナナがとあるアイテムの効果で七人に分裂。七重人格ではなく、別の身体を持つ七人になってしまうのである。七人のナナは豪快だったり、真面目だったり、色っぽかったりとそれぞれに異なる性格を持っている。この七人がごちゃごちゃと入り混じって進行する、ドタバタ受験ラブコメとなるようだ。この作品は「ミスター味っ子」などのアニメを手がけた今川泰宏監督が原作で、アニメ放送も開始予定である。アニメ版のほうは、キャラクターデザインを「ケロロ軍曹」などで知られる漫画家の吉崎観音が担当しているが、漫画のほうは新鋭の国広あづさを起用してきた。アニメのほうとは作画の雰囲気も違うようだが、丸顔でイキイキしたナナたちが画面狭しと動き回る様子は見ていて素直に楽しい。というわけでアニメともども期待したい新連載である。
「青春ヒヒヒ」 【新連載】 清野とおる  
青春ヒヒヒ
「青春ヒヒヒ」
清野とおる
清野とおるはこれまでも「ヤングジャンプ」系の雑誌で読切をいくつか描いていて、その強烈にクセのある奇矯な作風に注目していたのだが、ついに「ヤングジャンプ」12/6 No.51(集英社)から連載「青春ヒヒヒ」をスタートさせた。この作品はごくフツーの転校生が、クレイジーな奴ら揃いのクラスに編入されて振り回されまくるというストーリーギャグ漫画。何より登場人物たちの表情がスゴい。気の弱そうな主人公はまだいいが、クラスの奴らはみんなどうにもヤバい。行動もいきなり殴りつけてきたり、クラスメイトに馬乗りになってたり、何をしでかすか分からない。清野とおるは、1/1 No.1に読切「もんもんばあとオレ」も掲載されていたが、こちらもイカれっぷりは相当なものだった。ヘンな漫画好きは注目すべし。
「御愁職様」 【新連載】 松田洋子  
御愁職様
「御愁職様」
松田洋子
「ビッグコミックスペリオール」12/14 No.25(小学館)からの新連載。学校を卒業してからもとくにやりたいことが思いつかず適当にちゃらんぽらんしてた馬鹿息子が、父親の死をきっかけとして適当に就職することに。といっても今さら入れてくれる会社もあまりなく、人任せで就職することになったのは葬式ビデオの制作会社だった……というところからお話はスタート。とりあえずまだお話は序盤なのでこれからどう展開していくかは分からないけれども、端々の描写に「薫の秘話」や「秘密の花園結社リスペクターズ」で見せた世間への意地の悪い視点が見え隠れしており、刺激的な作品となりそう。
「ササメケ」 【新連載】 ゴツボ×リュウジ  
ササメケ
「ササメケ」
ゴツボ×リュウジ
センスの良い作画と思いっ切りのいい独特のセンスでマニア筋の注目を集めつつあるゴツボ×リュウジの初連載。「少年エース」1月号(角川書店)からスタート。主人公はイタリアにサッカー留学するも、夢破れて故郷にUターンしてきた少年。家に引っ込んで冴えない日常を送ろうとしていた彼が、ある日ゲームセンターで喧嘩がバカ強い少女と鮮烈な出会いを果たす……というところで第一話はおしまい。シャープな絵柄とキレのいい描写に、時折ハッとさせられる。なかなか面白い青春漫画となりそうな気配がぷんぷん漂っていて今後の展開にも期待を持たせる。
「六本木リサイクルショップシーサー」 【新連載】 山本マサユキ  
六本木リサイクルショップシーサー
「六本木リサイクルショップシーサー」
山本マサユキ
「ヤングマガジン」(講談社)系列の雑誌で、車好きな男二人の、ちょっと頭の悪い日常を描くコメディ「ガタピシ車でいこう!!」を連載中の山本マサユキが「別冊ヤングマガジン」に登場。12/1 No.045からの新連載。就職活動に失敗した青年が、六本木でヤクザっぽいおっさんとリサイクルショップをやってる女子高生に拾われて、そこで働くことになるところから始まるドタバタコメディ。暖かみのあるペンタッチは好感度が高く、作品数を重ねるにつれ、だんだん画風にまとまりが出て女の子も可愛くなってきている。作品世界の雰囲気が妙に居心地良くて楽しい。
「王様ランチ」 【短期集中連載】 三宅乱丈 
「ある日突然超能力者」 【読切】 三宅乱丈 
王様ランチ
ある日突然超能力者
「王様ランチ」
三宅乱丈
「ある日突然超能力者」
三宅乱丈
「ぶっせん」の三宅乱丈が「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)系の雑誌に登場。まずは短期集中連載として「ビッグコミックスピリッツ」11/26 No.50から3号連続で掲載された「王様ランチ」。子供のころ、祖母が食い物を粗末にする口に指をぐいぐい押し込んできて、その叱りっぷりがトラウマとなっていた少年たち。その一人、享也は立派なイケメンになり、もう一人のキヨは優等生になっていたが秘かに変態性を育んでいた。キヨは、食い物を顔にぐじゃっとぶちまける行為から性的興奮を覚えるようになっていたのだ。それを見抜いた享也が、キヨが恋心を抱いている少女から手作り弁当を入手し、顔に押しつけるための計画を建てる。というあらすじを聞いただけでもクレイジーで業の深いお話であることが伺えると思う。それと同時に馬鹿馬鹿しくもあって、奇妙な面白さを醸し出していた。

それから「ある日突然超能力者」のほうは、自分が超能力者になったときのことをあれこれ妄想し続けている、クラスの中では目立たない平凡な少女のお話。妄想と現実が入り混じりながら進むトリッキーなお話ではあるが、けして分かりにくくならずに、綱渡りのようにスリリングにお話を展開してうまいことまとめあげている。三浦乱丈は、絵柄は筆描きで一見ムサ苦しそうだが、そのイメージとは裏腹にかなりのワザ師である。

「少年少女」 【読切シリーズ】 福島聡 
「UFO」 【読切】 福島聡 
少年少女
UFO
「少年少女」
福島聡
「UFO」
福島聡
福島聡の作品は、読むたびに演出力、構成力、画力など、漫画的基礎体力の高さに驚かされる。本連載の4回めと10回めで取り上げた「DAY DREAM BELIEVER」(講談社/全2巻→bk1)が強く印象に残っている漫画ファンも多いのではないだろうか。11月は、その福島聡の読切を2本読むことができた。まずは読切シリーズ「少年少女」。「コミックビーム」12月号(エンターブレイン)に掲載された第1回目は、ふざけっこの最中に相手の少年が井戸に落ちて死亡してしまい、その罪悪感を抱えたまま自分なりの結論を見出していこうとしていく少女の姿を描いている。また「ビッグコミックスピリッツ増刊 IKKI」1/1 No.7(小学館)に掲載された「UFO」は、妻を不良少年によって殺され、抜け殻のようになった男が感情のやり場を見出せぬままさまよう。どちらも状況としてはたいへんシビアで痛みを伴う物語だが、その痛みから逃げることなく真っ向勝負して味わいの深い作品に仕上げている。実力に関しては本当に申し分ない人なので、これからももっと頻繁に登場してくれるとうれしい。
「ラブレター」 【読切】 アルコ  
ラブレター
「ラブレター」
アルコ
今、少女漫画方面での個人的なイチオシがこの人。今回「別冊マーガレット」12月号(集英社)に掲載された「ラブレター」はとくに素晴らしかった。先輩にラブレターを渡そうと思っているけれどもなかなかその一歩が踏み出せない女の子の初々しい恋心を描いた短編。というストーリー自体は別に珍しくもなんともないのだが、描写が素晴らしい。序盤は微笑ましくコミカルに展開し、後半に向かうに従って空気が澄み渡っていくようで実に美しい。単行本はまだ1冊(「スターレスブルー」 集英社/→bk1)しか出ていない新鋭だが、透明感の高い表現力には思わずうならされた。これからの作品にもますます期待が高まる。
「雪晴れの日に」 【読切】 日高トミ子  
雪晴れの日に
「雪晴れの日に」
日高トミ子
第45回ちばてつや賞で大賞を受賞した作品。「ヤングマガジン」11/19 No.49(講談社)に掲載。雪の東京で凍死したホームレスが、主人公であるバイト青年の父親だったことが判明。「雪」というアイテムをキーワードにして、人間ドラマを丁寧に構築していく。ちょっとしたエピソードを効果的に使い、地味ながら完成度の高い作品を描いている。いいお話です。
「日曜日のおでかけ」 【読切】 高見知行  
日曜日のおでかけ
「日曜日のおでかけ」
高見知行
第40回ちばてつや賞受賞作。「モーニング」12/13 No.52(講談社)に掲載。忙しく働きながらも家事もしっかりこなしている母親と、その子供たちの心暖まるエピソードを描く。シンプルで健康的な絵柄は暖かみがあって好感度高し。オーソドックスな作りだが、それだけに読みやすい。コンスタントに面白い作品を描いていけそうな素材。
「恋しない村」 【読切】 石川聖  
恋しない村
「恋しない村」
石川聖
「ヤングチャンピオン 1/20増刊 こんちわ!」(秋田書店)に掲載された作品。恋をしない人間は差別される恋愛至上主義が蔓延した世の中で、恋をする気がまったくなくて同級生から奇異のまなざしで見られていた少年の前に、恋しない人々たちが集まる「恋しない村」から来た少女が現れる。石川聖については本連載の第13回で読切「ふさぎの晩年」について触れているが、ふわふわ柔らかい不思議なタッチで、つかみどころのない独特な味のあるお話を描く作家さんである。
「ルサンチマン」 【読切】 竹谷州史  
ルサンチマン
「ルサンチマン」
竹谷州史
最近、「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)では「キャラクター選手権」と題して、若手作家の読切作品を毎週のように掲載しているが、その中の一作として12/3 No.51に、「コミックビーム」(エンターブレイン)で活躍中の竹谷州史が登場した。「PLANET7」(→bk1)、「LAZREZ」(→bk1)でおなじみの強力な筆圧で描かれたキャラはパワフルで、インパクトが強い。お話のほうは芸人志望の少年・木村が、型破りな相方を見つけて文化祭の漫才コンテストで大暴れをぶちかますというもの。
「マコちゃんのリップクリーム」 【読切】 尾玉なみえ  
マコちゃんのリップクリーム
「マコちゃんのリップクリーム」
尾玉なみえ
第15回で紹介した「純情パイン」の尾玉なみえの最新作が、「少年ジャンプ 12/30増刊 GAG Special 2002」(集英社)に登場。リップクリームをバンバン叩き「ウィンクル!!!」と叫ぶことによっていろんなものに変身する少女が主人公。クセのある絵柄から繰り出されるヘンなノリは相変わらず独特の面白さがある。最近のギャグ系の作品の中では、かなり有望な人だと思うんだけど、そろそろ新連載始めてくれないかな〜。

ってなところで今回はおしまいです。◆

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