No.979670

英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

soranoさん

第76話

2019-01-06 23:03:48 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1221   閲覧ユーザー数:1042

 

 

 

フォートガードに戻ったリィン達はユーシスとパトリックの権限でカイエン公爵家城館の会議室の一角を借り、パトリックを交えて情報交換をしていた。

 

午後12:30―――

 

~フォートガード・カイエン公爵家第二城館~

 

「えっと………ちょっと整理させてください。西のカイエン公爵家に東のアルバレア侯爵家…………そして、北のログナー侯爵家に南のハイアームズ侯爵家を合わせたのがエレボニアの”四大名門”でしたよね?」

 

「ええ、エレボニア貴族の筆頭とも言える伝統的な四家ですわ。」

 

「ふふ、ここに既に四家のうちの公子と当主が揃っている訳ですね。」

 

「公子はパトリックさんで当主はユーシスさんね。」

 

「まあ、僕は侯爵家の三男で会議の世話役に過ぎないが…………ここにいるユーシスは正に筆頭出席者の一人になるな。」

ミュゼとゲルドの言葉に苦笑したパトリックはユーシスに視線を向けた。

「フン、俺はなし崩し的な流れで当主になったようなものだがな。ログナー侯は出席を辞退され、ユーディット皇妃陛下とキュア嬢はクロスベル所属の為、クロスベルによるエレボニアへの内政干渉が疑われない為にも余程の事情がない限り出席は辞退されるとの事だ。今年も去年に引き続き、四大が揃わない事になるだろう。」

 

「そうか…………」

 

「…………事情が事情とはいえ、一抹の不安がありますね。」

 

「…………?どうして…………?」

 

「それは…………」

ユーシス達の話を聞いて疑問を感じたユウナの言葉にクルトが複雑そうな表情で答えを濁したその時

「クク、正直に言っちまえよ。このままじゃ近い将来、エレボニアからは貴族が消えちまうからだってな。」

事情を察したアッシュが不敵な笑みを浮かべて指摘した。

 

「え………」

 

「貴族が消える…………?」

 

「……………………」

 

「あはは…………正直なお兄さんだなー。」

アッシュの指摘にユウナが呆け、ゲルドが首を傾げている中セレーネは何も反論せず目を伏せて黙り込み、ミリアムは苦笑していた。

 

 

「…………耳に痛いがその通りだ。サザ―ラントでも感じただろうがここフォートガードや、東のクロイツェンでも中央政府の圧力は高まる一方だ。加えて先月に発表された『七大都市構想』…………既存の税制度を完全に破壊する気だろう。」

 

「…………確かにエレボニアは変わらざるを得ないんだろう。だが、急激すぎる社会変革は歪みと軋轢を生むのも確かだ。貴族が手放した領地を大企業が買収し、領民が立ち退きを迫られている例もある。」

 

「そういえばこの街でも似たような話を聞いたような………」

 

「ある意味、中央政府としては合理的なのかもしれませんが…………」

 

「…………それでもさすがに事を急ぎすぎている気がする。」

 

「ああ…………それは間違いない。”鉄血宰相”――――全てはあの人の考えなんだろうが。」

クルトの意見に頷いたリィンは真剣な表情で考え込み

「…………ぁ…………」

 

「お兄様…………」

 

「リィン…………」

 

(………?)

 

(………なんだ…………?)

リィンの様子をそれぞれ心配そうな表情で見つめるアルティナやセレーネ、ミリアムの様子が気になったユウナとアッシュは不思議そうな表情を浮かべた。

 

「まあ、そうした動きにどう対処するかが明日からの領邦会議の議題の一つとなる。――――これは俺達の務めだ。お前達は気にせず演習に励むがいい。」

 

「ユーシス…………―――わかった。せめて応援させてもらうよ。」

 

「フッ、任せておくがいい。…………そちらはそちらで、気になる状況に出くわした訳だしな。」

 

「ああ、そうだったな。」

 

「猟兵団の件ですわね…………」

 

「この地で猟兵団が動いているのを実際に捉えたのは大きいだろう。既に准将、遊撃士協会を通じてユーディット皇妃陛下、そして一応、鉄道警察隊にも連絡している。」

 

「猟兵が全く正体不明というのが気になるところではあるが…………」

 

「…………サザ―ラントに現れた二つの猟兵団ではないんですよね?」

 

「いえ、戦闘服の形状を見る限りそのどちらでも無さそうです。」

 

「かといって、データベースにあるどの猟兵団にも該当しないんだよねー。大陸西部で活動しているほぼ全ての団を把握してるんだけど。」

クルトの疑問に対してアルティナとミリアムはそれぞれ答えた。

 

「でしたら既存の団、ないし別の勢力が装いを変えているんでしょうか?」

 

「ああ、その可能性が高そうだ。(俺とセレーネに対する含み…………考えられるとしたら…………)」

ミュゼの意見に頷いたリィンは紫の猟兵達の正体について考えていた。

 

「フン、そういえば相手がどうとか言ってやがったな。”竜どもの布陣”とか何とか。」

 

「よ、よく聞いてたわね。」

 

「ふむ、すると紫の猟兵どもには何らかの”相手”が存在している…………その相手に奇襲でも仕掛けるために迂回行動していた最中だったわけか。」

 

「ああ…………そう考えると辻褄が合いそうだ。そして”竜”というキーワードか。」

 

「うーん、なんか引っかかる感じがするけど…………」

 

「…………そうですね。既存の情報にあったような…………」

 

「”竜”というキーワードの相手も気になるけど、紫の猟兵達の目的も気になるわね。”意地を貫き通す”と言っていたけど、何の”意地”なのかしら…………?」

 

「そういえばそのような事も仰っていましたわね…………」

ミリアムとアルティナが考え込んでいる中ゲルドが呟いた言葉を聞いたセレーネは紫の猟兵達との出来事を思い返していた。

 

 

「いずれにせよ、あの方々の”行き先”は気になりますわね。丘陵地帯の東の向こうへ去ってらっしゃいましたけど。」

 

「ま、まさか第Ⅱの演習地とか?」

 

「いや…………方向が違うな。」

ミュゼの話を聞いてある事を察したユウナの推測にクルトは静かな表情で答えた。そしてリィン達は再び机に広げたフォートガード地方の地図を確認した。

 

「うーん、こうしてみると何も無さそうな方向だよね。川沿いに移動しても峡谷にブチ当たるだけみたいだし。」

 

「…………ふむ、むしろそこが目的地かもしれんな。”竜”なる相手が陣取っている場所があるなら。」

 

「…………奇襲を仕掛けるためか。」

 

「確かに、あり得そうな話だな。」

 

「そこに行けば紫の猟兵達の目的や正体もそうですが、”竜”なる相手の目的や正体についても何かわかるかもしれませんわね。」

 

「――――教官、午後からはラクウェルって街ですよね!?朝、ちょうど列車で通り過ぎた何とかっていう峡谷地帯にある!」

リィンとセレーネがユーシスとパトリックと話し合っているとユウナが表情を引き締めて訊ねた。

「”ランドック峡谷”です。ですが、丁度よさそうですね。」

 

「ああ、まさに一石二鳥だろう。」

 

「ハッ…………あの周辺だったらそれなりにアタリは付くぜ?」

 

「ふふ、アッシュさんにとっては自分の庭という所でしょうか?」

 

「さっきはミュゼの案内だったから次はアッシュの番という事ね。」

 

「ふう………やれやれ。」

 

「フフ、積極的なのは何よりではありませんか。」

 

「ああ…………何とも頼もしいじゃないか。」

それぞれ意気込んでいる生徒達の様子にリィンとセレーネ、パトリックは苦笑していた。

 

 

「フッ、ならばそちらの方はお前達に任せても良さそうだな。」

 

「ああ、演習地にも連絡してから向かうことにするさ。」

 

「うーん、それだったらボクも付き合おっかなー?ミーアークーガーのカルテットをまた復活させてもいいしね!」

 

「それはお断りします。」

ミリアムとアルティナのいつものマイペースにリィン達は冷や汗をかいて苦笑した。

 

こうしてリィン達はサンドイッチや紅茶といった簡単なランチをご馳走になり―――ユーシスやパトリックたちに暇を告げるのだった。

 

~玄関ホール~

 

「は~、さっき通った時も思いましたけど…………エレボニアの大貴族ってほんとお金持ちなんですね…………ここってユーディット皇妃陛下とキュアさんの実家―――カイエン公爵家の臨時用の城館なんですよね?臨時用でこの規模だったら、本宅はどんな規模なのかしら…………?」

 

「ハッ、まあ確かにアタマおかしいレベルだな。」

 

「これだけの規模だと維持費も莫大ではないかと。」

 

「…………まあ、特にこの城館は臨時用とはいえエレボニア最大の貴族の居城だしね。」

玄関ホールに出て周囲を見回したユウナの感想にアッシュとアルティナ、クルトはそれぞれ答えた

「確かに凄いけど、お義父さん達の実家のお城よりは小さいような気が…………?」

 

「お、”お義父さんの実家のお城”って………」

 

「さすがにエレボニアを超える大国であるメンフィル帝国の”帝城”は比較対象として間違っているかと。」

 

「そういえば確か君はリウイ前皇帝陛下の養女として引き取られたから、メンフィル帝国の皇女殿下の一人でもあるのか…………」

 

「まあ、マーシルンとは別の意味で”姫”ってタマには見えないがな。」

 

「ア、アッシュさん…………間違ってもレン教官の前でそんな事を言わないでくださいね?」

首を傾げて呟いたゲルドの言葉にユウナは表情を引き攣らせ、アルティナはジト目で指摘し、パトリックは苦笑しながらゲルドを見つめ、意味ありげな笑みを浮かべて答えたアッシュにセレーネは冷や汗をかいて指摘した後リィン達と共に玄関へと進み始めた。

 

 

「ふふっ、ユーシス様の新しいご実家も壮麗とは聞き及んでおりますが。」

 

「いや、さすがにここまでの規模ではないな。」

 

「うーん、けっこう似たり寄ったりだと思うけど。そういえばリィン達も将来ユーシスの実家だったバリアハートの城館が実家になるんだったよね~。」

 

「ハハ、以前は城暮らしだったセレーネはともかくユミルの実家でずっと過ごしてきた俺にとっては慣れない規模なんだけどな…………」

 

「――――なんだ、そなたらは?」

リィン達が会話しながら玄関へと進んでいると玄関から護衛の兵達を控えさせた初老の男がリィン達に声をかけてリィン達と対峙した。

 

 

「…………これは閣下。お戻りになられましたか。」

 

「パトリック君。君の知り合いかね?会議の前日にぞろぞろと…………おや、君は?」

 

「アルバレアが次子、ユーシス・アルバレアです。以前、帝都で何度かお目にかかっておりますが。」

初老の男に視線を向けられたユーシスはリィン達の前に出て自己紹介をした。

「おお、久しぶりだな!いや~、すっかり見違えたものだ。お父上とルーファス殿は残念だったが、君がエレボニア側のクロイツェンに残っている貴族達を御せればアルバレア家の未来も安泰だろう。まあ、エレボニアのカイエン家ほどではないだろうが!ワッハッハッハッ…………!」

 

(な、なにこのヒト…………)

 

(そうか、この方が噂の…………)

豪快に笑っている初老の男の様子をユウナはジト目で見つめ、初老の男の正体がわかったクルトは真剣な表情で男を見つめた。

「ほう…………?そちらの君達も見覚えがあるな?今年の年始のパーティーで見かけた…………たしか”灰色の騎士”と聖竜の姫君”だったか。」

 

「リィン・シュバルツァーです。現在、士官学院の教官をしていまして。」

 

「セレーネ・L・アルフヘイムです。リィン様と同じく士官学院の教官をしている身でして。こちらはトールズ第Ⅱ分校のわたくし達が担当している生徒達です。」

初老の男に視線を向けられたリィンとセレーネはそれぞれ軽く自己紹介をした。

 

「ふぅむ…………小耳に挟んだことはあるな。…………ああ、ウォレスに投げたアレか。ワシがフォートガード州を暫定統括するヴィルヘルム。バラッドという。まあ、”暫定”というのは近日中に無くなる予定じゃがな。ワッハッハッハッ!」

堂々と自分が次期エレボニア側のカイエン公爵であることを口にした初老の男――――バラッド侯爵にリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「聞いたところ、リィン君は”七日戦役”の和解条約でアルフィン皇女殿下を娶ったとか。まあ、機会があればワシも色々と相談に乗ってやろう!下級貴族の出ならば、ユーゲント皇帝陛下の義理の息子となった上将来”公爵”になる事が約束されているリィン君にとっては、宮中での作法などには苦労するだろうからな!」

 

「…………恐縮です。」

バラッド侯爵の言葉にリィンが謙遜した様子で答えるとバラッド侯爵は護衛の兵達と共にその場から去って行った。

 

 

「な、な、な…………なんなのよ、あのオジサン!」

 

「…………不躾かつ無礼ですね。」

 

「バラッド侯…………新海都でも名前は聞いただろう?内戦で討伐された前カイエン公爵の叔父君で…………エレボニアの”次期カイエン公”と言われている。」

 

「え”。あ、あんなヒトがエレボニア最大の貴族に…………!?しかも前カイエン公爵の叔父って事はユーディット皇妃陛下とキュアさんの親戚にもなるって事じゃない…………!?」

 

「フフ、あくまで”最有力候補”らしいですけど。ご存じのように討伐された前カイエン公のお子さんの内長男のナーシェン卿は”七日戦役”時に戦死し、メンフィル帝国軍に投降して”七日戦役”や内戦が終結しても生き残る事ができた姉妹―――ユーディット皇妃陛下とキュア公女殿下はクロスベル帝国に帰属した事もありまして。」

 

「クク、麗しの新海都の未来もずいぶんと明るいじゃねえか。」

 

「えっと………”最有力候補”って事は他にもエレボニア側のカイエン公爵になる事ができる”候補”の人はいるの?」

ミュゼの話を聞いたアッシュが皮肉を口にした後ある事が気になったゲルドは不思議そうな表情で訊ねた。

「ああ、一応いることはいるが今の所その人物は興味がないのか、エレボニア側の次期カイエン公に名乗り上げていないみたいで、現状候補はバラッド侯だけなのさ。」

 

「そうだったのですか…………」

 

「…………」

ゲルドの疑問に答えたパトリックの話を聞いたセレーネとリィンはそれぞれミュゼに視線を向けた。

「うーん、なるほどねー。すると会議のもう一つの議題はエレボニア側の次期カイエン公の推挙なのかな?」

 

「コホン…………非公式だがそれもある。まあ、彼が公爵位を継ぐことが確定しているわけではないが…………」

 

「…………それでも何らかの形で”次”を決める必要はあるだろう。自らの益のためなら政府と組んで他の貴族を追い落とすエレボニア貴族にあるまじき厚顔無恥ぶり…………そんな男を推挙したくはないがな。」

ミリアムの疑問にパトリックと共に答えたユーシスの答えにリィン達は冷や汗をかいた。

 

 

「…………ユーシス、パトリックも。会議の方、くれぐれも頑張ってくれ。」

 

「その…………応援してます!」

 

「はは、ありがとう。」

 

「お前達も特務活動、しかとやり遂げるといいだろう。…………ミリアムの方もくれぐれも無茶はするなよ?」

 

「あはは、りょーかい!晩ゴハンまでには戻るからねー!」

そしてリィン達はユーシスとパトリックに見送られて城館から去って行った。

 

「…………あの娘。イーグレット伯の孫だったか。」

 

「ああ、ミュゼという子か。帝都の女学院にいたらしいが…………ハハ、見初めでもしたのか?」

リィン達を見送りながら呟いたユーシスの言葉に頷いたパトリックは冗談交じりにユーシスに訊ねた。

「フン…………(………イーグレット伯といえば先々代カイエン公の相談役だったか。討伐された先代カイエン公には疎まれ、隠居同然だったと聞いたが…………)」

訊ねられたユーシスは鼻を鳴らした後ミュゼの祖父について考え込んでいた。

 

その後結社の動向を探るミリアムと別れたリィン達は演習地へと向かい、演習地でミハイル少佐達や演習地を訊ねていたクレア少佐に紫の猟兵達について報告した後ラクウェルへと向かい始めた――――

 

 

 

 

久しぶりにシルフェニアの18禁版を更新しましたので興味がある方はそちらもどうぞ…………なお、時系列はこの物語の2章で、しかも近い時系列で2話も更新していますw


 
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