No.995118

艦隊 真・恋姫無双 140話目 《北郷 回想編 その5》

いたさん

一刀君の回想 その5 です。

2019-06-02 17:04:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:847   閲覧ユーザー数:796

【 作戦 の件 】

 

〖 南方海域 海原上 にて 〗

 

 

『金剛さん………私達、どうなるんでしょうか?』

 

『もう、私達の艦載機も……それどころか、帰るまでの燃料だって足りないのに………』

 

『私もよくよく運のない艦娘だな。 戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだが、こうも行き当たりの作戦を命じられるとは。 あの提督も、見かけ倒しでなければいいがな』

 

 

輪形陣で警戒しつつ、この海域からの脱出を図る一刀達。

 

だが、燃料や弾薬も補給しなければ、傷を修理するために入渠もしなければいけない。 しかし、一番近い拠点が、自分達を地獄に追い込んだ司令官達が居る場所。 

 

どう考えても、先行きは乏しかった。

 

そんな不安を……頼りになる、お姉さん的存在である金剛へぶつけたくなるのも当然の結果である。

 

 

『When you give up, that's when the game is over?』

 

『『 …………えっ? 』』

 

『 《あきらめたらそこで試合終了ですよ?》という意味ネ! 漫画のGreat managerが言っていたヨ!』

 

 

それでも、彼女は……金剛は、笑顔で艦娘達の不安を和らげる。 少しでも、一刀の負担を軽くする為に。

 

 

『よーく、考えて見てネ! 今回の深海棲艦の発生率は、どう考えても Abnormal behavior (異常な行動)ダヨ? これは、司令官達に報告しなければイケマセン!!』

 

『………で、でも……』

 

『言いたい事は分かるヨ。 だけど、このままでは深海棲艦に何時か追い付かれるマース。 だったら、拠点の司令官達に責任を Inflict (押し付ける)だけ……ソウデショ?』

 

『なるほど……報告するいう建前で、深海棲艦を連れて拠点まで行き、司令官達にぶつける。 そして、拠点内の補給物質を奪い近くの鎮守府まで逃げる、というのだな?』

 

『その通りネ。 だけど、皆さんは拠点に近づいたら反転して離れてクダサイ。 後は、私達……正確には天龍や龍田に任せるつもりデース。 Rest(休息)も……大事ネ?』

 

 

その説明に、ある者は納得して頷き、ある者は金剛達に感謝する。 

 

もちろん、これは金剛単独の作戦ではなく、龍田よりの提案である。 一刀の酷い様子に心痛めたのは、金剛や長門、雷や電だけでは……無いのだから。

 

 

無論、中には───

 

 

『わ、私も……行きますっ! これ以上、皆さんに……護られてばかりなんて……嫌ですっ!!』

 

『認めたくないものだな、自分自身の若さ故の失言というものを。 先の謝罪と君達の勇気に敬意を表して、私も手伝わせて貰おう。 その拠点から補給物質を奪取する作戦に……』

 

 

協力を申し出る艦娘も、何名か金剛の前へ現れる。

 

金剛は協力を感謝しつつ、彼女達の受けた被害、燃料の残量、疲労度を調べつつ、龍田達と相談するとなった。

 

 

 

────だが、金剛達は知らなかった。

 

既に、人類の希望だった拠点は、深海棲艦達の巣窟となっていた事を。

 

 

 

◆◇◆

 

【 怨嗟 の件 】

 

〖 南方海域 拠点 三本橋の研究室 にて 〗

 

 

『………今度ノ……相手ハ……一筋縄デハ……無理カ……』

 

『────えっ?』 

 

 

静かに椅子に腰を掛け目を瞑り、まるで眠っているように見えた南方棲戦姫が、急に目を見開いたと思えば、忌々しげに声を上げる。

 

彼女は眠っていたのではなく、自分の配下である深海棲艦達と交信し、状況を把握するよう努めていたのだ。

 

 

そんな南方棲戦姫の様子に、元は海軍の中将、今は深海棲艦の仲間となった三本橋が、顔を歪めて不敵に笑う。 

 

自分自身が攻撃を直接受けて敗北を受けた訳ではなく、ただ威圧的に降参しただけの三本橋は、自分の敗北を信じておらず、心から屈服などしていなかったのだ。

 

 

『あははは………どうやら、ボクの与り知らない間に、木偶達が頑張ちゃったのかな~? 何たって高練度へ上げるのに、何度も戦わせた精鋭だからね~』

 

『深海棲艦……下級クラス……五百デ……襲ワセタ……』 

 

『────へっ?』

 

『私ガ……率イル艦ハ……各海域中……最大ノ動員数ヲ……誇ル。 コレクライ……ホンノ……小手調ベ……ヨ……』

 

 

そんな三本橋の嘲笑混じりの言葉に、南方棲戦姫は淡々と事実を語ると、三本橋の笑顔が固まる。

 

 

『デモ……イマダ水面上ニ……浮イテイルワ。 今マデハ……スグ沈シミ……我々ノ仲間カ……資材ト……ナッタノニ……ナ』

 

『……………ボクの鍛えた木偶が居ても……あり得ない。 だって、君達が襲う数って、だいたい十数隻じゃないか!?』

 

『…………愚カネ。 敵トナル相手ニ……手ノ内ヲ……全テ見セルト………デモ? ソレト……襲撃シタ者……ノ話……デハ……ソノ者達ハ……スグニ……居ナクナッタ……』

 

『………………………あ、あはは……嘘、だよね? また、何時もの……冗談………だよねぇ? だって、ボクが命令を出したから……最後まで……戦う筈なんだよ!』

 

『言ッテ……オクケド……前モ……今モ……嘘ナド……ツカナイ』

 

『あっ、あは……あはは、あははははははっ!!』

 

 

その言葉を聞いて、三本橋は大きく高笑いをした後、南方棲戦姫を睨み付けながら、指先を突き付け糾弾した。

 

 

『だったら、何で! 今の艦隊は、君達の攻撃に耐えているのさ!?』 

 

『……………』

 

『彼処に居る木偶達は、まだ建造されたばかり! そいつらが、ボクの木偶の力無しで……勝てるわけ………勝てるわけ……勝て……る? …………あっ!!』

 

 

三本橋が糾弾している途中、何かを思い出すかのように最後が弱々しくなり、最後は──気付いた。

 

南方棲戦姫は、まるで出来の悪い生徒を見守るような眼差しで、三本橋を見ながら問い掛ける。

 

 

『………気付イタ……ヨウネ……』

 

『彼処には……一刀君が鍛えた木偶、ううん…艦娘か。 彼の艦娘は………逃げなかったのかい?』

 

『心配シ……怒ル者ハ居タガ……一隻足リトモ……側ヲ離レル者ハ……居ナイ……ソウダ……』

 

『そうか……そうなんだ……』 

 

『ソレニ……貴様ノ言ウ……木偶ハ……既ニ居ナイ。 少ナクトモ……アノ海上……ニハ………』

 

 

自分が築き上げた成果が音を立てて崩れ落ち、一刀の考えが一躍脚光を浴びる未来に。

 

この時、三本橋の心中へ灯る、一刀に対する妬みと恨みの情念の炎がハッキリと分かる。 

 

その暗き表情は、端から見ても見間違える訳も無い程に。

 

 

 

◆◇◆

 

【 思惑 の件 】

 

〖 南方海域 拠点 三本橋の研究室 にて 〗

 

 

そんな三本橋の姿を横目で見ていた南方棲戦姫は、企ていた策の一つが潰えたのを覚る。

 

 

『 (味方ニ……回レバ……胃ガ痛ミ……敵ニ回セバ……コレホド……恐ロシイ奴ハ………居ナイ……ダロウ……) 』

 

 

南方棲戦姫が考えるのは、今の今まで視野にすら入れて居なかった、人間の男。

 

 

聞いた事の無い鎮守府の長───北郷一刀。 

 

 

そんな小さい鎮守府に赴任しているが、天敵である艦娘に慕われ、付近の民間人と親しみ、いつの間にか一部の深海棲艦と縁を持つ、油断なき人間。

 

また、遥かな昔、大陸に降り立ち、大陸統一に力添えしたと伝わる天の御遣いと、同姓同名の氏名を持つ稀有な存在。 

 

どう考えても、通常の艦隊が壊滅する程の戦力で攻めたのにも関わらず、頑強に抵抗して自分達を退け、更に逃走を図らんと何やら蠢動する、艦隊の長。

 

 

これらの事実が、最大規模の警鐘を鳴り響かせる。

 

深海棲艦が支配するのに、いや、南方棲戦姫が君臨する世界を構築するのに、最大最強の障壁になると。

 

 

現に、物は試しとばかりに正面から襲撃すれば、多数の犠牲を出したものの艦隊は壊滅せず。 

 

寧ろ、倍の数で攻めた深海棲艦の艦隊が、余りの被害により逆に退く羽目になろうとは、信じられなかった。

 

だから、南方棲戦姫は真摯に考える。

 

此処で北郷を討たないと、取り返しが付かなくなる………と。

 

 

『( カノ……艦隊如キト……侮ッタノガ……敗因カ? ヤハリ……正面……カラデハナク……搦メ手デ………)』

 

 

北郷の率いる艦隊を、どうやって水面の底に引き摺り込むかの方法を。 

 

より残虐に、より絶望的に、より悲壮感を高めさせて、二度と同じ人間が現れないよう、見せしめにできるように、と。

 

 

そして、遂に浮かんだが策が…………

 

かの三國で、天の御遣い《 北郷一刀 》を謀る為に編み出したと言われる、知謀の将《 程仲徳 》の奇策《 十面埋伏の計 》

 

その為には………まず、目の前に居る愚かな女を、更なる絶望へと堕とさねば。

 

 

 

◆◇◆

 

【 贖罪 の件 】

 

〖 南方海域 拠点 三本橋の研究室 にて 〗

 

 

自分の口角が上がるのを感じながら、南方棲戦姫は更に三本橋の精神を追い込む。

 

 

『ソウ言エバ………人間デアル……貴様ヲ……生カシタ理由……伝エルノヲ……忘レテイタ……』

 

『────!?』ビクン!

 

 

急に、自分の事に言及されたので、三本橋は小さく身体を震わす。 

 

確かに考えてみれば、大本営の関係者だと分かっているのに、大本営に関して何も問われない。 寧ろ、戯れで語った天の御遣いの話(と別の話)に興味を覚えていた。

 

だが、それだけ……それだけなのだ。

 

自分の腰巾着であった提督達は残酷な最後を迎え、その艦隊の司令官である自分は、かなりの厚遇で配下として受け入れられ、殆んど自由な扱いを過ごしている。

 

三本橋には、その厚遇の理由が思いつかない。 今の厚遇に対する対価が、どのような物か判断がつかないのだ。

 

それが、今……語られる。

 

三本橋は、直ぐに聞き耳を立てた。

 

ここで、南方棲戦姫は二呼吸ほど置いて、ある事実を述べる。 それは、南方棲戦姫の勢力が、他の海域よりも飛び抜けて拡大した理由でもあった。

 

 

『貴様ヲ許シ……配下ニ……加エタハ……私ニ対シ……輝カシイ……功績ガ……アルカラヨ……』

 

『そんな馬鹿なっ! ボクが! この、ボクがっ!! 何で君達相手に功績をあげなきゃならないんだよっ!!』

 

『貴女ノ……無駄ナ努力デ……深海棲艦トナル……土壌ヲ作リアゲル事ガ……デキタ……カラ』

 

 

この言葉に、三本橋の頭がついていかない。

 

どうして、艦娘の轟沈で、深海棲艦の仲間が増えるのかという因果関係が。 

 

戦艦レ級のように、パーツを探しているかと思ったが、それなら戦艦レ級が仲間を欲しがる訳がない。 いや、それなら戦艦レ級の量産が可能となっていた筈だ、と。

 

たが、残酷にも───南方棲戦姫は語る。

 

 

『フフ……感謝……シテイル……ワ。 元ハ……私ヲ狙ウ……玩具ダッタ。 デモ……今ハ……………私ノ……可愛イ駒トナリ……尽クシテ……クレル……ノヨ……』

 

『ま、まさか…………』

 

『実際……皮肉……ヨネ。 恨ミ……憎シミ……負ノ感情ヲ持ツ……艦娘ガ……轟沈スレバ。 私ノ……私達ノ……仲間ニ……ナルノ……ダカラ!』

 

『そんな! そんな馬鹿なっ!? 木偶の感情の発露は、元の軍艦の時に乗務していた海軍将兵達から学び得た、擬似的感情じゃないの!?』

 

 

艦娘達を……ただの兵器と宣い、消耗品と称し、この海域で練度を上げる為の目的で、数多の艦を轟沈させた三本橋達。

 

だが、この海域の深海棲艦を率いる女帝は、満面のドヤ顔で否定する。

 

 

『ナラバ………何故……コノ海域ニ……多クノ深海棲艦ガ……居ルト思ウノ? 何故、私ガ……取ルニ足ラナイ……人間ヲ……配下ニ……迎エタト……思ウノ?』

 

『そ、それは…………』

 

 

三本橋が口を開き掛けたが黙ってしまい、この様子を納得したと判断、南方棲戦姫は真面目な顔に変える。

 

今、南方棲戦姫が率いる深海棲艦の数を、無知な彼女へ優しく示す。 自分の手足となる駒であり、指揮下に置いている配下の具体的な数を。 

 

 

『駆逐ロ級後期型……三千。 駆逐イ級……二千』 

 

『────なっ!?』

 

『他ニ……軽巡ホ級、軽巡ツ級、重巡リ級……五百。 戦艦ル級、戦艦タ級……三十。 空母ヲ級……十。 輸送ワ級、潜水カ級、潜水ヨ級……五百。 合計……六千四十隻』

 

『そ、そんな………………』

 

 

逆に言えば、彼女の良心に、犯した罪を具体的な数値に変えて、糾弾したようなものだ。

 

その為、まるで彼女の全身は、冷や水を浴びせたように、ブルブルと震え、顔が青ざめる。

 

 

『フフフ……全部ガ……全部……艦娘ノ……成レノ果テ……ナンテ……言ワナイ……ワ』

 

『…………………な、なら!』

 

 

そんな彼女に、手の平を返したように慰めるような声を掛ける南方棲戦姫だが、別に可哀想で言っている訳ではない。

 

 

『ダケド……貴女ニ……恨ミ辛ミヲ……抱キナガラ……深海棲艦トナッタ……者ハ……百隻以上。 誰モ……ソノ無念ハ……深イ』

 

『─────!!』

 

『今モ……当時ノ記憶ヲ……訴エテイルワ……ヨ? 痛イ……哀シイ……悔シイ……寂シイ……ッテ』

 

『……………………!』

 

 

先の言葉で傷付いた三本橋の良心へ、さらに痛みを伴うようにと、塩を塗り込めているだけである。

 

まあ、半分は本当の事であり、同じ深海棲艦である南方棲戦姫としても、面白くない話であるので、多少は盛ったが。

 

まあ、それはさて置き、こんな眉唾な話を南方棲戦姫と出会う前の三本橋であったら、一笑にしていただろう。 

 

『 木偶に魂なぞあるものか 』───と。

 

だが、彼女は言葉を信じる、いや、信じ込まされてしまう。

 

何故ならば、人とは……初対面ならば、警戒も疑いも必ずするものだからだ。 相手の人柄等が分からない故に、善悪が分からず、恐怖を感じるからである。 

 

だが、何度も会話し親密さが増えれば、警戒も疑いも薄くなるもの。 それは、相手の人柄等を理解し、分かっているので、恐怖を抱かなくなるから。

 

それから、少しずつ……毒を流し込む。

 

南方棲戦姫の意見へ従うように誘導する話法を使い、無意識に三本橋から賛同したと錯覚をさせていく。

 

 

それに、三本橋には……既に下地がある。

 

南方棲戦姫に呆気なく屈服したという、つい最近起こした苦い記憶が。 海軍という大事な精神的支柱を、まるでHBの鉛筆の如く、ペキッ!とへし折られてしまったのだから。

 

だから、南方棲戦姫の言葉に、多少の強制的な言葉があっても、三本橋は抗えれないし、不定の言葉を語れない。

 

 

『今ノ……彼ノ者ハ……私ノ部下。 ダカラ……私ニ……尽クシナサイ。 ソウ……スレバ……轟沈シタ……者モ………』

 

『くっ! と、当然だよ! ボクが………何か命じられた事をすれば、良いんだよね? そうすれば………沈んだ者達は……赦してくれるのかい!?』

 

『フフフ………信ジル……ナラ。 デモ……ソノ前ニ……』

 

『ふん、敗軍の将である哀れなボクに、お偉い南方棲戦姫様は、どんな理不尽な命令を下すんだい!?』

 

『アラ……イイ覚悟……ダワ……』

 

 

南方海域に君臨する女帝は、この哀れな麗人へ冷酷非情な命令を下したのである。

 

 

 

具体的には───『その場で服を脱げ』と。

 

 

 

◆◇◆

 

【 犠牲 の件 】

 

〖 南方海域 拠点付近の海上 にて 〗

 

 

天龍を含む四隻は、秘密裏に実行するために海域の諸島にある拠点へと近付いていた。

 

一刀が覚えていた拠点付近の地理、頻繁に燃料等を補給していた長門の記憶等で、燃料や弾薬を保管している貯蔵庫の場所を把握。 

 

金剛達が行動を起こす前に忍び込み、混乱が生じれば、呼応し必要な物資を強奪する予定だったのだ。

 

しかし、海域を無事抜け、拠点の前に来た時………そこには、信じられない者が待ち構えていた。

 

 

『な、南方棲戦姫っ!?』

 

『おいっ! 此処はまだ、最初の末端だろっ!! なんで、一番奥でヒッキーやってる奴が居るんだよっ!?』

 

 

周囲に護衛の如く深海棲艦を取り巻かせ、拠点より持ってこさせたと思われる豪華な椅子に腰を掛け、足を組みつつリラックスした様子で、此方を眺めていた。

 

しかし、天龍達が近付くのが分かると、片手を上げて深海棲艦に合図を送り、迎撃態勢を取る。

 

そして、砲撃こそしなかったが、口撃は容赦なくしてきた。

 

 

『誰ガ……ヒッキー……ヨ! 王ハ……無闇矢鱈ニ……自ラ……攻撃……シナイモノ! 来ル敵ハ……配下ニ任セテ……』

 

『はっ! 何を国民的RPGのボスみたいな台詞、ほざいてやがるっ! 戦いって言うのはなぁ、自分自身の力で切り開いて、勝利をもぎ取る! これが戦いの醍醐味さ!!』

 

『ソレコソ……何モ……考エテ……イナイ……奴ガ……語ル……言葉ヨ。 周リノ者達ノ……苦労ガ……偲バレル……ワ……』

 

『へっ、そんな風に思う奴なんて、ひと───って、龍田っ!? 何で、アイツの言葉に首を縦に振ってるんだよ!! 潮も困った顔すんなっ!!』

 

 

そんな開幕戦で、敵からの痛烈な口撃、そして味方からの敵支援態勢?により、早くも天龍は精神的に中破。

 

 

『ふっ、似すぎた者同士は……憎み合うということさ』

 

『に、似てねぇよっ! 全然、ちっとも、掠りもしてないじゃないか!?』

 

『………不愉快……非常ニ……不愉快………』

 

 

だが、一緒に付いて来た顔の上を隠すマスクを着用し、赤い艤装に統一された艦娘による諸刃の口撃により、南方棲戦姫にも被弾し、白い顔を怒りで朱に染め、両頬を膨らます。

 

 

『何度デモ……水底ニ……落チテイクガイイ……!!』

 

 

そんな状況を見逃さず、南方棲戦姫は砲撃準備の合図を送る。 深海棲艦達は、その合図と受けると速やかな行動を移し、砲門を天龍達へ向けた。

 

天龍は龍田と視線を交じわすと、直ぐに双方が頷く。

 

オロオロする潮の肩に手を置いた天龍が、直ぐに艤装の刀を天に上げ、大声を上げて命じる。

 

 

『ちっ、失敗だ! 直ぐに撤退!! 先頭はオレ、龍田は殿、単縦陣で突き抜けるぞ!!』

 

 

返事はそれぞれ聞こえたが、一分一秒を争う戦場で、躊躇は轟沈に導く片道切符。 全員が並んだのを肌で感じ、天龍はもう一度、刀を上げると振り下ろし出発の合図とした。

 

 

 

★☆★

 

〖 南方海域 艦隊付近の海上 にて 〗

 

 

『止まるな! 止まったら助かるものも助からんぞ、進め!!』

 

 

赤い艤装の艦娘は、傷付いた天龍に肩を貸し、遠く離れた一刀の居る艦隊を目指している。

 

潮は涙を流し、天龍の安否を確認しつつも敵艦の動きを探り、龍田も後方に注意すると同時に天龍の様子を心配していた。

 

これは………つい先程、天龍が動けなくなったからだ。

 

 

★☆★

 

あれから追撃されるのを覚悟で進んだが、意外にも後方からの攻撃は無い。 だが、行く先行く先で、水面下より駆逐艦達が複数現れては、攻撃してくる。

 

そして、天龍は果敢にも迫る敵を何度も何度も撃退し、後方の潮を背にして戦い、ついに砲撃を受けて倒れてしまう。

 

 

『天龍さんっ! ごめんなさい! ごめんなさいっ!! 私が避けれなかったばかりに───』

 

『へっ……オレが誤って傾いただけだ。 ただ、ドジを踏んだだけだよ………って……』

 

 

天龍が自力で動こうとするが、破損した艤装の為か上手く進まず、最後には───

 

 

『どうやら、此処までの……ようだな。 足手纏いのオレなんか、此処に置いて……逃げろ………』

 

『い、嫌ですっ!! 私が曳航して………うーん!!』

 

『駆逐のガキが……軽巡洋艦のオレを……曳航できる訳ないだろう? 龍田は……殿を任せなきゃ……』

 

 

そして、最後には赤い艤装の艦娘に目が止まる。

 

 

『………………ん?』

 

『………………………』

 

 

だが、この艦娘は………謎が多すぎる。 艦種は不明、名前も不明、所属する鎮守府さえ不明。 ただ、あの練度の低い艦娘達に最初から居たのだけは、確か。

 

果たして、敵か味方か? それ以前に……艦娘だかどうかさえ分からない。 まあ、艦娘と同じように、水上を動いているのだから、艦娘と見ていいのだろう。

 

──などと、一応は考えていた天龍である。

 

 

だが、まさか……こんな時に、自分の命運を任せる事になるとは、想定していなかったが。 

 

まあ、その前に曳航できるかどうかも、分からないんだよな………と思案していた時、天龍の腕を掴む手が伸びてきた。

 

 

『水臭いな、今更。 此処まで来て、敵味方も無いだろう』

 

『………お、お前!?』

 

『同じ艦隊に居る同士だ。 手を伸ばして救えるのなら、救う方を選ぶ。 さあ、立ち上がれ。 奴さん達が待ってくれる保障なぞ、無いんだぞ?』

 

『…………………すまねぇ!!』

 

 

★☆★

 

 

こうして、旗艦の天龍を支えながら、前方の深海棲艦を蹴散らしながら、一刀の待つ艦隊まで近付いた。

 

皆が皆、ホッと一息つき掛けた時、前方に見える敵影を確認し、その相手が分かると激震が走り抜ける。

 

 

『お、おいっ!!』

 

『うそぉ……』

 

 

やはり……南方棲戦姫は只者では……なかった。

 

天龍達の行く先には、一隻の深海棲艦が待っていたのだ。

 

黒いフードを被った小さい女の子が、笑いながら此方にユックリと近付く。 そして、その後ろには、蛇のような尻尾が、目を光らせ虎視眈々と天龍達を狙っていた。

 

 

『せ、戦艦………レ級………!?』

 

『くそぉぉぉ!! よりによって、こんな場所で!!』

 

 

潮は思わず天龍にしがみつき、天龍は天龍で絶望の一声を上げる。 龍田も表情こそ変わりはないが、背筋から数筋の冷や汗が流れ落ち、薙刀状の艤装を持つ手に汗が集まった。

 

 

『南方棲戦姫に……嵌められたわねぇ。 深海棲艦を所々に出撃させて、弱らせた私達を誘導して……最後に始末を……』

 

 

龍田は、南方棲戦姫が立てた戦術を、ほぼ完全に見破ったが、この現状を覆す方法が浮かばず、後は黙るしかない。

 

 

だが、一隻だけ………不敵に笑う艦娘が居た。

 

 

『私もよくよく運のない艦娘だな。 作戦が終わっての帰り道で、あんな獲物に出会うなどとは………』

 

『おいっ! 気でも狂ったかっ!? アレは、戦艦レ級っていう────』

 

『勿論、知っているさ』

 

『─────!?』

 

 

赤い艤装の艦娘の言葉に、天龍達は言葉を失う。

 

だが、それだけではなく、龍田を手招きで呼ぶと………天龍を優しく自分より移動させた。

 

 

『私が囮になり、時間を稼ぐ。 幸いにも、他の深海棲艦が周囲に居ない今なら、君達だけで抜けるのも容易い。 提督の艦隊も近いから、無事に到着できるだろう』

 

『『『 ────!? 』』』

 

 

そして、ただ一隻だけで………戦艦レ級へ向かう。

 

 

『や、止めて下さい! あんな怪物に立ち向かうなんて……』

 

『おい! 無駄な事は止めろ!! 龍田、おい、龍田も止めてや───』

 

『天龍ちゃん、潮ちゃん……言う通り、直ぐに離れましょう! 全力で、提督の所まで───』

 

『龍田!?』

『龍田さんっ!?』

 

『あの子の献身を、玉砕の覚悟を……無駄にしちゃ駄目よ!!』

 

 

龍田の言葉に……天龍は自覚する。 

 

全員で逃げても、必ず天龍が足手纏いとなり、戦艦レ級に捕捉される。 そうなれば、相棒である龍田、自分を慕う潮まで轟沈されてしまうのは、目に見えていた。

 

そんな、天龍の思考に被せるが如く、赤い艤装の艦娘が後ろを振り向かずに立ち止まり、言葉を紡ぐ。

 

 

『チャンスは最大限に生かす、それが私の主義だ。 だが、それを人任せにするのが、大嫌いでね』

 

『…………お前………』

 

 

その言葉に唖然としていると、突如、赤い艤装の艦娘は天龍達に向き直り、海軍式敬礼を行う。

 

そして、一言だけ述べた後…………戦艦レ級へ突撃していた。

 

 

 

『 勝利の栄光を……君達に 』

 

 

 

 

 

 

■□■

 

【 オマケ の件 】

 

〖 南方海域 拠点 三本橋の研究室 にて 〗

 

 

椅子に座り、本を熟読していたと思えば、南方棲戦姫が急に口を開き、何やら言葉を発した。

 

 

『急に独り言なんか呟いて、どうしたの? ま、まさか………江◯三國志の内容って、そんなにショックだった!?』

 

『馬鹿ナ事ヲ……ホザクナ。 コレハ……至宝……水底へ持ッテ……帰ル!』

 

『駄目だよっ! 孔明と周瑜の◯◯場、また読んでみたいし、次の周瑜亡き後の相手が気に掛かるんだからぁ!』

 

『次ノ相手ハ……ギ……ボソボソ』

 

『───な、何で言っちゃうの!?』

 

『コレデ……未練ハ……ナイナ?』

 

 

そんなやり取りがあって、全然先に進めなかった。

 

 

 

 

■□■

 

 

【 オマケ2 の件 】

 

〖 南方海域 拠点付近の海上 にて 〗

 

 

だが、海域を無事抜け、拠点の前に来た時………信じられない者が、そこに居た。

 

 

『イラッシャイ……歓迎スルワネ……』

 

 

『えっ? 南方棲鬼……なんですか?』

 

『馬鹿、違うだろう!? あの露出癖があるのは、南方棲戦姫だ! 髪ブラなんて卑猥な格好してる奴と比べられたら、南方棲鬼が可哀想じゃないか!!』

 

 

『………………』

 

 

『な、南方棲戦姫っ!?』

 

『いいか、潮。 冷静に敵を判断しないと……見誤れば、お前だけの被害じゃすまない。 オレ達仲間さえも危険が及ぶ。 その事を……忘れんな』

 

『……………はいっ!』

 

『天龍ちゃーん、潮ちゃんに良いこと伝えているみたいだけど………南方棲戦姫が全砲門向けて、狙ってるわよー?』

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
3
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択