No.982295 模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第56話コマネチさん 2019-01-31 22:52:56 投稿 / 全10ページ 総閲覧数:582 閲覧ユーザー数:576 |
一面真っ白な雪の山脈、それを眼下にエールストライクガンダムが飛んでいた。といっても滑空だが。空は灰色の曇天だ。
――思い起こせば、アタシはアイツの後ろを追いかけてばかりだったな――
乗っていたビルダー、ナナは物思いにふける。が、今はバトル中、それを許さないかの様に、サツマのビルドイージスが高速で切りかかってくる。
「覚悟!」
気持ちを切り替えるナナ、ビームライフルを撃ちながらサツマを迎え撃つが、サツマのイージスは軽くかわすと両手袖のビームサーベルで切りかかってきた。
「がら空きですわ!!」
そう言ってストライクに振り下ろすサツマだが、ナナはストライクのビームサーベルで受け止める。
「いつまでも!アタシだって!」
そのままキックを仕掛けるナナ、反撃を予想していたサツマは、鍔迫り合いにはせずに後退する。ストライクのキックは空振りとなった。
「あーずるい!」
「あなたに言われる筋合いはありませんわ!」
後退しつつライフルを撃ちつづけるサツマ。ナナはストライクの滑空を解除、地面に降り立ち回避。ライフルを向ける。しかし撃つのをためらった。イージスのシールド、アブソーブシールドに吸収されるのを恐れたからだ。
「警戒するとは少しは知恵を付けましたわね!でもね!」
サツマはイージスにプラフスキーウイングを形成させる。吸収せずともイージスのエネルギーで短時間ならウイングの形成は可能だった。「あっ!」というナナを尻目に、イージスはストライクの周りを高速で動き回りながら切りまくる。
「っ!うぁぁ!!」
みるみるうちに、雪原上のストライクはズタズタにされていく。イージスはトドメとして一閃しようと剣を振るう。
「終わりですわ!」
「っ!まだよ!」
そう言ってナナは背中のエールパックを切り離してイージスに飛ばした。悪あがきだとサツマはパックを切り裂く。パックの爆発の中を突っ切りながらイージスが突っ込んできた。イージスはストライク目掛けてサーベルを振り下ろす。
「くっ!」
ナナはとっさにストライクを仰向けに寝そべらせた。横に振るったイージスのビームサーベルは空振り。
「はっ!?」
「何度も同じ手を使おうとしているアンタの方も甘いわ!」
ストライクの手にはビームサーベルが握られていた。そのまま振るったビームサーベルはイージスを切り裂いた。
「う!嘘ぉぉ!!」
といっても致命傷にはならずだ。両太ももを切り裂いてイージスはその場に転倒する。
「やった!どうよ!」
「だからって!勝った気にならないでくださいまし!」
イージスは変形、起き上がったストライクにクローで組み付くと凄い勢いで空高く飛んだ。そのまま中央部のビーム砲。スキュラを発射。ゼロ距離の大型ビーム砲はストライクを貫き爆散させた。
「それはやっぱずるいでしょぉぉ!!」
サツマの勝利ではあったが、プライドの高い彼女にとっては苦い物だった。
「くっ!ワタクシとした事が……!」
――
「あーあ、やっぱり乗り慣れたストライクでも駄目かぁ」
Gポッドから出てきたナナがぼやいた。場所はガリア大陸から少し離れたゲームセンター『キオ』だ。模型店と違ってここの常連ビルダーはそれほど多くない。こうした対戦の特訓は、こういった場所の方が向いていた。
「屈辱ですわね。あなたに一矢報われるとは」
向かいのGポッドから出てきたサツマは、苦虫を噛み潰したように呟く。
「勝ったくせによく言うわよ」
面白くなさそうにナナが言う。
「まぁまぁナナちゃん。もっちゃんもこれで別の戦法とかに目を向けざるを得ないよ。もっちゃんの方もプラフスキーウィングの性能に頼ってる所ってあったんだろうね」
その場をなだめようとしたのはサツマの親友、チヨコだ。その後ろのスグリもうんうんと頷いた。
「あなた達……」
「もっちゃん。良くないよ。相手にそういう態度は、ナナちゃんが君の戦法を見破りつつあるのは本当なんだからさ」
口ではそう言いながらも「君が望んだ方向にナナちゃんはちゃんは向きつつあるよ」と、チヨコは心の中で呟く。
「……そうですわね。ちょっと大人げなかったですわ」
怒ってばかりいてもしょうがない。と、サツマはしおらしく反応する。すると、観戦していたシンゴがナナ達へ寄ってきた。
「どうだった?」
このバトルを提案したのはシンゴではない。サツマだった。しかも彼女の提案としてナナにわざわざ昔乗っていたストライクガンダムに乗る様に指示をしたのだった。
「やっぱり乗り慣れている機体の方が動かしやすいですね。でもアタシとしてはストフリの方で強くなりたいのが本音ですけど」
「でも今までで一番いい動きでしたわよ」
「やっぱ、アンタもアタシがストライクの方が向いてると思ってる?」
「正直な話、それで決勝に挑んでほしいですわね」
「だったら問題ないわよ。一応アタシも考えてはいる。ストフリの改造は着手してるんだからね」
そう言ってナナ達は隣の休憩所のコーナーへ移動。椅子の備え付けてない。立ち話用の丸テーブルへ持ってきた箱を取り出す。中に入っていたのはフリーダムの改造機だ。
「両手足がレオパルド・ダヴィンチに変わってるね」
「まぁね。ちょっとフリーダム系で不満に思っていたところがあったからそこの解消って感じで」
「思ったより重武装ではありませんのね」
「羽根は通常のフリーダムのままよ。残念だけど、アタシじゃドラグーンは使いこなせないからさ……」
「でもレオパルドの両肩と両足には三mm穴があるから、後付けでファンネルとかを付けることはできそうだね。面白い改造だよ」
シンゴにとっては興味深い改造だった。フリーダム系列のセオリーに反した改造案だ。
「本当ですか?できればアドバイスとか欲しいんですけど」
「む!ワタクシの意見もお聞きくださいませ!」
ナナがシンゴに教えを受けてるのが、どうも気に入らないサツマは食いついた。
そうこうしていく内に時間は過ぎていく。気が付けばあっという間に夕方だった。
「それじゃあまた明日、よろしくお願いします」
「うん。また明日」
そしてシンゴと別れたナナ達は帰路につく。
「スパルタも辞さないかと思いきや、思ったより放任でしたわね」
ナナとサツマ達は同じ方向に歩道を歩く。サツマがナナの家に今泊りに来ているからだ。黄昏時の歩道を仕事帰りであろう自動車がライト付きでびゅんびゅん通り過ぎていった。
「でもアンタがまさか本当にアタシの家に泊まりに来るとはねぇ」
そこまでする?とナナは呆れる。「敵情視察ですわ」とサツマは一言だけ言った。
「ゴメンねナナちゃん。私達まで受け入れちゃって、もっちゃん言い出したら聞かないからさ」
チヨコが若干バツが悪そうに言う。言われたサツマは自分の所為にされた様な言い方にムッとする。
「気にしないでよ。アタシ一人っ子だからさ。こういう賑やかなのは歓迎するわ。今日はアイも帰ってこないもん」
そう。アイは今日は副部長の家で泊まりだった。自分達の故郷に来たついでに、ノドカの家に直接行こうという考えだ。と、話し込んでる内に自宅についた。
「ただいまー」『お邪魔しまーす』
ナナ達が家の中に入ると出迎えたのは熱気だった。フローリングの家の中には屋内特有の熱気がムワッと出迎える。
「あーおかえりー」
と、少し間をおいてナナによく似た女性が顔を出す。母親だ。
「あっついわねー。クーラーつけようよ」
「リビングの方はついてるわよ」
「手を洗ったら夕飯の支度、私達で手伝いますよ」
すぐさまサツマがそう言った。強引な所はあれど、自分の立場は理解しているつもりなのだろう。
「あら有難う。本当にサツマちゃんは気が利くわねー。誰かさんとは大違いだわ」
大げさにナナを見ながら母はため息をついた。
「なんでアタシ見ながら言うのよー」
「なんででしょうねー」
漫才めいたやり取りをするナナと母親、サツマはそれを微笑ましそうに見つめていた。
「あ、そうそう。あんたもう一人友達来てるわよ。今日泊まるって」
突然の事にナナは顔をしかめる。これ以上誰かが来るというのは全く予想していなかった。
「へ?そんな話聞いてないわ。誰よ」
「ワタシですよ。ハジメさん」
と、その時リビングの戸が開くと同時に、ある人物が現れる。たれ目と豊満な胸。そこにいた人物をナナは知っていた。
「あれ?!マコトじゃん!どうしてここに来たのよ!」
ナナは驚きの声を上げた。これは完全に予想外の来客だった。マトイ・マコト、アイの故郷での幼馴染だ。
「アイ先輩の所へ泊まりに行こうとしたんですけどね。あいにく今日先輩は出かけていて、他に行く当てがなかったんですよ」
「惰性でアタシんとこ来たんかい」
「とにかく今日はもう帰るには遅いので、できれば泊めていただきたいのですが」
人に物を頼む態度じゃ無いわね。とナナは思う。
「まぁそれだったらいいよー」
と、娘の態度に反して、あっけらかんとナナの母は言った。
「いぃ?!お母さん!勝手に話を進めないでよ!」
「別にいいでしょ?一人増えようが同じ事よ」
母がそう言うとマコトの顔がパァッと明るくなり礼を勢いよくする、ついでに90㎝越えの胸が揺れた。
「有難うございます!あ!夕飯のお手伝い!ワタシもしますよ!」
その発言にナナの表情が青ざめる。マコトが凄まじい飯マズなのはナナも知っていたからだ。
「わぁぁっ!それだけは駄目ぇぇっ!!」
その後は特に問題もなく時間は過ぎていった。いつもより賑やかに夕食を済ませて、入浴の時間割はいつもよりもスケジュールがカツカツとなった程度の変化があったが。
「ふー、お風呂空きましたわー」
風呂上がりで頭にタオルを巻き、なおかつ小豆色ジャージ姿のサツマが出ながら言った。ちなみに入浴順はジャンケンで決めた。
「パジャマは地味ねアンタ」
「余計なお世話ですわ。こういう格好が一番落ち着きますのよ。で、次はチヨコが入りますの?」
「アッハッハ。ジャンケンの結果がどうあれ。私は最後でいいよ。この体じゃ入ったらお湯なくなっちゃうし」
自分の腹を太鼓のように叩きながら90㎏の少女は笑って見せた。
「じゃあ、次は順番にアタシね。悪いわね先もらっちゃって」
そう言ってナナは洗面所に入る。ポニーテールのシュシュを外す。ぶわっと彼女の髪がロングヘアに広がった。そして自分の靴下を脱いで洗濯籠にいれる。
――しっかし今日は本当に賑やかになったわねー。他の散り散りになった皆も頑張ってるだろうし、何としても自分の実力を高めないと……――
不安もあるが、それを思ってはいけないと心の中の不安を振り払う。なんとしても実力を物にするとナナは心に誓う。と、洗面所の奥の鏡に自分が写ってるのが見えた。
「……頼むわよ。今週中が勝負だから」
鏡に写る自分にそう言いながら、鏡を軽く小突きながらナナは言った。
「大丈夫ですよハジメさんなら、アイ先輩の選んだ人ですから」
そして鏡に写ったもう一人の人物。マコトが励ます様に言う。
「そう言ってくれると助かるわ。有難うマコト。……ん?」
上着に手をかけていたナナの手が止まる。少し間をおいて、無言でナナはマコトを掴むと、洗面所の外へ放り投げた。
「あう」
そして洗面所の引き戸を閉じるナナ。
「な!何故ですかハジメさん!何故ワタシと一緒には入らないのですか!」
「アホか!なんでアンタと一緒に入らなきゃいけないの!」
洗面所の扉にもたれながら言うマコト。その大声になんだなんだとサツマ達が寄ってくる。
「ワタシには知る義務があります!アイ先輩の認めたあなたがどんな人なのか!よく知りたいんです!あなたの事が!」
「お風呂入るのと何の関係があるっていうの!?一人にさせてよぉぉ!!」
アイの友達って皆こういう奴らなの?!とナナは彼女たちの突飛さに冷や汗をかいた。
――
その後はガンプラ改造や戦術のアイディア出しやミーティング。たわいもない話ばっかりだ。変則的なパジャマパーティーとなった。ナナの一人部屋は四人分の布団が敷かれて、いつものフローリングの床がほとんど覆われた。その上で円陣を組む様に談笑する五人。
「で、チヨコが『芸能事務所にスカウトされたよー!』って喜んでいたのですが、貰った名刺よく見たら、女子プロレスのスカウトだったんですの。で、それ見た男子は大笑いして、チヨコは怒りのあまり、男子に一斗缶で殴りかかって……」
「んもー、もっちゃん。昔の事だよー」
笑いながら言うチヨコ。顔では笑っていたが、彼女の右手は持参していたリンゴを力を込めて握っていた。暫くしてボタボタと汁を噴き出してリンゴを握りつぶされた。張り付いた笑顔に反して、これ以上言うなという意思表示だろう。なお左手にはタライをリンゴの下の位置で持っており、汁が布団を汚す事はなかった。
「う……」
それ私物で持ってきたのか。という突っ込みより、これ以上地雷を踏むのはいけないという感情が、その場の全員に一致した。同時に、スカウトされた理由が皆よく解った。
「ね、ねぇイモエ、アンタいつも扇子持ってるけど、あれお爺さんのなんでしょ?どういう人だったの?」
「?お爺様の事ですか?」
話題を変える。ナナにとっては気になっていた事だ。
「……この扇子をくれたお爺様は、ワタクシの人生の師匠でしたわね……。一番身内で過ごした時間が長い人でしたわ」
今も持っている扇子を広げるサツマ。墨で描かれた蘭の柄が見えた。彼女の表情は懐かしむとも、感慨深そうにしているとも見える。
「?あんた、両親は?」
「海外ですわ」とサツマは一言で済ました。
「代わりに今はお婆ちゃんと二人で暮らしているんだよね。もっちゃんは」
手を洗って戻ってきたチヨコが話に加わる。どっかと部屋の中に胡坐をかいた。
「そっか。……意外ね。そんな話し方だから家にメイドさんが何人もいるのかと思ったわ」
「浅はかなお金持ちのイメージですわね」
棘の付いた言い方だ。言い返したいがこらえるナナ。
「いつもいつもイモエイモエ言ってるからこれ位はいいでしょう?……アウトドア、インドア問わず遊び好きで、いつも小さかったワタクシを遊びに連れて行ってくれましたわ」
懐かしむようにサツマは言う。とりあえず怒りは引っ込めて質問を続ける。
「今ガンプラをやってるのもその影響?」
「そうですわ。『世の中なんだって学ぶ要素がある。だから挑戦を続ける。挑戦する気概こそが人を強くする』それがお爺様の持論でした。……ワタクシのイモエという名前も、お爺様がつけてくれた名前でしたわ」
「えぇーそんなお笑いみたいな名前がー?」
「あなた本当に空気読みませんわね……小野妹子、平安時代において髄への使者として海を渡り成し遂げた人物。今よりもずっと命がけの環境で挑戦をして、成し遂げた偉人。それがワタクシの名前」
なんかつける名前としては釈然としない。とナナは言いそうになるも、喉でとどめる。それと同時に、その名前には祖父の想いが込められているんだな。とナナは思った。
「お爺ちゃん子だったんだ」
「えぇ、それが解ったのなら、あなたもワタクシの名前を気安く呼ぶのはやめなさいな」
「えー。別にいいじゃん。ていうかさ、アタシが名前呼んでアンタが狼狽えてんだから、アンタの方が自分の名前にコンプレックス持ってんじゃないの?」
「ぐ……」
若干目を背けながらサツマはどもった。
「こりゃ一本取られたねもっちゃん」
そう言うチヨコを尻目にサツマは一つ咳払いをいする。
「ま……だからあなたが両親と仲がいいのは正直羨ましいですわね。ワタクシの両親は出張でお金は稼いでるかもしれないけれど、一緒にはいてくれないんですもの」
「どんな人間も、与えられた時間は一人分だけって事か」
「すー……すー……」
更に夜も更けて、全員が就寝についた。ナナの部屋の中は五人がそれぞれの布団で寝ていた。ちなみにサツマはスグリと一緒にナナのベッドで寝ていた。理由はチヨコの体積が大きすぎるからだ。部屋の中でそれぞれの寝息と、エアコンの音が部屋を満たす。
「……」
チヨコの隣で寝ていたナナは目を開ける。どうも寝付けない。
――……ちょっと水でも飲んでくるかな――
エアコンが効いているとはいえ、今は真夏。喉を潤おそうとナナは部屋を出た。
「……」
閉まる扉。それを見ながらもう一つの影が起き上がった。
「……っプハァ!」
水を飲みながらナナは息をつく。冷たいとは言い難いが水は身に染みる。
「ワタシにも水をもらえますか?」
突然の声にビクッとなるナナ、ダイニングキッチンの所だけ電気をつけていた為、ナナの視線の正面。リビングの方で人影が見える。その正体はすぐに解った。
「あ……マコトか。アンタも眠れなかった?」
リビングと流しの仕切りごしのナナに向かって歩を進めるマコト。薄着だからか歩く度に揺れる。何がとは言わんが……
「えぇ、服を着て眠るのって慣れてなくて……」
「は?」
「あ。な!なんでもないです!なんでも!」
予想してない答えにナナは顔をしかめる、こぼした発言に後悔するマコトは顔を真っ赤にして、なんでもないとごまかした。
「……アンタも災難よね。ノドカやアイと入れ違いになってさ」
水飲む?とナナは付け加える。マコトはいえ。とだけ答えた。
「でも代わりにあなたと会えました。あの……聞きたかったことがあります」
そう言ってマコトはナナに詰め寄る。ナナは大方アイの事だろうな。と思った。
「あなたにとってアイ先輩ってどんな人ですか?」
やっぱりね。と、風呂でのやり取りを思い出す。予想しやすいなとナナは苦笑した。
「アタシにとってアイは、そうね。単純に友達かな」
「……本当ですか?好きじゃないんですか」
「まぁ好きは好きよ。……ってアンタそんな顔しないでよ。アンタの言う好きとアタシの言う好きは間違いなく違うんだから」
表情で対抗心をむき出しにするマコトを、ナナはなだめる。
「ただね。不思議な奴だって思うわ。なんていうかアイツが打ち込んでる物を見ると、なんだかこっちまでアイツと一緒の事をやってみたくなる」
「そうですね。ワタシもそういう経験はありました」
「そういうのに優れた才能があるんでしょうね。……内心、アイツが羨ましいわ」
コップを水洗いすると、ナナは一息ついて話し出す。
「アタシ、今まで打ち込む物がなかったからさ。その所為か、思えばアイの後を追いかけるってのをずっとやってきた感じ。……でもそれを終わりにしたい」
アイと出会って、自分の周りは大きく変わった。精々自分の考えに留まる範囲ではあるが、無趣味だったナナにとっては新鮮な物だった。
「だから、アイツの隣で一緒に歩むビルダーにアタシはなりたい。それが無きゃ、きっとアタシはずっと今のまま進めないと思うから」
いずれは自分の力だけでアイに迫れる作品を作れる様になりたい。と思っていたナナだ。
「むーやっぱりライバルじゃないですかワタシと」
再び敵対心を表面に出すマコト。「だからアンタの好きとは違うんだってば」とナナ。
「でも本音が聞けて良かったです」
「周りに言わないでよ?アンタがアイの友達だって言うから信用して言ったんだからさ」
「それはどうも。なんかいい友達になれそうですねワタシ達」
「そりゃどうも、って、そう言うんだったら、その敬語やめてくれない?」
「あ、そうですね。ナナ」
なおも敬語をやめてないマコトにナナは思わず噴き出す。
「あーなんで笑うんですかー」
「だってアンタも敬語変わってないじゃん」
たわいもない事だが、何故だかナナにはツボに入った。
「もう、アイ先輩とは全然違うタイプですよあなたは」
「そりゃそうでしょ。そう言えばアイの奴、今ちゃんと寝てるのかなぁ」
――
「アイの奴、昨日は副部長の家で泊まっていたから、部屋に侵入されないか警戒してて、一睡も出来なかったってさ」
「先輩、よりによって魔女の家に泊まるなんて可哀想に……」
翌日のゲーセン・キオにて、スマホのアプリでアイと連絡をとっていたナナは、アイと近況報告をしていた。副部長はかつて生徒会と敵対していたので魔女という異名があった。
「やぁ皆、おはよう。今日は見ない子もいるね」
そうこうしてやってきたのはシンゴだった。おはようとナナ達も挨拶を返しマコトを紹介する。
「それで、今日はどうするんだい?」
「レクチャーを受けたい所ですけど、改造機を完成させたいですよ。そして使いこなせるようになりたいです」
そう言ってナナ達はガリア大陸に移動。模型店でなければ工作室は無いからだ。
「やぁ皆、いらっしゃい」
店に入るや否や、出迎えたのは店員のハセベだ。
「おはようございます。今日もアサダの奴はスパルタ?」
ガンプラバトルコーナーのある二階への階段を見ながらナナは問いかけた。ソウイチの方は自分達を打ち負かしたミシマ・サキに稽古をつけてもらってる。
「そうだね。昨日も閉店時間の後も、別の店でやってたらしくて、もうアサダ君もよれよれだよ」
サキ、及びサキ親衛隊にしごかれるソウイチ、さすがに自分から言い出したとはいえ、ソウイチが気の毒になってくる。
「じゃあ今は工作室は使っても大丈夫ですね?」
「うん。いいよ。はいマスターキー」
そしてナナ達は店内の奥の工作室に移動。フリーダム改造に取り掛かる。
「で、いよいよコイツの改造に取り掛かりたいところだけど」
「今回は特別ですわよ。指示は出してくださいな」
「シンゴさんもアドバイスお願いします」
うんと快く了承するシンゴ。改造に取り掛かる全員。まずはナナの説明だ。
「当然違法の奴らと戦う装備はあるんですのよね」
「当然よ。重量は改造前より増えると思うけど、素早く動くのは想定済みだからね。アイ達と相談して、どれ使うかってのは考えていてね」
そう言って見せたのはフラウロスのショートバレルキャノンだ。連射性に優れたつくりだ。
「実弾装備ですか」
「これ以外にも作っておきたい装備とかはあるんだけどね。まぁ今回は本体を第一に仕上げたいかな」
「なんか追加装備でも考えてるって感じですわね」
「……実はね。これ」
そう言ってナナは一つの箱を取り出した。中に入っていたのはHGのユニコーンガンダム二号機バンシィ・ノルン。
「これのサイコフレームって奴をさ。追加アーマーとして組み込みたいの」
ユニコーン系列のサイコフレームは強力なパワーを持つ。ナナとしてはこの力をフリーダムに加えたかった。
「ではそれは、本体と一緒に作っちゃいましょうよ。塗装で仕上げた後だと面倒ですわよ」
「それは今回は待ってほしいかな。……こればっかりは自分の力でやりたいの」
ナナは、どうにか自分で頼らない様にと、意固地になっていた。
「……」
その様子を、シンゴはじっと黙ってみていた。
そして数時間たって……
「後は乾かすだけですわね」
艶消しをかけて後は乾くのみになった。
「でも追加装備を考えてあるとはいえ、素の装備は元のフリーダムと対して変わりませんわね。妙にシンプルですわ」
サツマは改造したフリーダムを見ながら言った。手足がレオパルド・ダヴィンチに変えてある所為か。少しごつめのフリーダムと言った所か。
「一応ライフルにバンシィ・ノルンのリボルビングランチャーの武器は取り付けたわよ。まぁ決定力に欠けるともいえなくもないけどさ」
「あの!だったら!」
ナナに対してマコトは一つのパーツを渡す。ガンダムフラウロスの大型レールガン『ギャラクシーキャノン』だ。長大な砲身はフリーダムの身長並にある。
「これ。いいの?」
「はい!ナナにはこれ使ってほしくて。これなら」
呼び捨て?と、マコトに対してその場にいた全員が思った。
「ギャラクシーキャノンだっけ。背中につけるタイプね確か、この大きさだったら、フリーダムに付けるには両手持ちの方に出来るかも……」
どういう改造にしようか。と余剰のパーツを見ながらナナは考える。と、その時だった。
「大変だよ!ハジメさん!」
工作室にハセベが慌てて入ってくる。
「どうしたんですか?ハセベさん」
「君に挑戦者だよ!」
そう言うと彼の後ろの方から三人のビルダーが現れる。ゴウセツ三人兄弟だ。
「よぉ。チームI・Bは今君一人か。ハジメさん」
長男のコウセツがロングヘアーを揺らしながら言った。
「何か御用ですか」
ナナの問いにコウセツは人差し指を突きつけた。
「さっきハセベさんが言ったそのままの意味だ。お前さん個人に挑戦をする」
「どういう事ですの。あなた達」
止めようとするサツマをナナが止めた。
「待ってイモエ、いいよ。丁度初陣にはいい感じだわ」
ナナは新型のフリーダムを横目で示しながら言った。まだ仕上げは乾燥中だが、後数分もすれば乾くだろう。
「ただアタシとしてはまだ生乾きよ。後少しだけ時間を頂戴」
――ナナさんが一人で戦うのですか?本体が出来てるとはいえまだ武器は不十分――
マコトはナナに対して心配していた。まだフリーダムはさっき言った様に武器も不十分だったからだ。
「……シンゴさん」
「なんだい?」とマコトに呼ばれたシンゴは答えた。
「考えがあります。……ちょっと手伝ってください」
――
そして暫くして二階のガンプラバトルコーナーに移動する。
「なんなんだ。特訓を中断して」
和ゴスの女ビルダー、ツボミが面白くなさそうに言った。
「挑戦者だってさ。ナナ一人が戦うんですって」
カントリーロリータの女ビルダー。ナエが答える。彼女は宴会芸でも見るかのような感覚で言った。
「フン。あの未熟者一人の力で勝てるものか」
「あら、そう言っちゃ駄目よツボミ、三日会わなきゃ女は大きく変わる物よ」
ゴスロリのビルダー、サキはそう言ってツボミをなだめた。普段はゴスロリを着ている彼女だが、ソウイチの相手をしていたのか今はパイロットスーツだ。
「お姉様はあの女が勝てると?」
「いえ、シンゴが面倒を見ている女の子でしょう?無様に負けてほしいわね」
しれっととんでもない事を言うサキ。……シンゴが面倒を見ている。という部分が彼女にとっては面白くないのだろう。
「はぁ!はぁ!……くっ!ハジメさんが?!大丈夫なのかよ!」
その横でフラフラになっていたソウイチが答えた。サキの練習は完全にスパルタだった。……これは先述のシンゴにナナが特訓を受けてる事に対しての、ソウイチへの八つ当たりが原因だったりする。バトルが中断され、休憩時間でラッキーと思ったソウイチだったが、ナナが一人で戦うと解ると驚きの声を上げた。
「マコトとシンゴさんは?」
チヨコが辺りを見回しながら言う。周りはサキ達と親衛隊。かなりの人数だった。
「……まだ下でやる事があるって……」とスグリがぼそりと答えた。
――アタシもここで一人で勝って見せなきゃ、変われない。行くわよ!――
今回のフィールドはギアナ高地ロマイア山。上は切り立ったテーブルマウンテンだらけ。そして下は鬱蒼としたジャングルだ。自然の驚異はバーチャル空間で十二分に再現されていた。夜の大空を飛ぶナナの新型フリーダム。動作確認しながら自分の新しい相棒の感触を確かめる。
「ストフリの時よりは扱いやすそうだけど……」
ナナは傍らマップを確認する。このフィールドには広大な地下空間があり、大きな二面性を持つ。と、前方に敵機を確認。
「来た!」
遠くに機影が三機見えた。金色の部位があるのだろうか。キラキラとセンサーとは違う類の光が見えた。と、チカッと光ると長距離射撃用のビームが飛んでくる。
「んっ!!」
真正面だった為に早期警戒が出来た。難なくかわすナナ。撃った敵機の僚機二機が高速で飛んでくる。追撃というわけだろう。
「速い!あの速度は!」
見覚えのある動きだ。二体は両手にそれぞれ持ったライフルを連射してくる。後退しながら対応するナナ、
「でもってあの武装は!」
敵機片方は腹部からのビーム砲を撃ってくる。そしてもう一機は両手にビームサーベルを構えて切りかかってきた。ナナの方も二刀流のビームサーベルで受け止める。鍔迫り合いとなった時にナナは相手の正体を確信した。
「やっぱり!ストフリ!」
そう。ゴウセツ三兄妹は乗機をストライクフリーダムに乗り換えていた。
「そうさ!その通り!」
鍔迫り合いのフリーダムを弾くストフリ、三機のストフリが並ぶ。全機の白かった部分は黒く塗装されており、黄色いセンサーアイは赤く塗装されており、まるで堕天使と言った姿だった。
「俺は!お前がサツマのお気に入りという事実が気に入らない!お前がそれだけの資質があるというのなら!納得させてみろ!俺を!このゴーレム兵団を倒してな!」
そう言うと三体のストフリは一斉に飛び出してくる。と、両手のライフルで撃ってくる。機動力の高いストライクフリーダムの連射力は脅威だ。
「勝手よそれ!……やってやろうじゃん!!」
ナナのフリーダムはハイマットフルバースト。つまり全弾一斉発射で迎撃をしようと撃つ。しかしそれぞれのストフリは回避、その内の一機、ヒョウのストフリが側面から切りかかってくる。
「っ!」
ビームサーベルで受け止めるナナのフリーダム。だが、ユキのストフリが背後の八基の遠隔操作砲台。ドラグーンを射出して、ナナのフリーダムの背中を狙う。フリーダムの真後ろにユキのストフリはいた。
「こっちはガンダムだぜぇ!」
「こっちもよ!」
ユキが撃とうとした瞬間。ナナも背後のレールガンを後方に向けて連射する。
「回っただって!?」
予期せぬ攻撃に対応が遅れる。やられると思った瞬間。コウセツのストフリがビームシールドでユキをかばい防御。
「ユキ!油断するな!」
「兄ちゃん!サンキュー!」
一瞬茫然とするユキだが、ユキはドラグーンの操作に再び集中。それに続く様に三機とドラグーンを射出した。狙うはナナのフリーダム。
「沈めぇ!」
「っ!」
ナナはスロットルを全開、フリーダムに力を込めた。ストフリの力を大きく上回る新型フリーダムはヒョウのストフリの押し返す。そのまま腹部に蹴りをいれるとその場から高速で離れる。パワーはレオパルド・ダ・ヴィンチの手足を使用したことによる恩恵だった。
「ちっ!さすがに舐めた態度はとれねぇか!!」
先程までフリーダムがいた場所をドラグーンのビームが襲った。そのまま距離を放そうと飛ぶフリーダムを背後から追いかけるドラグーン。フリーダムは再びレールガンを後方に向けて迎撃しようと撃ちつづける。
「あんたら!そんな撃ってるとエネルギー切れ起こすわよ!」
ナナが以前乗っていた機体だ。ガンダムの知識に疎いナナでもストフリの性能は熟知していた。コウセツは兄妹に支持を出してドラグーンを停止。その場から落ちていくドラグーン。向き直るナナ。
「なるほど。確かにちょっとした腕だな。……正直お前さんを舐めていたぜ。非礼をわびる。だからこそ!」
そしてストフリ三機の翼に光の翼が発生。ヴォワチュール・リュミエールという高速移動機構だ。ドラグーンを装着していては出来ない形態だった。
「本気でいかせてもらうぜ!!」
ナナはかつて自分を撃墜したコウセツ達の動きを思い出した。その瞬間。以前とは比較にならない勢いで散会するストフリ達、「とっておきが来る!」とナナは判断。
『デルタアタック!』
以前自分を撃墜した技だ。自分の周りをトライアングル状に配置。高速で回りながら火器を連射する技。以前の自分はこの技に成すすべもなくやられた。
――同じ技を!なんか手はないの!?――
一瞬思案するナナ、周りは切り立った崖、そして見えるのは洞窟。
「そうだわ!!」
そう言うとギアナのテーブルマウンテンに躊躇いなく飛ぶナナ。「小細工を!」と追いかけるストフリ達。じきにフリーダムは岩山の中の鍾乳洞に入って行った。先述の通りこのステージは地下通路が張り巡らされている。
「デルタアタックを不発にするか。知恵をつける」
追いかけていく三機、途中で白く変色する程の朽ちたズゴックらが見えた。地下では飛べない。先頭を歩くユキのストフリ。
「大丈夫。こっちはガンダムですよぉ……ガンダムだぜ兄ちゃん」
程無くして、開けた鍾乳洞の広場で、ナナのフリーダムが見えた。
「みーつけたぁ!!」
獲物を見つけたとばかりにユキのストフリは飛び上がり腹部のビーム砲を撃つ。が、フリーダムは迅速に回避。背部のビーム砲。バラエーナを向けた。
「ハッ!そんなのこいつの速度なら!」
回避しようと横に飛ぶユキのストフリ。
「バカ!ここで飛ぶな!」
コウセツの罵声がユキの耳に飛ぶ。直後、天井から伸びた鍾乳石にストフリは激突。
「なっ!」
ナナはその隙を逃がさなかった。バラエーナでユキのストフリを撃ち抜く。
「そんな!ウチのストライクフリーダムがぁっ!」
断末魔を上げて爆散するストフリ、「あのバカ……」とコウセツとヒョウはユキの軽率な行動を呪った。これでデルタアタックは使えない。
「兄貴!二機の連携で仕留めよう!」
「あぁ!低空飛行だ!」
そうして二機の連携で追い詰めようとするコウセツ達、しかしフリーダムは飛ばずに軽快な動きで攻撃をかわし続ける。
「何故だ!フリーダムがあんな動きを!」
「見ろ!あの足!レオパルドの足だ!」
レオパルド・ダ・ヴィンチの足の底にはローラーがついている。これで足を動かさずとも地上で高速移動する事が可能だ。
「狭い場所じゃフリーダム系は真価を発揮できないの!残念だったわね!」
フリーダムは避けながらストフリめがけて火器を放つ。だが二体は回避かビームシールドで防御。
「そんなもの!」
「頭上に注意よ」
ナナの指摘した直後、天井から落盤が降ってきた。さっきのフリーダムの攻撃だ。あわてて回避する二体、だが、ヒョウのストフリが回避を遅れて大岩を一つ受けた。それをナナは逃がさなかった。直後にヒョウのストフリは撃ち抜かれて爆散。
「あ!兄貴ぃぃ!!」
コウセツは、自分の状況を受け入れざるを得なかった。内心格下だと思っていたビルダーに完全にしてやられた。フリーダム系の特性は向こうがずっと把握していたのだ。
「……大した奴だよ。俺達がこんなに簡単にやられるなんて」
「安直にストフリをアタシよりうまく使えるって見せつけようとしたんでしょうけど、そうはいかないわよ。正直癪に障るわ!」
「そうだな。だが俺達もこのまま引き下がるわけにはいかねぇ!刺し違えても意地を見せるぜ!!」
そう言うとコウセツのストフリは二刀流でビームサーベルを構えると、フリーダム目掛けて突っ込んでいく。ナナはライフル下部のリボルビングランチャーに取り付けられたミサイルを一発撃った。
「っ!」
ミサイルはストフリの眼の前の地面に着弾、直後、その場が広範囲に燃え上がる。ナパーム弾だ。ストフリは急制動。
その爆風を突っ切って、フリーダムがライフル下部から十手形のビームサーベル。ビームジュッテで突っ込んできた。そのままストフリはコクピットを貫通し倒れこむ。最後に接近戦で答えてくれたのは自分に対する礼儀なのだろうとコウセツは思った。
「完敗だ……」
そのままストフリは爆散。反してフリーダムのGポッド、ナナの方は自分のやった事にも関わらず実感はなかった。しかしストフリの爆散した姿を見ながら、徐々に嬉しさがこみ上げてくる。
「……やった……やったー!!」
思わず顔がほころび、笑顔に変わり、うれし涙を流すほどだった。
「か!勝ちました!勝ちましたわー!!」
両手で万歳をしながら喜ぶサツマ、チヨコとスグリも笑顔で拍手をしていた。
「す!すげぇ!ハジメさんフリーダムの特性を理解して!あんな強かったんだ!」
ソウイチもナナが勝利したという事実に大喜びする。
「あれ?どうなったんですか」
そうこうしてる内にマコトが上がってきた。シンゴも一緒だ。
「えぇ!ハジメさんの勝ちですわ!」
「起点効かせて全部一人で倒しちゃったんだから!もう凄かったよ!!」
「え?終わり?……じゃあなんでまだバトル終了してないんですか?」
マコトの指摘に「あ」と全員が声を上げて観戦モニターに向き直る。まだモニターが停止してない。
その違和感はナナ自身も気づいていた。バトルが終了しない。
「?どうなってんのよ。まだバトル終了してないじゃない」
「はっ!お前が勝つとはねぇ!」
聞覚えのない声が聞こえる直後、『挑戦者が現れました!』というアナウンスが入る。そして終わってない原因をナナは理解した。
「まさか!」
足元に亀裂が入る。まだ何かが来ると判断したナナはすぐさまその場を離れる。自分がいた場所を大型のビームが襲った。
「下から?!」
その場所から、フリーダムの倍はある機体が出てきた。違法ビルダーの機体だ。
「お前がナナか、あーあ、ハズレを引いた」
「なんですって!」
「チームIBでは最弱と言われた奴だろう?これじゃあ一人で挑んで新世代ビルダー仲間を出し抜こうと思ったが、お前じゃな」
そうは言うが、襲ってきたという事は自分を標的にするという事だろう。すぐに撃ってくる違法ビルダー。その場から離れるナナ。
「ま、折角だからお前で我慢するか!」
「失礼ね!!」
向こうはステージの状況を気にかけていない。火力に物を言わせて撃ちまくってくる。狭い場所というのはお構いなしだ。
「バカ!こんな所で撃ちまくったら!」
鍾乳洞内に振動が、亀裂が入り、落盤が起こる。これ以上は、この地下空間は持たないと判断したナナは即脱出。追撃しようとする違法ビルダーだが、落盤に巻き込まれ断念。
「急げ!急げ!」
自分の背後に落盤が迫ってくる。フリーダムのローラーダッシュで迅速に脱出を図るナナ。もし足を負傷してたらと思うとゾッとする。
「見えた!出口だ!」
鍾乳洞から飛び出すと、出入り口から粉塵が大量に舞った。違法ビルダーも巻き込まれたかと警戒しつつ思うナナ。
「まさかさっきの落盤でやられちゃった?……いやっ!」
地響きが起こると共に、出入り口が周囲の岩山ごと吹き飛んだ。その爆風の中を、違法ビルダーの機体が悠然と出てきた。
「で!でたぁぁ!!」
ガンダムグシオンがベースだ。その姿は背中に長大なレールガンを備え、その両脇に実弾のランチャーやミサイルポッドでゴテゴテに武装していた。まるでロボット怪獣といった装用だった。その上でifsユニットが全身についていた。
「新世代ビルダー用のガンダム、『ガンダムスコグル』だ。お前の勝ちはあり得ない。観念するんだな!!」
そう言うと、違法ビルダーは全身のミサイルを乱射してくる。雨の様に降り注ぐミサイル、ナナは回避しつつも逃げるしかなかった。
「相手があの大きさなら!」
頃合いを見て反転、ナナはライフル下部の武器の一つ。瞬光式徹甲榴弾を撃ち込んだ。スコグルの腹部にそれは命中。ナナは弾切れになるまで連続でそれを撃ち込む。
「何をするかと思えば!」
違法ビルダーが嘲笑った瞬間。着弾地点からそれは一気に燃え上がる。
「な!」
「よく燃えるわ!」
内部に潜り込んで相手を燃やしてから炸裂するしくみだ。実弾やミサイルを積んでいた機体なので、弾薬を誘爆させながら破壊し続ける。ナナは自分の兵装の予想以上の威力に感心する。このスキにと、ナパーム含め、残りの実弾武器を一気に撃ち込む。スコグルの外見はどんどん削れていった。
「なるほど!ビーム系の保護された相手でもナパーム系なら!」
サツマの感心する声も耳に入らず、ナナは必死で撃ちつづけた。
「やれる!このペースなら!」
燃焼と再生を続けるスコグル。再生コアの場所はおおよその検討はついた。やれない相手じゃない。やれるとナナは確信。……しかし次の瞬間だった。Gポッドに警告音が入る。ハッとするナナ。
「え?!わぁ!!」
撃ち込んでいたライフルを撃ち抜かれた。その爆風で吹き飛ばされるナナ。
「ハァ……ったく、何やってんだよお前は……ハァ」
一機のガンダムレギルスが上空から降りてきた。ノドカの機体だ。どういうわけか辛そうに喋っている。
「アンタ!まさかノドカ!?」
「でけぇ声出すな……当たりだよ。まさかお前がここまでやるとはな。……ま、アイと一緒ならそれ位は当然だな」
「あの違法ビルダーはアンタの回し者ってわけ?!」
「そう……ゲホッ!ゴホッ!……だよ。フゥ……フゥ……」
咳き込んでる上に息が上がってる。声は淡が絡んでおりかなり辛そうだ。
「アンタ……風邪ひいてるの?」
「うるせぇなー……アタシより自分を心配しろよ……。あいつはもう再生してお前を狙ってるぜ……」
ナナはスコグルを見る。ノドカの言った通り、再生したスコグルがこっちに向かってくるのが見えた。しかしまだ燃焼は続いており、さながらゾンビの様だった。
「舐めた真似をしやがって!」
そう言って違法ビルダーは全ミサイルをフリーダム一機めがけて発射。
「やっば!」
迎撃しようにももう武器がない。このままやられるのか。という想いと、このまま終わってたまるか。という想いの両方がナナを駆け巡った。
「ハジメさん!!」
その時だった。一機のガンプラがフリーダムを庇うように躍り出る。と、同時にビームライフルをミサイルの密集地帯に向けて発射。爆発したミサイルは周りのミサイルを誘爆。残ったミサイルもそのまま迎撃。
「シンゴさん!?」
シンゴのビギニングDだ。そしてもう一機。紫に塗られた大型甲冑の様な機体。ヘルムヴィーゲ・リンカーという機体だ。
「ナナ!」
ヘルムヴィーゲからマコトの声が聞こえた。そしてナナのフリーダムにある武器を放り投げる。
「これって!アンタのよこしたダインスレイヴ!」
マコトから貰ったレールガンだ。それは両手持ち式に改造されており、大型のマスドライバーキャノンと化していた。
「勝手にすいません!でも!使って欲しいんです!」
「今はありがたいわ!サンキュー!」
レールガンを構えるフリーダム。構えたフォームは、矢を放つために弓を構えた風に見えた。
「くぅ……させるかよ!」
発射を阻止しようとするレギルス。しかしマコトのヘルムヴィーゲが大剣を構え、止めに入る。
「マコト……テメェ……ゴホッ!ゴホッ!」
淡の絡んだ声でマコトに食いつくノドカ。
「風邪ですか……知ってます?夏風邪って馬鹿が引くんですよ?」
「あ?テメェ……!」
レギルスはビームサーベルで切りかかるも、マコトのヘルムヴィーゲは大剣を分離させ受け止める。
「大方アイ先輩拒絶した事に、自分でもストレスかかったって所でしょう?本当に馬鹿ですねぇ」
挑発に怒り心頭になるノドカ、体調不良とはいえノドカの技の切れはそこまで落ちてはいない。必死になってビームサーベルをさばいていくマコト。
「今です!ナナ!今のうちにチャージを!!」
「やってるわよ!!」
受け取ったレールガン。撃つのにチャージは必要だ。スコグルの相手はシンゴが務めていた。そして、ナナはさっきのマコトの言葉を思い出す。
「アイを拒絶したから……か。アタシも案外アイツに近かったかもね……」
自分の力で……、そうこだわっていたが、それが行き過ぎてしまえばノドカの様になってしまうのではないかとナナは思った。先程のバトルの勝利で、勢いと熱さのついたナナの心は、強く燃え上がる。ナナ自身のガンプラ魂だ。それがレールガンにチャージ以上の力を注いでいるのを感じる。
「……ノドカ!」
突然名前を呼ばれたノドカはナナに意識を向ける。そして大型レールガンがチャージ完了しつつあるのを気づいた。砲身が、銃口が、強く輝きだす。
「アタシはやっぱり一人じゃ限界はあるのかもしれない!だけど!だからこそ!アタシはアイに支えてもらう!そしてアタシは!アイを支える!アンタも意地張ってないで!アイに向き合いなさい!」
「っ!!黙れぇぇ!!」
レギルスはマコトのヘルムヴィーゲを弾くと。ナナのフリーダムに突っ込んでいった。激昂したノドカはフリーダムの真正面。射線上に入る。その後ろはスコグルもいた。
「よけて!皆!ハジメ・ナナ……戦場を!!」
ナナはトリガーを弾く。
「駆け抜けるよっっ!!!」
次の瞬間。実弾とは思えない光の奔流が放たれた。すぐさま回避するシンゴのビギニングD、ノドカと違法ビルダーは声を上げる間も無くそれに巻き込まれる。
「これが実弾?!嘘だろ!」
ソウイチが驚愕しながら声を上げた。強烈な光はまともに直視出来ないほどだ。……暫くして光が止む。射線上にあった者は根こそぎ消滅しており、全員が驚きの余り声も出ない。
「な……な……何なのよこの威力……」
一番驚いていたのはナナ自身だった。撃ったフリーダムも機体の放熱を行うと、燃え尽きたとばかりにガクッとその場に膝をつく。
「ナナ!凄いです!」
「もう一歩も動けそうもないわ……。大した物ね。この武器」
「ほとんど作ったのはシンゴさんですよ」
「何……安心してんだお前ら……!!」
マコトが安堵した声を上げた直後、ノドカの辛そうな声が響いた。声の響いた方、上空を見ると、頭と脊髄と翼、そして尻尾だけになったレギルスがいた。脱出機構のレギルスコアだ。
「しまった!まだ動けたのか!?」
シンゴのビギニングDが身構える。ノドカも流石に勝つ事は不可能と判断。引き上げるしかなかった。
「……クソッ!もう今日はここまでだな……覚えてろよ……決勝戦で……お前らを……」
そう言ってレギルスコアはその場から消え去る。撤退した様だ。と同時にナナの眼の前のディスプレイに『WIN』の文字が入った。勝った……やったんだ……その実感がナナにふつふつと湧いてきた。
「あは……あはは!!やったぁぁ!!」
ナナは仲間から力を貸してもらったとはいえ、この結果に大喜びとなった。
バトルが終了して、ヘルメットを外したナナがGポッドから出る。最初にコウセツ達三兄妹が拍手で出迎えた。
「……完敗だぜ。お前さんの力、見せてもらった」
「君と戦えた事、俺達も今後の糧にしていくよ」
「いいか!ウチら今回はストフリに慣れてなかっただけだ!今度会った時は必ずお前を倒す!」
そしてサツマ達やソウイチが三兄妹に続く、
「やっぱり!やっぱりワタクシの目には狂いはありませんでしたわぁぁ!!」
「もっちゃん!泣き過ぎだよ!でも本当にすごいよナナちゃん!」
「……あなたの魂、今ギンギラギン……」
「ハジメさん!まさかアンタにこんな潜在能力があったなんて!!凄いっス!!」
ソウイチも今まで見た事の無い様なキラキラした瞳の笑顔で食いついてくる。純粋に感動したという事だろう。だがナナには違和感が凄まじかった。
「あ、ありがとうアサダ、皆。……あ」
そしてナナの目にはシンゴとマコトの二人が入った。今回勝てたのはこの二人のおかげだ。もう一度お礼を言おうとナナは話しかける。
「有難うございました。あのレールガンが無ければ負けていました」
「そんな事ありませんよ。あれがナナの本当の力というわけですね」
満面の笑顔で答えるマコト。対するシンゴの笑顔は優しい物だった。
「……それで、今も君は一人だけでやろうって思うかい?」
「……そうしたかったけど……向いてないっぽいですね」
「それでいいんだよ。協力し合う事で高められる事だってあるはずさ」
「そう言う言葉、何度も言われた事だけど、今になってようやく意味が解った気がします」
一皮むけたかな。とナナは笑いながら言った。かつて、ナナは『アイと一緒のガンプラが一番楽しい』と思った。それを改めて噛みしめるナナ。
「でもでも、まだ入り口に立った程度にしか思ってませんよアタシは。もっと色々教えて下さいね!」
「あぁ!改めてよろしくね!」
「へぇ~。二人で随分と盛り上がってるじゃないの……」
その時、ぬぅっと金髪の女性が二人の会話に割って入る。ミシマ・サキだ。
「サ!サキさん!」
「若い子の方がいいって事かしら?」
「いえ!そんな事は!」
脂汗を流しながらサキの機嫌を取ろうとするシンゴ。
「じゃあなーんでさっきはあんなに楽しそうだったのかしらぁ?」
サキの表情は冷淡ですらあった。しかし胸中の怒りは相当な物だろう。シンゴもそれが解っているのだから必死に取り繕うとする。
「そ、それは彼女が素直な子だから」
「じゃあ私は素直じゃないって?」
「そうじゃないんです!!そうじゃ!!」
周りの人間はその様子を見て、色々な感情を吐き出していた。サキと和気あいあいと話す様に嫉妬する者、『尻に敷かれてるな』と思う者、その場にいた多くの人間がシンゴとサキを見てそう思った。
――……なんだろう。楽しそうにサキさんと話してるシンゴさん見てると……なんだかモヤモヤする――
そして……ナナは何故だかそれを見て、嫉妬していた。
今回はどうしてもガンプラが間に合わず文章のみとなりました。今後一カ月以上かかるなら文章だけでも投稿しようと思ってます。無論そのあとガンプラが完成したら投稿は必ずします。
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第56話「菜々」
アイ達は散り散りとなり修行を積んでいく。今回はナナの話をしよう。