タニグチリウイチの出没!
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タニグチリウイチの出没!
タニグチリウイチ

「スポーツ」vs「オタク」

あくまでも。と前置きした上でイメージだけでとらえるなら、「スポーツ」と「オタク」は対立した概念だと思われているだろう。かたや明るい日差しの下で肉体を駆使して走り回るさわやかで健康的な人たちで、こなた家に閉じ籠もりっ切りでアニメーションを見たり、模型を組み立てたりゲームで徹夜したりする人たち。その生活態度に行動様式を比べるにつけ、両者の間には決して相容れることのない、暗くて広くて深くて大きなミゾがあるんだととらえられても不思議はない。

ワンフェス
3時間待って会場に入っても目当ての物を手に入れるにはさらに行列が必要。体力と忍耐力が鍛えられまくる

そんなことをいうんだったら、朝の始発で遠方からはるばる東京の有明へとかけつけて、夏は灼熱の太陽光の下、冬は吹きすさぶ寒風の中で4時間5時間並んでみろ、どれだけ体力を消耗するか分かるはずだと、チャラチャラとしてたりチンタラとしているだけのスポーツに、週末の数時間だけ勤しむ人たちに向かって叫びたくなる人が大勢いることは否定しない。即売会も間近に迫った3日3晩を徹夜してみろ、ゲーム機の前に36時間座り続けてみろと訴える声も同様。やってみれば分かる、あれは疲れる、接待ゴルフより草野球よりはるかに体力を消耗する。

それに最近は、体型でも雰囲気でも、健康と清潔のそれぞれに”不”の字がつきそうな人ばかりが、夏とか冬の湾岸地域に大集合する訳では決してない。見かけだけなら富士の裾野のロックフェスティバルとか湾岸の空き地をつかった人気バンドのコンサートに集まる男女と、そう大きくは違わない人が4時間5時間は大げさでも、1時間2時間くらいなら並んでは、「東京ビッグサイト」へと吸い込まれていく。ファッションだって随分変わった。靴なんて「NIKE」が標準だぜ、ってあんまり威張れた話でもないけれど、スポーツな人々にジト目で見られるほどのドンヨリとした空気はそこにはない。

にも関わらず。世間様の目はやっぱりスポーツに優しく、炎天下の中を暑苦しい長袖長ズボンを着込み、表現の自由とは縁遠い丸刈り頭で早朝から夜遅くまで球を打ったり捕ったりしている輩を、新聞もテレビも「さわやかだ」「美しい」「感動した」と褒めそやす。冗談じゃない。そんなにスポーツって素晴らしいものなのかい?スポーツイベントの会場はオタク系イベントなんか目じゃないくらいに汗くさかったり嘘臭かったり、異様だったり奇妙だったり萌え萌えだったりするんじゃないのかい?そんな疑問もこれありで、この夏いろいろな場所で開かれた、いろいろなスポーツのイベント会場をのぞいて来た。別に某『噂の眞相』で金子某がオープンカーに乗って女性をナンパしまくってるって話を読んで、スポーツライターの華やかさに憧れて転業を考えた訳じゃないぞ、きっと、たぶん……でもちょっとは羨ましい。

萌えよ「ラクロス」

いかん、それこそ「スポーツ」の幻想に魅入られている現れだ。さわやかだとか、健康的といったイメージの欺瞞性を白日のもとにさらけ出すのが今の使命。ならばということで、数あるスポーツの中でも最もチャラチャラとした印象を持たれている競技の会場へと赴いて、スポーツだからといって所詮はイメージに過ぎないんだってことを、この目でしっかと確認に出かけた。競技の名は「ラクロス」。そう、あのタータンチェックのスカートに白いポロシャツ姿といういかにも清純そうな服装をした女子大生たちが、手に捕虫網を持って走り回っては、ボールを投げたり受け止めたりしながらゴールを目指す、という競技。聞けば聞くほど”お嬢様のお遊戯”的な印象がむわむわと浮かび、フィールドを駆け回る選手の短いスカートからのぞく白い脚のイメージにむらむらとしてくる。

ラクロス
走って投げて捕ってパスしてシュートして。プレイして いる姿を見れば、華やかさはファッションだけだとよくわかる

ところがどうだ。6月17日に東京・西葛西にある江戸川陸上競技場で開催された『第13回ラクロス国際親善試合』に行って仰天した。なるほどスカート姿は可愛いけれど、むき出しになった脚は極限まで鍛えられ、陽にこんがりと焼けて黒光りして”萌え”の対象の対極を行っている。競技自体も決してチャラチャラなんてしていない。サッカーと同規模のフィールドを12人が手に決して軽くはない、捕虫網ならぬ「クロス」という道具を持ち走り回っている姿を見るにつけ、消耗するだろう体力の行列待ちなどとは比較にならない多さを感じて立ちくらみする。

ボールが入ったクロスを右に左に振りながら(「クレードリング」と言うラクロスに必須のテクニック。遠心力で網に入ったボールが吸い付いて叩かれても落ちなくなる)走り続けなくてはいけないから、脚だけでなく腕も結構大変みたい。相手の選手にチェックされたときにクロスが体に当たることもあるし、シュートだって速いと時速で100キロ超えることもあるそうで、正面から受けて立つゴーリー(ゴールキーパーのこと)もロングシュートを警戒するディフェンスの人も、そんなスピードへの恐怖を克服しなければ試合に勝利できない。男子に到っては、ヘルメット被ったスタイルからして肉弾戦の衝撃はアメフトとかラグビーに近いと言えそう。もともとがアメリカンインディアンの伝統競技だったという成り立ちから想像するに、生死すらかけて不思議のないものだったと想像できる。こりゃ適いません、3日3晩の徹夜くらいじゃ。vs「ラクロス」、敗北。

最初は可愛らしい格好に憧れて始めた人も少なくないだろうことは想像できる。けれども競技を続けているうちに、走るために足が、クロスを握るために腕がだんだんと頑丈になっていき、格闘に近いプレイを経て闘争心も育成されるだろうこのスポーツが送り出すのは、チャラチャラとしたお嬢様なんかじゃない1人の立派なアスリート。お見合なんかで釣書を読んで「趣味はラクロスですか、それは雅やかな」なんて思って結婚なんたした果てに喧嘩なんてしよーものなら、クロスではたかれ正確なクレードリングで運ばれたコップが飛んで来るからご用心。

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