
Pity,Sympathy,and People discussing Me
伊藤剛(漫画評論家) Go,ITO
1967 年名古屋市生まれ。漫画評論家、鉱物愛好家。名古屋大学理学部地球科学科卒。データ通信会社で勤務。浦沢直樹氏のアシスタント、まんが家などを経て現在にいたる。現在『ビジュアルコミックアンソロジーCOCO 』(エンターブレイン)に編集者として参加。『コミック・ファン』(雑草社)などに執筆。編著書に「東海鉱物採集ガイドブック』(七賢出版)、寄稿書に「萬有ビンボー漫画大全』(祥伝社)、『アストロ球団メモリアル』(太田出版)など。
1 )前提となる問題の整理
- 東-斎藤の論点の齟齬
表現の問題と主体の問題
- 「萌え」概念の整理
- 「萌え」を媒介する表現/対象 による区分
図像萌え/位相萌え
断片化された「人格のようなもの」に対する所有欲
*以下、ほぼ図像で描かれたキャラクターについて論を進める
- セクシャリティ/フェティッシュ/萌え/感情/感情移入 の
弁別の要
- キャラクターは本質的に性差は描き得ない
- 「萌え(図像)要素」は、任意のフェティッシュ/セクシャリテ
ィと結びつきうる
例)デブ専ゲイ萌えキャラ
2 )90 年代前半・エヴァンゲリオン前夜の気分
- 「マンガがつまらなくなった」という言説-90 年代前半以降、
反復して語られた気分
- 「物語の喪失」という紋切型と、マンガの「読み」の多様化
- キャラクターに寄り添う、時間を共有するという「読み」の前
景化
- 「キャラに萌えるのはダメな奴」
その表現が問題である筈なのに、それを受容し消費する者の
人格の問題であるとされるという短絡
- いわゆるパロディ同人誌に対する、感情的な拒否反応
-何にいらだつのか-
3 )テキストとキャラクターの関係
- 80 年代以降のリミックスを成立させるもの
- テキスト内のキャラ同一性と、テキスト間のキャラ同一性
→fig.2
- テキスト内において、キャラの存在と時間的連続性は不可分
- 時間的連続性というコンテクストの共有と、キャラの自律化
4 )『新世紀エヴァンゲリオン』が提示したもの
- 人々の感情移入と萌え-ロックファンが大泣きする「エヴァ」
- オタクの問題をどうみるか
エヴァをオタクの閉鎖性の内破とみただけでは不十分
社会的な自己イメージの先取りと、感情表現の抑圧こそが
真の問題
- 碇シンジという「かわいそうなぼく」
無垢なるもの-よい子、弱い子、純粋な子-「赤い鳥」児
童文学運動(1920 年代)との連続
fig.2 テキスト内/テキスト間キャラ同一性
fig.1 フェティッシュ/萌え/感情移入
5 )戦闘美少女vs ピティ萌え
- 「キュート、プリティ、ピティ」
アメリカ人青年の萌えキャラ区別
- ピティ萌え~マルチ、ホシノルリ、綾波レイ~
「優しく抱きしめてあげたくなる」
"abused,neglected,and suffering in her childhood"
- けなげ、はかなげ、いたいけ
- 「萌え(図像)要素」は、任意の感情移入要素と結びつきうる
のか?
- 無垢なるものふたたび
ギャルゲー『Air 』
マンガ『愛人【AI‐ REN 】』
キャラ「偽春菜」同人誌群
近年のギャルゲーにおける「泣き」の前景化と、「無垢」の前
景化
- これらの魅力の因は、本当にトラウマなのか?
- 「逆恨み」と、事後的な説明として動員される「トラウマ幻想」
6)「動物化」をいう困難
- 動物化への抵抗
萌えに固有の問題→恥という感情
後から動員される「倫理」と、想像上の他者の視線に対する
怯え
- 「萌えフォビア」に由来するシニシズム→オタク第一世代のオ
タク密教の起源
- なにが連続し、なにが切断されているのか
7 )でも、生きていたい
- 大きな物語の喪失
社会的認証の喪失、希薄化→コムニタス状況
- 大人になる=自分になる という時代の困難
「子ども」の消滅? 新たな子ども観の必要
- 内なる欲望というストレスにどう耐えるか
【参考資料】
- 『愛人【AI‐ REN 】』1 巻~3 巻,田中ユタカ,白泉社(とくに第2
巻あとがき)
- 『「ごんぎつね」をめぐる謎子ども・文学・教科書』,府川源一
郎,教育出版,2000
- 『子ども観の近代『赤い鳥』と「童心」の理想』,河原和枝 中
公新書,1998

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