漫画的男子しばたの生涯一読者
TINAMIX
漫画的男子しばたの生涯一読者

■雑誌の次は単行本にー!! GOだっ……だぼっ……

あてるいにせい…だぼっ!
「阿弖流為II世」
(c)高橋克彦
原哲夫

・「阿弖流為II世」 作:高橋克彦+画:原哲夫 小学館

なんか各所で話題になっていますな、この漫画! 本連載では第7回で「GOTTA」(小学館)が面白いぞ!ってなことを書いたときに紹介しているのだが、ついに待望の単行本化。「龍」と呼ばれる巨大な力の宿る剣を発掘した教授が謎の男たちに殺害されるも、古代の英雄・阿弖流為の魂が乗り移り復活。そして日本を陰から操ってきた異星人・坂上田村麻呂と対決する……というお話なんだけど、これがもうとんでもなく豪快でぶっ飛んでて素晴らしいのだ。「ベテラン漫画家が開き直るとどうなるか目にもの見せてくれるわ!」という気概に満ちたものすごい作品に仕上がっている。ネオ麦みたいな少年犯罪者なんざ「この腑抜けが!!」と指先一つでダウン。阿弖流為アニィの「捨ておけ!!」「出陣じゃあ!!」を始めとして、岩原都知事の「これはもう人間じゃないんだな、これが!!」「アメリカの次はエイリアンにー!! NOだっ…… だぼっ……」などなどの名言の数々もいちいち爆笑させてくれる。お話自体は1巻分にちょっと足りないくらいで終わってるんだけど、これがまたいい。フツーの作品なら面白ければ続いてほしいとか思いそうなもんだが、「阿弖流為II世」の場合は短く終わったことによるぶった斬り感が読後感をより清々しいものにしているんだな、これが!! 読まない奴は、エイリアンの次にー!! NOだっ……だぼっ……(しつこいか)。

・「神々の山嶺」1巻 作:夢枕獏+画:谷口ジロー 集英社
・「イカル」 作:メビウス+画:谷口ジロー 美術出版社

神々の山嶺
「神々の山嶺」1巻
(c)夢枕獏
谷口ジロー

12月に出た単行本を見渡すと、谷口ジローの2冊は非常に印象に残った。とくに「神々の山嶺」は2000年度ベスト作品の一つだと思っている。この物語は、エヴェレスト登山隊に同行したカメラマンが一つの古いカメラを入手したことから、エヴェレスト初登頂を巡る世界登山史最大の謎、それからかつて伝説のクライマーとして名を馳せた一人の日本人の人生に深く関わっていくというものだ。この作品でなんといってもすごいのが、谷口ジローの精密な筆致によって描かれ、圧倒的な迫力をもって読者に迫ってくる山の岩壁。その存在感は、岩壁が背景ではなく、物語の主役の一つであるとまで感じさせるほど。そしてその酷薄で無慈悲な岩壁に挑む人間たちの物語は実に骨太で、読む者の心を打ちふるわさずにはおかない。この第1巻収録のエピソードだけでもググッと力が入り非常に面白いのだが、おそらく第2巻に収録されるであろう部分はさらにすごくなっている。数あるスポーツの中でも、雪山登山ほど生命の危険と隣り合わせなものはまずないだろうけれども、その極限状況の描写が恐ろしいほどに真に迫っている。連載は今も「ビジネスジャンプ」(集英社)で続いているが、現時点まででも間違いなく傑作として数えるに値する。

イカル
「イカル」
(c)メビウス
谷口ジロー

それから「イカル」は、かつて「モーニング」(講談社)で連載され第一部完の状態のまま長らく単行本化されないできた作品だ。メビウスといえば超絶画力でいわずとしれたフランスの漫画家だが、この作品では作画は谷口ジローが担当。生まれつき宙に浮かび飛行することのできる能力を持つイカルという少年が主人公の物語で、第一部はイカルが軍事目的での研究のために閉じ込められていた研究所を脱走するところまで。続きが描かれていないのでなんともいえない部分はあるが、緻密なタッチにより浮遊感はしっかりと再現できており、ここまでの段階でも十分楽しめる内容となっている。この単行本でうれしいのは、判型がB5とデカいこと。このタッチを十分に味わおうと思ったら、やはり大判であろう。いずれ続きが読めたらいいとは思うが、難しいだろうなあ。それから谷口ジローについては、「漫画アクション」1/9+16 No.2+3(双葉社)から、月イチの新連載「天の鷹」がスタートしている。白人による「開拓」、インディアンにとっての「迫害」時代に、アメリカに渡り両者の争いの中に巻き込まれていく日本人二人の物語である。エロ方面に走った現在のアクションの中では浮いているけれどもこれからの展開は楽しみだ。

・「ニッポン昔話」 花輪和一 小学館

ニッポン昔話
「ニッポン昔話」
(c)花輪和一

最近では単行本「刑務所の中」(本連載第6回参照)が各所の書評などで取り上げられ、大いに話題となった花輪和一が、ビッグコミックオリジナルの増刊号で描いた花輪流昔話である。この単行本だが、ハードカバーできちんと化粧箱に入れられており、作者自身による手描きシリアルナンバーや護符が付けられていたりと、やたらと凝った入魂の豪華本となっている。3600円と価格的には確かに高いがそれだけ手は込んでいる。発行部数も5000部限定と、プレミア必至な1冊だ。花輪ニッポン昔話で特徴的なのは、各話になんだか表面がぺかぺかしたユーモラスな地球外生命体と思われるアヤしさ抜群な者どもが登場すること。奇妙なんだけどのどかで、むちゃくちゃ味わい深い。細部までこだわった執念深い描写、各キャラの非常にええ表情などを見ていると、しみじみ「ええなあ」と思ってしまう。後書きの、高橋留美子の解説、花輪和一自身による文章なども、妙に面白い。とりあえず一家に1冊買っておくべし。発売の予告から見て予約じゃないと買えないのかなと思ったけど、案外一般書店でも見かけたりするので、あるうちにぜひ。

・「画太郎先生ありがとう いつもおもしろい漫画を描いてくれて…」 漫☆画太郎 集英社

ギブミーチョコ!ギブミーガム!おくれよおくれよ兵隊さん!
「画太郎先生ありがとう いつもおもしろい漫画を描いてくれて…」
(c)漫☆画太郎

「ちんゆうき」など、ワイルドでソウルフルなギャグで我々をびっくりさせ続けてくれている画太郎先生の最新単行本がコレ。いろいろな形で各所に掲載された短編をまとめた単行本であります。最近では、お亡くなりになってしまったコミックバウンドの「虐殺!!ハートフルカンパニー」でブイブイいわせてくれた画太郎先生だが、その独自の境地はデビュー当時から素晴らしきものがあった。これでもかこれでもかと意表を衝き続け、お話をグルグル転がしまわり、そしてシャウトする画太郎節はプリミティブな脳内回路に訴えかけてくるパワーに満ちている。ちなみに画太郎先生は、「ヤングジャンプ」1/1 No.1(集英社)でも新シリーズ「画太郎が出会った知られざる偉人たち(1) ハデー・ヘンドリックス物語」という作品をぶちかましてくれた。物語の最初っから画太郎先生が滝のようにゲローリング。その後、彼は「ギブミーチョコ ギブミーガム おくれよおくれよ兵隊さん」とシャウトしてギターをぶち壊すソウルフルなシンガー、ハデー・ヘンドリックスの生涯を目撃するのだ。ありがとう、ほんとうにありがとう。いつもおもしろい漫画を描いてくれて……。

・「濃爆おたく先生」1巻 徳光康之 講談社

ジーク・ジオン!
「濃爆おたく先生」1巻
(c)徳光康之

12月は笑える作品で収穫が多かったような気がするが、これもまたその一つ。ジオンを愛し、ドムを愛し、ガンプラに燃え続けながら生きてきた一人の男にして教師・暴尾亜空(あばお・あくう)が、自分の主義を、そして愛を、生徒たちに押しつけるというオタクスピリットあふれる作品である。ガンダムの放映が終わっても暴尾亜空によるガンダム世界はけして尽きることなく、妄想パワーはいや増すばかり。一技術者のドム開発物語を勝手に作り上げる「ドムを創った男たち」など、若き日にガンダマイゼーションを受けて育ってきた人間の血を熱くさせずにはおかない。実に立派な馬鹿者っぷりではないか! この強固な根づきっぷりをみると、今やガンダムは歴史的事実とさえなっているといってもいいかもしれない。ジークジオン!!

・「アイコ十六歳」 駕籠真太郎 青林堂
・「喜劇駅前花嫁」 駕籠真太郎 太田出版

アイコ十六歳
「アイコ十六歳」
(c)駕籠真太郎
喜劇駅前花嫁
「喜劇駅前花嫁」
(c)駕籠真太郎

この連載でも何度か触れてきたが、ここ1〜2年の駕籠真太郎のブレイクっぷりはすさまじいものがある。「カルト漫画家」といわれて続けてきた人だが、ここまでブレイクしたというのはやはりカルトでありつつも、一般に訴えるだけのパワー、クオリティを持っていたという証でもあろう。ってなわけで12月には駕籠真太郎の作品集2冊が一挙登場。「アイコ十六歳」は一部の熱狂的ファンに惜しまれつつ休刊した「コミックフラミンゴ」(三和出版)掲載作品を中心として、軍国日本的世界で人体改造されたり時空を超えたりしながら健気に暮らす女学生アイコさんが主役なシリーズ。アイコは多次元から別の自分を引っ張ってきたりして分身(?)、量産兵器的に扱われ、実験されたり食用便生産に使われたりと大活躍。SM系雑誌のフラミンゴが主な掲載場所であっただけに、スカトロなどの描写が多くかなりスパイシー。クオリティはコンスタントに高いので、耐性のある人、新しい世界を覗いてみたい人はレッツチャレンジ。

「喜劇駅前花嫁」は「喜劇駅前虐殺」と同じく、「コットンコミック」(東京三世社)で長年連載されているシリーズ。ショックを受けたときに「〜t」と書いた巨大な分銅が落ちてくる漫画的表現が現実のものとして具現化した世界(「駅前圧縮」)、人間も車も地面に打ちつけられていて固定されている世界(「駅前固定」)、町が全部迷路になっていてさらに人間の描線も全部迷路になってしまう「迷路病」が蔓延している世界(「駅前迷路」)などなど、ヘンテコなルール下にある世界を舞台に奇想を展開しまくるという駕籠真太郎お得意のパターン。グロ描写を入れつつも、ツッコミ役がおらず延々とボケ倒し笑い倒すクールさはお見事。

方舟
「方舟」
(c)しりあがり寿

・「方舟」 しりあがり寿 太田出版

「クイック・ジャパン」掲載作に加筆・再構成を施して1冊にまとめた本だが、これは傑作であると思う。日本の上空に雲が居座り、雨がしとしととまったくやまず、ずーっと降り続ける。そして大地は水没していき、世界は静かに終わりを迎えていく。ある者は方舟にすがり、ある者は生まれ故郷に戻り、ある者はイカダで愛する者と世界の終わりを共にする、その滅びのさまを描いていく。一定ぺースで雨は降りしきりつづけ、その水かさが増すのに比例して、喪失感、絶望が静かに迫ってくる。その筆致はどこか甘く魅力的で、静かであるだけにじわじわと胸に迫ってくるものがある。

・「LAZREZ」1巻 作:TDK+画:竹谷州史 エンターブレイン

LAZREZ
「LAZREZ」1巻
(c)TDK
竹谷州史

「コミックビーム」連載作品。「PLANET 7」の竹谷州史と「ノイズ・ターンテイブリスト」であるTKDがコンビを組んで送る、ハードでロックな物語。かつては自らの批評により音楽を切り裂いていた男・万尊が、ライブで久々の生の音楽に触れて激情爆発、ステージに乱入するところから物語は始まり、彼の不穏でエキサイティングな日常が描かれていく。黒々として太く濃密な描線、腹にドスンとこたえるパンチのある物語など、実に刺激的な作品だ。現時点ではまだ物語がどこに進むのか見えていないが、しかしこのエネルギーは無視できない。絵の力、泥臭い人間の生き様が感じられる物語が実にタイムリーな出会いを果たしているという感じで、このままテンションを上げ続けていけば本当にスゴイ作品となりそう。目が離せない。

・「クーデタークラブ」1巻 松本光司 講談社
・「サオリ」 松本光司 講談社

クーデタークラブ
「クーデタークラブ」1巻
(c)松本光司
AMONデビルマン黙示録
「AMONデビルマン黙示録」2巻
(c)衣谷遊
永井豪
タラチネ
「タラチネ」
(c)南Q太
ダスクストーリィ
「ダスクストーリィ」2巻
(c)TONO
超・学校法人スタア學園
「超・学校法人スタア學園」21巻
(c)すぎむらしんいち

松本光司の初単行本。2冊同時発売である。この人の特徴は、濃い絵柄&ボルテージの高い演出による、大げさなまでの盛り上げっぷり。とくに大きな事件を起こさずとも、キャラの心音の書き文字やセリフでグイグイ読者を引き込む演出力は大したもの。とくに最新作である「クーデタークラブ」は特筆モノの作品だ。こっそり女装趣味を楽しんでいたガリ勉少年が、双子姉妹のかたわれである少女に引き込まれ、自らを革命することを目指す「クーデタークラブ」に引き込まれていき……といった感じの学園モノ。本連載第7回でも取り上げている。一話ごとのヒキがものすごく強くて、一話終わるとすぐ次の回が読みたくなってしまう。最近の新鋭の中では、かなりの期待株。要注目だ。

・「AMONデビルマン黙示録」2巻 衣谷遊/永井豪 講談社

新デビルマンものは数あれど、このシリーズはその中でもかなりに強力だ。なんといっても衣谷遊の精緻で力強さもある描画が抜群にカッコ良い。この巻では、デーモン最強の戦士であるシレーヌ族の物語と、サタン、そしてアモンの誕生(というか転生かな?)が描かれる。誇り高きシレーヌ族の姿は強く、そして美しい。細部まで息を抜くことなく描かれていて、読みごたえ抜群だ。デビルマン好きは必読。

・「タラチネ」 南Q太 祥伝社

しばらく産休モードに入っていた南Q太だが、また活動し始めて、単行本も発売。この中では前半の「恋愛物語」シリーズがとても面白かった。何気なく微妙にすれ違っていたりする男女それぞれの思惑、微妙な距離感をキレのある描写力で見事に浮き彫りにする。ここらへんの呼吸はもう貫禄さえ感じてしまう。後半の子育てエッセイ的な漫画は筆者的にはさほど……って感じだったが、それを差し引いても十分読むに値する1冊。

・「ダスクストーリィ」2巻 TONO 集英社

このシリーズはこれにておしまい。普通の人の見えない世界が見えてしまう少年タクトを中心として、彼の友達で(他の人には見ることはできないが)自分の幻想を具現化できる能力を持った少年ラトルをからめて、切なく、そして優しく美しい、夢のようなお話を描いている。TONOの柔らかくてキラキラした、そして透明感のある描画の効果もあって、それぞれの優しさゆえの哀しさなどが詰まった物語がスーッと心に染み込んでくる。毎話毎話、うならされるような珠玉の出来。とてもとても大切に読んでいきたい、そういう1冊。

・「超・学校法人スタア學園」21巻 すぎむらしんいち 講談社

こちらもこれにて最終巻。長きにわたって続いてきたコキジたちの物語がついに大団円。作者自身が「一人リレーマンガ」と語ってしまうほど、読み手にも描き手にも先の展開がぜんっぜん読めない物語は、常に読者の意表を(おそらく作者の意表も)衝き続け、ごろごろと転がるように最後まで突っ走った。転がりつつもなんか奇妙なバランスが取れていたのは、さすがすぎむらしんいちといったところか。この人に関してはまぎれもなく「天才」といっていい部類の漫画家の一人だと思う。ついに全巻揃ったので、今まで「雑誌では読んでたけど……」なままだった人はドカ買いすべし! すぎむらしんいちの単行本は、時間が経つと案外手に入りにくくなるぞ!!>>次頁


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