これこた
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14.「オタク」は部族だ

編集部:それは、オタク的な感性が一般化してきたということですか。

東:そう言ってもいいのかもしれない。ただそこで問題なのは、そもそも「オタク的なもの」って何だったのかということですよね。僕は「オタク」という言葉は、日本のサブカルチャーのなかで、80年代の半ばあたりに生まれたひとつのトライブ(部族)の名前として理解するべきだと思っているんです。オタクという言葉には、人格的に問題のある人一般を指したり、社交性のない人を指したり、何かのマニアを指したり、いろいろな意味があるんだけど、そういう意味で「オタクが一般化した」と考えていても、あまり生産的じゃない。問題は、80年代半ばあたりから、サブカルチャーのなかにひとつの大きな流れがあって、それが最初はメジャーメディアからは見えなかったのが、90年代に入って徐々に表面化し、そして『エヴァンゲリオン』があって現在に至る、という歴史的な動きですよね。「オタク」というのは、その文化的な系統を指すために使ったほうがいい。そしてそこで中核を占めているのが、マンガ、アニメ、SF、特撮、ゲーム、アイドル、コンピュータ、そのほかへの趣味なわけです。

編集部:部族ですか。

東:部族、トライブという言葉は、実は、イギリスの文化研究(カルチュラル・スタディーズ)から借りてきたものなんで、別の言葉で呼んでもいいと思いますけど。ただ、トライブという比喩も結構いいと思うんですよ。というのも、イギリスで「トライブ」と言われたのは、まずパンクやドレッドヘアだったらしいんです。彼らは単に音楽の趣味が一致しているというだけではなく、外見や居場所でも、自分たちの集団性を表現していた。それに相当するのは、やっぱり日本ではオタクなのかな、と。だって一時期のオタクというのは、それこそTVやマンガでよく戯画化されていたみたいに、一目見て「あああの人はオタクだ」と分かるような独特のファッションを持っていたわけじゃない。それに、東京だったらたとえば中央線と西武池袋線の沿線に多く住んでいて、繁華街では秋葉原に集まっている、みたいな場所の好みもはっきりしてますよね。コミケはお祭りだし。そう考えると、オタクはすごく部族性が高い(笑)。内部だけで独特の価値観で動いて、それも伝統芸能みたいなものでしょう。

ただ、そういうトライブは固定されたものじゃないですね。どんどん変わっていく。東京にいると、特にその変遷がよく分かりますよね。たとえば僕は、小学校の頃に塾が渋谷にあって、中学・高校は池尻、大学もつい最近まで駒場だったから、渋谷周辺には20年近く付き合いがあるんだけど、あそこは優勢なトライブがどんどん変わる街なんですよ。僕の記憶では、80年代半ばには青山系・DCブランド系だったのが、途中からストリート系になって、90年代にはコギャル系が台頭してきて、複数のトライブが錯綜して来た。そしていつのまにか、ユーロスペースの下にアニメイトが出来てたりして、異なるトライブ同士が妙に住み分けているような様子もある。こういう力関係は、ハイカルチャーとサブカルチャーを対立させているとなかなか見えにくいし、活字メディアには乗りにくいんだけど、実はすごく大事ですよね。


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