翌日、私達は玉座の間へと集合しました。
玉座の座るのは太守の白蓮さん。
そのちょうど向かい側、部屋の中央に座っているのが昨日目を覚ましたお兄さんです。
「改めて聞こう。お前の名は北郷一刀で間違いないな?」
「うん・・・じゃなくて、はい。」
「それで、どこから来たかという問いにお前は聞き慣れない地名を話した。これは?」
「それについては、ちょっと考えがあるんだ。君が公孫賛さんで君が劉備さん。それで間違いないんだよね?」
お兄さんは白蓮さんと桃香さんを指さして言いました。
普通に考えれば非常に無礼な仕草ですが、特に気にする様子もなく2人は頷いていました。
「それで思ったんだ。俺は、未来から来たってね。」
「未来?」
お兄さんの未来という言葉に首をかしげます。
確かにこの世界にも未来はあるでしょう。
ですが、そこから来るなど常識的に考えてあり得ません。
「未来とはどういう事だ?」
「公孫賛さんも劉備さんも、俺が住んでいた世界ではもう千年以上前に死んだ人物なんだ。」
「なっ!?」
「ただ、俺の知っている公孫賛も劉備も男性だから、ちょっと違っているのかもしれないけど・・・。」
最後の方は小さくなってましたが、キチンと聞き取っていたようです。
「愛紗ちゃん!!私、男に見える?」
「い・・・いえ、どこから見ても女性ですよ。」
「だよね。よかった~。」
劉備は男性という発言に自分のことを愛紗さんに確認する桃香さん。
どう見ても女性にしか見えません。
それは白蓮さんも一緒です。
「では、北郷の知っているその過去とは違うということか?」
「多分ね。でも、公孫賛や劉備という名前はそうあるものじゃないから、全く違うとは思えないんだけど・・・。」
「それで、お兄さんは他に知っている人の名前とかありますか~?」
ちょっと気になったので、聞いてみました。
「他にか・・・。有名な人だと、曹操とか孫権とか・・・。」
「曹操さんは、今は陳留の刺史ですね~。」
「曹操もいるのか!?」
「孫堅さんは先ほどの戦で命を落としましたね。その跡目を娘の孫策さんが引き継いだはずですが・・・。」
「今は袁術殿に取り込まれてますな。」
「いや、その孫堅ではなくて、息子の孫権なんだけど。」
「息子さんですか~?確か、孫策さんの妹に孫権さんという人がいたと思いますが~。」
「孫権も女性なんだ・・・。それじゃ、ひょっとして曹操も。」
「立派な女性ですよ。」
お兄さんはなにやら頭を抱えています。
どうも、お兄さんの知っている世界ではその辺りの人物は全員男性のようですね。
お兄さんが頭を抱えてしまい会話が途切れてしまいました。
ですが、このままにしておくわけにもいきません。
なので、白蓮さんが話を進めます。
「うーん。その辺りの話ももっと聞きたいところだが、それほど時間もないのでな。まずは、北郷に何が出来るかだが・・・。」
「その前に、みんなの名前教えてくれないかな?あと昨日話していた真名の事も。」
「おぉ、そうだったな。私は昨日紹介したから、風から頼む。」
私からですか・・・。
まあ、立っている順番からすると順当でしょうね。
「改めまして、お兄さん。私は程昱と言います。」
「私の名は郭嘉です。よろしく、一刀殿。」
「私は趙雲だ。よろしく頼むよ、北郷殿。」
「私は劉備です。ってもう知っているよね。」
「我が名は関羽だ。」
「鈴々は、張飛なのだー!!お兄ちゃん、よろしくなのだー!!」
一通り自己紹介が済んだのですが、お兄さんは非常に驚いた表情を見せています。
私達の中に驚くような人物がいたのでしょうか。
「関羽に張飛、趙雲ってあの・・・。」
「鈴々はあの張飛なのだ。」
「こら、鈴々!!あのって意味分かっていないだろ!!」
「にゃははは・・・。」
愛紗さんと鈴々ちゃんとのやりとりに場が少し和みました。
「北郷殿。私も有名なのか?」
「ああ。趙雲って言ったらもう凄いもんだよ!!」
お兄さんの言葉に、星ちゃんは何やら恍惚の表情を浮かべています。
「お兄さん、私達は?」
気になるので一応聞いておきましょう。
「あー、ごめん。俺も三国志そんなに詳しくないから・・・。」
「そうですか~。」
ちょっと残念です。
ですが、お兄さんの知っている桃香さん達は男性らしいですから、ちょっと違うのかもしれません。
これから頑張れば私達も有名に・・・って有名になるためにやっているわけではないんですけどね。
それよりも、気になる言葉がありました。
「お兄さん、その・・・三国志・・・と言うのは何ですか~?」
「三国志って言うのは、俺の世界で劉備達が活躍した時代を書いた物語の事だよ。結構有名な物語だから知っている人も多い。俺はあんまり詳しくないけど、、多分程昱さんも郭嘉さんも出ていると思うよ。」
なるほど、今の事を書き留めて後年に伝えるというわけですね。
これはやってみる価値があるかもしれません。
「それでですが・・・『あー、いいかな。』。」
稟ちゃんが何かを聞こうとした時に白蓮さんが割り込んできました。
「色々聞きたいのは分かる。だが、あんまり時間がないのだ。細かい話は後で個人的に聞いてもらえるか?」
「はい・・・、すみません。」
確かに自己紹介だけのはずなのに色々聞いてしまいました。
「それで、昨日話していた真名の事なんだけど・・・。」
「ああ。真名とはその人物を現す名だ。知ることが出来ても相手から認められない限り、その名を口にしてはいけない。」
「そうか・・・。それで昨日・・・。」
そう言って愛紗さんの方を向いたお兄さんを、愛紗さんが睨みます。
バツが悪くなったのか、お兄さんはすぐに正面をむき直しました。
「愛紗よ、そこまで悪意をむき出しにするな。北郷殿も反省しておるだろうよ。」
「そうだよ、愛紗ちゃん。」
星ちゃんと桃香さんの言葉に必死に頷くお兄さん。
愛紗さんも、この2人に言われてはどうしようもありません。
「わかりました・・・。次は気をつけて下さいね。」
「分かったよ。すまなかった・・・。」
2人の確執はこれで解消でしょうか。
「とにかく、北郷にはしばらくここにいてもらうことにしよう。あの噂の事もあるからな。」
「噂?」
お兄さんは、首をかしげます。
「曰く、『流星と共に天の御遣いが降り立ち、この乱世に平和をもたらす。』という事だそうです。」
「ふーん。その噂と俺に何の関係が?」
「一刀さんが天の御遣いなんだよ!!」
「そう・・・、えー!!」
桃香さんの言葉にお兄さんは驚きました。
それはそうでしょう。
いきなり天の御遣いなどと言われても混乱するだけです。
「いや、俺ってただの学生だし。そんな大それたもんじゃないよ。」
「でも、流星と共に現れたし、その光り輝く衣なんか見たこと無いよ。」
「これはただのポリエステルだし。」
「ぽーりえすてーる?」
「それは何なのだ?」
「何だと言われても、この服の素材だけど・・・。」
「そうなのかー。」
お兄さんと桃香さん達との問答が続いています。
稟ちゃんはやれやれという表情をしているし、星ちゃんは楽しんでいるように見えます。
そして、白蓮さんがちょっと苛ついているのを感じました。
と思ったら、パンパンと白蓮さんが手を叩きました。
「とにかく、細かい話はまた後だ。とにかく、北郷にはここにいてもらうようにしよう。」
「それがいいですね。天の御遣いかはどうかは別にしても、一刀殿の存在は武器にも脅威にもなりそうですし。」
稟ちゃんの意見に私も賛成です。
少ししか話してませんが、このお兄さんは私達の知らない事を色々知っていそうです。
それにお兄さんはああ言ってますが、私はこのお兄さんこそ天の御遣いだと思っています。
口には出しませんでしたが、あの日輪の雰囲気をお兄さんに感じていました。
「北郷は、昨日の部屋を使ってもらっていい。これから何をしてもらうかは、これから決めるとして皆は各々の持ち場に行くように。」
白蓮さんの言葉でその場は解散しました。
桃香さんはまだ色々話をしたがっていましたが、白蓮さんに無理矢理引き離されました。
「では、お兄さん。行きましょうか。」
「あ・・・ああ・・・。」
桃香さんの様子を見て戸惑っているお兄さんを私が連れ出しました。
こうして私達は、お兄さんの部屋へと向かいました。
私も一緒に部屋に行ったのにはわけがありました。
お兄さんの学力を確かめる役にされたためです。
稟ちゃんは、今日は大事な仕事があるので私になったというわけです。
お兄さんには私が学力を確認する役だと、簡単にですが説明しました。
そんな私に、お兄さんは苦笑いを浮かべました。
「まあ、そうだよなぁ。こんな得体も知れない奴だから監視がつくのは当たり前だ。」
「そんなことはないですよ~。」
何か勘違いをしているので、説明する事にしました。
「風は別にお兄さんの監視をするわけではありません。ここには人を遊ばせておくほど余裕があるわけではないですから、お兄さんが何が出来るかをまず確認しないといけないのです。その為に私はお兄さんの学力を確認させてもらいます。」
「そう言うことか・・・。でもなぁ。」
「白蓮さんをはじめ、ここにいる人でそんな事考える人はいませんよ。それに・・・。」
言いながら私は顔をお兄さんに近づけました。
「風はお兄さんに日輪を感じました。お兄さんがどう思おうと、風はお兄さんが天の御遣いだと思っていますよ。」
「そうなのか・・・。」
お兄さんも顔を近づけてきます。
これは貞操の危機ですね。
という事で、この子の登場となります。
「おー、お兄ちゃん!!女の子にむやみに顔を近づけるもんじゃねーよ!!」
「こら、宝譿!!そういう言い方をするんじゃないですよ!!」
私のやり取りにお兄さんが唖然となっています。
「あー、えっと、その子は?」
「この子は宝譿と言って私の相棒です~。」
「おー、よろしくな、兄ちゃん。」
「いや、相棒って程昱さんが話しているだけでしょ?」
「ぐー。」
都合悪いときは寝るに限ります。
「いや、寝ないで欲しい・・・。」
「おぉ。現実逃避に寝てしまいました。」
「そう思いっきり言われると困るんだけど。」
お兄さんは呆れていますが、場の空気が和んだのは事実です。
「ささ、お部屋に早く行きましょう。」
私はお兄さんを促しました。
結論から言うとダメダメでした。
一番簡単な書物を渡し、読んでみるようにしたのですが、お兄さんは全く読めません。
さらに言えば、字を書くのも無理のようです。
字が読めない、書けないではどうしようもありません。
「参ったなぁ。古文は苦手だから全然勉強していなかったんだよ。」
「古文とは何ですか?」
「あー、俺の世界の学問の一つさ。昔の文学を読んだり理解したりするものなんだけど。」
「それをお兄さんは勉強しなかったわけですね。」
「そうなんだよね。何の役に立つか分からなかったから全然身につかなかった。今思えば勿体ない事をしたよ。勉強しておけばこの漢文も簡単なものなら読み書きできたろうに。」
「ですが、ここではそうは言ってられませんから、これくらいは読み書きできるように勉強してもらいますよ~。」
「程昱さんが教えてくれるの?」
「いえ~、風はこれでも忙しいのです。私の部隊の中でも優秀な人物がいますから、彼にやらせます~。」
そういって私は入り口にいる兵士さんに、彼を連れてくるように言いました。
そのあと、お兄さんの方向に振り返りました。
「お兄さん、風の事は風とお呼び下さい。」
「えっ、でもそれって真名じゃ・・・。」
「そうですよ。でもさっき言ったとおり、風はお兄さんを天の御遣いだと思ってます。その相手に真名を預けるくらいは当たり前です。」
「そっか、ありがとう風。」
「いえいえ~。あっ、来たみたいですね。」
兵士さんに呼ばれた彼にお兄さんに簡単な言語の学習をしてくれるようお願いしました。
「では、私は白蓮さんの元に報告に行きます~。頑張ってくださいね、お兄さん。」
こうして、私は部屋を後にしました。
玉座の間では白蓮さんと稟ちゃん、そして星ちゃんが話し合っていました。
桃香さん達は、それぞれの持ち場に移動したようです。
三人は、私が戻った事に気付き、会話を止めました。
「風、どうだった?」
「ダメですね~。文字を読んだり書いたり出来ません。」
「そうか・・・。」
「なので、風の部下にお兄さんに文字を教えるようお願いしてきました。お兄さんが文官として役立つか分かりませんが、読み書きできて損はないはずです~。」
「そうだな。あとは武か・・・。」
「おお、私の出番ですな。」
そう言って星ちゃんが張り切ります。
「星、張り切るのは構わないが、あんまり無理をしないでくれよ。星の相手になる奴などはそうはいないはずだから。」
「そうですな。白蓮殿はいつも必死でしたからな。」
「それは言うなって。」
そう言って白蓮さんは恥ずかしそうに手を振ります。
「では、今後は?」
「北郷が天の御遣いかどうかは置いておいて、この城に何もしない人間をおいておけるほどの余裕はないからな。武官か文官として働いてもらう形になるだろう。」
「そうですね。でも、私としては白蓮さんの元に天の御遣いが降り立ったと風評を流すのがいいと思いますが。」
「それはどうでしょう~。確かにその風評で人がたくさん集まりそうではありますが、悪い虫も集まってきそうですよ~。」
天の御遣いという存在は良い事も悪い事もあります。
双方の意見を出せなければ、軍師として意味がありません。
「うーん。天の御遣いの風評の件はしばらく保留にしておこう。単なる噂話で終わるか、何か尾ひれなどが付かないか知りたい部分もあるしな。」
「そうですか・・・。」
稟ちゃんは残念そうです。
確かに、天の御遣いという風評で未だ芽の出ていない優秀な人物が来る可能性もあります。
その逆もしかりなので、白蓮さんの判断に間違いはないでしょう。
「そうでした。風は、お兄さんに真名を預けました。」
「なっ!?」
私の言葉に皆さんが言葉を失います。
「風、それはなぜ・・・。」
「稟ちゃん、風は、あのお兄さんに日輪を感じました。これから支えていきたいと思ってます。その相手に真名を預けるのは当たり前ですよ。」
「そうなのか。」
「支えるって・・・、私は放置なのか?」
白蓮さんが悲しそうに言います。
「いいえ~。白蓮さんには色々お世話になっていますから~。見捨てるなんて風はしませんよ~。」
「私もそうです。」
「私は・・・これからの白蓮殿の頑張り次第ですかな。」
稟ちゃんは私に同調してくれましたが、星ちゃんは微妙です。
ですが、これが星ちゃんの意地悪だと言うことはすぐに分かりました。
「どうせ私は何も取り柄のない普通の太守だよ・・・。」
星ちゃんの言葉に白蓮さんがいじけちゃいました。
こういう反応をするから、星ちゃんも意地悪を言うのでしょう。
「それより、皆さんは真名をお兄さんに預けるのですか~?」
違う話題を振ってみました。
「真名を預けるのは、各々の自由にしよう。おそらく桃香は預けると思う。」
「そういう白蓮殿はどうなのです?」
「私は・・・まだわからない。・・・そういう星はどうなんだ?」
「さて、どうしましょうか。」
星ちゃんはそう言ってはぐらかしました。
「私は、一刀殿のこれからの頑張り次第という事にしておきましょう。」
稟ちゃんは冷静にそう言いました。
「と・・・とにかく、風はご苦労だった。」
「いえいえ~。どういって事はないですよ。」
「昼過ぎにみんな中庭に集まるようにしよう。」
そう言うと、白蓮さんは私に持ち場に行くよう促しました。
そして、三人は再び話し合いを始めました。
昼過ぎ、事情の分からないお兄さん。
そして、白蓮さんと私、稟ちゃん、星ちゃんそれから桃香さん達は中庭に集合しました。
「ねー、白蓮ちゃん。本当にやるの?」
「ああ。ひょっとしたら武官として優れているかもしれないからな。」
「うー、鈴々がやりたかったのだー。」
「鈴々じゃ、微妙な手加減など難しいだろ!!」
「そういう愛紗はどうなのだ?」
「私は・・・。」
「なあ、これから何が始まるんだ?」
何も聞かされていないお兄さんは、不安のようです。
「これから、お前の武の確認を行う。」
「武って、戦うって事か?」
「そうだ。風が説明していると思うが、何もしない奴を置いておけるほど今の私達には余裕がない。そこで文か武かで北郷にも役立ってもらう事にしたのだ。」
「それで、武のテストね・・・。」
「てすと?」
お兄さんの聞き慣れない言葉にみんなが首をかしげます。
「ああ、テストって言うのは、こういった相手の力量を計るような行為の事だ。」
「なるほどテストか・・・。」
そう言って星ちゃんは、兵士さんの練習用の剣を手に持ちました。
そして、もう一本をお兄さんの足下に投げます。
「では始めるぞ、北郷殿。」
「えっ、相手は趙雲さん?」
「そうだが、私では不満か?」
「不満どころか、相手になるはず無いよ。」
「そう謙遜されるな。これはあくまで北郷殿の力量を計るために行うもの。気にせず獲物を持ってかかってくるがいい。」
「だけどなぁ・・・。」
「男らしくないですな、北郷殿は。」
星ちゃんがお兄さんを小馬鹿にしたような言い方で挑発します。
嫌がっていたお兄さんも、これには頭にきたようです。
「分かったよ。俺も北郷家の人間だ。どれだけ通じるか分からないけど、やってやる!!」
そう言ってお兄さんは、足下にあった剣を手に持って構えました。
「ほぉ、これはなかなか・・・。」
そう言って星ちゃんの顔が真剣になりました。
私には分かりませんが、星ちゃんは何かを感じ取ったのかもしれません。
その雰囲気にその場の空気が引き締まりました。
「そ・・・それでははじめっ!!」
白蓮さんの合図で始まりました。
「そこまで!!」
白蓮さんの合図でお兄さんのテストが終わりました。
その途端、お兄さんは手に持っていた剣を落とすと、そのまま大の字に倒れ込んでしまいました。
つらそうに息をしています。
対称的に星ちゃんは余裕そうに汗をぬぐっています。
お兄さんは最初のウチは善戦していたのですが、星ちゃんにあしらわれこんな状態になっちゃいました。
「北郷殿の実力、しかと見させていただきましたぞ。」
「はあはあはあ・・・。」
星ちゃんに話しかけられましたが、お兄さんは答えられる状態ではないようです。
「それで、北郷の力はどんなもんだ?」
「それは、また後で報告する事にしましょう。まずは北郷殿を介抱せねば。」
確かにお兄さんは、起き上がるのもままならないようです。
「では、兵達に運ばせることにしよう。おい、北郷を部屋に連れて行ってやってくれ!!」
白蓮さんは近くにいた兵士さんにお兄さんを部屋に連れて行くように指示しました。
「今日のところはゆっくり休め。詳しいことはまた明日にしよう。」
白蓮さんの言葉に弱めに頷いたお兄さんは、兵士さん達に連れられていきました。
「うー、鈴々も戦いたいのだー!!」
星ちゃんとお兄さんの戦いに刺激されたのか、鈴々ちゃんが先ほどから唸ってます。
「気持ちは判るが、鈴々よ。今はその時ではないぞ。」
「その時ってどの時なのだ?」
鈴々ちゃんの疑問にただ笑顔を返す星ちゃん。
「愛紗~、星がいじめるのだー!!」
「鈴々。星はからかっているだけだ!!星もいい加減にしろ。」
愛紗さんは火消しに躍起になっています。
「私も鈴々ちゃんや愛紗ちゃんが、星ちゃんと戦っているところ見てみたかったなぁ。」
今まで黙っていた桃香さんが言ってはいけない希望を言いました。
その言葉に鈴々ちゃんが元気を取り戻しました。
「桃香もこう言っているのだー!!星、勝負するのだー!!」
「いや、今日はやめておこう。白蓮殿もそう思っているはずだ。な、白蓮殿。」
「あ・・・ああ。鈴々すまないが、今日は我慢してくれ。」
突然振られて白蓮さんは、驚きながらも鈴々ちゃんに自重するよう促した。
「鈴々。白蓮殿がこう言っているのだ。今日のところは我慢しろ。」
「そうだねー。残念だけど、白蓮ちゃんがダメというなら無理だね・・・。」
「わ・・・分かったのだ。でも、今度絶対勝負するのだー!!」
「ああ、分かったよ。」
さすがの桃香さんも白蓮さんがダメと言ってしまえば無理強いは出来ません。
こうして、鈴々ちゃんをなだめつつ私達は玉座の間へ戻りました。
玉座の間に戻り皆さんが話し合いの席に着きました。
議題はもちろん、お兄さんの今後の扱いです。
「まずは、それぞれの能力の確認だが、知についてはどうだ?」
「はい~。読み書きについては全く出来ませんでした~。これについては、これから勉強してもらいます。その為に風の部下を付けました。これである程度の読み書きは出来るようになると思いますよ~。」
「そうか・・・。次に武についてだが・・・。」
「そうですな。全くの素人というわけではないようで、それなりに迫力もありましたからその辺りの兵士よりは強いでしょうな。ですが、まだまだ荒削りな部分が多い。今後の訓練次第でしょうな。」
「なるほど。という事は、知にしても武にしてもまだまだという事か・・・。」
「そうなりますね。」
「でも、白蓮ちゃん。一刀さんは天の御遣いなんだから別にそれでいいじゃない~。」
桃香さんがさも当たり前のように言います。
「いや、北郷がまだ天の御遣いと決まったわけではない。それに、ここには何もしない人間を置いておけるほどの余裕はないんだ。だから桃香達にも働いてもらっている。」
「でもー。」
「桃香様。ここは白蓮殿に従うべきかと。」
愛紗さんが小さい声で耳打ちをしています。
でも、丸聞こえですが。
「そっかー。ごめん、白蓮ちゃん。変なこと言っちゃって。」
「いや、いいよ。色々な意見が出る事が大事だしな。」
「それで白蓮殿。一刀殿の扱いは、結局どうするのだ?」
「うーん。今は決めかねるな。とりあえずは雑用としておいておき、色々な手伝いをしてもらうようにしよう。」
「雑用って、白蓮ちゃん酷くない?」
「だがな。まだ知も武も未完成では、雑用しながらその辺りを鍛えてもらうしかないだろう。」
「なるほど・・・。」
「じゃあ、鈴々がお兄ちゃんと戦うこともあるのかー?」
「そうだな。愛紗や鈴々にも鍛えてもらう方がいいだろう。」
「やったー!!」
「もちろん、星も鍛える方向で。風と稟は、手が空いたときでいいから北郷に勉強を教えてやってくれ。」
「わかりました。」
「承知なのですよ~。」
「ねぇねぇ、白蓮ちゃん。私は?」
「桃香は・・・、今のところ無いなぁ。」
「えー、酷いよー!!私も一刀さんに何かしてあげたーい!!」
「それなら、風や稟と一緒に知識を教えてやってくれないか?私塾では優秀だったからな。」
「うん、わかったよ!!」
「あくまで、普段の仕事優先で。手が空いた時に北郷に指導するようにする事!!」
白蓮さんの言葉に皆さん頷きます。
ですが、桃香さんや鈴々ちゃん辺りはこれを守りそうにないですが。
お兄さんが雑用係と決まったところで、皆さんに言うことがありました。
「皆さん、風はお兄さんに真名を預けました。白蓮さんは疑問に思っていますが、風はお兄さんが天の御遣いだと思っています。なので、真名を預けました。」
私の言葉に、桃香さん達がざわめきだちます。
「じゃあ、私も真名預けよっと!!」
「鈴々も預けるのだー!!」
「桃香様に鈴々!!真名とはそこまで軽いモノではないでしょう!!」
案の定、桃香さんは深く考えることなく真名を預けることを宣言しました。
鈴々ちゃんはそれに追随しましたが、愛紗さんは反対のようです。
ここで、白蓮さんが事態の収拾を図りました。
「北郷に真名を預けるかは、個々の自由にしよう。私としては推奨する事も止める事もしない。自分の判断で行ってくれ。」
「だって、愛紗ちゃん!!だったら、私は私の判断で一刀さんに真名を預ける事にする。」
「・・・はい。」
先ほど白蓮さんに従うべきと言った愛紗さんですから、白蓮さんの判断に異を唱える事は出来ません。
桃香さんに対してもそうです。
「とにかく、北郷も今日は疲れているだろう。真名を預けたり話をするのは、また明日にしよう。」
この白蓮さんの言葉でその場は解散になりました。
「稟ちゃん、ちょっと・・・。」
「風、なんですか?」
「実は・・・。」
「・・・そうですね。やっておこう。」
解散後、私は稟ちゃんを呼び耳打ちをしました。
ある提案をするためです。
案の定、稟ちゃんはその案に乗ってきました。
この提案が、吉と出るか凶と出るか、今の私には分かりません。
今はただ、良い方向に動いてくれる事を祈るだけです。
ですが、戦乱の世は、確実に近づいてきていました。
あとがき
ようやくその4を書き終えました。
もう、なんていうかグダグダです(;^_^A アセアセ…
各キャラの口調や、一人称での物語の進め方。
そして矛盾の無いように構成すること。
このどれもが、大変で遅々として手が進まない事がありました。
話自体も何度か書き直し、今の状態になりました。
一刀を雑用係にしたのは、色々動かしやすそうだったからです。
雑用なのだから、どこにいても問題ない。
とまではいかなくても、そこまで違和感無いと思います。
次回はあの乱が起こる予定です。
今回もご覧いただきありがとうございました。
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恋姫無双の二次小説です。
風の視点で描かれています。
原作基準で物語は進行させていくつもりですが、白蓮のところに風と稟がいる段階で全然違う話になっちゃってます。
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