生涯一読者
TINAMIX
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■1〜3月 SF漫画は復活するか

1〜3月の期間でまず気になった作品は、コミックモーニング 1/29 No.7に掲載された幸村誠の読切「プラネテス 屑星の空」である。これは、人工衛星の残骸など、宇宙での作業に支障をきたす恐れのある「宇宙ゴミ」を回収することを生業とする人々を描いた作品である

思えば、一昔前のSFブームのころは宇宙を舞台にした作品は山ほどあった。食傷気味になってしまうほどに。その反動か、最近では宇宙モノの漫画をめっきり見なくなった。少年誌、青年誌を見回してみても本当に数えるほどしかなく、少女漫画誌のほうにかえって秀作がぽつぽつと見られたりした。超能力、宇宙船、未来世界といったSF的要素は忌避されるようになっている。例えば、現在最も売れている漫画雑誌である少年マガジンを見てみれば分かるだろうが、どの作品を見ても「現実に起こり得ないこともない」題材を扱ったものばかりである。想像の翼を宇宙レベルではためかす、大風呂敷的な漫画がめっきり少なくなり、漫画界では長いこと宇宙漫画の空白期間が続いていたのだ。

その空白期間の間に、宇宙に関する技術は格段の進歩を遂げた。日本人宇宙飛行士も誕生したし、通信用衛星の打ち上げも珍しくない。まだ一般人が手軽に行けるところではないが、地球人と宇宙との距離は確実に縮まっている。「プラネテス 屑星の空」は、人間が仕事をし、生活していく場としての宇宙をリアリティをもって描いた佳作であった。なんだか久しぶりにいいSF漫画を読んだなあと思えた。

西暦1000年代最後の年であり、2000年の到来を控えた1999年は、SF漫画の復活を予感させながら始まった。インターネットでは、宇宙開発に興味を持つクリエーターが結成した「宇宙作家クラブ」のホームページが開設されるなど、宇宙モノ作品への作家/読者双方からのニーズが高まっていることを窺わせた。

「これからは宇宙、そしてSFがアツイ」

筆者はそう予感した。

その後、少年サンデーで石渡治が「パスポート・ブルー」、ヤングアニマルであさりよしとおが「なつのロケット」と、相次いで宇宙モノの作品を連載開始し、この予感はじょじょに実現しつつあるかに思えた。が、2000年を迎えた現在、見回してみるとあんまり状況は変わっていないように思える。ヤングサンデーで山田芳裕が宇宙飛行士モノの連載「度胸星」をスタートさせたのが目立つくらいだ。

とはいえSF的な作品に良質なものがまったく現れていないわけでもない。ヤングチャンピオンで連載された富沢ひとし「エイリアン9」は、漫画マニアの間で大いに話題となった作品である。この作品の単行本第1巻が出たのが、2月のことであった。

小学校に襲来するエイリアンに対処する「エイリアン対策係」に任命されることになった少女たちの物語である本作は、そのキュートな少女たちの絵とは不釣り合いなほどにハードなSF的展開と、先が読めない物語構成でSF的志向を持つ読者の心をわしづかみにした。読者を不安にするような、たどたどしく時間が流れるコマ割り、演出の数々など、表現の面でも注目すべき点は多い。「エイリアン9」は、年内に全3巻が発行され、1999年を代表する一作となった。

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エイリアン9
『エイリアン9』1巻
(c)富沢ひとし

現在、学生の理系離れが進んでいると聞く。科学的なモノに興味を抱く人間が減っているのだ。これは日本にとっては由々しき事態だ。

ここで振り返ってみてもらいたい。手塚治虫「鉄腕アトム」が、いかに戦後日本の技術立国を支えた科学者たちにインスピレーションを与えてきたか。「宇宙戦艦ヤマト」「キャプテン・ハーロック」「銀河鉄道999」といった松本零士作品が、いかに人々を魅了してきたか。ドラえもんを作る日を夢見て科学の道を選んだ人間も、けっこういるはずだ。理系離れの進む今こそ、科学・未来・宇宙といったSF的なものに夢を馳せる漫画が求められているのである。

今こそ、SF漫画を描くべきときであり、読むべきときであり、読ませるべきときである。そんなことを感じた年のはじめであった。


  • 【雑誌】エースネクスト(角川書店) 創刊

    「新世紀エヴァンゲリオン」の掲載誌としても有名な少年エース系列の新雑誌。漫画マニア注目の作家陣と、大胆なメディアミックスを特徴とする。

  • 【雑誌】ステンシル(エニックス) 創刊

    コミックガンガンが好調に推移しているエニックスが少女漫画誌に参入。

  • 【雑誌】コミックビンゴ(文藝春秋) 休刊

    創刊当初は比古地朔弥「神様ゆるして」など、若手の注目作品も掲載されていたが、じょじょに勢いを失いついに休刊。

  • 【雑誌】ヤングマガジン赤/青BUTA増刊(講談社) 休刊

    3月に青BUTA、4月に赤BUTAが休刊。ヤングマガジン系で、ちょっと規格外ではあるがイキのいい新人を輩出し続けていた増刊。

  • 【雑誌】コミックバーズ(スコラ) 休刊

    スコラ社が営業停止。そのためマニア筋で一定の評価を得ていたコミックバーズも休刊となった。なお、コミックバーズはのちに編集部ごとすべてソニー・マガジンズに移籍し、そちらで復活を果たす。

  • 【単行本】「潜む声 鏡の中の遺書 その他の短編」 松本充代 アスペクト A5

    1998年にいったん休刊したガロ(青林堂)に掲載された短編などを中心に編まれた短編集。ストーカー的に執拗な女性の妄念を描かせると、松本充代は天下一品。ゾクリと寒気のする迫力があり、締めつけられるような読みごたえ。なお、コミックビームなどを発行しているアスペクトは、このような他社の雑誌で掲載され埋もれていた作品でも面白いものなら意欲的にピックアップし、単行本化する意欲的な姿勢が目立った出版社だ。

  • 【単行本】「でんせつの乙女」 こがわみさき 光文社 B6

    コミック・アイズに掲載された読切を集めた作品集。清涼感のある作画が印象的。非常に端整で、澄んだ泉を思い起こさせる透明感のあるファンタスティックな作風。

  • 【単行本】「オママゴト」 あめかすり ふゅーじょんぷろだくと A5

    エロ漫画方面での注目作品。硬質な線で描かれたゆらゆらと不安定で幻惑的な世界観など、新しい才能の芽生えを感じさせた。

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オママゴト
『オママゴト』
(c)あめかすり
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