ガイダンスばっかりの数日は、あっという間に過ぎた。
教科書の配布、学校案内、それから部活説明会、とかとか。
その間も、木谷さんはことあるごとに私に生徒会での活躍を、
それこそくどいくらに勧めて来たけど、それを除けば、まぁ、
いい友達関係を築けてるんじゃないかと思う。
楓との仲は相変わらずで、クラスでも友達が出来たみたいだけど、
私との付き合いも相変わらずだし、木谷さんともそこそこ仲良くしてるみたいだ。
私はと言えば、相変わらず木谷さん以外の友達はできないでいるけど、
たまに、話しかけられる事はある。
と言っても、話題がこの前髪の事だから、ちょっと気になるけど。
一度ぱっつんにしちゃうと、なんとなく他の前髪にし辛いと言うか…
それほど伸びたわけでもないんだけど、木谷さんが気に入ったと言ってくれたし、
まぁいいか、くらいに思う。
絶対、どっかのタイミングでイメチェンしてやるけど。
そして今はガイダンス最終日、最後の休み時間。
この日はなぜか木谷さんが私の髪を触りまくって来る。
ん? そんなに障り心地のいいもんじゃないはずだけど。
手入れに手間がかかる分、バサバサになってる部分はあるだろうから。
「はぁ~、いい髪」
「ちょっと、そんないいものじゃないよ? 何しろ入学式当日に
切りすぎた前髪だし」
とはいえ、コンプレックスを気に入ったと言ってくれたその意見は、
今でも変わらないらしい。だから、ありがたくはあるんだけど…
「好み好み♪ ほら、私なんて生まれつきちょっと茶色いし、短いしね」
どうやら、私みたいな黒くてストレートな髪質になりたかったらしいんだけど、
こっちはこっちで日本的過ぎて、茶色くしたかったくらいだ。
「髪の交換が出来たらいいのにね~」
「倉橋さんは、染めたかったんだっけ? うちの中学厳しかったから、
そんないいもんじゃなかったよ?」
むむむ。無い物ねだりか。
「それに、前髪ぱっつんもそうだけど、そうやって髪を伸ばしてるのは、
明らかに自分が選んだスタイルでしょ?」
「ま、まぁ」
似合うと言うか…髪が伸びるの早いし…真っ黒だし…日本人形が唯一?
といってもいいほどの選択肢だからな…
「真っ黒でつやつやで太くて、その割にうねってないんだから、これは自慢すべきね!」
「じ、自慢って…手入れ大変なんだから!」
それでも短くしないのは、小さなこだわりなわけだけど…
「私だって、手入れしてるけど?」
「それはそうだろうけど、そんなもんじゃなくてさ!」
言っても通じないだろうなー。深追いするとどうしても面倒になるし。
「ふむ。じゃあ、後で楓さんの意見も訊いてみよう」
「え、楓? なんで楓が…」
そういえば、どういうわけだか木谷さんは楓の事を「楓さん」て呼ぶなぁ。
私なんて、いまだに「倉橋さん」なのに。
「前からの友達なんだから、その意見は聞いてみたいっす」
「そ、そういうもの?」
ま、いいか…楓の意見は私にとって毒になる物でもないし…
「じゃ、授業後だね」
「だ、だねぇ」
そうして、私達はチャイムが鳴るのをただただ聴いていた。
もちろん、するりするりと私の髪を木谷さんの手から抜いて。
~つづく~
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第10回