1 )前提の確認
■創作物の読まれ方
視点は一つではないということ(スイッチングと同時多発と重層
的な欲望)。
意図的な誤読、変容、解体、再構築。
サンプリングする欲望。
一つの極点としての「萌え」。
■双方向的な創作物
作家個人が発表を前提とせずに創作した作品を除き、同人誌作品
を含め創作物はすべて商品としての側面を持つ。
商品である以上、市場のニーズとは無関係でいられない。
市場情報は主に編集者を介して作家へフィードバックされる。
市場情報をベースに売れ筋を模倣するキャラメル商法。
理想形は市場分析により需要を先取り、あるいは需要を創出する
こと。
市場分析に拘泥して失敗した例もある。
2 )歴史の流れ
■エロティックな漫画の歴史
(校正なしの覚え書きですので、固有名詞、版元表記、創刊年などに錯誤があ
るかもしれません。ご寛恕下さい)
戦後
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カストリ雑誌の時代。
赤本。
手塚治虫デビュー(「マアチャンの日記」46 )。
「少年」(46 )
「漫画少年」(47 )
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50年代
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風俗雑誌。貸本漫画。漫画と実話とヌードグラビアの「土曜漫画」
「週刊漫画Time 」。
大人漫画誌の登場(「漫画タイム」白羊社・55 )。
劇画の登場(「影」56 )。
リアリズムとしての裸(白土三平「忍者武芸帳・影丸伝」59 )。
「週刊少年マガジン」「週刊少年サンデー」創刊(59 )
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60年代
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「漫画天国」(60 )
「ガロ」(青林堂・62 )
「平凡パンチ」(64 )
「COM 」(66 )
青年劇画の登場と台頭(「コミックマガジン」66 、「漫画アクショ
ン」双葉社・67 、「ヤングコミック」少年画報社・67 、「漫画ゴラ
ク」67 、「ビッグコミック」小学館・68 、「プレイコミック」秋田
書店・68 )
「土曜漫画」などの漫画誌へのシフト。実話、小説の代替物として
のピンク漫画。笠間しろう、椋陽児、歌川大雅。
永井豪「ハレンチ学園」(68 )
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70年代
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風俗雑誌
「COM 」「ガロ」の影響力。
榊まさると石井隆の衝撃。
「エロトピア」(ワニマガジン社・73 )と「ヤングコミック」を中
心とするエロも含む青年劇画誌。三流劇画ブームの始まり。
少女漫画24 年組の台頭。萩尾望都「トーマの心臓」(74 )、竹宮恵
子「風と樹の詩」(76 )、後の「JUNE 」(サン出版・78 年)につな
がって行く。やおいの源流の一つであると同時に、男性向け漫
画・劇画へも影響を与える。
第1 回コミケット(75 )
三流劇画論争。高取英、小谷哲、亀和田武による三大誌「エロジ
ェニカ」(海潮社・75 )、「大快楽」(檸檬社・75 )、「劇画アリス」
(アリス出版)。性的題材の多様化(近親相姦、同性愛、サドマゾ
ヒズム)。エロさえあればなんでもありという伝統。自販機雑誌ブ
ーム。ほぼ並行してアニメ&SF ファンダムによるロリコンブーム。
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80 年代:ロリコン革命
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風俗雑誌
「レモンピープル」82 年2 月号創刊。
メカと美少女(H コミックシーンの戦闘美少女。後にロリコンア
ニメの傑作「ポップチェイサー」(85 )さらには劇場作品「プロジ
ェクトA 子」(86 )へとつながって行く。
劇画誌の退潮。絶滅したわけではなく高年齢化と相対的な減少。
ニューウェーブコミックとの融合(大塚英志の「漫画ブリッコ」
白夜書房・82 。中森明夫の「おたくの研究」83/6 〜。藤原カムイ、
岡崎京子、桜沢エリカ、あぽ(かがみあきら)、竹熊健太郎。86 年
に「漫画ホットミルク」へ)。非エロの「プチ・アップルパイ」
(82 )。
エロ漫画の単行本が売れる時代。劇画は単行本が売れない。読者
のコレクター、マニア化(オタク的行動)。単行本で雑誌の売り上
げをカバーできるため、雑誌の戦略が変わって行く。
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80 年代中期:森山塔(山本直樹)の衝撃
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森山塔「よい子の性教育」(松文館・85 )「とらわれペンギン」(辰
巳出版・86 )。シニカルなニヒリズム。
「ペンギンクラブ」(辰巳出版・86 )「ロリポップ」(笠倉出版社・
86 )「ロリタッチ」(86 )
ロリコン漫画のマイナー化←→巨乳童顔化(ラブコメの文法)。そ
もそもロリコンである必然はなかったため。グラフ誌を含むロリ
コンブームには「裸を見たい」というサイレントマジョリティに
支えられていた。わたなべわたる「ドッキン美奈子先生!」(白夜
書房・87 )。
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80 年代後半:第一機黄金時代撃
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フタナリ&シーメールの小ブーム→鬼畜、身体改造系へも展開。
北御牧慶、魔北葵、
ファンダムでショタが登場。
戸山優編集「ビザールコレクション」(白夜書房・89 )。伝説的な
アンソロジー。しのざき嶺の少年愛もの、北御牧慶のシーメール
もの、別役礁の身体改造物。
「COMIC アットーテキ」(一水社・88 )、「ドルフィン」(司書房・89 )
宮崎勤事件(88 〜89 )
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90 年代初頭:冬の時代
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有害コミック大弾圧(進化の停滞)
自主規制と成年コミックマーク。
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90 年代中期
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ショタ小ブーム(この前後から女性漫画家の台頭)。
第一回ショタケット(95 )
「アンダーカバーボーイズ」(茜新社・95 )
ロリコン・ブームの再現という側面も見逃せない。ショタ本ならば
マークなしでという判断。やおい・ボーイズ系との相互乗り入れ。
可愛い男の子の時代。
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90 年代後半
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ショタの浸透と拡散。男×男の必然性が薄かったこと。可愛い男
の子が出てくればいい。やおい、JUNE 、ボーイズラブ系の男×男
の関係性萌えとは違っていた。
ネオ劇画(アニメ絵エロを経由し、過激な表現を志向した結果、
劇画的な絵を獲得。劇画とネオ劇画の関係は鮫とイルカのような
もの。フォルムは似ているが別の種に属している)と萌え系ラブ
コメ(旧来のラブコメ以上に内省的な部分も目立つ)へと二極化。
70 年代エロ劇画の再評価運動。
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3 )読み取られるもの
■エロ漫画を欲望の鏡とするセクシュアリティの変貌
●マチズモからの解放と逃走
性的行為、趣味嗜好、表現の多様化。
強い男幻想が崩れて行く。
強くなくていい、弱くていい、受動的であっていい、キミはその
ままで、ここにいていい。シンジ君的なボクたちの全肯定。
女性蔑視、女性嫌悪、女性忌避、ゲイフォビア、ホモソシアルは
そのまま残っている。ショタ原理主義=幼年の王国への引きこも
り。
●気持ちいい身体に仮託される欲望
性的対象としての身体から、自己投影の器としての身体へ。
受動態志向の欲望としての女性化願望は常に存在する。
気持ちいい「ボクの身体」としての巨乳、フタナリ、シーメール、
ショタ、ロリという見方が成り立つこと。「かわいいボク」さえい
ればいいというオートエロティック。他人どころか自分の分身さ
え必要としない。あるいは自分の分身は誰でもいい。可愛い男の
子が登場するからといって読者がホモセクシュアル的ないしはペ
ドファイル的な欲望を刺激されているとは限らない。ロリあるい
はショタの場合はインファンテリズムも含まれている。
【参考資料】
「別冊新評・三流劇画の世界」(新評社・79 )他