漫画的男子しばたの生涯一読者
TINAMIX
漫画的男子しばたの生涯一読者
しばたたかひろ

■25歳から始めた少女漫画

この連載ももう8回めになるけれども、何度か原稿内でも触れてきたとおり、しばたはあんまり少女漫画、というか女性向け漫画方面は強くない。なんつっても本格的に読み始めたのが1998年の3月だから、キャリア的には駆け出しも駆け出し。そのスジの強者な方々とは比ぶべきもないのであんまり偉そうなことはいえない。ただ、ここ2年半くらいのチャレンジのおかげでだいぶ女性向け漫画にも慣れてきて、現在はだいたい月間10誌くらいの女性漫画雑誌を定期購読するようになっている。もちろんこの程度じゃ全然詳しいとはいえないのだが、とりあえず女性向け漫画への入門は、それなりにできたんじゃないかと思う。

現在、このTINAMIXでも「青少年のための少女マンガ入門」が連載されているが、それにかこつけてしばたが女性向け漫画に曲がりなりにも入門を果たした、その過程をちょいと語ってみたい。あんまり一般的な例じゃないかもしれないけど、それまで男性向け漫画の世界にどっぷり浸かって生きてきた人間が、いかにして乙女ゴコロを得るに至ったかという体験談ってわけで、これから入門しようって人にちょっとばかしでも参考になってくれれば幸い。

繰り返すみたいだけど、1972年に生まれてからの25年間余り、筆者はほとんど女性向け漫画には縁がなく暮らしてきた。といってもその間、まったくチャレンジしなかったってわけではない。ときどき古本屋で面白そうなタイトルをバカッとまとめ買いして、ちょこちょこチャレンジしてみようとしてはいたのだ。でも続かなかった。一つの作品を読んで気に入ると、その作家の作品をほかにも探して読んでみたりもしたのだが、主立ったところを押さえると次に何を読んでいいのかよく分からなくなってそのまままた縁遠くなっていく……といったことを繰り返していた。

周囲に女性向け漫画に詳しい先達もいなくて読み始める指針をまったく持っていなかった筆者は、25歳を過ぎてから女性向け漫画にチャレンジするに当たって、今までとは違ったアプローチすることにした。それは「雑誌から始める」だ。

雑誌から始めることのメリットはいくつかある。まず、たくさんの作家の作品をいっぺんに読めるということ。単行本の場合、例えば全10巻ある作品を通しで読んだとしても、結局は一人の作家、一つの作品についての情報しか得られない。その点、雑誌の場合は1冊買えば10人だか20人だかの作品を読めるし、しかも1冊の価格が安い。単行本はビニールに入れられていて中を覗けないことが多いけど、雑誌の場合は立ち読みして買うか買わないか決められる(ことが多い)というのも安心感がある。

さらに雑誌の場合は、たいていその会社の発行している他誌や別冊のおしらせが載っている。これがデカい。そのおしらせの予告カットなどを見て「あ、これ面白そうだな」と興味をそそられることがある。1冊を起点にして、ほかの雑誌へと守備範囲を広げていきやすいのだ。もちろん読切や新人チェックの楽しさなんてのもある。

それから、雑誌をチェックしていくことによって各出版社の傾向などについてある程度知ることができる。「この出版社の雑誌はだいたいこういう絵柄でこういう作風の人が多い」とか「あの作家はあの出版社の雑誌に出没することが多い」などなど。そういったことをつかんだうえで単行本に手を伸ばすようになってくると、どのコミックスシリーズがどの雑誌を母体にしているかということも意識するようになってくる。そういうふうになって各雑誌の性格がつかめてくると、漠然とではあるがそのジャンル内での作品ごとのつながり的なもの(個人的にはそれを「地図」と呼んでいる)が頭の中でできてくる。単行本1タイトルずつは独立しているけれども、その間になんとはなしに関連性が感じられるようになってくる。

ここまでくればシメたもの。それ以降は単行本などでの新規開拓もある程度、自分で見当をつけて行えるようになってくるし、この段階まできていれば他人のレビューなども自分の身体感覚に基づいて受け取れるようになってくる。

まあそんなわけで、これから新ジャンルに踏み入れていこうという人には、雑誌から始めることをオススメしておく。筆者の場合、雑誌から女性向け漫画を始めるという方針を決めた後は、とりあえず試しに書店で手当たりしだいに雑誌を買うようにしてみた。そのころは月に30誌くらいは読んでいたはずだ。

とはいえ、普通はそんなに焦って買う必要もない。あんまりいっぺんに読むと、好きになれるもんも嫌いになってしまいかねない。3日に1冊くらいペースで少しずつ試してみるような感じでいいのではないだろうか。そうやってどの雑誌を買うべきか、どの雑誌を買わなくていいかを判断していく。このとき「面白い」というほどには思えなくても「気になる」程度に思える雑誌があったら、その雑誌は続けて追いかけてみることをオススメする。まったく女性向け漫画文法を知らない人間がいっぺん読んだだけじゃ、作品の魅力はなかなか分からない。最初は面白いというほどでもなかった作品が、じょじょに面白いと思えるようになるってことはけっこうありがちなのだ。だから「気になる」レベルは押さえておいたほうが良かったりする。

さらにそこで買った雑誌の発売日も調べて記憶しておこう。それ以降もチェックを続けていくためだ。発売日に雑誌を買うというのは、ある種の強制力として作用する。単行本から始める場合、在庫がある限りいつでも買える。「いつでもできる」と思っているとやらないのが人間の常。ライターが締切を設定されないと原稿を書かないのと同じように、日にちをビシッと決めとかないと、漫画もけっこう買い忘れてしまったりするもの。そうやってずるずる読まない期間が増えていき、結局は入門失敗〜というケースもよくあることなのだ。

でもって、最後に重要なことは上記のような作業を継続して行うこと。男性向け漫画に慣れてきた人にとっては女性向け作品にはちょっと抵抗があるかもしれないが、そういうのはずーっとやってれば案外簡単に慣れちゃうものなのである。

といった感じで、筆者も案外簡単に女性向け漫画にも慣れることができたのだ。あんまり参考にならなかったかもしれないけど、まあ新ジャンルを読み始めるっていうのはけっこうエキサイティングなことである。筆者みたいな方法をとるもよし、別の方法でやるもよし。一番いいのは雑誌を読みつつ、単行本開拓も行うという方法のような気もする。そんなわけで、食わず嫌いだった人も機会があったらぜひチャレンジしてみてくだされ。それだけのことをする値打ちはきっとあると思うぞ。

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