網状言論Fレポート

セクシュアリティの変容


永山薫(漫画評論家) Kaoru,NAGAYAMA

1954 年、大阪生まれ。近畿大学卒業後、松岡正剛が主宰する工作舎遊塾に入るために上京。半年後、遊塾を離れ、会社を辞め、「月刊・宝島」「Billy」などで硬軟ごちゃまぜのライター生活に入る。現在は評論家、作家、編集者、漫画原作者。永山薫名義では主に漫画評論家、書評家、インタビュア、エロ漫画エヴァンジェリストとして活動中。長年にわたり年間千冊以上の新刊エロ漫画単行本のチェックを続け、漫画表現におけるセクシュアリティについて考察している。本名の福本義裕名義では長編サイバーパンク小説「アミューズメントボーイズ」(大陸書房)、長編評論「殺人者の科学」(作品社)などの著書がある。他にも様々なペンネームを駆使して暗躍中。ホームページ「永山薫の週刊少年バビロン」 http://picnic.to/~babylon/

1 )前提の確認

■創作物の読まれ方

視点は一つではないということ(スイッチングと同時多発と重層 的な欲望)。
意図的な誤読、変容、解体、再構築。
サンプリングする欲望。
一つの極点としての「萌え」。

■双方向的な創作物

作家個人が発表を前提とせずに創作した作品を除き、同人誌作品 を含め創作物はすべて商品としての側面を持つ。
商品である以上、市場のニーズとは無関係でいられない。
市場情報は主に編集者を介して作家へフィードバックされる。
市場情報をベースに売れ筋を模倣するキャラメル商法。
理想形は市場分析により需要を先取り、あるいは需要を創出する こと。
市場分析に拘泥して失敗した例もある。

2 )歴史の流れ

■エロティックな漫画の歴史

(校正なしの覚え書きですので、固有名詞、版元表記、創刊年などに錯誤があ るかもしれません。ご寛恕下さい)

戦後

カストリ雑誌の時代。
赤本。
手塚治虫デビュー(「マアチャンの日記」46 )。
「少年」(46 )
「漫画少年」(47 )

50年代

風俗雑誌。貸本漫画。漫画と実話とヌードグラビアの「土曜漫画」 「週刊漫画Time 」。
大人漫画誌の登場(「漫画タイム」白羊社・55 )。
劇画の登場(「影」56 )。
リアリズムとしての裸(白土三平「忍者武芸帳・影丸伝」59 )。
「週刊少年マガジン」「週刊少年サンデー」創刊(59 )

60年代

「漫画天国」(60 )
「ガロ」(青林堂・62 )
「平凡パンチ」(64 )
「COM 」(66 )
青年劇画の登場と台頭(「コミックマガジン」66 、「漫画アクショ ン」双葉社・67 、「ヤングコミック」少年画報社・67 、「漫画ゴラ ク」67 、「ビッグコミック」小学館・68 、「プレイコミック」秋田 書店・68 )
「土曜漫画」などの漫画誌へのシフト。実話、小説の代替物として のピンク漫画。笠間しろう、椋陽児、歌川大雅。
永井豪「ハレンチ学園」(68 )

70年代

風俗雑誌
「COM 」「ガロ」の影響力。
榊まさると石井隆の衝撃。
「エロトピア」(ワニマガジン社・73 )と「ヤングコミック」を中 心とするエロも含む青年劇画誌。三流劇画ブームの始まり。
少女漫画24 年組の台頭。萩尾望都「トーマの心臓」(74 )、竹宮恵 子「風と樹の詩」(76 )、後の「JUNE 」(サン出版・78 年)につな がって行く。やおいの源流の一つであると同時に、男性向け漫 画・劇画へも影響を与える。
第1 回コミケット(75 )
三流劇画論争。高取英、小谷哲、亀和田武による三大誌「エロジ ェニカ」(海潮社・75 )、「大快楽」(檸檬社・75 )、「劇画アリス」 (アリス出版)。性的題材の多様化(近親相姦、同性愛、サドマゾ ヒズム)。エロさえあればなんでもありという伝統。自販機雑誌ブ ーム。ほぼ並行してアニメ&SF ファンダムによるロリコンブーム。

80 年代:ロリコン革命

風俗雑誌 「レモンピープル」82 年2 月号創刊。
メカと美少女(H コミックシーンの戦闘美少女。後にロリコンア ニメの傑作「ポップチェイサー」(85 )さらには劇場作品「プロジ ェクトA 子」(86 )へとつながって行く。
劇画誌の退潮。絶滅したわけではなく高年齢化と相対的な減少。
ニューウェーブコミックとの融合(大塚英志の「漫画ブリッコ」 白夜書房・82 。中森明夫の「おたくの研究」83/6 〜。藤原カムイ、 岡崎京子、桜沢エリカ、あぽ(かがみあきら)、竹熊健太郎。86 年 に「漫画ホットミルク」へ)。非エロの「プチ・アップルパイ」 (82 )。
エロ漫画の単行本が売れる時代。劇画は単行本が売れない。読者 のコレクター、マニア化(オタク的行動)。単行本で雑誌の売り上 げをカバーできるため、雑誌の戦略が変わって行く。

80 年代中期:森山塔(山本直樹)の衝撃

森山塔「よい子の性教育」(松文館・85 )「とらわれペンギン」(辰 巳出版・86 )。シニカルなニヒリズム。
「ペンギンクラブ」(辰巳出版・86 )「ロリポップ」(笠倉出版社・ 86 )「ロリタッチ」(86 )
ロリコン漫画のマイナー化←→巨乳童顔化(ラブコメの文法)。そ もそもロリコンである必然はなかったため。グラフ誌を含むロリ コンブームには「裸を見たい」というサイレントマジョリティに 支えられていた。わたなべわたる「ドッキン美奈子先生!」(白夜 書房・87 )。

80 年代後半:第一機黄金時代撃

フタナリ&シーメールの小ブーム→鬼畜、身体改造系へも展開。
北御牧慶、魔北葵、
ファンダムでショタが登場。
戸山優編集「ビザールコレクション」(白夜書房・89 )。伝説的な アンソロジー。しのざき嶺の少年愛もの、北御牧慶のシーメール もの、別役礁の身体改造物。
「COMIC アットーテキ」(一水社・88 )、「ドルフィン」(司書房・89 ) 宮崎勤事件(88 〜89 )

90 年代初頭:冬の時代

有害コミック大弾圧(進化の停滞)
自主規制と成年コミックマーク。

90 年代中期

ショタ小ブーム(この前後から女性漫画家の台頭)。
第一回ショタケット(95 )
「アンダーカバーボーイズ」(茜新社・95 )
ロリコン・ブームの再現という側面も見逃せない。ショタ本ならば マークなしでという判断。やおい・ボーイズ系との相互乗り入れ。
可愛い男の子の時代。

90 年代後半

ショタの浸透と拡散。男×男の必然性が薄かったこと。可愛い男 の子が出てくればいい。やおい、JUNE 、ボーイズラブ系の男×男 の関係性萌えとは違っていた。
ネオ劇画(アニメ絵エロを経由し、過激な表現を志向した結果、 劇画的な絵を獲得。劇画とネオ劇画の関係は鮫とイルカのような もの。フォルムは似ているが別の種に属している)と萌え系ラブ コメ(旧来のラブコメ以上に内省的な部分も目立つ)へと二極化。 70 年代エロ劇画の再評価運動。

3 )読み取られるもの

■エロ漫画を欲望の鏡とするセクシュアリティの変貌

●マチズモからの解放と逃走
性的行為、趣味嗜好、表現の多様化。
強い男幻想が崩れて行く。
強くなくていい、弱くていい、受動的であっていい、キミはその ままで、ここにいていい。シンジ君的なボクたちの全肯定。
女性蔑視、女性嫌悪、女性忌避、ゲイフォビア、ホモソシアルは そのまま残っている。ショタ原理主義=幼年の王国への引きこも り。

●気持ちいい身体に仮託される欲望
性的対象としての身体から、自己投影の器としての身体へ。
受動態志向の欲望としての女性化願望は常に存在する。
気持ちいい「ボクの身体」としての巨乳、フタナリ、シーメール、 ショタ、ロリという見方が成り立つこと。「かわいいボク」さえい ればいいというオートエロティック。他人どころか自分の分身さ え必要としない。あるいは自分の分身は誰でもいい。可愛い男の 子が登場するからといって読者がホモセクシュアル的ないしはペ ドファイル的な欲望を刺激されているとは限らない。ロリあるい はショタの場合はインファンテリズムも含まれている。

【参考資料】
「別冊新評・三流劇画の世界」(新評社・79 )他

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