チャービル卿は中年の騎士に目配せしました。
「イノンドよ、その剣士と手合わせしてやれ」
「はっ!かしこまりました」
道端に馬車を停めたまま、鳥籠を馬車に積み込むと、イノンドは剣を引き抜いて額に剣先を軽く当てて正式試合の前の敬礼をします。ジンも剣を左手で引き抜いて同じようなポーズを取りました。
「我が名はディル・イノンド。神の命に置いて正々堂々と戦う事をこの剣に誓う…」
「俺の名はジンジャー・エール。神なんか信じねぇが、正々堂々戦う事を誓うよ?」
「ジンジャー殿、いざ尋常に勝負!」
イノンドが剣を構えたので、ジンも剣を構えます。重い一撃をなんとか左手の剣で受け止めましたが、剣圧で吹っ飛ばされてレンガの建物の壁に背中から激突しました。
「すげぇ、馬鹿力だな…。学生同士の剣術大会とは訳が違うぜ」
「勝負ありましたな?これが公式試合ならば、場外に落ちて敗北となりますよ」
「こら待て!まだ勝負は終わってない…」
イノンドは剣を鞘に納めて、馬車に乗り込むと行ってしまいました。ジンは轍を辿って拐われたルリを追いかけます。白樺の林の中にチャービル卿の別荘がありました。
「ついに念願の妖精を手に入れたぞ?これで不老不死の妙薬が作れる」
「しかしこのような年端もいかない幼い命を無下に奪うのは賛成できません…」
「わしに逆らうと申すのか?イノンド!」
「い、いえ…滅相もございません!」
イノンドはチャービル卿から妖精の世話係を言いつけられました。鳥籠の中のルリに優しく話しかけます。
「妖精とはどんなものを食べるのでしょうか?勉強不足でしてよろしければ教えてください」
「おじさん、良い人そうなのになんであんな悪いおじいちゃんの仲間になったの?」
「お恥ずかしい話ですが、普通の騎士団で他の者と折り合いが悪く、追い出されてしまって、行く宛がなく彷徨っているところを、チャービル卿に拾われたのです」
「ふーん、よくわかんないけど大変だったんだね」
「あの剣士ジンジャー殿と妖精殿は知り合いなのでしょうか?」
「知り合いではあるけど、犬猿の仲だよ?クレス先生に頼まれて仕方なく、ついて来てあげただけだからね!」
…つづく
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昔、知り合いが某少年漫画に持ち込みして、編集の人にこき下ろされまくった作者の原作の小説。復刻版の第21話です。