TINAMIX REPORT
TINAMIX
『学園戦記ムリョウ』製作発表会レポート
篠田匡弘

「普通そうでいて実はちょっと普通ではない」作品を

原作・脚本・監督を一手に引き受けるのは、『機動戦艦ナデシコ』『飛べ!イサミ』でおなじみの、佐藤竜雄氏。ごく最近、異色のOVA『ねこじる草』を監督として手掛けた氏の、久々のTVシリーズである。

では一体、この「ムリョウ」、どんな作品なのだろうか。監督をはじめとしたスタッフが口にしたキーワード、それは「普通」。例えば監督の言葉を借りれば「普通そうでいて実はちょっと普通ではないというところを感じてもらえれば」といった具合にである。

ここ最近のTVアニメシリーズは、26話、モノによっては13話と短い。そうなると、当然消費のサイクルも短くなっていく。しかし、監督自身はその状況に疑問を感じているようだった。始まったと思うと、すぐに過ぎ去って、そして忘れ去られてしまうような作品であってはいけない。最初は地味でも、長く楽しめるような作品づくりを目指したい――そんな想いが、「普通」という言葉に、そして「ムリョウ」という作品には込められているのか。

そして注目すべきは、今回の「ムリョウ」では脚本、監督だけでなく、「原作」から、佐藤氏自身が手掛けているということ。氏の監督・脚本としての実力は過去の作品が証明しているので言うまでもないが、作品世界の創造を一から形にしていく佐藤氏の手腕を見ることが出来るのは、実は今回がはじめてである。まずはその点を押さえつつ、佐藤監督の目指す作品づくりに大いに着目していきたい。

「普通」のキャラクターデザインを目指す

近年、アニメのキャラクターは「ねこみみ」「緑色の髪」というようなキャラクター要素の集積で構築される傾向にある。「デ・ジ・キャラット」などがいい例である。確かに、これはたいへんわかりやすいのかも知れない。しかしその「わかりやすさ」は、あくまで一部の人間にのみ通じるものだ。その要素に込められた「意味」のみを解読できる者だけがアニメを楽しみ、それゆえに普段アニメを見ないような一般の人々にとっては、それらのキャラクターは奇妙なデザインの集合体としか認識できない。これは、彼ら一般の人々がアニメ作品を鑑賞する上での、致命的な足枷となる。

「ムリョウ」は、そんな「アニメだから……」という接頭句からはじまる視聴者の分割を可能な限り止めようとする姿勢が見える。「普通の大人が抵抗なく見られる、難しくないまっとうなアニメを」という吉松氏の言葉からも、意気込みが伺えるのだ。

その証拠に、「ムリョウ」のキャラクター表を見てもらいたい。ここに描かれた14人の中に誰ひとりとして、赤や青、緑といったアニメキャラ特有の鮮やかな髪の毛をした者は存在しない。それがたいへん象徴的だ。

「普通のキャラクターを普通に描く」ことのむずかしさ、そこにあえて挑戦していく吉松氏のキャラクターデザインに注目したい。

「ムリョウ」登場キャラクター
©佐藤竜雄・マッドハウス・Team MURYOU
「23年ぶり」・音楽は大野雄二氏

その名前は知らなくとも、氏の音楽を知らぬ者はいないはずだ。それがアニメファンであるないに関わらず。大野雄二――「ルパン三世」の音楽を手掛けた人物――と言えば納得して頂けるだろうか。

そんな大野氏のTVアニメ作品での登場は、前述の「ルパン三世」より17年ぶり、そしてルパン以外のTVアニメでは実に23年ぶりとなる。実は大野氏は、以前より手掛けていた「ルパン」等の作品を除き、長らく作曲活動を行なっていなかった。作曲家としてではなく、ジャズ・ピアニストとしての活動に力を入れたかったためである。

ではなぜ今回、実に23年ぶりという長い沈黙を破り、再びTVアニメ作品の音楽を担当するはこびとなったのか。

大野氏の起用は、総合プロデューサー・高原敦氏の熱意が実現したカタチとなった。

「いつか仕事をやることになったら、大野さんに仕事を頼みたい」

そう考えていたほど、大野氏の熱狂的ファンでもあった高原氏。「飛べ!イサミ」等の佐藤監督作品を大野氏の元に送るなど、粘り強い交渉を続けた結果である。そうした意味では、大野氏が「ムリョウ」の音楽を担当することはむしろ必然だったのかも知れない。

一方、大野氏は「ムリョウ」の「『ごく穏やかな日常』を丁寧に描いているところ」に魅力を感じたという。その魅力を音楽でさらに引き立てられれば――音楽からも「ムリョウ」の世界を拡げようと試みる、大野氏の仕事に期待が高まる。

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