No.98796

真・恋姫†無双~天空より降臨せし白雷の守護者~5話

赤眼黒龍さん

今回は賊討伐後編と個人ルートです。

個人ルートは真と明雪にしました。次回はそのほかの主要キャラ達の個人ルートを書きたいと思います。

それでは第5話、楽しんでいただければうれしいです。

2009-10-04 00:06:15 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6306   閲覧ユーザー数:4679

 真たちは現在盗賊団が根城にしている古い砦の前に布陣していた。華琳を囮として盗賊団を誘き出し、明雪率いる別動隊がその後方から強襲、挟み撃ちにして撃破するという桂花の策に春蘭が反発して少しもめたが、許緒が華琳の護衛、真が本隊の殿を務めるということで両者は納得した。

 

許緒「兄ちゃん」

 

真「どうした許緒?」

 

季衣「季衣でいいよ。春蘭様も秋蘭様も真名で呼んでいいって言ってたし」

 

真「なら俺も真と呼んでくれ。真名ではないが俺にとってそれに等しい価値を持っている名だ」

 

季衣「うん、真兄ちゃん」

 

真「で何か用か、季衣」

 

季衣「うん。・・・・・これってたいやくなんだよね」

 

真「確かにそうだな」

 

 季衣は華琳の護衛という大役に明らかに緊張していた。真は薄らと微笑みながら季衣の頭を撫でながら落ち着かせるように言った。

 

真「確かに大役だろう。華琳を一番近くで守る役目だからな。だがな、季衣。それは同時にみんながお前を信頼している証拠なんだ」

 

季衣「みんなが・・・・・ぼくを・・・・」

 

真「季衣ならちゃんと華琳を守れると、春蘭も秋蘭も、もちろん俺も信じたから季衣にこの役目を任せたんだ。大丈夫、季衣ならできるさ」

 

季衣「真兄ちゃん」

 

真「華琳自身も春蘭と同等の武を持っている。気負わず自分にできる最大限の働きをしろ。そうすれば大丈夫だ」

 

季衣「うんっ!」

 

 嬉しそうに笑いながら元気に頷く季衣。真はもう一度季衣の頭を少し強めに撫でると戟を掲げた。

 

真「それにな、季衣。今日季衣の仕事はないよ」

 

季衣「え?」

 

真「俺が全てを薙ぎ払ってやるからな。見てろよ季衣。本当の武ってやつを」

 

 真はそう言い残すと戟を担ぎ隊の先頭に向かった。

 

華琳「・・・・・」

 

 戦闘開始の銅鑼が鳴り響く。戦いの始まりを告げる兵士たちの勇ましい鬨の声が周囲に響く。・・・・・・・しかし、それは華琳たちの軍のものではなかった。

 

華琳「・・・・・桂花」

 

桂花「・・・・はい」

 

華琳「これも作戦のうちかしら?」

 

桂花「いえ・・・・これは流石に予想外でした」

 

 響き渡る鬨の声は砦から飛び出してきた盗賊団のものだった。どうやら銅鑼を出撃の合図と勘違いしたようだ。あまりに愚かなその行動に真は呆れてしまった。

 

華琳「・・・まあいいわ。考えていた口上は無駄になったけど予定に変更はないわ」

 

季衣「曹操さま! 真兄ちゃん! 敵の軍勢が突っ込んでくるよっ!」

 

 突撃をかけてくる賊はこちらよりはるかに多い。元々こちらは千と少し、賊は三千と3倍近い数の差があり、さらにその千を半分に分けているのだからその勢力差は6倍にもなっていた。

 

真「華琳。早く後方に下がってくれ」

 

華琳「真、任せたわよ」

 

 真の最初の役目、それは突撃してくる敵の先陣を圧倒的な力で蹂躙し敵の出鼻を挫くことだった。そのため真には軍の精鋭10人が付き従っていた。馬上のその部下たちを見回し声をかけた。

 

真「よく聞け。俺たちが今から挑むのはこの作戦で最も無謀な役目だ。何せこの11人で敵の先陣を止めろというんだからな。俺たちの働きいかんでこの作戦の成り行きは大きく変わる。もし失敗すれば本隊はすぐさま追いつかれ数で蹂躙されるだろう」

 

 ごくりと息をのむ10人。そして真は振り向く。その眼前には自分たちを殺すべく迫る三千の軍勢。その圧迫感は半端ないものだった。

 

真「だが俺たちは負けない。お前たちは魏の最精鋭10人だ。その誇りを持ってついてこい。これが曹孟徳の覇道の第一歩となる。その先陣、死ぬ気でまっとうせよ。そして生きて帰れ」

 

 真は戟をかまえ走り出すために体勢を低くした。

 

真「いくぞっ!!」

 

精鋭兵「おおっ!!」

 

 掛け声と同時に真は人にあるまじきスピードで駆けだす。10人も負けじとそれに続く。そして双方が激突した。真は戟を勢い良く振り賊の先頭5人を薙ぎ払う。そしてその勢いをそのままにさらに5人を斬り捨てた。

 

真「曹孟徳が客将、御堂!! 命のいらぬ者はかかってこいっ!!」

 

 真の気迫に一瞬たじろいだところに精鋭兵達が突っ込み一気呵成に攻め立てる。賊軍の勢いは完全に失われていた。真はさらに近くにいた敵を手当たり次第に切り裂いていく。そして30人ほど斬り捨てたところで部下たちに撤退を指示する。当然敵もそれを追撃しようとするが・・・。

 

真「させるか、よっ!」

 

 追撃しようとする者を片っ端から斬る。そして部下たちが十分距離を置いたのを見て真はいったん距離をおく。戟を振って血を落とすとニコリと笑って言った。

 

真「それでは、失礼」

 

 そう言い残して真はその場から消えた。一瞬完全に動きが止まる盗賊たち。しかし華琳率いる本隊が撤退を始めたのを見て慌ててそれを追い始めた。

 

華琳「真は!?」

 

 馬を走らせながら合流した精鋭兵の1人に聞く華琳。

 

精鋭兵「不明です。合流する直前までは敵軍の前にいたので「俺なら無事だ」へっ?」

 

 声のした方を見ると華琳の馬と並走している真がいた。

 

華琳「いつの間に!」

 

真「それは後だ。予定位置まで急ごう。あんまりゆっくりしてたら春蘭が敵の横っ腹に突撃しかねん」

 

華琳「あとでちゃんと説明してもらうわよ」

 

 真たちは別動隊の待つ場所まで敵を誘い込むべく賊軍と一定の距離を保ちながら急ぐのだった。

春蘭「くしゅんっ!」

 

秋蘭「どうした姉者。風邪でもひいたか?」

 

春蘭「馬鹿な! 私が風邪などひくものか! おおかた真あたりが噂でもしているのだろう」

 

 春蘭が驚異的な野生のカンを働かせながら秋蘭と話していると伝令の兵が走ってきた。

 

兵士「報告します! 本隊が後退してきました!」

 

明雪「予想より早いわね」

 

春蘭「ま、まさか・・・・華琳様の御身に何かあったのか!?」

 

秋蘭「落ち着け姉者。隊列は崩れていない。それに真がついているんだ。! ほら、あそこを見ろ姉者」

 

 春蘭をなだめながら秋蘭が指さした先、ちょうど隊の中心あたりで青い光が光っていた。

 

秋蘭「作戦がうまくいっていたら合図をすると真が言っていた。あれがおそらくそうなんだろう。大丈夫、華琳様は御無事だ」

 

春蘭「そうか! よし、全軍、突撃準備!」

 

明雪「ほら、あそこに3人ともいるわ。みんな無事よ」

 

春蘭「はい、明雪様! 良かった、華琳様・・・・・・」

 

明雪「あれが盗賊団か。まったく、隊列もめちゃくちゃだな」

 

春蘭「やはりあのような奴らに策などいらなかったのでは? 正面から叩き潰してしまえばよかったのです」

 

明雪「それは違うわ春蘭。この先私たちには多くの戦いが待っている。それに勝つためにはこんなところで無駄に兵をなくすわけにはいかないのよ」

 

 強く言い聞かせるように明雪に言われ少し落ち込み気味にはいと返事をする春蘭。その横では・・・。

 

秋蘭「はぁ、怒られる姉者もかわいいなぁ・・・・」

 

 と、姉を少し危ない目で見ている秋蘭がいた。その間も賊は春蘭たちの前を通過していく。目の前の逃げる獲物だけしか見えていないらしく、周囲の警戒もせず一直線に華琳たちを追いかけている。

 

春蘭「なあ、秋蘭。もう突撃してはダメか?」

 

 無防備に側面をさらす盗賊団を見て突っ込みたくてうずうずしている春蘭。秋蘭はそんな姉にやれやれと思いながらなだめる。

 

秋蘭「もう少し待て。側面に突っ込んだのでは混乱が薄い。こちらの被害が増えてしまう」

 

明雪「そうだぞ春蘭。作戦通り敵が通過するのを待つんだ」

 

春蘭「しかし明雪様。あれだけ無防備に側面をさらされると・・・・・」

 

明雪「だめだ。通り過ぎたら好きなだけ暴れていいから、もう少し待ちなさい」

 

 その後も敵が通り過ぎるまでの間に何度か同じやり取りが繰り返され、3度目に入ろううとしたときやっと最後尾が通り過ぎた。

 

春蘭「もういいですよね、明雪様、秋蘭!」

 

明雪「いいわよ。皆の者、聞けっ! 我らは今より敵の後方を強襲する。民を殺し米や金品を奪う腐った獣どもに正義の鉄槌をくらわせよっ! 春蘭!」

 

春蘭「はいっ!」

 

明雪「騎馬隊を率いて敵後方に突撃せよ!」

 

春蘭「はっ!」

 

明雪「秋蘭!」

 

秋蘭「はっ!」

 

明雪「敵部隊中央に矢を射かけよ。敵に矢の雨をふらせよ!」

 

秋蘭「お任せを」

 

明雪「歩兵隊は私に続け。春蘭の作った隙に乗じて敵を蹴散らすぞ。全軍、攻撃開始っ!」

 

飛来する大量の矢と自分たちに向かって猛進してくる春蘭率いる騎馬隊の姿があった。春蘭は溜まった鬱憤をはらすべく次々と敵を薙ぎ払っていく。混乱に陥る賊たち。その混乱は逃げる真たちにもすぐわかった。

 

華琳「流石は明雪ね。絶妙な時期に仕掛けてくれるわ」

 

真「次も俺が一番槍でいいんだな」

 

華琳「一番槍?」

 

真「俺たちの世界での先陣のことだ」

 

華琳「そういうことね。ええ、任せるわ。すべてを蹴散らしなさい」

 

真「承知した。季衣、俺は戦闘で突っ込む。華琳のことは任せたぞ」

 

季衣「うんっ! 真兄ちゃんも気をつけてね」

 

真「ああ。行ってくる」

 

 真を見送ってから華琳は全軍に号令した。

 

華琳「総員反転! 数が頼りの盗人どもに、本物の戦がなんたるか、骨の髄まで叩き込んでやりなさいっ!」

 

 その号令と共に一斉に反転する兵士たち。腰を落とし全員が突撃態勢に入る。そして次の号令で一気に突撃を開始した。

 

華琳「総員、突撃! すべてを薙ぎ払えっ!」

 

全兵士「おおぉっ!!!!!!」

 そこからは圧倒的だった。いきなりの強襲で混乱した賊達は3倍近い数にもかかわらず何の抵抗もできず打ち取られていく。後方からは秋蘭率いる弓兵が矢を射かけ混乱したところに春蘭率いる騎馬隊が突入、後方に回り込もうとする者は明雪たち歩兵部隊に阻まれる。

 一方前方は真の独壇場だった。敵陣に単騎で乗り込み敵の胴を薙ぎ、突き、頭から真っ二つにぶった切る。その姿は鬼神のごとく。その姿に兵士たちは勇気づけられ、恐れて浮足だった者は後続の兵たちに次々と打ち取られていった。

 

桂花「逃げる者はほおっておけ。あとで追撃をかける」

 

 桂花がそう指示するころには盗賊団は半数になっており逃走を開始していた。そこに明雪と秋蘭が合流した。

 

華琳「見事な攻撃だったわ。流石ね明雪」

 

明雪「季衣が来て春蘭と賊を追撃していったけどよかったの」

 

桂花「かまいません。私が2人に追撃するよう命じましたから」

 

秋蘭「もし命令されていなくても姉者は追撃すると言ってきかなかっただろうがな」

 

 真は戟を担ぐと華琳にいった。

 

真「俺も追撃に出る。城の制圧は任せた」

 

華琳「2人をお願いね」

 

真「承知した」

 

 という言葉と同時にその場から消える真。

 

明雪「・・・・・日に日に人間離れしていくわね、真は」

 

 その言葉に一斉に頷く一同。その場にいた全員が心を一つにした瞬間だった。

 

盗賊X「残ったのはこれだけか・・・・・・」

 

 部下たちを見て呟く。春蘭たちの猛追は何とか振り切ったが、残ったのは50人にも満たなかった。とりあえず距離を置こうと部下に指示を出そうとしたその時だ。

 

季衣「春蘭様! 見つけましたっ!」

 

 盗賊たちが振り返るとそこには季衣と春蘭が迫ってきていた。

 

春蘭「まぁてぇー!!」

 

 慌てて逃げ出す盗賊たち。しかしその前に1人の男が立ちふさがる。黒衣を身に纏い、空色の刃の戟を担ぎ悠然と立ちはだかるその男を見た盗賊Xの顔が青ざめる。

 

真「ここから先は通行止めだ」

 

 真は鋭い目つきで睨みつける。一瞬たじろいだ盗賊たちだが真が1人とわかると一斉に斬りかかる。

 

盗賊X「よせっ!」

 

 制止も聞かず突っ込んでいく盗賊たち。その刃が真に届く寸前、真の姿が消える。そして次の瞬間にはその後方に姿を現す。手に持った戟の刀身からは血が滴り落ちていた。

 

真「俊氣、縮地・『血雨』」

 

 その言葉と同時に盗賊達から一斉に血が噴き出す。ある者は胴体を切り離され、ある者は首を落とされ、ある者は心臓を一突きにされ、またある者は身体を縦に真っ二つにされていた。見ていた3人はおろか斬られた本人すらもいつ自分が死んだのかわからなかっただろう。あまりに切り口が鋭く一定時間原形を保っていたほどにその斬撃は凄まじかった。噴き出して大地に降り注ぐ血は正に血の雨だった。

 

季衣・春蘭「!!」

 

盗賊X「ああ、あぁぁぁあああぁぁ」

 

 春蘭たちは言葉を失い、盗賊は恐怖で身がすくんで一歩も動けなくなっていた。

 

真「季衣」

 

季衣「! な、なに真兄ちゃん」

 

真「こいつは季衣が止めを刺せ。お前にはその権利がある」

 

 男を見る季衣。そこで初めてその男が自分たちの村を襲った盗賊を率いていたあの男だと気がついた。季衣がもう一度真の顔を見ると真はゆっくりと頷いた。

 

季衣「はぁああぁあ~!!」

 

 鉄球をありったけの力で振り回す。そして轟音をたてて放たれた。盗賊Xが我にかえって振り向いた時には目と鼻の先に鉄球が迫っていた。骨が砕け肉が潰れるが響き、それが戦いの終わりを告げた。

 

 戦いが終わりいったん占拠した砦に集合した後死体の処理などを開始した。盗賊たちの死体は一つにまとめて火葬された。真はその様子を砦の見張り台の上から眺めていた。

 

季衣「真兄ちゃん、探しt・・・・」

 

 見張り台に上ってきた季衣は真を見て言葉を切る。真は真剣な面持ちで焼かれていく死体を見ながら腰から雷皇を鞘ごと抜く。そして顔の前で鞘から半分ほどゆっくりと刀を抜いて勢い良くそれを納めた。

 

真「どうしか、季衣。何か用か?」

 

季衣「華琳様がもうそろそろ帰るから呼んで来いって。真兄ちゃんは何してたの?」

 

真「・・・・・死者の魂を背負っていたのさ」

 

季衣「?」

 

真「俺は今日人を殺した。理由がどうあれ、相手がどんな人間であれそれには変わりない。もしかしたら更生できた人間がいたかもしれない、もしかしたら今後別の未来を歩めたかもしれない。俺はその可能性を断ち切った。その可能性は限りなく無いに等しいものだったかもしれない。それでも俺はその可能性を彼らから奪ったんだ」

 

季衣「・・・・・・」

 

真「だから俺は雷皇に宿る神々の力で魂を鎮め、そしてその魂を背負う。背負った魂の分まで死に物狂いで生きる。それが死者に対する俺からのせめてもの礼義であり、俺の師匠の教えだ。季衣も覚えておいてくれ。生きていた時は外道に落ちた獣同然の奴らだ。しかし死んでしまえばただの魂にすぎない。生前どんな人間であったとしてもけして死後にその魂を穢すような行為を行ってはならない。このことだけは忘れないようにしてくれ」

 

季衣「・・・・・うん」

 

 しっかりと頷く季衣。真はそんな季衣を見てうれしそうに笑うと頭を優しく撫でた。

 

真「それじゃあ華琳たちのところへ行こうか」

 

 2人は華琳たちのもとへと向かった。

 帰りの行軍中、真と季衣は馬を並べて進んでいた。

 

真「よかったな」

 

 今回の討伐の功績を認められた季衣は正式に軍の一員として迎えられ華琳の親衛隊の任に着くことになった。

 

季衣「うんっ。これも真兄ちゃんと華琳様のお陰だね」

 

 嬉しそうに笑う季衣。

 

季衣「でも真兄ちゃんすごいね。一瞬でみんな斬っちゃうんだもん」

 

 いまだに思い出しては興奮しながらその時のことを語る季衣。真はそんな季衣を見て笑っている。

 

季衣「ねえ、真兄ちゃん。真兄ちゃんの名前と字、あと姓ってなんて言うの?」

 

 そういえば言っていなかったなと真は思った。しかし真はここであることを思い出す。真は結構とんでもないうわさを多く持っている。春蘭を圧倒したことで兵士たちに恐れられ、そこから広がった噂が今でも世間に残っている。

 

真「季衣」

 

季衣「何、真兄ちゃん?」

 

真「落ち着いて聞いてくれ。俺の姓を聞いたら少し驚くと思うが大丈夫だからな」

 

 回りくどい言い方をする真に首をかしげながらとりあえず頷く季衣。真はしっかりと頷いたことを確認してからゆっくりと名乗りはじめる。

 

真「俺には字がない。真名として名乗った真も正確には名にあたるものだ。まあ俺にとっては真名に匹敵する大切な名なのは事実だがな。それで俺の姓はみ「御堂様!」・・・・・・・」

 

 走ってきた伝令らしい兵士に真の言葉は遮られる。そしてその兵士ははっきりと真の姓を呼んでしまった。額に手を当てやってくれたなという感じに顔をしかめる真。兵士が呼んだ御堂という言葉を聞き呆然と真の顔を見つめる季衣。

 

兵士「あ、あの、御堂様?」

 

真「・・・・・・・用件は何だ?」

 

兵士「はっ。曹操様が後で来るように伝えよと」

 

真「わかった。さがれ」

 

 真に一礼して走り去る兵士。真は深く溜息をつくと季衣を見る。

 

季衣「・・・・・・真兄ちゃん」

 

真「なんだ、季衣」

 

季衣「さっきの兵士さん、真兄ちゃんのこと御堂って」

 

真「ああ。俺の姓は御堂だからな」

 

季衣「確か天の御遣い様も、御堂だったよね。・・・・・・もしかして?」

 

真「・・・・そのもしかしてだ。俺が天の御遣いと呼ばれている男だよ」

 

季衣「・・・・・・・・・・・・・ええぇぇぇっ!!!」

 

真「だから驚くなと言っただろ」

 

季衣「だって天の御遣い様だよっ! 指一本で春蘭様を瞬殺したとか、100万の軍勢を1人で薙ぎ払うとか、怒ると街1つ粉砕するとか、素手で人間を引き千切って食べるとか、空を自由に飛びまわれるとか言われてるあの御遣い様だよっ!!」

 

真「無茶苦茶いってるな(まあ、前半3つはできなくもないが)」

 

 とんでもない自分の噂に呆れる真。

 

真「まあ、噂がどうあれ俺は俺だ。誰になんと言われていようと俺は季衣の知っている俺だよ」

 

 そう言って驚いている季衣の頭をくしゃくしゃっと撫でる真。季衣はそれに気持ちよさそうに目を細める。

 

季衣「そうだね。真兄ちゃんは真兄ちゃんだもんね」

 

真「ああ」

 

 2人はもう一度笑い合った。

 

個人ルート・真 

 

真「警備隊の隊長?」

 

 玉座の間に呼び出された真はついて早々、華琳にそう命じられた。

 

真「何故警備隊の隊長なんだ?」

 

明雪「本来なら将軍として一軍を任せたいところなんだけどね、まずは街の警備から任せて正式に一軍を任せることにしたのよ」

 

華琳「前の州牧は本当に全く仕事をしていなかったらしくてね。警備状況も治安も最低の状態なのよ」

 

 前回の盗賊団討伐の後華琳は逃げ出した前の州牧に代わって新しい州牧に就任していた。

 

華琳「警備兵の人数と予算はそれにまとめておいたわ。2日あげるから警備計画を考えて提出して頂戴」

 

真「ふむ・・・・・・」

 

 もらった資料に目を通していく真。真剣な面持ちで時折ブツブツとつぶやきながら最後まで読み終えると華琳たちに向き直る。

 

真「予算と兵員はどの程度増員可能だ?」

 

明雪「このくらいが限度かしら」

 

真「そうか・・・・・・・わかった。夕方までにはまとめて持っていこう」

 

華琳「大丈夫なの?」

 

真「ああ。計画の基礎は日本でやっていたことをこちらに合うように調整するだけだからな。細かいところの調整と下調べに半日あれば後はまとめるだけだ。少なくとも夕方にはできるだろう」

 

華琳「それじゃあ任せるわ。できるだけ具体的にお願いね」

 

真「了解だ」

 

 夕刻、予定通り真が持ってきた警備計画書を見て華琳、秋蘭、明雪の3人はその完成度の高さに驚いた。計画の詳細が事細かに見やすくまとめあげられている。

 

華琳「この街を区画分けして警備するっていうのはどうするの?」

 

真「まず街を十字に仕切り4区画に分ける。さらにその1区画を9つに分けてその中央に見張り台付きの詰め所を造る。各区画に2人を配置し常時巡回させるとともに、4人一組で全体を巡回させる」

 

秋蘭「見張り台は何に使うのだ?」

 

真「上から街を監視するのさ。あらかじめいくつかの合図を設定しておき、見張り台に設置した鐘で異常を見つけた区画の警備兵に区画番号と同じ回数叩いて知らせる。あとは決めておいた合図で誘導するわけだ。これなら騒ぎが起きたとき警備兵に見えなくても発見し対処できる」

 

 真の計画通りそれが可能ならそれはとても画期的なことだ。特に火災の早期発見が可能なことがこの時代大きな意味を持っている。この時代木造住宅が主流なため火災の発見が遅れれば大惨事が起こりかねない。消火設備も未発達なため火災が広がれば手がつけられず、街が全焼したという話も少なくはなかった。

 

真「さらに街の各所に放水ポンプを設置して火災に備える」

 

明雪「何その、ほうすいぽんぷって?」

 

真「天の国で使われている水をくみ上げる装置のことだ」

 

 ポンプの簡単な機構を説明する真。

 

秋蘭「確かにそれなら水源さえあれば少ない人員で消火活動が可能になるな」

 

華琳「それだけじゃないわ。行軍中の水の確保にも役立つわ」

 

明雪「技術的にもこちらでも再現可能だしね」

 

真「それは確認済みだ。大体の機構は説明しておいたから一度製作すれば後の量産はすぐに可能だろう」

 

華琳「根回しも流石ね」

 

 しかしここで明雪にある疑問が浮かぶ。

 

明雪「しかしその計画には結構な費用が掛かるんじゃないの?」

 

真「それは問題ない。足りない分は街の豪商から出資してもらう」

 

秋蘭「簡単に言うがそれは難しいのではないか?」

 

 自分たちにメリットがなければ動かないのが商人である。治安が良くなる程度のことでは動くとは到底思えなかった。豪商ともなれば尚更である。

 

真「その点は問題ない。すでに話は通してある。あとは華琳の許可さえもらえればすぐにでも出資してくれるはずだ」

 

 あっさりと真は言ってのけたが3人は驚いた。

 

華琳「いったい何をしたの!?」

 

真「簡単だ。自分たちに利益がなければ出資しないなら出資したくなるようにすればいい。具体的には警備隊で出資してくれた店の宣伝をすることにしたんだ」

 

秋蘭「宣伝?」

 

真「警備隊は道案内の業務も兼ねる。その際出資してくれた店をさりげなく宣伝するのさ。武具店なんかは警備隊で使う備品を優先発注したりすることで店に利益が生まれる」

 

秋蘭「確かにそれなら出資はしやすくなるな」

 

 華琳は改めてこの男は非凡だと思った。この街に真が来てからまだ一月もたっていないにもかかわらずすでに街の状況を把握し商人たちとのつながりをつくっていることである。

 

華琳(出会ってから結構たつけどいまだに底が見えてこない。そこを見ようと覗けば覗くほど新しい何かが見えてきてそこに一向にたどりつかない。・・・・ふふ、本当に私の前に跪かせてみたいものね、この男を)

 

華琳「いいわ。任せるから好きにやってちょうだい。他に何か必要な物はある?」

 

真「そうだな。人員をもう少し回してくれないだろうか? これから志願者を随時募集して人員を確保するつもりだが今は人手不足だ」

 

華琳「わかったわ。そのことは後で決めて知らせるわ」

 

真「頼む」

 

 数ヶ月後、真の計画は見事に成功をおさめていく。華琳の統治下に置かれた全ての街には同じ警備方式が採用され劇的に治安を改善していった。これにより真の名はさらに広まることとなった。

個人ルート・明雪

 

明雪「真はどこへ行ったのかしら」

 

 ある日の昼ごろ明雪は真を探して城中を歩き回っていた。街の警備計画以来、差支えない程度に様々な政策の手伝いをしてもらっているのだがその中の一つに分からないものがあったのだ。別に急ぐ必要はない案件なので後日でもいいのだが、明雪の今日の仕事はすでに終わっているし、時間もあったので今日中に片づけてしまおうと考えたのだ。

 

明雪「練武場かな?」

 

 そう思って足を運んでは見たが、結局ここにも真はいなかった。そこで練武場にいた兵士に聞いてみることにした。

 

明雪「ちょっといいか?」

 

兵士「曹仁様。何かご用でしょうか?」

 

明雪「真を見ていないか?」

 

兵士「御堂様ですか? 御堂様でしたら先ほど街の方に向かわれました」

 

明雪「そう。ありがとう」

 

 どうしようかと少し迷った明雪だったが、視察も兼ねて行ってみることにした。

 

 街に出てみると思った以上に活気があった。

 

明雪「すごいわね」

 

 多くの人が道を行き交い、立ち並ぶ商店では様々な物が売られ、人々や子供たちの笑い声が響いている。真の計画が実行に移されて以来街はどんどん活気づいていった。まだ完全な状態ではないため不安な点もあるが、天の御遣いが警備隊長をしているというのは思ったよりも大きな影響を与えており、初日に真が派手に取締りを行ったことにより治安もかなり良くなっていた。

 

明雪「出てきてみたのはいいけど、どこを探せばいいのかしら?」

 

 一番肝心なところを今頃思い出す。明雪は普段華琳の補佐で政務をしていることが多いためあまり街には出てこない。そんな明雪に真がどこにいるか、どこを探せばいいかなどわかるはずもなかった。

 

明雪「どうしたものかしらね・・・・」

 

 考えながらあてもなく歩く明雪。そんな彼女の耳に元気に遊ぶ子供たちの声が届く。その声の中に気になる言葉があった。

 

少女「御堂様、遊ぼ~」

 

少年「御遣い様早く~」

 

 この街で、いやこの世界で御遣いと呼ばれる御堂という男はおそらく一人しかいない。声のするほうへ行ってみると子供たちに囲まれ遊ぶ真の姿があった。いつもの引き締まった表情ではなく穏やかな顔で時々笑みを浮かべている。明雪は思わす見いってしまった。

 

少女B「おねえさん、だれ?」

 

 声のした方を見ると5歳くらいの少女が明雪の服の裾をつかみながら彼女を見上げていた。その少女の声をきっかけに遊んでいた子供たちが明雪の周りに次々と集まってきた。

 

少女C「お姉ちゃん遊ぼ!」

 

少年B「遊ぼうよ、お姉ちゃん!」

 

明雪「ちょっ、待ちなさい、ちょっと!」

 

 制止も聞かどんどん集まってくる子供たち。こんな大人数の子供に囲まれたことのない明雪はどうしていいか分からずおろおろとしている。真は何人かの子供たちとそんな明雪を見て笑っている。

 

明雪「真! 見てないで助けてよっ!」

 

真「たまには慌てる明雪を眺めるのも悪くないな」

 

明雪「真っ!」

 

真「ははは。わかったよ」

 

 すると真は立ち上がり大きく2回手をたたく。

 

真「そこまでだ。お姉さんが困ってるだろう?」

 

 真に言われるとおとなしく引き下がる。そして一列に並んだ。

 

真「こちらは曹仁将軍。しっかりとあいさつしろよ」

 

子供たち「曹仁様、こんにちは~!!!!!」

 

明雪「あ・・・・・ああ、こんにちは」

 

真「少し話があるからみんなは先に遊んでてくれ」

 

 子供たちは、は~いと元気よく返事をして散っていく。真は明雪と共に近くの椅子に座った。

 

真「何か用か、明雪」

 

明雪「真の提案した政策について聞きたいことがあったんだけど・・・・・・・・・・・」

 

真「どうかしたのか?」

 

明雪「いやぁ、ね。意外だなあと思ってね」

 

 真は城にいるとき基本的に引き締まった表情でいることが多い。兵士たちに訓練をしているときでもその厳しさは有名で、そんな普段からはとても子供たちと遊ぶような男には見えなかった。

 

真「そうか。まあそう言われても仕方がないがな」

 

明雪「しかも豪く手なづけてるじゃない」

 

真「別にそういうわけではないさ。子は国の宝で未来だ。そんな宝に遊びついでにいろいろ学んでもらってるのさ」

 

少女B「御堂様」

 

 横から声をかけてくる少女。それは最初に明雪に声をかけたあの少女であり、大事そうに本を抱えている。

 

少女B「お話終わった?」

 

真「ごめんな。もう少しかかるんだ。どうかしたのか?」

 

少女B「また読み方を教えてほしくて」

 

真「わかった。もう少し待っていてくれ。話が終わったら教えてあげよう」

 

 ゆっくり頭をなでながら微笑む真。その表情は穏やかで慈愛に満ちていた。

 

少女B「うん」

 

 頷いたもののその場から動こうとしない少女。真は仕方ないなと言わんばかりに軽く息をはくと少女を抱き上げて膝の上に座らせる。

 

真「話が終わるまでおとなしくしてるんだぞ」

 

少女B「うんっ!」

 

明雪「読み書きまで教えてるんだ」

 

真「興味のある奴にだけだがな。最低限挨拶くらいは教えているよ。この子たちがこの国の未来を背負う。本来ならある程度の教育の機会を与えるべきなんだ」

 

 そう言って膝の上に座る少女の頭を撫でる。

 

真「この子だって教え始めて数日なのに簡単な絵本くらいは読めるようになっている」

 

 この時代学問を学べる者の大半はごく少数の裕福な人間だけだ。一平民が学問を学ぶ機会などほとんどなかった。

 

真「別に私塾を開いてまで教える気はないが、学びたいものがいるなら教えられる範囲で教えてやろうと思ってな」

 

明雪「以外と子供好きなんだな」

 

真「それもあるが、これが俺が兵士になった理由の一つだからな」

 

 そう言って真は空を見上げる。

 

真「俺は陛下たちに拾われる前はひどい生活だったからな。人扱いされたこともなかったしその日生きるのに必死だった」

 

明雪「・・・・・・」

 

真「俺みたいな子供を少しでも減らしたい。それが俺の戦う理由の一つだ」

 

明雪「・・・・・・私にも」

 

真「ん?」

 

明雪「私にも手伝えることはあるか?」

 

 真は一瞬キョトンとした顔になったがすぐにニカッと笑う。そんな真の顔を見てドキッとする明雪。それは彼女が今まで感じたことのない感覚だった。しかし明雪は真の次の一言で一気に現実に引き戻されることとなる。

 

真「皆、曹仁殿が一緒に遊んでくれるそうだ。めいいっぱい遊んでもらえ!!」

 

 結局その一言で子供たちに取り囲まれた明雪。解放されたのは日が沈み始めるころだった。とても疲れる一日だったが、たまにはこんな日があってもいいかなと思う明雪だった。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
50
9

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択