No.998304

フレームアームズ・ガール外伝~その大きな手で私を抱いて~ ep15

コマネチさん

ep15『ヒカルと量産型スティレット3』(中編)
 最初は名前も設定してないヒカルでしたが、イメージモデルのキャラクターはいました。十年近く前にやった女児向けアニメの脇役の高校三年生の男の子です。
お調子者でムードメーカーだったのは共通してたけど、ずいぶん離れちゃってモデルのキャラを見返してみるとちょっとやりすぎたかなと思ったり、ヒカルと違ってスケベじゃないしなぁ、
 ヒカルの製作経緯、および元ネタキャラの答えは後半に書きます。ヒントはケモナー

2019-07-06 19:00:56 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:638   閲覧ユーザー数:638

 スティレットが来てから数日がたった。

 

「おば様、こちらの食器はもう並べてもいいですか?」

 

 場所は夜6時半の台所、トマト鍋を煮込んでる母の後ろで、スティレットは母の手伝いをする。といってもスティレットの大きさからして小さな子供の様な手伝い位しか出来ないが、

 

「うんお願いね。悪いわね自分では食べられないのに」

 

 この数日で母はスティレットの事を、FAGとはどういうものか解っていった。

 

「いえ、人に仕えるのが私達人形の役割ですから」

 

 そう言い飛びながらスティレットは食器を並べていく。飛行用エンジンと、母の手直しした人形用服を身に着けている。スティレットにとってまず始めに打ち解けたのが母だった。

 

「ただいま。おぉ、もうすぐ夕飯か……」

 

 続けて台所へ中年の男が入ってくる。この家の家主である父だ。

 

「おかえりなさい、おじ様。今日もお仕事お疲れ様です」

 

 スティレットも目の前の相手に対して恭しくお辞儀をする

 

「あぁ、ただいまスティレット」

 

「鞄お持ちしますよ。くつろいでいてくださいね」

 

 そう言ってスティレットは父の鞄を持つと、朝あった場所へと戻すべく飛んでいく。

 

「なんだか若い子が増えたみたいで空気が明るいな……」

 

「へぇ……どうせ私は若くないですよーだ」

 

 父の感想に対して母は不機嫌そうに振り返る。

 

「や……そういう意味で言ったわけじゃ……」

 

 そういう父に対しすぐ不機嫌そうな表情を解く母、冗談だったらしく険悪な雰囲気はない。

 

「ま、空気が明るくなったってのは同意だわね。積極的に手伝ってくれて本当にいい子だわ」

 

「しかし、ヒカルに対してはどうなんだ?」

 

 ダイニングキッチンの椅子に座りながら言う父に、母はバツが悪そうに答える。

 

「あー、ヒカルにはね。相変わらずだわ」

 

 スティレットは父の鞄を部屋に置きながらキッチンに戻ろうとする。と、そこへ、

 

「ただいまー」

 

 玄関を開けてヒカルが帰ってきた。バスケの部活帰りだ。

 

「あっ……」

 

 姿は見てないが、声でスティレットは気が付いた。今のスティレットには気まずさがある。エロ本の事をまだ引きずってるのだ。ヒカルを避けるべきかどうするか考えてると、ヒカルがやってくる。今のスティレットが立っているのは洗面所の前の通路だ。手を洗いにここを必ず通る。と、二人は鉢合わせした。

 

「ただいま」

 

 ヒカルの方は普通に声をかける。スティレットの方もおかえりと返そうとするが、前日のエロ本のビジョンがフラッシュバックする。すぐさまスティレットの顔面は真っ赤になる。

 

「ぉ……」

 

 おかえりと返そうとするがスティレットは恥ずかしさのあまり無言でその場から飛んでいった。

 

「ぁ……今日も駄目か」

 

 残念そうに呟くヒカル。その様子を両親二人は物陰から覗いていた。

 

「ご覧のとおりよ。スティ子ちゃん、エッチな本を免疫なしで見ちゃったせいか。あぁやってヒカルを避けちゃって」

 

「本当に人間みたいだな……。主人として登録したのはヒカルだというのに……」

 

「こそこそ何してんだよ二人して……」

 

 そんな両親の奇行にヒカルは不快そうに言葉を返した。馬鹿にされてる様にヒカルは感じたからだった。

 

「あ、何でもないわよ何でもー。それよりも晩御飯だから早く手を洗っていらっしゃーい。今日はウド入りトマト鍋よー」

 

「げぇ!またトマトとウドかよ!」

 

今度は不満そうな顔でヒカルは返す。

 

「はい好き嫌いしないー。懸賞でウドとトマトのセットで当たったんだからさっさと食べないといけないんだからー」

 

――……それにスティレットの機嫌も直ってないのに、こんな呑気にメシなんて……――

 

 そう心の中でぼやいた。とはいってもスティレットが飲食できないのはヒカルもよく知っている。自分が食べるかどうかは全くの別問題だった。

 

――

 

 そして夜も更けて……。現在午前0時。

 

「ぁー、眠い」

 

 ふぁぁ……、と欠伸をするパジャマ姿の母。就寝の準備を終えた母が自室に戻ろうとする。と、廊下から光の漏れる部屋を見つけた。ドアが少しだけ開いている。ヒカルの部屋だ。ばれない様にそっと母はヒカルの部屋を覗いた。

 

「……あぁー。なんでこうなるかなぁ……」

 

 不機嫌そうに頬杖をついて机に向かっているヒカルが見えた。来週から期末試験だ。その為ヒカルは時間を縫って試験勉強をしなければならない。しかしうまくはかどってないのは簡単に予想できた。何時もの事だったから。

 

――……無駄な努力にならないといいけどねー――

 

 正直母はあまりヒカルの頭に期待してない。頑張ってほしいと思うのは母親として当然の考えではあるが……。そんな母の考えを知ってか知らずか、ヒカルは頭をワシャワシャとかきまくる。

 そのまま母は自分と夫の寝室に向かう。部屋の中、並べられた二人分の布団では、片方の布団で夫は静かな寝息を立てて寝ており、

 

「お疲れ様です。おば様」

 

 棚の上で起きていたスティレットが飛んで母を出迎えた。今の彼女は素体とエンジンのみを装備、彼女は充電とスリープモードはヒカルの部屋でなくここでしている。部屋は真っ暗ではなく常夜灯がついており相手の距離間は問題なくつかめた。

 

「まだ起きていたのね。ヒカルの部屋にいればもう少し好き勝手できるわよ?」

 

「あ……迷惑でしたか?」

 

「そうじゃないけど、暇でしょ?お父さんはすぐ寝ちゃうから大きい音も出せないでしょうに、こんな暗いんじゃ部屋の本だって読めないじゃない」

 

 そう、スティレットはヒカルを避けてこっちの部屋で生活してる。

 

「だって……そ、そういう気分なんです……」

 

「ヒカルがエッチな本を持っていたから怖いの?自分が襲われるんじゃないかって」

 

「それは……」

 

 違う、と答えようとしているのだが、原因はそれだと言うのが簡単に予想できた。

 

「純情ねー。男なんて皆エッチなのにー」

 

「で、でも恥ずかしいです……私がやらしい目で見られてるんじゃないかって思って」

 

「そんな恰好してんじゃ皆そう思うわよ」

 

「うぅ……」

 

 なにか言い返そうとするが、言い返せないスティレット。自分の恰好がそういう物だと自覚は出来てきたようだ。

 

「……可笑しいですよね……。自分は人形なのに……。ヒカルさんの事、考えてる事が解らない……」

 

 スティレットとしては、ヒカルの考えてる事が解らない。

 

「でも、あなたは自分の事捨てていいって言わなくなった。って事は、ここにはいたいって事でしょう?」

 

「それは……自分でも解りません……」

 

「とにかくヒカルと一緒にいなきゃアイツの事なんてわかりゃしないでしょうに。どうしたもんかねー」

 

 少しの間考える素振りを見せる。母、そしてある事が思いついた。

 

「そうだわスティ子ちゃん!今週の週末付き合いなさい!!」

 

「え?」

 

 

 そしてその週の日曜日、それは決行された。三人は母の運転する車の中だ。

 

「明日試験だっていうのになんで俺が駆り出されるんだよ~」

 

 助手席のヒカルは不満たらたらだった。明日は期末試験で最後の追い込みの日だと言うのに付き合わされたわけだ。

 

「どうせ途中で遊んじゃうんでしょ?だったら私に付き合いなさい」

 

「実の息子に対してそういう事言うなよ。グレるぞ」

 

「駄目よ。親にそういう事言っちゃ」

 

 ヒカルを注意したのは母ではない。後部座席に座ったスティレットだ。チャイルドシートの様につけられた充電君に座っていた。

 

「ったく、俺以外に対しては心開いてるんだから……」

 

 少しは打ち解けてくれた事による嬉しさと、自分に対して避けてる寂しさを感じながらヒカルはそう呟く。

 

「それはそうとどこ行くんだよ。ここ隣町だろ?」

 

「後少しよ。と、見えてきたわね」

 

 母が目的地らしき場所を視線で示した。大通りに面したショッピングモールだ。休日だけあって周辺はここに寄るであろう車が非常に多い。

 

「モールね……。要するにだ、バーゲンセールに俺達に荷物持ちして欲しいって事かよ」

 

「おしい。正確にはクリアランスセールよ。家で引きこもってるより外の空気吸ってた方がいいでしょ?お母さんね。今日はお父さんと飲み会行ってくるから着る物探しに丁度良かったわ」

 

「普通子供の成績下がったら親は悲しむもんだろ?」

 

「そんな事よりヒカル。今日ね、私達家にいないから、遅くまでスティ子ちゃんと二人っきりなの。この意味が解る?」

 

『っっ!!!変な事言うな!!!(言わないでください)!!!』

 

「アハハ、息ぴったりね。はい、もうつくから切り替えていきましょー。ってあれ?」

 

 二人を完全に手玉に取っていた母、だが前を見ていると予想外と言わんばかりの声を上げた。

 

「どうしたんだよ。あ、あれか」

 

 感づいたヒカルが指さした場所。丁度モールの駐車場入口部分が道路工事で通れなくなっていた。

 

「まいったなぁ。迂回しないといけないわね。……あの渋滞の先か」

 

 迂回路であろうモールに沿った道路、交差点ギリギリまで渋滞でつっかえてる自動車が見えた。あそこへついて行けばモールへ行けるだろうが、相当な時間がかかるのは容易に予想できた。

 

「なぁ、あの渋滞ついて行ってバーゲンの開始に間に合うのかよ」

 

「ぐぬぬ……」

 

「あの!次の信号の交差点。モールと反対側行ってもらえますか?!」

 

 その時、充電君から降り、飛行装備を取り付けたスティレットが、運転席の背もたれに乗りながら指定方向を指さした。

 

「ここの駐車場。目立ってないんですけど第二、第三駐車場があるんです!マイナーで気づかない人も多いから、もしかしたら空いてるスペースあるかも!」

 

「っ!スティ子ちゃん偉い!!よっし行くわよ!!!」

 

 若干諦めムードだった母の目に闘志が宿る。……反面ヒカルの方はスティレットに対して思っていた事がある。

 

「この街って、お前まさか……」

 

「車が発進するから後でね」

 

 そう言いながらスティレットは充電君の所へ戻っていった。

 

 

 スティレットの指摘通りに第二駐車場へと移動し、空きスペースは見つかり、どうにかバーゲンの開始時間には間に合った。ヒカルとその横で立つスティレット。二人の視線の先にはモール内バーゲン会場の大型ワゴンに群がり、商品をむさぼる年配女性たちの姿が……。

 

「……ねぇ、いいの?おば様の手伝いをしなくて」

 

「いいんだよ。こうしてじきに待ってりゃ」

 

 ヒカルがそう言うと、背中を向けていた母が衣服を後方にポーンと投げ出す。

 

「ほら来た!」

 

 そう言うとヒカルはバスケのパスを受け取る要領で飛んできた衣類を受け取る。次々と衣類が飛んでくるとヒカルは次々とキャッチしていく。

 

「はぁ……器用なもんね」

 

「バスケ部やってるからな俺、と、しかしこのペースは……」

 

 しかしヒカルの都合はお構いなしに母はセール品の衣類を投げ続けていく。受け取り続けるヒカルも商品が山盛りになっていき、動きにも影響が出てくる。次第に手で受け取る動作は山になった衣類の上に乗せる動きになっていった。

 

「ま!まだあんのかよ!」

 

 山は視界を塞いでしまう程の高さになってしまった。そこから追い打ちとばかりに母が投げたであろう衣服が飛んでくる。思う様に動けない今の状況ではそれもままならない。

 

――やっべ。見えねぇ。間に合わない――

 

 この動きでは乗せられないとヒカルは心の中で吐き捨てる。が、スティレットが上空の衣類をキャッチし、ヒカルの山の上に乗せた。

 

「しゃんとなさい。そんな状態で落としたら拾うのもままならないでしょう?」

 

「あ、あぁ、ありがとう……」

 

「勘違いしないで、おば様の為なんだからね」

 

 そっぽをむきながらスティレットは洗濯物の上に座った。ツンデレの常套句だが、今のスティレットが言ってるのははたして本心か。そしてすぐさま母が欲しい物を仕入れ終わったのだろう。満面の笑顔でこちらへ来た。

 

「やー、大量大量。それじゃレジへ行きましょうか」

 

「お役に立てて光栄ですわおば様」

 

「ったく、買いすぎだよ母さん。飲み会に着ていくだけの分じゃないだろこれ!」

 

「はい怒らない。昼ご飯奢ってあげるから」

 

 そう言って三人はレジに並び会計を済ませた。と言っても相も変わらずヒカルの方がいくつもの紙袋を持った荷物持ちのままであったが。

 

「なぁスティレット」

 

 ヒカルは気になった事があるのでスティレットに聞いてみる。彼女はヒカルと母の間の空間をホバリングで飛んでいた。

 

「さっき聞きそびれた事だけど、この街ってまさか……」

 

「……そうよ。私が前のマスターと一緒に住んでいた街」

 

「そうなんだ……スティ子ちゃん。……ごめんね、嫌な事思い出させちゃったかしら?」

 

 母の方も感づいていた様だ。若干申し訳なさそうに言う。

 

「良いんですおば様、所詮人形の私達にそう言った気遣いは無用ですわ」

 

 そう言いながらスティレットは更に高くふよふよと飛び立つ。3m程の高さに達すると、辺りを見回し人ごみを見回した。

 

「まだ一か月も経ってないのに。まるで随分と昔の様ですわ。風景なんでまるで変ってないのに……ん?」

 

 ふと、飛んでいたスティレットは突然目の色が変わった。何かにハッと驚いたようだ。それは見ていたヒカル達も理解出来た。

 

「スティレット?どうした?」

 

「……あの人!!」

 

 さっきとはまるで違うスピードでスティレットは飛んでいく。ヒカルは驚きながらも後を追いかけた。

 

「スティレット!どうしたんだよ!」

 

 暫くして人ごみの中にスティレットはいた。ホバリングで通路のど真ん中に陣取り。必死に辺りを見回して誰かを探していた様だ。

 

「どこ!ねえ!どこにいるの?!」

 

「何を見たんだよお前!」

 

 ヒカルの呼びかけに答えずにスティレットは周囲を見回しながら叫び続ける。

 

「マスター!!返事をして!声を聞かせて!」

 

「っ!?見たのか?!お前!」

 

 しかし人ごみはスティレットの叫びを無視しながら蠢くのみ。それでもスティレットは諦めずに叫び続ける。だが暫くしてスティレットの方も、もう無駄だとうな垂れた。

 

「マスター……どうして……」

 

「スティレット……」

 

 スティレットを慰めようとしたヒカルだが、同時にショックでもあった。まだ自分をマスターと呼んでない上に、血眼になって前のマスターを探した……。それはまだスティレットの中で自分をマスターと認めていない事だったからだ。

 

「ちょっとちょっと!どうしたのよ突然!」

 

 母も二人を追いかけてきた。

 

「どうして……どうして私を捨てたんですか!マスタァーッ!!」

 

 モール内に、一人の少女の叫びが木霊した。

 

 

 そして帰りの車の中にて、……あの後、ずっとスティレットは沈んだままで、ヒカルと母の弁当を買った後にそのまま帰路についた。

 

「……」

 

 スティレットは無言でボーッとしていた。場を明るくしようと母が何度かスティレットに話しかけたが、単調な返事位しか返ってこず、車内は若干の気まずさに満ちていた。

 

「……なぁスティレット……」

 

 ある信号待ちで、この雰囲気にヒカルはたまらずスティレットに話しかける。

 

「……懐かしいわねこの道路」

 

 いつの間にかスティレットは充電君から離れて窓から外を覗いていた。そして外の白い家を指さす。

 

「見てよあの塀に囲まれた家、あそこで私とマスターは、お父様とお母様と暮らしていたの」

 

 スティレットの示す先、ここら一帯では一番大きい家だった。お金持ちの家なのだろう。

 

「使用人もいてね……。マスターが学校へ行く時は私も『いってらっしゃいませ』って見送って……。帰ってくる時も一緒に『おかえりなさいませ』って……」

 

「もういい。それ以上言うな」

 

 イラついた様に後ろのスティレットに向きながらヒカルは言う。

 

「スティ子ちゃん、ごめんね……」

 

 母もこの結果にはさすがに自分の行為を反省した。本来はヒカルとスティレットにコミュニケーションを取らせて二人の距離間を近づける算段だったのだが。

 

「……裏目に出ちゃいましたねぇおば様。私とヒカルさんを仲良くさせようって腹積もりだったんでしょうけどぉ」

 

 一番信用していた母にすらスティレットは感情をぶつけだす。

 

「スティレット……いい加減にしろよ」

 

 見かねたヒカルが口を開く。声は静かな怒りに満ちていた。

 

「あらぁ?ママを馬鹿にされて怒った?」

 

「俺を馬鹿にするんならいいわ。でもお前を気にかけてくれた母さんにまでそんな事を言うんじゃない!」

 

「気にかけて?ハッ!誰がしてくれって頼んだのよ!こっちはいい迷惑よ!!それでうんざりして何が悪いっていうのよ!!!」

 

「うんざりじゃねぇだろ!!お前は……自分が捨てられたって事を認めたくないだけだろうが!!」

 

「っ!!うるさい!!あんたに何が解るっていうのよ!!信じてたのに!!最後まで信じようとしたのに!!!……一番の味方だったのに……!!!」

 

 最後の言葉は叫びではなく、血の出そうな位に絞り出した口調だった。

 

「お前……」

 

 と、その時だった。母は運転中の車のクラクションを鳴らした。大きな音が外と内側に響く。

 

『っ!!』

 

 外に鳴らす理由になる物は見当らない、二人の喧嘩の仲裁の為というのは明らかだった。

 

「二人とも、運転中は静かにね」

 

 その横やりで、続きをする気持ちは二人とも萎えた。この時の二人の喧嘩はひとまず終わった。

 

――……まだ信じていたいのね。スティ子ちゃん……――

 

 平静を装っていた母は誰に言うでもなく。心の中でそう呟いた。

 

 

「それじゃあお母さん、飲み会行ってくるから」

 

 家に帰ってきて、夕方近くなり両親が共に飲み会に出かける時間になった。玄関にてヒカルは出ていこうとする両親を見送る。……その場にスティレットはいなかった。

 

「あぁ行ってらっしゃい。……なぁ母ちゃん。スティレットの事……どうすればいいんだろう」

 

 その後家に帰ってきても、スティレットはずっと同じテンションのままだった。充電君に繋がれ、更に人形用布団に包まり、ふて寝していた。

 

「あんたが見捨てない限りは、まだ望みはあるわ。信じ続けなさい」

 

「時間、かかるだろうなぁ……」

 

 そう言ったヒカルに、沈黙していた父が口を開く。

 

「ヒカル。そんなもんだ。男は女が必要としてる時に動けばいい」

 

「父さん……」

 

 蚊帳の外、と思いきや自己主張の少ない父もこっちを思ってくれていたらしい。ヒカルとしてはそれが嬉しかった。

 

「必要としてる時ねぇ、私としては毎日家事を手伝って欲しいんですけどー」

 

 心当たりのある男二人は気まずそうに互いを見合わせる。

 

「うぅ……感謝してます」

 

「ただね……ヒカル」

 

「何だよ」

 

「あの子、捨てたマスターって人の事、まだ信じようとしてるわねあれは……これを取り除くのは容易じゃないわよ」

 

「……だとしてもさ。たくさんの人が心配してくれてるって事位、アイツも自覚してほしいもんだよ。前の所じゃいつも見送ってたとか言ってたのに見送りにも来ないなんて」

 

「ま、今は一人にさせておきなさい。帰ってくるのは11時位になるからね、行ってきまーす」

 

 いってらっしゃいと二人を見送ったヒカル。と、いつまでもふてくされてるであろうスティレットが気になるのは当然の事だ。

 

「ちょっと様子を見てみるか」

 

 そう言ってヒカルは階段をかけ上がり両親の部屋に入る。

 

「スティレット。母さん達出かけたから……その……悪かったな」

 

 何かコミュニケーションがとりたかった。部屋に入るなりスティレットに声をかける。しかし……。

 

「?スティレット?」

 

 部屋にはいない。充電君と、くるまっていたであろう布団が、ぱたぱたと風をうけてなびいていた。ヒカルは一瞬で違和感に気づいた。外から風が入っている。窓を見ると開いていた。外には雨の降りそうな曇天が広がっていた。

 

「まさか……」

 

 その日、スティレットは家を出ていった……。


 
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