生涯一読者
TINAMIX
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■5月もまた新しい動きが 〜雑誌

・新少女漫画誌Cookieのゆくえはいかに? 〜女性向け雑誌

『Cookie』創刊号表紙5月における漫画雑誌関連で最も大きな動きといえば、集英社から新少女漫画誌「Cookie」が創刊されたことだろう。本連載の第2回めで触れたが、この雑誌は今年の2月発売号をもって休刊した「ぶ〜け」の後継誌である。増刊枠で2号ほど発行された後、今回独立創刊の運びとなった。発売日は毎月26日である。

大手出版社による大型創刊だけに、第1号のメンツはなかなか気合いの入ったものとなった。執筆陣は矢沢あい、生藤由美、稚野鳥子、おかざき真里、あいざわ遥、石田拓実、池野恋、藤末さくら、谷川史子、ヤマモトミワコ、橘かおる、雨月衣、遊知やよみ、水玉ペリ、キャンディー・サトウ、山野りんりん。筆者としては、清涼感のあるスッキリとした作画で人気の谷川史子、それからフレッシュなセンスの持ち主であるおかざき真里あたりがお目当て。そのほかにも力量のある面々が揃っていて、なかなか楽しめる布陣だった。

創刊号からはかなり力の入った雑誌であるということが伺え、今後の雑誌展開に期待が持たれる。問題はCookieというブランドがどれだけ定着するかといったところ。クオリティは高いものの、ぶ〜け同様、地味めな印象もあるので、それをどれだけ克服していけるかがカギだ。今後の展開に注目したい。

『FEEL YOUNG』表紙女性向けではもう1冊、祥伝社の「FEEL YOUNG」に動きがあった。こちらは大幅リニューアルという形で、6月号で魚喃キリコ、青木光恵、やまだないとの新連載3本が一挙に始まった。そのぶんページ数も64ページ増。現在出ている7月号では、単行本の項で後述する雁須磨子が登場。さらに産休でしばらく活動を停止していた南Q太も復活。これまでの連載陣である三原ミツカズといった才能も好調で、見逃せない構成になってきた。

この大リニューアルについては、これまでFEEL YOUNG、そして「CUTiE comic」(宝島社)の両方の編集を担当していたプロダクションである「シュークリーム」が、CUTiE comicの編集を外れたことが影響していると思われる。FEEL YOUNGとCUTiE comicでは、今まで厳然と棲み分けが存在していたが、CUTiE系作家の流入により、FEEL YOUNGはさらにバラエティに富んだ強力な雑誌となった。この影響でCUTiE comicの内容が弱まったかというと、今のところそういった気配は見られない。看板連載の安野モヨコ「バッファロー5人娘」が好調なうえ、若手も順調に伸びてきている。

この2誌はこれからライヴァル的な様相が強まっていくと思われるが、お互いが刺激しあうことにより内容が高まっていくことに期待したい。

・増刊系に収穫あり 〜男性向け雑誌

4月末から5月初はゴールデンウィークということもあって、増刊枠の雑誌がいくつか出た。なかでも目立って内容が面白くなってきていたのが、ビッグコミックスピリッツ増刊の「Manpuku!」(小学館)である。

『Manpuku!』表紙ビッグコミックスピリッツの増刊枠といえば、かつては「スピリッツ21」という誌名で出ており、それが1997年にManpuku!へと変わった。Manpuku!登場当初は、ギャグに的を絞ったラインナップとなっていたが、ハズシ気味の作品も多くてあまり面白くなかった。スピリッツ21には、山本直樹「フラグメンツ」や、作:川崎ぶら+画:秋重学「ニナライカ」(未単行本化。惜しい!)など意欲的な作品がけっこう見られただけに、Manpuku!のイマイチ感がさらに際立っていた。

それがここ最近のManpuku!は、あまりギャグ方面にこだわらなくなってきており、スピリッツ21を思わせるような構成に戻ってきた。今回の6月増刊号では、山本直樹「明日また電話するよ」が掲載されてその高い実力をまざまざと見せつけたほか、吉田戦車「山田シリーズ」が安定した面白さで、村上かつら「(仮)スマ未満」も良かった。村上かつらは「天使の噛み傷」など、本誌でも読ませる作品を描いている人で、まだ単行本が出ないのが不思議なくらいの実力者である。

また、新鋭作家の活躍も目立った。花沢健吾「ジョニィからの伝言」はほの悲しいけれども前向きなお話をしっかりした作画で描き出し、浅野いにお「普通の日」もスッキリした絵柄でハードな青春を描き鮮烈な印象を残した。奇想あふれる松永倫幸「川のほとりで」も見逃せない作品。

『アフタヌーン』シーズン増刊ベテランと若手、それぞれの魅力がいい具合に入り混じって、かなり面白く読める増刊となった。このテンションがこれからも続いてくれるとうれしい。

このほかで目立ったのは、「アフタヌーンシーズン増刊」(講談社)あたり。こちらは目玉となる太い柱こそないが、佳作はいくつもある。小原愼司「女神調書」の飄々としたノリ、漆原友紀「蟲師」シリーズの繊細で厚みのあるペンタッチ、キャッチーでキュートな絵柄のなつき。「仏滅拉麺」といったところ。それから単行本未収録作品の項で紹介すう神原則夫「とんぼ」も良かった。

増刊枠雑誌は、本誌ではなかなか読めないベテラン勢の読切や、若手の勢いのある作品が掲載される場である。本誌にも増して注目しておいてもらいたいところ。

・「激しくて変」にエロ漫画屋の意地を見た 〜エロ漫画雑誌

個人的には現在のエロ漫画はかなり恵まれたジャンルだと思っている。ここ数年、サブカル方面からも評価が行われるようになって注目度は高まっているし、読者数から考えれば異常なくらいの数の雑誌が出ている。もちろん原稿料は安いのだろうが、そのぶん掲載作品が単行本化される確率は高い。メジャー系ではなかなか出にくい若手の短編集が当たり前のように発行されるのは、エロ漫画ならではだ。

『漫画ホットミルク』表紙また、発売される単行本のほぼすべてがレビューの俎上に乗るというのもエロ漫画くらいのものだろう。「漫画ホットミルク」(コアマガジン)が、以前はムック形式で独立発行されていたレビュー誌「コミックジャンキーズ」を雑誌内雑誌的な位置づけで取り込んでから、月刊ぺースで新刊エロ漫画単行本のほとんどがレビューされることとなった。これは、従来からホットミルクでエロ漫画レビューコーナーを長年にわたって連載してきた、エロ漫画評論の第一人者である永山薫(→関連サイト)の存在が大きくモノをいっている。筆者もレビュワーの一人として末席を汚させてもらっているが、エロ漫画を知りたいと考えている読者は、とりあえず押さえておくと便利な雑誌だ。最近では漫画もずいぶん面白くなっており、880円とエロ漫画雑誌としては高いものの、値段に見合う内容となってきている。漫画でとくにオススメなのは、天然系のあけっぴろげな女の子、菜々子さんがかわいい瓦敬助「菜々子さん的な日常」。シリーズ連載だが、毎回面白い。

それから、エロ系では注目の雑誌が5月末に発売になった。光彩書房の「激しくて変」である。エロ漫画の一般的な単行本と同様に、A5平とじ装丁。まずは、「アフタヌーン」(講談社)で「無限の住人」を連載中の沙村広明が描くところの、モノトーンの表紙絵がやたらカッコイイ。内容も表紙に見合ったレベルの高いものになっている。町田ひらく、ゼロの者、阿宮未亜、玉置勉強、MASAAKI、早見純、町野変丸、遠藤りさを、危険思想、小瀬秋葉、牧神堂が漫画を執筆。さらに司人形も半漫画って感じのイラストを描いている。

『激しくて変』最近活動を休み気味だった町田ひらくの新作や、玉置勉強の救いのない短編、ゼロの者の瑞々しいエロさ、町野変丸のノリノリのギャグ、阿宮美亜の得もいわれぬ味のある戦隊モノなどなどときて、伝説的なカルト作家である早見純の新作がトドメを差す。レベルの高い作品が揃っており、実に充実した1冊となった。

編集長の後書きによれば、発行に当たっては太田出版の「MANGA EROTICS」がキッカケになったとのこと。MANGA EROTICSといえば、サブカル方面からの視点からちょっと特殊な味わいのあるエロ系作家を集めて大いに話題になった雑誌だが、激しくて変は逆にエロ方面の視点からクオリティを高めていったという風情。サブカル系の雑誌にありがちなパサパサ感はなく、エロ漫画らしいドロドロした瑞々しさを保ちつつクオリティを高めている。エロ漫画ならではの混沌ぶりと、その中から生まれてくる奇妙な個性が、うまい具合に融合している。

編集長の多田在良といえば、一水社系の雑誌などなどでキャリアのあるベテランエロ漫画編集者であるが、その経験を生かしつつ自らの好きな作品にこだわる、熱い意気込みが感じられる1冊となった。ある意味、エロ漫画屋の意地も感じる。

EROTICSが起こした波紋によって、興味深い1冊の本が生まれた。それがさらに刺激となって、また別の面白い本が現れることも期待したい。

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