No.99557

真剣に私に恋しなさい! 外伝『川神の永い夜』 第四幕 

きささげさん

夏はもう過ぎていますが、話の中ではこれから
暑く、そして熱い時が流れていきます。

せめて服装くらいは涼やかな格好でというのは
思いやり…… ではありませんorz

2009-10-07 20:15:59 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5467   閲覧ユーザー数:4700

 

 期末前の金曜集会とあって、今日は放課後間もなくからほとんどのメンバーが基地に集まっていた。今いないのはバイトで遅れるキャップだけだ。

「今日の議題といえば、もちろんアレだよなー大和?」

 試験前だというのに妙にテンションが高い姉さんが寄ってくる。

「うう、わかっていてもお勉強はいやだわー。アタシだけ試験が運動だったらいいのにな~」

「まったくだぜ。それだった俺様も毎回トップクラスの成績を維持できるんだがなー」

「おお、それはいいなー。そうすりゃ私なんて確実に学年トップだ… じゃなくてだな。試験は試験でまあ何とかするとして、私が待っていたのはそんなことじゃないんだ」

「あれ? てっきり期末のことだとばかり思ってたけど、大和は何か別のことを?」

 興味ありげといった感じでモロが聞いてくる。

「まあ、言いたいことはあるんだけど… キャップが来てからかな。それまでは試験の対策を先にやっておこう。こっちがおろそかになったら本末転倒だし」

「むー、つまらん。じゃあキャップが来るまで昼寝でもしようかな…」

 ぶーたれた姉さんはとりあえず放置しておこう、うん。

 にしても、補習でワン子やガクト、姉さんが不参加なんてことになったら目も当てられないからなぁ。クリスは普段の様子を見る限り心配はないとして、後はまゆっちか。

「まゆっちは入学して初めての試験になるだろうけど、成績は大丈夫そう?」

「オイオイこのクレバーかつビューティホーなガールを捕まえて大丈夫そうとはご挨拶だなー。まゆっちは学問だってパーフェクトなんだZE」

「ええ、幼い頃から友達もいませんでしたし、家の手伝いと剣の修行以外はもっぱら勉強ばかりしていましたし」 

 いい終わるとほぼ同時に「あふぅ」と声を漏らして滝のような涙を流すまゆっち。

「…おかげさまで試験については殆ど問題ないといえます……」

「う、うん… それは、よかった?」

 半疑問で答えずにはいられなかった。

「まったく、普段から少しずつでも勉強していればこんな事にはならないというのに。犬はいつも宿題を京に頼りすぎるからこうなるんだ。文武両道の精神を持ってこそ、川神院の一門ではないのか?」

「ぶ、ブンブリョードー? ルー師範代やじーちゃんにもたまにいわれるけど、アタシにはムツカシイ相談だわ。アタシは自分の力を充分に理解した上で、できないことは素直にできる人を頼る。大和にはそう教えられたし」

「それは甘えだ。大和、お前の教育は間違っているぞ。たとえ勉強のこととはいえ、まずは自力でやれるところまでやってみる。そうして自分の限界を知った上で、及ばぬ部分については他からの助力を請うべきではないのか?」

「クリス、初めは私達もそう思っていたの。でもね、ワン子の頭は私達の想像をはるかに超えていたんだよ…」

「そ、そうなのか?」

 戸惑うような視線で俺たちを見るクリスに、モロと俺は静かに首を横に振った。

「犬…… すまなかった。お前も苦労していたんだな」

「な、なーんか視線がやけに生暖かいんだけど… まあいいわ。そういうワケだから、アタシはこれからもこのままでいくつもりよっ! ……そりゃあ今日みたいな日が来るたびに、もーちょっとだけマジメにやっておけばよかったかなーって思うこともあるけどさ」

「ま、今さらって感じがするよね。ワン子はそうやって今日まで来てるんだから、いきなり変えろって言われても難しい話だと思うしさ。クリスも言いたいことはあるだろうけど、わかってもらえると助かるよ」

「ああ。ファミリーに入れてもらってからというもの、私の感覚では理解しずらいことがたくさんあったからな。意見を言うことを辞めるつもりはないが、理解できないからといってそれをないがしろにするような事はもうしないさ」

 と、話にも一区切りついたところを見計らっていたかのようにドアが開けられる。

「おーす、お前ら待たせたな! 今日もハラペコ共のために俺がバイトでの残り物をもってきてやったぜー! どーせ試験勉強でもしてたんだろうが、腹ごしらえも大切だからなっ」

「はふぅ~ん。この香りは中華ね?! さすがキャップ~」

 まってましたといわんばかりに目を輝かせるワン子。妙に静かだと思ったらマジ寝していた姉さんもにおいに釣られてか目を覚ます。

 さて、これで全員揃った。姉さんは食べながらでも話をするよういってくるだろうけど、まずは食べるもの食べてからだな。

『決闘?!』

 キャップが持ってきた食料は既にみんなの胃の中へ。主には川神姉妹の中だけど… 俺が切り出した話に姉さんを除くほぼ全員がその言葉を聞いて驚いていた。

「ああ。最近仲がかなり悪くなっているS組とF組の間で一度けじめをつけるため…… っていうのが表向きの話。本当の所はS組の葵冬馬が俺との個人的な『決闘』を望んだ為なんだけど、最初はこの話、断るつもりでいたんだ」

「バカヤロー! そんな面白そうな話を断るなんてありえねーぜ!」

「だからって何の考えもなしに受けるなんて、それこそ俺にとっちゃありえない選択肢だったからね。噂話程度でもキャップの耳にはいったら絶対に受けると思っていたし」

「当たり前だ! 売られた喧嘩を買わないなんてマネは絶対にできねー」

 キャップは案の定、まだ話の半分もしてない状態なのにやる気に溢れていた。 

「まあ、結局は受けることにしたんだけど、ここからが本題。まずはみんなのやる気を聞いておきたいんだ。キャップに関してはもう聞くまでもないことだけど… 特にまゆっち」

「は、はいっ?!」

 突然振られてちょっときょどってる場合じゃないぞ、まゆっち。

「最初に話したとおりだけど、表向きは俺たちと仲の悪いクラスとの『決闘』だから、まゆっち個人は静観を決め込んでも全く問題ないんだ。ただ、俺個人としてはまゆっちにも手伝って欲しい」

「はい、それはもちろんですけど… 両クラスの対抗戦という形式と思われる『決闘』に、私やモモ先輩が参加するというのは大丈夫なのでしょうか?」

「うん。これから説明するところでもあったんだけど、各クラスから最大12人まで参加者を集めての団体戦って形で、そのうち半数より多い人間、つまり7人以上がクラス在籍であれば、残りは他クラスや学外の助っ人もあり、ってことになってる。当然俺たちF組に関していえば、ここにいるだけで7人だからそれだけで条件はクリアできるんだけど…」

「アタシは当然やるわよ!」

「俺様もだぜ!」

「うむ。答えるまでもない話だな」

「僕も当然参加はするつもりだけど、あんまり期待はしないでよ?」

「だいじょうぶだモロ。キャップである俺がいれば問題は何もないっ!」

「そーだ。というか私がいる限り負けはない。後は私をどれだけ楽しませるかだけさ… ふふ」

「大和が私を求めているっ?! 嫁として期待に応えないわけにはいかない!」

 まあ、こういう返事がくることは最初からわかっていたんだけどね。オチもコミで…

「みんなありがとうな。『友達』としてありがたくその気持ちを受け取るよ」

「うぅ、いけずー」

 しょぼーんとしてる京はもちろん放置。

「で、みんなは参加してくれるというのはわかったので、もう一つだけ先に決まっている事を話しておく。ある意味これが一番重要なんだけど…」

 さすがに口にするには少し緊張する。事前につっこまれそうなコトには返事を用意しておいたがどうなることやら。

「当日は全員水着での参加だから」

 さらっと言い放ってみる。

「ふむ… ということは、今年は開催されなかったという水上体育祭を模したものをやるということなのだろうか?」

 …もしもし、クリスさん?

「おお、そいつは夏らしくていいなー! ますますやる気が沸いてきたぜ!」

「俺様の肉体美を存分に見せ付けられるなんて、いい戦いができそーじゃねーか! それに、決闘とはいえ水着のモモ先輩を間近に見られるとは… 大和、さすがだな」

「お天気の下で海をバックに決闘だなんて燃えるシチュエーションだわっ! ううー、何だか待ちきれなくて今からトレーニングしたくなっちゃうっ」

「だめよワン子。期末終わるまでは我慢しよーねー(これは決闘にかこつけて大和を水着で惑わせる合法的かつ絶好のチャンス! くくく…)」

「決闘じゃなければみんなで海なんて絶好のロケーションなのになー。いいかまゆっち、決闘とはいえ戦う相手もまた友達になりうる存在だ。強敵と書いて『とも』と呼べる相手を作れる素敵なチャンスと思ってがんばるんだー」

「はいっ! 頑張りますよ松風。孤独な夏休みとは今年でさよならしましょう!」

 ……一言も『海でやる』なんて言ってないんですが。というか場所だって俺はまだ聞いてないんだけどなー。まあいいか、勘違いしてくれる分には別に困らないし。本当に海でやるのなら嘘をついたことにもならないワケだし。

「ま、私は戦えるのならなんでもいいさ。弟がどーしても水着姿の私を見たいっていって開催地を無理矢理決めた感じがしなくもないが、そこは許してやろうじゃないか」

「なにっ?! そうなのか大和!」

「ンなわけないでしょ。細かい取り決めなんかはこれからだし、大まかな話は向こうから振ってきたんだから。悪いけど俺の意思はそこに何にもはいってないよ」

 相変わらず姉さんはミョーに鋭い。侮れないなぁ。

 あ、やっぱりクリスはどこか納得してない顔だな。これもいつものことだけど。

「ところで大和、俺様から重要な質問があるぞ」

「どーせガクトのことだからまたしょーもないコトでしょ。もったいつけないの」

「なにおう? 京、お前は俺様を勘違いしているぞ! あのいけすかねぇS組の連中の鼻っ柱をへし折ってやれる絶好のチャンスだからな。いつも以上にマジなんだぜ」

「はいはい。そういうことにしておくから早く内容を言ってね」

 まあ、ガクトの言いそうなことなんて大体想像つくんだけど… 

「おう、聞いて驚くなよ。 …なあ大和、全員水着なのはわかったんだが、女子は全員スク水限定なのか?」

「ほら、やっぱりしょーもない」

「別にカッコなんて何でもいいじゃないのよガクト~。アタシらは遊びにいくんじゃなくて、戦いにいくのよ?」

「そーだぞーガクト。私たちのキワドい水着姿を期待しているのはお前だけじゃない、大和もだ。このむっつり君がスク水だけなんて条件を飲むワケないだろ? な、大和?」

 ちょっ、いきなり何を言い出すのさこの人は?!

 …というか勝手に話が自分の予想斜め上くらいを進み始めているんだけど、このままで本当にいいんだろうか?

 水着に関してあーでもないこーでもないと話を膨らませるガクトたちを見てると、何だかこの決闘自体がちょっとどうでもよくなってくるよ。とはいえ、変に話が大きくなった上で負けたりしたらちょっとシャレにならないだろうから、やるといった以上負けるつもりもないんだけど。

 そもそもS組の連中なんて制服すら無視してるのが何人もいるんだから、おそらく水着に関したって同じようなことになると思ってるけどね。

 試験が終わればいよいよ決戦間近。今のうちにあの人にコンタクトをとっておこうかな…

 

 

 -続-

『川神の永い夜』第五幕 予告

 

「ほっほっほ。見よ、此方の艶やかな水着姿。世の男共はこの美しさを目の当たりにできることに深く感謝をしてもらいたいものじゃの!」

「慎みなさい、不死川心。そのように露出が高く、人を選ぶ水着が似合うのは私を置いて他にいるわけがないでしょう」

「ぬぅ、此方より少しくらい背が高いくらいで偉そうにするでないわ!」

「おおー、ふたりともシリ丸出しのえろえろだー。じゃあボクはこの貝殻ついたやつにしよっかなー」

「では予告を伝達します。二人とも早く準備をしなさい。 …というか榊原小雪。ここには同性しかいないからといって全裸のまま着用する水着を選ぶのはやめなさい」

「ヌ? だって着たり脱いだりするのめんどくさいんだもーん」

「そうじゃぞ。同じS組としていかなる時も恥ずかしくない振る舞いをしてもらいたいものじゃ」

「んー? らんたたんたたーん♪」

「だからそのままの格好でウロウロするでないわ!!」

 

 

「……次回『川神百代、ついにセクハラで逮捕?!』」

 

 

「…なまじありそうなところが微妙に笑えぬのぅ」

「あの女の中身は中年のエロ親父だと認識しなさい。油断をすることは許しません」

 

 
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