タニグチリウイチの出没!
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タニグチリウイチの出没!
タニグチリウイチ

この世の中にはいったい幾つの「賞」があるんだろう? 世界的という意味では「ノーベル賞」が代表格だし、映画だったら「アカデミー賞」、日本には「日本アカデミー賞」。文学だったら「芥川賞」に「直木賞」なんかがあって、毎年受賞者なり受賞作品を送り出しては、その筋での“ナンバーワン”というお墨付きを与えている。身近なところだったら、1日も学校を休まなかった生徒に学校の先生が出す「皆勤賞」なんてものまで、とにかく人間がいっぱいいるところ、集まるところだったらどこにだってなにかしらの賞があって、それこそ分刻み、秒刻みで誰かから誰かへと賞がわたっていたりする。

人間はどうしてこんなに「賞」が好きなのか?と聞かれれば、ひとつには「もらってうれしいから」という、賞をもらう側の立場に立った理由が出てくるだろうけれど、一方には「贈ってうれしいから」という、賞を与える側の理由もある。ここでいう「うれしい」とは、なにも心情的な喜びを表すものには限らなくて、たとえば賞によってセールスが伸びたとかいった商売上のメリットなんかも含んでいたりするし、あるいはもっと精神的な、賞を出すことで賞そのものの価値なり、賞を主催している団体の権威なり、賞が代表しているジャンルの存在感を高めようとする、なにかしらの“意図”が成就することも含んでいる、と思う。

生まれてこのかた「賞」をもらったことなど皆無。かつ賞を与える立場なり、賞を選ぶ役割などにも就いたことがない人間の想像がどこまで正しいか分からないし、もしかすると嫉妬と妄想が賞にポジティブ、ネガティブの両面からいらない幻想を見せているのかもしれない。それでもこの何カ月かに見た賞をめぐるもろもろの状況から、やっぱり賞が、純粋に「贈ってうれしい」お中元なり、「もらってうれしい」お歳暮といったものとは違うニュアンスをはらんでいるような印象がある。それがいったい何なのかを、今回はちょっと考えてみた。

SFは運動なのか

「日本SF大賞」といえば、SF作家たちが作る団体「日本SF作家クラブ」が主催して、その年のいちばん優れた「SF」を選ぶ賞として、本好き・SF好きの人たちの間ではそれなりに知られている。はじまったのが1980年だから実に20年以上の歴史があって、受賞した人も小松左京、筒井康隆といったビッグネームから井上ひさし、宮部みゆきといった直接SF作家とは呼ばれないような人たちまで含んでいて、「SF」というジャンルが持つ多様性が、受賞作品のラインアップからうかがえる。

巽孝之さんを祝う会
「日本SF大賞」を受賞した巽孝之さんを祝う会。「無冠の帝王」と呼ばれた巽さんにSF界の法王・柴野択美さんから冠が授けられる。これは純粋に嬉しい”賞”だろう。

83年の「童夢」はマンガだし、96年の「ガメラ2」は映画、97年の「新世紀エヴァンゲリオン」はアニメーション。取ってないのはゲームくらいだけど、これも遠からず実現するだろう。その流れでいえば、2000年度の最優秀作品を決める「第21回日本SF大賞」に、巽孝之が編纂した『日本SF論争史』が選ばれること自体に不思議なところはない。「SF」というジャンルが存在するところに常に起こる「SFとは?」という疑問、そして論争。その歴史をたどって主要な論考を選び出し、適切な概説をつけた『日本SF論争史』が、「日本SF大賞」のいう「対象年度内に発表されたSF作品の中からもっともすぐれた業績」であり、「SF界の発展に寄与する」作品であることに異論はない。

ないけれどもただ、この年度の候補作に並々ならなぬパワーを持った小説のSF作品が並んでいたことが、話をややこしくしてしまった。SFといえばやっぱり小説。その小説を押しのけてまで授賞させる価値や意味のある評論だったか否か、という感覚がつきまとって離れなかった。そうした違和感が、実は意図的に選考委員たちによって醸し出されていたことが、3月に刊行された徳間書店の『SFJapan』選評を読んで判明。「賞」というものの、とりわけ「SF」という特定のジャンルを冠した賞が持つ、純粋な文学的尺度のみではない”運動”としての役割が、その選評からは浮かんでいた。

掲載された選評から想像するに小説としては菅浩江の『永遠の森』と池上永一の『レキオス』が抜けていて、例年だったら合議の中でどちらかに収斂していった可能性が高く、『日本SF論争史』は特別賞になって万人が納得感を覚える結果に収まったことだろう。けれどもそんな納得感こそが、微温的な空気の中で育まれ固定化してしまった、半ば馴れ合いの観念だったかもしれないということに気づかせてくれたのが、『SF Japan』に掲載された選評だった。>>次頁

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