とまぁ、おおよそストーリー展開はわかってもらえたかと思う。要は、愛音ピンチ!が、この話の基本である。なお、ヒロインのピンチが少女漫画で描かれることについては、ミニコラムで考察されているので読んでいただきたい。
「なるほど、この漫画って突っ込みがいがあるバカ漫画なんですね」と考える人も多いかもしれない。まぁ突っ込みがいある漫画なんで、そう読んでも楽しめます。事実、インターネット上には、そういう突っ込みしてあげつらってるページが幾つかあるしね。
取っ掛かりは、突っ込み気分でもいい。とりあえず、手にしてもらいたい。多分読み進むにつれ、突っ込む気力すら失せてくるから。後に残るのは、デタラメに翻弄される快感だろう。
そう、新條まゆはデタラメを恐れていない。普通の漫画家なら「これやっちゃ嘘くさくなるよね」と意識的にリミッターをかけるものだ。しかし「快感・フレーズ」には、そういうリミッターをかけた形跡は見受けられない。「デタラメかどうかなんて構わない。とにかくおもしろい漫画を描きたい」という思い切りの良さに満ちているのだ。
その結果、この作品には少女漫画のクリシェが散在している。「運命の人」「有名芸能人と一般人の恋愛」「遊び慣れた男の純愛」「強引な人に弱いの」「実は金持ちの息子」「お姫様だっこ」etc...派手なセックスシーンに目を奪われがちだが、基本的には伝統的な少女漫画を踏襲している作品だ。そしてこの作品の成功は、少女漫画のクリシェがいまだ有効であることを証明した。こんな作品を90年代デビューの作家が描いてるってのは、ほんと奇跡である。
これって何だろう。そう思うと、ガレージパンクみたいなものかな?って気がしてきた。曲はありふれた3コードでいい、ガンガンにディストーションかけろ、とにかく大音量!!なんだか、「快感・フレーズ」の豪快さ加減に似てるぞ。でも、ビジュアル系バンドの漫画をガレージパンクに例えていいんだろうか!?
ええい、いいのだ。ガレージパンクのプリミティブな演奏からくる快感、それこそ快感のフレーズじゃないか!! 少女漫画のプリミティブな魅力が十二分に出てる作品、それこそ「快感・フレーズ」だ!! 決めた、今日から俺にとってリュシフェルはガレージパンク・バンド!!
デタラメを避けクリシェを避け、結果こじんまりとした漫画もいいだろう。ガラスのような繊細さに彩られた漫画だって悪いことない。でも人に薦めるなら、こういうガレージパンクのような豪快な漫画だ。人からどう突っ込まれても揺るぎようのない、泰然自若とした漫画だぞ、これ。