タニグチリウイチの出没!
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タニグチリウイチの出没!

アートがキャラに

奈良キャラぬいぐるみ
ホント「奈良キャラキャッチャー」が欲しいなあ。どっかやらないかなあ。

ビジネスとしてキャラクターを越境させてく動きがある一方で、概念としてキャラクターを取り込んでいく動きがある。それがアートの世界。横浜美術館で8月11日からスタートした『奈良美智展 I DON'T MIND,IF YOU FORGET ME.』。奈良美智と言えば三白眼気味の子供を描いた作品とか、眠そうな顔をした犬の作品で人気の今が旬のアーティストだけど、こうした作品に使われているモチーフを、キャラクター化してグッズ展開していることでも知られている。

日本の美術館では初となった今回の大々的な個展では、そんな“奈良キャラ”へのファンの関心を逆手に取って、ファンに呼びかけて作ってもらい、送っもらったという“奈良キャラぬいぐるみ”を、「I DON'T MIND,IF YOU FORGET ME.」という言葉の、それぞれのアルファベットの形をした透明アクリルのケースに詰め込んで飾った作品や、鏡の前に“奈良キャラぬいぐるみ”を並べた作品を展示した。どれも見事に“奈良キャラ”している当たりに、フィギュアの分野で突出した才能を見せる日本の土壌を見た思い。出来のよいぬいぐるみを欲しがるファンに支持されて、『UFOキャッチャー』が発達した理由もよく分かる。

それにしてもな人気ぶり。Tシャツに時計にと製品化され市販されいている奈良美智キャラクターグッズの売れ行きもすさまじく、『ギフトショー』に出せばきっと版権の取り合いが起こるだろう。絵柄にキャラクター的な要素があったとはいえ、もともとはモチーフとして描いていたものがキャラクターとしてクローズアップされ、グッズにまでなってしまう状況は、アートというジャンルに権威を感じ、アート作品に敬意を抱いていた昔ではあまり考えられなかったこと。1億2000万総キャラクター化の国情で、アートのキャラクター化に拍車がかかっている、これがひとつのあらわれなのだろう。

キャラをアートに

アドバルーン
初の美術館での個展が東京現代美術館。ここまで来たかと感慨もひとしお。何も してないけど。

作品がキャラ化した奈良美智とは対称的に、キャラクターという概念をアート作品に持ち込んだのが村上隆。もはや説明無用の人だけど、とりあえず簡単に触れておくなら奈良美智と並んで現代アートの最先端を行く人気アーティストで、横浜美術館の『奈良美智展』に並行するように、これまた奈良美智と同様、日本の美術館では初の個展となる『村上隆 召喚するかドアを開けるか回復するか全滅するか展』を、8月25日から東京都現代美術館でスタートさせた。

かつて何億円もかけてマンガ(リキテンシュタインのこと)を買うなんて何事と怒られた東京都現代美術館。そこがマンガどころかスペルマ投げ縄フィギュア『マイ・ロンサム・カウボーイ』に乳縄跳びの『Hiropon』を2体並べて堂々と展示し、さらに女性器波動法が先端についた美少女変形飛行機作品、『S.M.Pko2』も3形態をすべてまとめて展示するという所業で、リキテンシュタインに激怒した人が見たら怒りで卒倒するんじゃないかと思うくらい、すさまじい展覧会になっている。

オタクが抱くキャラクターへの欲望を肥大化させ顕在化させたような作品は、キャラクターというが持つインパクトを、日頃はあまりキャラクターに接する機会のないアート界隈の人に、存分に見せつける役割を果たしただろう。『DOBくん』と呼ばれる、可愛いのか不気味なのか判然としないキャラクターをモチーフにした一連のシリーズは、キャラクターというものが持つ人の目に捉えられやすく、人の心に侵入していきやすい特徴を、あらためて感じさせてくれる。キャラクターから“文脈”を紡ぎだして感情を入れていく一般的な道筋を、逆さまにして“文脈”からキャラクターを作り出していく行為によって、人はどうしてキャラクターに惹かれるのか、あるいは反発するのかといった理由を、感じさせ分からせようとしている。

単なるカラーバリエーションの変化から、日本画的な塗りと削りの手法を取り入れイメージに差で違いをつけていた『DOBくん』のシリーズが、ベーシックな形から次第に融解し、目の数もどんどんと増えてぐちゃぐちゃになっていく変化を綴った『Mellting DOB』のシリーズをながめていると、差別化からひたすらに過剰な方向へと走るキャラクターの現状を示唆しているようで、作品的にも状況的にも興味をそそられる。もっとも、キャラクターの“浸透”と“拡散”を批評している『DOBくん』のシリーズ自体が、そのままキャラクターとして認知され、貪欲さのなかで消費された挙げ句、“浸透”と“拡散”の道を辿っていく可能性もあったりする。

DOBくん
対決は始まってまーす。

いたちごっこのようなキャラクターとの格闘の果てに、キャラクター文化の批評者として村上隆は勝利できるのか。それとも単なるキャラクターの生産者として消費され尽くしてしまうのか。消費されること自体を批評化してしまうこともあったりするから判断は難しいけれど、いずれにしても注目の人であることだけは間違いない。たぶん。◆

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