突如、現れた謎の球体に魔天王とライナーゼオンは身を固め、警戒の意をあらわにした。
《我が名は怨霊大帝ヴァク……星に追放された者だ!》
「星に追放された者!?」
魔天王の叫びに黒い球体は静かに答えた。
《遥か遥か……恐竜が栄える遥か昔、私は星の使途として地球を守る使命を背負った。だが、私は星が欲しくなり、神に反旗を翻した。その時に邪魔したのが魔天王……お前のオリジナルにし、私と同じ星を守る使命を背負った光の者だった》
「魔天王……のオリジナル?」
魔天王の中にいる光は目を見開き自分の手を見つめた。
ヴァクの目が殺意に変わり、すぐに魔天王たちを睨みかえした。
《光の者たちに負けた私は反乱を企てたものとして私をこのなにもない闇の世界に追放した。 しかし、私の怨念はこの世界に来ても留まることがなく、増徴していった……》
「それがその姿か!?」
ライナーゼオンの叫びにヴァクは静かに目を瞑った。
《だが、怨念の意思とは裏腹にこの身体は老い、いつしか朽ちるようになった……しかし、私の無念は身体を失ってもとどまり、いつしか、このような形のない空虚な存在となった》
「空虚な姿……」
ヴァクの想像しえない恨みの重さにライナーゼオンの中にいた烈はキッと目を吊り上げた。
右肩のハイブリットライナーキャノンが光り輝き、黒い球体へと撃ち放たれた。
しかし、撃ち放たれた光はまるで空を撃ち抜いたようにヴァクの身体をすり抜け、消えていった。
まるで実体のないヴァクの存在にライナーゼオンは全てを察したように叫んだ。
「存在がない……だから、空虚な姿!」
そんな姿になってまで、光の者を憎み続けるヴァクの存在に魔天王は一瞬、恐怖を覚えた。
「なんて暗い執念だ!」
《だが、私の目的は地球から遠のいてしまった……》
「なに!?」
《汚れきった地球はもはやいらぬ……私が今までしてきた目的は唯一つ、光の者への復讐! そのために私は破滅の四天王を作り出し、恐竜を生け捕りし、そして、力を蓄えた 全てはこの時のために……私の力が最大限に引き出されるこの時のために!》
「力が最大限に引き出される……?」
《そう、我が仮初の肉体を打ち砕き、お前達に永遠の屈辱を与えること!》
「っ!?」
その瞬間、魔天王とライナーゼオンの身体が黒い球体に吸い込まれるように引きずられていった。
「こ、これは……」
《お前達に永遠をくれてやろう……》
「俺達を吸収する気か!?」
《仮初の身体という折を破ったのはお前達だ……そして、折の中から出た虚空な闇……お前達は私の中で屈辱という苦汁を舐めながら永遠に生き続けるのだ!》
「そ、そんな事したって、お前には何の得も無いだろう?」
《得はある……また永遠の中で破滅の四天王を作り出す。そして、今度こそ地球を我が物とする……それが私の復讐だ!》
「こ、こんな所で……ウァァァァァァァァァァァァッ!」
魔天王とライナーゼオンの身体が黒い球体の中へと吸収されていった。
深い暗闇の中で光はそっと目を覚ました。
「全ては手のひらの上か……考えてみれば、都合のいい展開が続きすぎたんだ」
自嘲気味に聞こえるその言葉も、不思議と光の声は弾んでいた。
不安が無いわけじゃない……
だが、それ以上に自分を包み込む優しい光が六つ、光の身体を駆け回っていたからだ。
「この冗談みたいに不規則な光は烈だな?」
スーと光の前にもう一つ光が通り過ぎた。
「この消えそうで消えない不安定な光は牡丹だな?」
また光が通り過ぎた。
「このやたらに強い光は破滅の四天王の一人シードかな?」
続くように光がまた一つ二つと流れた。
「この綺麗な二つの光はシードと同じ、破滅の四天王のマルスとレミーかな?」
そして、光はそっと目を細め、自分に一番懐く小さな光を撫でた。
「この能天気そうな光が巫女か……」
首を横に振り、光はそっと呟いた。
「みんな諦めてなんかいない! だから、俺は最後まで戦う!」
光の周りを飛び回っていた六つの光が一つに集まり、大きな爆発を起こした。
魔天王とライナーゼオンを吸収したヴァクは意気揚々に叫んでいた。
《これで、我が復讐も完結した! 後は私を封印した光の者を始末するのみ……っ!?》
その時、ヴァクの身体に異変が起きた。
「な、何だ!? この熱い塊は……燃える、燃えてしまう……グアァァァァァァァァァッ!」
ヴァクの黒い球体が光と共に弾け飛び、その中から強い光に包まれた二体の巨神が現れた。
二対の巨神は大地に着地すると、そっと胸の前に光を集め、地上へと下ろした。
地上に下ろされた光はパァアと弾け飛び、四人の男女を生み出した。
「終わった……今度こそ本当に!」
「光くん、なんだかちょっと眠いよ……背中借りていい?」
「巫女ちゃんは寝てばっかだな?」
苦笑しながら、烈は腕に抱えられた牡丹を眺めた。
「結局こいつは今回のことを知らずに終わったな?」
「それが、牡丹ちゃんにとって一番言い結果なんだよ……きっと!」
「そうだな?」
「相変わらず、ノンキな会話ね?」
ハハッと笑い出す三人を制止するように一人の女性の声が空から聞こえてきた。
「レミー……」
空に浮かんでいた遊聖のレミーを眺め、烈はそっと目を見開いた。
「破滅の四天王は私を残してみんな消えたわ……」
ふと、レミーは何もない暗闇の空を眺めた。
「私はこれから宇宙を旅してまわろうと思うわ……その点で烈、あなたも一緒に同行しない? あなたは私と一緒に来る価値のある人間だわ……」
「……」
レミーの言葉に烈は一瞬、間を置き、静かに首を横に振った。
「いや、お前とはここでお別れしたほうが良さそうだ……」
グッと烈は親指を立てた。
「あばよ! どこかでまた俺のことを思い出してくれ!」
「ええ……必ず!」
レミーの身体が光へと変わり、暗闇の空へと消えていった。
そんな姿を見つめ、すでに寝入っている巫女を抱えた光はそっとささやいた。
「帰ろうか?」
「ああ!」
光と烈はそっと暗闇の中を歩き出した。
今、ようやく全てが終わったのである。
それから数日が経った。
世間は光たちが巻き起こした、世界を賭けた勝負など知らず、相変わらず平和な毎日を送っていた。
そんな平和な世界の中、巫女はいつも通り、光の背中に跨りながら新聞を読んでいた。
「ねぇ、知ってる? 地球を漂っていた謎の衛星が消滅したらしいよ?」
「え? そんなのあったのか?」
「あったよ! ちゃんと新聞読もうよ!」
「その言葉は自分の足を使って歩くものが言うセリフだ!」
「ふ~~んだ! 光くんの背中に乗ってるほうが楽ちんだもん!」
「俺は重いんだ!」
「あ~~! 女の子に重いって言った!」
「こら、新聞丸めて人を殴るな……落ちる!」
「キャッ……!?」
ドサッと倒れこみ、光は巫女の上へと覆いかぶさってしまった。
「……」
「……」
二人とも顔を真っ赤にし、黙り込むと不意に口元を吊り上げた。
「平和だ!」
「まったくだね!」
よっこいしょと立ち上がると、二人はそっと青い空を眺めた。
「今日も頑張りますか!」
「うん♪」
声を揃えて歩き出す二人に、青い空から一つの光が瞬いた。
まるで一瞬の星の輝きのように……
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最終回です。
不人気でしたが、完結できただけでも良しとしましょう?