No.982478

フレームアームズ・ガール外伝~その大きな手で私を抱いて~ ep4

コマネチさん

ep4『ヒカルと量産型スティレット2』(後編)

今回の話でレベル2ギリギリの表現に挑戦してみます。もし引っかかるようでしたらすぐに変えます。

2019-02-02 18:13:59 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:656   閲覧ユーザー数:655

 スティレットのマスター、ヒカルが風邪をひいた。止めたにも関わらずヒカルはバスケの大会に強行出場。案の定。昼前にダウンし、教員に送ってもらうという結果となった。

 場所はヒカルの自室。ベッドの中で息も絶え絶えになっている寝間着姿のヒカルと、そのすぐ横で心配そうに見守るスティレット。腋の下に入れていた体温計が、電子音で計測終了を伝える。スティレットは体温計を両手で引き抜くと確認。

 

「39度6分……。すっごい上がってるじゃない」

 

「ハァ……ハァ……学校は明日無理かなこりゃ」

 

「一日でどうにかなるわけないでしょ。二・三日は安静にしてなさい」

 

「……はは……余裕だよ。試合は勝利に貢献したんだぜ……」

 

 笑いながらヒカルは自分の強さをアピールする。しかしスティレットには逆効果でしかない。

 

「何言ってんのよ!一回戦勝っても、そのすぐ後に倒れこんじゃったんでしょ?却ってチームに迷惑かけただけじゃない!」

 

「ファウルは……ゴホッ!……しなかっ……ゴホッ!」

 

「単なる自己満足よ!」

 

「うぅ……耳が痛いけど……そう怒鳴らないでくれよ……。声が頭にガンガンくるからさ……」

 

 言いたい事はまだまだある。しかしそう言われては言い返せない。今は一人にさせた方がいい。スティレットはそう思った。

 

「……元気になったら言うから。氷枕、取り替えたくなったら言ってね。後欲しい物も、暫くしたらまたくるから」

 

「悪いな……」

 

「そう言うんなら早く元気になってよ」

 

 そう言うとスティレットはヒカルの脱ぎ散らかした服を担ぐと、洗濯機のある洗面所へと直行した。……それを見送ったヒカルは、寒気と体の痛みと熱で何もしようがない。眠るしかなかった。

 

――……思ったよりキツイわ……アイツの言う通りにしといた方が良かったかも……――

 

 ひき慣れてない風邪の辛さの所為だろうか、そんなネガティブな事を思いつつもヒカルは体を横に向けた。仰向けだと咳と淡で眠りづらい。悪化した風邪の辛さから逃げたかったヒカルは眠る事に集中する。時間がどれ程たったかは解らないが。ヒカルは眠りの中に落ちていった。

 

「フリースローだ!決めろよヒカル!」

 

 夢の中、バスケコートでヒカルは邪魔の入らないシュートチャンス。フリースローの場面だった。何故自分がこんな事をしているのか。夢の中なので一切の疑問は持たない。

 

――入れる。絶対に――

 

 自分の意志か。夢のシナリオがそう思わせているのかはわからない。しかしヒカルは必ずゴールに入れるという意思で、審判からボールを受け取ると、フリースローサークルの中に入った。緊張からか力の調整がうまくいかない。だが制限時間内にやるしかない。慌てず、意を決すると軽く屈伸をし勢いをつける。膝を伸ばしきると同時に軽くジャンプしボールを放った。

 

――……行ける!――

 

 ボールはゴールへと真っ直ぐに向かう。決まった。そう確信するヒカルだったが、次の瞬間、ゴールが突然ボールから遠くなった。

 

「な?!」

 

 一気に離れたゴールにボールは届かず無力に落ちた。その際に不協和音の様なブーイングが周りから起こる。

 

「ナニヤッテンダヨひかるー」

 

「無理ナラ休ンデイロヨー」

 

「家デ寝テイロヨー」

 

 すべての声が、高くなったり低くなったり、大音量から極小音へと、もしくは逆の動作でぐちゃぐちゃに変化していく。それを発する周りの人間、その全員の顔の部分は真っ黒に塗りつぶされていた。そして風景全体が、空間が、コーヒーに入れたミルクを混ぜてる最中の様にぐちゃぐちゃになっていく。

 

「う!う!うわぁぁっ!!」

 

 自分以外の全てがねじれていく状況に、ヒカルは悲鳴をあげた。

 

――

 

「うぅぅ!うぅ!」

 

 ヒカルがうなされている。その様子にただ事じゃないと思ったスティレットは、慌ててヒカルを揺さぶった。

 

「マスター!マスター!どうしたの!?」

 

 スティレットの揺さぶりにヒカルは目を開ける。今朝着ていた素体エプロン姿だ。

 

「ぅ……スティレット……」

 

「怖い夢でも見たの?」

 

 心配そうに覗き込む少女の顔にヒカルは安心感を感じる。窓からの景色はまだ明るい、寝ようとしてからまだ一時間程度しか経っていなかった。

 

「あぁ……ちょっと……な」

 

「お腹すいてない?お粥あっためようか?」

 

「悪い……気分が悪くて食べられない……ゴメンな……」

 

「そう……気にしないで」

 

 いつものつんけんした態度ではない。優しさを前面に押し出したスティレットの態度だ。今のヒカルにはそれがとても心地よい。

 

 

「うぅ!ゲホッ!ゲホッ!!」

 

 暫くして、トイレでヒカルは膝をついていた。気分が悪くて胃の中を戻してしまったらしい。

 

「マスター……」

 

 献身的に背中をさするスティレット。少女にとって、いつもは頼もしいと思える背中なのに、こんなに弱弱しく見えるのは初めてだった。

 

「ゴメンな……スティレット……」

 

「謝ってばっかりじゃない……人間に尽くすのが私達の役割なんだからさ」 

 

「ありがとう……」

 

 戻した影響か、目の潤んでいたヒカルをスティレットは抱擁する様に言った。不安だ。こんなに弱ったマスター。心配だ。こんな笑顔のないマスター。そのまま市販の風邪薬を水と一緒に飲むと、後はもう寝るだけだ。さっきの様な悪夢は怖いが、やはり寝るしかない。さっきと同様に横向きで寝るが、時折咳がどうしても出てしまう。

 

「マスター……」

 

 そんな様子をスティレットはただ見守るしか出来ない。と、家のチャイムが鳴った。誰だろう?とスティレットはドアを開ける。

 

「スティレット。ヒカルさんは大丈夫ですか?」

 

「マスターはもう帰ってきたみたいね」

 

 出迎えたのは轟雷とアント姉妹。そしてマスターの黄一だ。FAG達は黄一の両肩や掌に乗っていた。

 

「皆!どうしたのよ!」

 

「あんな風に出てったから、もしヒカルさんが帰ってきたらお見舞いでもしようって皆で来たんですよ」

 

「まぁ病状が悪化してなければいいんだけどさ……。心配なのは俺も同じさ」

 

 黄一が軽く笑いながら言った。一人だったスティレットにとって寄り添う相手が出来た。そう思うとスティレットの目が無意識に潤みだす。

 

「皆……皆ぁ!」

 

 そして轟雷に抱き付いた。スティレットの名前を呼びながら轟雷は動揺した。

 

「マスターが!マスターが死んじゃったらどうしよう!!」

 

 嗚咽を、そして涙を流しながらスティレットは胸中を吐き出した。主も自分も、慣れてない状況にいっぱいいっぱいだった。

 

――

 

「結構大変な事になってるんだな……」

 

 リビングのソファに座りながら、黄一は状況を聞きながらぼやいた。定期的にスティレットが家の掃除をしている為、家の中は常に清潔だ。

 

「こんな事一度もなかったわよ……もうどうしたらいいか……」

 

「月曜日に学校休んで病院行けばいいだろう?焦っちゃ駄目だ」

 

「でも……早くマスターには元気になって欲しいし……」

 

 その時、ライが話に割り込む。

 

「あー、だったら特効薬的ないい方法があるよー」

 

 特効薬というワードにスティレットは食いついた。

 

「特効薬?!何!?どうすればいいの?!」

 

 ライにつかみかかるスティレット。ライはたじろきながら答える。

 

「わぁ!落ち着いてよスティレットお姉ちゃん!これだよ!」

 

 台所から持ってきたのだろうか。ライの手には身の丈以上の長さのネギがあった。

 

「ネギ……?」

 

「聞いた事あるでしょ?白ネギを一皮むいて、粘りのある所を、お尻の穴につっこむと熱が下がるって」

 

「おいおいお前ら。馬鹿な事するなよ」

 

 黄一にとっては馬鹿馬鹿しいにも程がある案だった。止めようとするが……

 

「それよ!!試してみましょう!!!」

 

 スティレットは天の助けとばかりに大喜びだった。

 

「えぇ!お前!アイツのケツを!うぇぇ想像しちまった!!」

 

 首を抑えて吐き出す動作をする黄一。

 

「ライ!マスターのズボンおろすの手伝って!」

 

「えーやだよー」

 

「いいから!善は急げよ!!」

 

 そのままスティレットはライを抱えて飛んでいく。部屋から二人がいなくなると黄一の後ろに隠れていた轟雷とレーフが顔を出した。

 

「……止めなくて良かったんですか?」

 

 呆れながら言うレーフ。ライの心配はしていない。

 

「今から止めたって……スティレットの思うようにやらせないと落ち着かないだろう?それに……アイツのケツなんて見たくもない」

 

 

 再びヒカルの夢の中だ。今度はベッドの上で寝ていた。周りは真っ暗で何もない。

 

「なんだ……動きたいのに動けない……」

 

 金縛りにあった様な感覚だった。といっても今の状況では動けなくても困る事はない。ただこの状況に流されるのみだった。

 

「……スター……ねぇマスター……」

 

 ふと、暗闇の中から歩いてくる人影がある。聞覚えのある声だ。闇と同化していたシルエットは近づくにつれてハッキリとその姿を現す。

 

「スティレット……?」

 

 素体状態からエプロンをつけたスティレットだ。ヒカルはそのスティレットに違和感を覚えた。何故なら……。

 

「お前、デカくなってないか?」

 

 そう、今のスティレットはヒカルとほぼ同じ背丈、人間大のサイズになっていた。

 

「ウフフ……これでマスターのしてほしい事……してあげられるね……」

 

 口元に指を這わせながらそう言った。いつもと違う、妖艶な笑みを浮かべるスティレット。彼女は静かにエプロンの紐を解く、ファサッという音と共にエプロンが地に落ちた。その下のスティレットの姿は、いつものボディスーツではなかった。

 

「ッ!お前その恰好!」

 

 下の身体は、人間と同じ女体だった。その白い柔肌の上には、申し訳程度の布として白いマイクロビキニが身に着けてあった。だがスティレットの豊かな乳房はそれでは最低限しか隠しきれない。布地から食い込んだ下乳が写る、早く解放してと言わんばかりに押さえつけられていた。

 

「ハァ……ハァ……嬉しいでしょう?見て。こんなに食い込むの……」

 

 ほとんど紐でしかない下の布地に、少女は手を当てる。なぞって紐の付け根をつまむと引っ張り上げた。股間のラインが一層際立つ。肉付きはいい物の、スティレットの肉体は鍛えているせいか、うっすらと腹筋や胸の下部のろっ骨が見える。くびれた腹部。へその上へ走る縦線。

 鍛えていても、受け入れることに優れた女性の身体は柔らかそうな印象が強い。スティレットの息が上がるにつれて、見えている肌が、フル……フル……と振動する。そのままスティレットはベッドに上がり、ヒカルに跨った。スティレットの柔肌全てがヒカルの目に丸見えだった。

 

「ッ!!やめろ!スティレット!!やめろ!!!」

 

 さすがにこんな事をしては不味いと思ったヒカルは止めようとする。しかしヒカルの体は相変わらず動かない。

 

「どうして……?したかったんでしょう?」

 

 スティレットは息を荒くしながら、パジャマごしのヒカルのズボンに手をかけようとする。

 

「駄目だ!スティレット!駄目だ!!」

 

――

 

「うーん。うーん」

 

「マスター、うなされてる……きっとまた怖い夢を見ているのね」

 

 その頃、本物のスティレットとライは、ネギを突っ込むべく、ヒカルのズボンを下ろそうとしていた。ヒカルのうなされている様子を見て、一刻も早くネギを尻に突っ込もうとするスティレットであった。

 

「早くおろすわよ!うーん!うーん!」

 

 ヒカルの腹部に跨りながら、思いっきりズボンを押すスティレット。しかしヒカルは寝ているのだ。人間の体重に巻き込まれたパジャマを下ろす力はFAGには足りない。

 

「うーんうーん」

 

 なおも唸りつづけるヒカル。

 

「マスター!気をしっかり持って!!」

 

 

 再び夢の中、拒絶するヒカルにスティレットは手を止めた。

 

「手でしてほしくないの?じゃあ足でする?」

 

 夢の中のスティレットは、少し離れるとベッドに座りながら両足をクワガタの鋏の様に上げて見せた。両足の付け根の柔肉は、今朝見た時と同様恥丘が盛り上がっていた。

 

「見て……向かい合ってあなたを……土踏まずでぐちゃぐちゃにしごくの……私はあなたの耐えている顔を見ながら満たされるわ……それとも……」

 

 お互いの顔が見つめ合う形にスティレットは移動。スティレットは目一杯よだれを溜めた口を開けてヒカルに見せつけた。

 

「やっぱりお口がいいの?」

 

 くちゃあ……と音を立てて、粘液の様な唾液が口の中一杯に広がる。上下の唇からヌラヌラと光った糸が引く。

 

「そうじゃねぇ!お前は!!お前は!!」

 

 それを見せつけられたヒカルは……喜ぶどころか、何故だか怒りの方が強く湧きあがった。直後、スティレットの両肩を掴むと精いっぱい引きはがす。身体が動いた。

 

「お前はスティレットじゃねぇ!!!」

 

「……どうしてそう思うのかしら?」

 

「あいつはそんな事を喜びながらする奴じゃねぇよ!俺が知っているアイツは……ひねくれていて!口うるさくて!!意地っ張りで!!!」

 

 自分と暮らすスティレット。誰に言われるでもなく家事を引き受けて、毎朝起こしてくれて、

 

「でも!誰よりも純粋で!気が弱くて!乙女で!俺には勿体ない位!最っ高に可愛い奴なんだよ!!どの個体のスティレット型か知らねぇが!アイツを汚すな!!」

 

「……へぇ、私が汚してる。ね」

 

 夢の中のスティレットは表情を変えることなく、余裕のままだ。

 

「では、これを一番望んだのは誰だと思う?」

 

 まるでヒカルの言ってる事を全て見透かしているかのようであった。ひどく不気味にヒカルは思えた。

 

「何を!?」

 

「あなたがそれを理解しない限り、私に対してそんな事を言う資格なんて無いのよ……?」

 

 何を言っている。そうスティレットに問い詰めようとするヒカルだった。だが次の瞬間、スティレットの表情がいきなりくしゃっと崩れた。妖艶な笑みから一気に泣きそうな顔になったのだ。

 

「ッッ!!!!きゃああああああああああっっっ!!!!」

 

 唐突に大絶叫をあげる。直後、テレビの電源を消したかのように、ヒカルの視界が一気にブツッと切れた。

 

 

「いいわね!全バーニア全開!一気に引きずりおろして!」

 

 そしてこっちが現実である。ネギを構えたスティレットは、キマリスアーマーと自分のエンジンパーツを装着させたライに指示を出した。アーマーからはヒカルのズボンに紐がひっかけてあり、一気に引きずりおろそうという魂胆だ。

 

「いくよー!せーの!!」

 

 逆らったら後が怖いとライは渋々従う。しかし内容は最大出力で引っ張ればいいだけだとバーニアを全部吹かした。

 

「もっと出力を上げてよ!」

 

「これが精いっぱいだよ!」

 

 暫くしてヒカルのズボンと下着がずり落ちてくる。そして……勢いよくヒカルのズボンが下着ごと……脱げた。

 

「あ!脱げ……わぁっ!!!」

 

 勢い余って部屋の隅まで飛んで行って壁に激突するライ。それよりもスティレットにとってはヒカルの事が優先だった。

 

「よし!脱げたわね!後はこれを……」

 

 そう言って目の前のヒカルのそれを見るスティレット。何がスティレットの目に入ったのか、言うまでもない。そして、彼女がどういう反応をしたかは、……これもあまり説明する必要もないだろう。

 

「ッッ!!!!きゃああああああああああっっっ!!!!」

 

 両手で目を覆いながらスティレットは大絶叫を上げた。そこでスティレット自身は初めて我に返った。

 

「うぉっ!なんだぁ!!」

 

 直後ヒカルは上半身を起こしベッドから飛び起きた。まず最初に目に入ったのはスティレットの姿だった。

 

「あれ?スティレット?……小さい」

 

「な、何言ってんのよ」

 

 目をしっかりと閉じ、なおかつ顔を真っ赤にしながらスティレットは答える。

 

「ネギ持ってどうしたんだよ?」

 

「え?これ?!いやなんでもないわよなんでも!!」

 

 目を閉じたまま、少女はネギを自分の背中に隠した。

 

「って!なんだよこれ!なんで俺のズボンが!!」

 

 かけ布団で慌てて脱げた下半身を隠すヒカル。同時にスティレットがなんで顔を赤くしていたのかおぼろげながら理解出来た。

 

「あ、あーなんででしょうねー。もうマスターったら寝相悪いんだからー」

 

「って嘘つけよ。あそこで目を回してるライの奴はなんだよ」

 

 ヒカルの指さした場所では、壁に激突して目を回しているライがいた。紐にズボンが繋がったままなので、関係ありと疑うのは当然だった。

 

「あー……そ!それよりも!なんか熱が下がったっぽくてよかったじゃないマスター!さっきよりも随分と調子よさそう」

 

 とっさにヒカルの反応の違いを思い出し、そっちにスティレットは話を振るった。確かにさっきより楽になっていた。寒気やダルさが小さくなっている。

 

「ん……?あー確かに」

 

「風邪薬が効いてるって事なんでしょう?でも今日は休んでなさい」

 

 安堵しながらスティレットは脱がしたズボンを手渡す。

 

「あ、待ってくれスティレット」

 

「何?」とライを回収し、部屋から出ていこうとしたスティレットを引き留めるヒカル。

 

「今日は、俺の傍で寝てくれないか?」

 

 ついヒカルの口からそうこぼれた。

 

「っ!……添い寝したいの?」

 

「……駄目か?」

 

「……しょうがないわね」

 

 恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに顔を赤らめながらスティレットは答えた。一瞬いつもの様にツンツンした反応で返そうかと思ったが、ヒカルがこの状態だ。いつもより素直な態度で接する事が出来る。

 ヒカルは、そんなスティレットのその反応に安心が出来た……。やっぱりスティレットはこうでなくちゃ、と。

 

 なお予断だが、下の居間では、黄一がスティレットの悲鳴を気にも留めずにお茶を飲んでいた。

 

「いいんですかレーフ。上の階でのスティレットの悲鳴」

 

「別にいいでしょう。大方脱がしたら見えたモノで悲鳴あげただけよ」

 

 

 その日の夜、ベッドに運ばれた充電君から伸ばされたコードで繋がれて、スティレットとヒカルは、お互いが向かい合う形で眠っていた。ヒカルはベッドを詰めてくれたが、15㎝しかないスティレットには人間サイズのベッドは広すぎた。まだ鼻が詰まってるせいだろうか、若干辛そうに眠るヒカル。

 

――マスター……辛そう……私が人間だったら温めてあげるのに……――

 

 映像媒体で見た事がある。凍えた男を裸の女が寄り添って温めるという表現だ。女性の方が体温が上だからとかいう理屈だ。……自分がそうだったらと妄想する。全裸になった自分がヒカルに抱き付いて眠る姿を……。

 

「……~~///////!!!!!」

 

 やたら恥ずかしくなる。顔面を両手で覆って、その場に高速でゴロゴロ寝返りをうつスティレットであった。

 

「なぁスティレット……」

 

「あ、起きてたのマスター」

 

 転がるのをやめるスティレット。若干不安そうにヒカルは聞く。

 

「……お前がネギ持ってた時、俺何か変な寝言言ってたか?」

 

「?別に、ウンウン唸ってただけよ」

 

「そうか。ならいいんだ」

 

「……どんな夢見てたのよ」

 

 言えるわけがない。ヒカルは目をスティレットから逸らしながらごまかそうとする。

 

「あー……お前がチアガールで俺を応援してくれる夢……」

 

 とっさの嘘だ。

 

「はぁ?!それって私のチアガール姿が悪夢だって言うの?!」

 

「いやそうじゃねぇよ!……眼福だったよ」

 

 実際はマクロビキニを着たスティレットに言い寄られた。眼福だったのは事実だった。とはいえ真実を言うわけにはいかず嘘でごまかすしかない。

 

「眼福だったけど、お前が周りの男に言い寄られた夢見た」

 

「それって……私が他の人に取られたら悔しいって?へぇ~」

 

 いたずらっぽく笑うスティレット。藪蛇だったなとヒカルは思う。

 

「く!悔しくねぇよ!ただ見たら嬉しいなとは思ったさ!」

 

「何よそれ位、……そんなの今度の試合でしてあげるわよ.確か来月、他校との親善試合があったわね!」

 

 そう聞くとスティレットはスクっと立ち上がってチアガールの動きの真似をする。

 

「特別サービスなんだから!感謝してよね!!」

 

――

 

 三日後、ヒカルは全快するまで回復した。高校の廊下を足早に歩く。

 

「よう!おはよう皆!」

 

 ブレザー姿のヒカルは、教室に入るとそう言った。そして席に着く。真っ先に来るのが親友の黄一だ。

 

「元気になったみたいだなヒカル」

 

「あぁ、昨日は元気余っちゃって、動けないのが何より辛かったぜ!」

 

「スティレットの奴が看病してくれたんだろう?感謝してやれよ」

 

「へへ、言われるまでもねぇさ」

 

「それで、スティレットの方は?」

 

「まだ気が抜けないってんで家にいるよ。いつでも俺が早退していいようにってさ。ちょっと過保護だな……」

 

 それもある。が、スティレットはノリノリでチアガール関係の動画をネットで見て踊りの練習をしていた。

 

「まぁやりたいようにやらせてやれよ。しっかしお前がエロ本騒動で体調崩すとはねぇ」

 

 黄一がそう言った瞬間。鞄を机の横にかけていたヒカルの手が止まる。

 

――エロ本騒動……そういや、あの時のスティレットのマイクロビキニ……――

 

 没収されたエロ本の内容を思い出すヒカル……。一番好きだった本の内容は……青髪のモデルがマイクロビキニを着て、卑猥な事をする内容だった。夢の中のスティレットは、その本の中の恰好をしていた。シチュエーションも一部なぞっていた。

 

――……なんで。スティレットだったんだよ……――

 

 そんな風にヒカルは思った。彼らしくない表情に、黄一は疑問を持つ。 

 

「?どうしたヒカル?」

 

「ん?あぁなんでもないよ黄一」

 

「まだ調子悪いか?」と聞く黄一にヒカルは「だったらスティレットが黙ってないさ」と軽く答える。……同時に「ただの偶然だよな」と心の中で片づけた。……そう。ただの偶然と、その時ヒカルは片づけたが、いずれ、この気持ちの正体を実感することになる。


 
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