No.97847

~真・恋姫✝無双 魏after to after~三国に咲く、笑顔の花 Ⅳ

kanadeさん

お久しぶりです
今シリーズもいよいよ佳境、なのに神仙の二名の出番が・・・
ともかく楽しんでいただけることを願います
感想・コメント、誤字報告を引き続きお待ちしております。
それではどうぞ

2009-09-28 20:24:30 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:14932   閲覧ユーザー数:11195

~真・恋姫✝無双 魏after to after~三国に咲く、笑顔の花 

 

 

 

 左慈、于吉による一刀殺害が紗耶によって阻止されてから一カ月が経ち、呉と蜀の面々は、呉は全員が洛陽に残り、地方をめぐっていた張三姉妹が帰ってきた。一刀の負傷を聞きつけた三人は、見舞いに来て無事なのを見た途端、大粒の涙を流しながら〝無事でよかった〟と声をそろえて言ったそうだ。

 

 「雪蓮、貴女達は帰らなくてよかったの?」

 「野暮なこと言わないの♪」

 「仮にも呉の王でしょうに・・・」

 「あら、今の王は妹の蓮華よ?・・・・それに、この件は私たちも無関係ではないでしょ?」

 頷くと、華琳はそれ以上何も聞かなかった。

 廊下を歩くと、そのうち二人は一つの部屋の前に辿り着く。

 ――コンコン。

 「一刀、入るわよ」

 扉を開けると、紗耶の治療を受ける一刀の姿があった。

 「調子はどう?顔色を見る限りでは問題なさそうだけど・・・」

 「ん、まぁ・・・うん、大丈夫・・・・・・かな?」

 ちらりと沙耶を見ると紗耶は頷いてみせる。

 「だってさ・・・雪蓮も、毎日お見舞いありがとう」

 「いずれ貴方の子供を孕むのよ?夫の心配するのは当然でしょ♪」

 ――ギリッ

 あからさまに歯ぎしりの音が聞こえて一刀は背筋が寒くなった。だが、ここでその事に突っ込みを入れるとロクなことにならないのを身をもって学んでいるので何もしない。

 一刀が何もしないのを見て、華琳は軽く咳払いして本題を切り出してきた。

 「紗耶、そろそろ事情を話してもらいたいのだけど・・・」

 「わかってます・・・旦那様の状態もほぼ完治しましたし・・・・・・」

 「玉座の間に皆を集めてくるから・・・紗耶、貴女は一刀を連れてきなさい。雪蓮、貴女も来なさい」

 えー?とむくれる雪蓮の首根っこを掴んで華琳は部屋を後にするのだった。残された一刀と紗耶の間には静かな沈黙が流れる。

 

 「・・・・・・もし、俺が〝繋がったまま〟だったら・・・紗耶、君は俺を殺してた?」

 「・・・・・・皆のところに向かいましょう。全てはそこでお話します」

 それを聞いて、一刀はそれ以上何も聞こうとはしなかった。寝台から立ち上がると部屋を出ようと紗耶に促す。

 部屋を出る際、紗耶は〝ありがとう〟と言った。

 一刀はほほ笑むだけで、何も言わなかった。

 

 二人が玉座の間に集まった時、既に魏・呉・蜀と全ての面々が顔をそろえていた。

 「来たわね、それじゃあ話してもらおうかしら・・・・・・貴方たち二人は口を挟まないで頂戴」

 貂蝉と卑弥呼に一瞥すると二人は静かにうなずいた。

 二人が席に着き、そして――。

 「では・・・お話します。質問などいくらでも浮かぶとは思いますが、一区切りつくまでお待ちくださいね」

 紗耶が、口を開いた。

 

 

 ――まず、この〝セカイ〟は本来の世界たる〝正史〟の分岐した枝葉、〝外史〟・・・つまり作り出された世界です。正史で生きる者たちの〝もしも〟の世界・・・可能性の世界・・・人によっては〝多元世界〟〝並行世界〟もっとわかりやすく〝異界〟とも呼ばれる正史では在り得ない・・・偽物の世界・・・だけど本物と何も変わらない世界。

 違いがあるとすれば・・・成長しすぎても木々のように実らないことですね。成長しすぎた外史は、むしろ幹である正史に影響を及ぼし、正史に在った歴史を・・・過去をゆがめてしまいます。

 それまでの〝過程〟を破壊してしまう故、正史は自身を守るために、必ず外史という枝葉を終わらせる力を宿している・・・・・・表現としては〝剪定〟に近いでしょうか、庭の木々を美しく保つために伸びすぎたり未熟な枝を切り落とすのと同じです。

 必ず外史には終わりがくる・・・その方法は大きく分けて三つ。

 ――一つは、正史の自己防衛による終わり。

 ――もう一つは、外史の〝基点〟となった存在の抹消。

 ――最後は、〝基点〟となった存在がある道具を破壊し、外史の終端を願うこと。

 どのような形であれ、必ず外史というモノは終わるのです。

 そして、この〝外史〟は二度、終わりを迎えました。

 

 「待ちなさい。二度終わりを迎えた・・・そう言ったわね?」

 「はい」

 「貴女の話が真実なら・・・いえ、真実なのでしょう。だとすれば余計に判らないわ・・・私たちは、こうして確かにここにいるのよ?」

 「それは・・・・恐らく、華琳様たちと旦那様との間にあった〝絆〟のおかげだと思います」

 「絆・・・」

 華琳はその一言だけ言って沈黙する。

 

 

 ――二度の終わり、その内の一度目は〝基点〟の抹消・・・この外史では旦那様は使命を帯びてましたから・・・それを終えたためにですから・・・抹消とは違っていますが、意味合いとしては一緒です。そして、二度目は・・・・・・華琳様たちだけでなく、呉や蜀の方々にとっても身近な事柄です。旦那さまが帰ってくる以前に在ったことですから。

 

 「まさか・・・五胡?」

 微かに、華琳の声は震えていた。そして、紗耶がそれに頷くと周りが一斉にざわめきだす。

 紗耶は、構わず話しを続け始めた。

 

 ――この〝三国〟をめぐるあらゆる外史は多くの場合、そのほとんどが五胡に呑まれて終わります。ですが、例外ともいえる終わり方も数多くありました。

 そのほとんどが、〝新たな外史〟を作りだすというものです。

  そして、この外史にいる旦那様はその時に生まれた存在・・・つまり〝基点〟から生まれた〝新たな基点〟その一つなのです

 

 「つまり、他にも〝もしも〟の俺がいるわけか・・・桃香のところに降り立った俺や雪蓮のところに降り立った俺って感じで」

 「はい、その通りです。ただ、この外史のように一度去った外史に戻ったというケースは他に類を見ません。だからこそ、私はこの外史とそこで生きる方々に興味がわいたのです」

 そっかと一刀は深くは聞かずに頷いた。

 「私のところに来た一刀か~・・・きっとうちの子たち皆口説いてるんでしょうね♪ま・・・こっちでも・・・」

 「一刀?」

 「待て待て、それは別の世界の話だろ?大体俺は呉の人たち全員と面識があるわけじゃないんだから」

 それでようやく納得したのか華琳は睨みを解いた。雪蓮の方は大爆笑である。

 「・・・・・・話、続けますね」

 紗耶の言葉に何故か秋蘭が頷いた。

 

 ――この世界に興味を抱いた私は、この外史の基盤となる魏に行き、〝徐晃〟として華琳様たちに近づいたのです。そして・・・旦那様に出逢いました。正直、最初は〝神仙〟の〝否定者〟として、正史の守護のために、旦那様を・・・北郷一刀という存在を殺そうと思いました。正史と繋がったものが外史にいれば、その世界の歴史が正史に流れ込んでしまい、正史が壊れてしまう・・・だから――。

 ですが・・・旦那様と出会った時、私は言葉を失くしてしまいました。

 旦那様は。

 

 ――〝正史との繋がりを完全に断ち切っていました〟

 

 そこまで聞いて一刀が口を開いた。

 「ここからは・・・俺が話すべきだな」

 

――そうして一刀が、語り始めた。

 

 

 ――許子将が言うには、俺は・・・この〝外史〟と強く繋がり過ぎていたらしい。繋がりが強すぎて本来重なり合うことのない時間の流れが重なって、〝正史〟がいつ歪んでもおかしくないぐらいにこの〝外史〟の結果が流れ込み始めたって言ってたな。

 だから、〝神仙〟達は四方八方手を尽くしたらしいけど・・・俺と華琳たちの繋がりを消すことは出来なかったらしい。色々策を講じて、そのどれもが失敗した時、〝神仙〟の〝肯定者〟の一人が・・・・・・まぁ、貂蝉だろうけど・・・一つの提案を持ち出したんだ。

 「それが・・・貴方が私たちのもとに帰ってくる事なの?」

 「ああ、そうなる。もっとも、タダとはいかなかったけどな」

 そこで打ち切り、再び一刀は語りだした。

 

 ――華琳たちのもとに帰れるって聞いた時、正直その場で踊りたくなるぐらいに嬉しかった。

 華琳、春蘭、秋蘭、桂花、季衣、流琉、凪、真桜、沙和、霞、風、稟、天和、地和、人和・・・・・・置き去りにしてしまった大切な人たちのもとに帰れるんだから、当たり前だったんだけどな。

 

 そう言って苦笑する一刀と赤面する魏の将たち。

 他国の将たち・・・・主に雪蓮がぶぅっと頬を膨らませていた。

 

 少しでも皆に近づきたくて、武を磨き・・・三国のために何か役に立てたらと・・・かじり程度でも役に立ちそうな政ごとをまとめたりと、色々やってた俺は帰れるって聞いて本当に嬉しかったんだ。

 だけど、華琳たちのもとに帰るためには・・・〝正史〟歪めないために俺自身が、〝正史〟との繋がりを完全に断ち切らねばならないって言われて茫然自失になった。

 華琳たちも、もちろん大切だ。

 だけど、こっちにだって大切なものがたくさんあったんだ。

 今まで俺を育ててくれた両親や俺を鍛えてくれた爺ちゃん、如耶さん・・・馬鹿やって騒いだりした親友の及川・・・他にもたくさんあった。それを全て捨てなければ皆のもとに帰る事は出来ないって言われて、〝じゃあ捨てます〟とか〝皆を諦めます〟なんて即決出来るはずないからな。

 

 「それに、そんな簡単に捨てる奴なんて、皆も御免だろ?」

 「一刀・・・」

 「一刀様・・・」

 「そうね、そんな男だったら私がこの手で殺していたでしょうね」

 何かに感銘を受けたような風に一刀の名を呟いた秋蘭と凪、すっぱりと断じた華琳。

 一刀は〝だろうな〟と言うのだった。

 

 でも、悩む時間なんてくれなかった。

 一日で答えを出さないなら華琳たちのいる〝外史〟は滅ぼさなくてはならなくなる・・・なんて、脅迫されたんだけど・・・寮の自室に帰って、皆の事を思い出したら・・・凄くすんなりと結論が出たんだ。

 たしかに、向こう側の思い出も大事だ・・・だけど、俺は何のために自分を鍛えたのか・・・智を高めたのか・・・答えは簡単で

 

 ――皆と共に生きたかったから・・・。

 

 ――そこに至った瞬間、頭の中が一気に落ち着いたよ。

 そして、俺は皆と生きるために〝正史〟との繋がりを断ち・・・〝外史〟を独立させることを選んだ。

 

 そして、一刀は語りを終えた。

 華琳にはかつて話したことであったが、あんな事があった後だからまた違った受け止め方をしたようで、華琳は微かに震えている。それを見た風が、華琳の代わりに一刀に問いかけた。

 「お兄さんにお聞きしたい事があるのですが」

 「何かな?風」

 「今の話を信じた上でお聞きしますが~・・・〝正史〟とやらの繋がりを断ちきったとお兄さんは仰いましたが、その〝正史〟ではどのような扱いになるのですか?事故死?あるいは行方不明といったあたりが妥当だと思うのですけど・・・・・・もうひとつ、考えたくはない可能性があるのです」

 風の顔には悲痛なものがあった。華琳の代わりに尋ねた筈なのに・・・まったく口が動いてくれないようで震えている。

 残酷であると知りながら、一刀は事実を口にした。

 

 「察しの通りだよ、風。・・・〝正史〟に俺という存在はもう、どこにもない・・・・・・俺という存在がいた証の全てを抹消することで、俺は・・・皆のところに帰ってこれたんだ。だから、〝正史〟において・・・北郷一刀は存在しない。両親、爺ちゃん、如耶さん、及川・・・多くの俺を知る人たちの記憶に・・・記録に・・・一切残っていないんだ」

 

 一刀の言葉に、その場にいたすべての者たちが言葉を失くしたいた。

 

 ――ただ一人、紗耶だけを除いて。

 

 「それは些か語弊がありますよ」

 「紗耶?」

 口を開いた紗耶に一刀が問いかけた。紗耶は、コホンと一息入れて続きを話し始める。

 「先程も申しあげましたが、旦那様に関する事が消えただけであって、〝北郷一刀〟に関する事が消えたわけではありません。こちらとの繋がりを断つために必要な因子は引き剥がしていますから、正史の方は時間が戻って・・・再び流れてるはずですよ・・・ちょうど四年前から」

 「そうなの?」

 「はい、許子将を含めた上位の〝神仙〟やらが多少無理をしたみたいですけどね」

 「んもぅ、徐晃ちゃんってば他人事みたいに言っちゃって・・・結構大変だったのよ」

 「・・・事実他人事ですから、既に〝神仙〟である事を辞めた私には一切関係ありません」

 「・・・すまぬが程昱の問いかけの続きを聞きたいのだが?」

 意外な事に、ここで冥琳が口を挟んできた。どうやら、軍師として・・・智を収める者としての好奇心がここにきて出てしまったようだ。

 「ああ、そうでしたね~・・・お兄さんの事は一先ずこれで良しとしまして、次の質問です。紗耶ちゃんの言っていた事なのですが、その〝外史〟というモノは可能性の世界とおっしゃいましたが・・・それでしたら、お兄さんに限らず〝正史〟を歪めかねない〝外史〟というものもそれこそ可能性の数だけあるのではないのですか?」

 「ああ、そのことでしたら・・・って、聞きたいのですか?」

 風に聞き、全員に目配りをすると、各々が頷いて続きを促した。

 「その心配は全くとは言えませんが、ありませんよ。可能性の数だけ存在すると言っても、そのほとんどがうたかたの夢幻と同じです。今私たちがいる世界のように確固たる形の外史は、誕生するのに何らかしらの〝鍵〟が必要になるのです。それこそ人の想念を集束させる道具が。

 それは、様々な形で存在するのですが・・・共通しているのは何らかしらの形で人目に晒されている事でしょうか」

 「それって博物館とか?」

 「ええ、そう言った場所には〝鍵〟がある事が多いですね。歴史を経ている品物でしたらその可能性はもっと跳ね上がります」

 ――話を戻しますね。

 想念が集まった〝鍵〟が破壊された時、想念は安定を求め・・・形を作り出す・・・〝外史〟という形を。ただ、そのためには基点となる存在が必要になります。ただ・・・なにをもって〝基点〟たりえるのかというのは、〝神仙〟にもわからないのですが・・・単純に偶然の一言で片づけることを出来ます・・・詳細はいまだ不明のままです。

 

 「これが、先の風の問いに対する答えになりますが・・・」

 「は~・・・神仙さんにもわからない事があるのですねー」

 「ええ。神仙は〝神〟ではありませんから・・・・ですが、〝神〟でしたらご存知かもしれません。ただ、〝神〟は万物に対して公平でなければなりませんから、まず無理だと思いますよ。悪い言い方になりますけど、〝神〟というモノは何もしないくせに偉そうな存在なのです」

 「むむ、紗耶ちゃんは意外に辛口な事を言うのですね。では次の質問です」

 「どうぞ」

 

 ――「紗耶ちゃんは神仙さんを辞めたとおっしゃいましたが、それは何故ですか」

 

 

 

 「・・・それは、私が旦那様に惹かれてしまったからですよ?それに、〝神仙〟であり続けては旦那様や皆さんと共に人生を歩むことはできませんから」

 実にあっさりと紗耶は答える。そんなにすんなりと止められるものなのかとも思った皆だったが、恋は人を変えるには十分すぎる理由だなと、変に納得できてしまうのだった。

 「もっとも、名残として膨大な〝氣〟が私には宿っているのですけどね。・・・・・・脱線はこれくらいにしておきましょう・・・・・・皆さんが知りたいのは外史だの正史だのではなく、〝左慈や于吉がどうして旦那様の命を狙うか〟だと思いますから」

 「ならば何故その事を話さないのです?そのような無駄な時間を過ごすほど呂布殿は暇では・・・(ごちんっ)痛い!」

 「ねね・・・少し黙る。紗耶・・・ごめん」

 「気にしてないから、涙目になってるねねちゃんを慰めてあげてください・・・・・・・今回の件をお話する上で、〝外史〟と〝正史〟のことを・・・たとえ理解することが出来ないにしても繋がっている以上、話しておく必要があったんです・・・で、ここからが本題なのですが・・・・・・華琳様、一息入れませんか?」

 「ええ、その提案はありがたいわね・・・流琉」

 「はい、なんでしょうか?」

 「お茶の用意をしに行くから手伝って頂戴。秋蘭、紗耶も手伝いなさい」

 「「「御意」」」

 華琳、流琉、紗耶の三人がその場を後にした。

 

 ――それを見届けた後に。

 

 「この人数だし・・・冥琳、亞莎も手伝ってあげて」

 「ああ、そうだな・・・行こうか亞莎」

 「はい、冥琳様」

 

 ――冥琳と亞莎が三人に続き。

 

 「雛里ちゃん、ねねちゃん、私たちも行こ♪」

 「はいでしゅ・・・あう・・・」

 「気分転換になりますな・・・雛里、落ち込んでないで・・・いきますぞ」

 

 ――桃香、雛里、ねねもそれに続いた。

 

 残ったメンツは、一斉に深呼吸をするのだった。

 当事者である一刀を除いてだが。

 (・・・・・・奴が俺を狙う理由・・・か)

 紗耶の事情説明が始まる前の事を一刀は思い出していた。

 

 『左慈が旦那様を狙うのは・・・貂蝉が言うには、〝北郷一刀〟が彼の〝鍵〟の回収を邪魔してしまったのが始まりだそうです・・・無理もありません・・・〝否定者〟が〝外史〟誕生の一翼を担っていしまったとあっては・・・・・と昔の私なら言ったでしょうけど・・・・・・結局は自分の失態を他人に八つ当たりしているだけで、ハッキリ申しまして迷惑なだけです』

 

 ――旦那様は私が守ります。この命に変えたとしても・・・

 

 いつかの華琳と重なる哀しみを帯びた笑みが頭から離れてくれない。

 

 ――一体、自分は何のために強くなろうと思ったのか・・・だと言うのにこの有様だ。俺は、何も変わってないじゃないか。

 

 沸々と静かに心の奥底から湧きあがる怒り。

 一刀のそんな精神状態を打破したのは、片手で禎を抱いている真桜だった。もう片方の手には〝桜華〟が握られている。

 「難しい顔して何考えとるかしらへんけど、刀の打ち直しが終わったで」

 「ありがと、真桜。鎮はまだ寝てるの?」

 「さっき起きたばっかりや。考え事ばっかして周りに目がいっとらんかった見たいやな。凪は鎮のところにおるで、呼んできたろか?」

 「いいって・・・でコイツ、ありがとな」

 受け取った愛刀を見せ、礼を言う。

 

 ――左慈に襲われた時自分の身を守ってくれたこの愛刀は、迷いがあったために欠けてしまったのだ。そのため、真桜に打ち直しを頼んだのだった。

 ただ、桜石は貴重で入手が困難なため前と同じ刀には出来ないと言われた。

 その時、思いついたのが、部屋に飾ったままになっている〝菊一文字〟を使うことだったのだ。

 最初は真桜は止めていたのだが、一刀の真剣な眼差しについに折れた。

 そうして今一刀の手に握られているのが新生した〝桜華〟なのだ。

 「その子の刀身の半分くらい使って打ち直したから、前より少し刀身が長いで・・・んで、残った半分で鍛えたんが・・・コレや」

 腰に差していた短刀を差し出す。

 「生まれ変わったこの子は銘は〝菊花〟や。使わへんにしたって大事にしたってや」

 「ああ、大事にするよ・・・で、禎がおねむみたいだよ?」

 「へ?・・・ほんまや・・・しゃーない、寝かせてくるわ」

 「途中まで付いていくよ。こいつを体に慣らしておきたいし・・・・・・そういうわけだからさ、皆が戻ってきたら呼びに来てくれないかな?」

 「わかったよー!そのかわり、お話が全部終わったらボクと闘ってね?」

 ちゃっかり手合わせの約束を取りつけつつ、季衣が了承してくれた。その後、何人かの武闘派たちが季衣と何か揉めていたようだが、とりあえずそれをスルーして一刀は中庭に向かうのだった。

 

 ――引き留めずに一刀を見送ったことを、この後後悔することになるのだった。

 

 

 中庭に出て、〝桜華〟を抜いて型を一通りこなす。びっくりするぐらいに手に馴染むこの刀に心から感激してしまった。

 鞘に納め一息ついて、気を引き締めて一言。

 「于吉・・・だっけか?いるんだろ?」

 「驚きましたね、私をご存じということは左慈を迎えに来た時にはまだ意識があったのですか?」

 「まぁ・・・な」

 「そうですか、それで?私がここにいるのに気付いたのは何故です?あの三人にも気付かれていないというのに・・・」

 あの三人とは紗耶に貂蝉、あと卑弥呼とかいう奴の事だろうと内心で思って別の事を口にする。

 「なんとなくさ・・・でさ、頼みがあるんだけど」

 「貴方が私に頼みとは・・・いやはや、驚きを禁じ得ませんね。それで?頼みとは一体」

 「・・・・・・黙って殺されるのはごめんなんだ・・・だから、俺を左慈の所へ連れて行け。アイツの御望み通りに〝北郷一刀〟と〝外史〟とアイツとの因縁に・・・代表してケリをつけてやる」

 「・・・・・・意外すぎて言葉が出ませんでしたが・・・よいのですか?下手をすれば殺されるのは間違いありませんし、貴方が〝直接〟殺さねばならないのですよ?」

 「背負う覚悟はできている・・・」

 「・・・・・・承知しました。ではいきます・・・〝送〟」

 

 ――そうして、中庭から二人は姿を消した。

 一刀が城から姿を消していた事に最初に気がついたのは恋だったが、その時既に半刻が過ぎていた。

 

 

~epilogue~

 

 

 

 左慈は、ある場所で佇んでいた。その姿は、何か思い出を振り返っているようにも見える。

 

 ――この場所に来るのは一体何度目で・・・いつ以来なのか・・・既に数えることすら馬鹿馬鹿しくなってしまった。

 

 振り返ると、何もない台座がそこにはあった。

 かつては、そこには一枚の銅鏡があったのだが、今は・・・この外史には存在しない。

 何故ならここだけは、全ての外史と繋がっている唯一の場所、かつてここで一度終わった外史は、そのまま終わらずに新たな外史の誕生を招いただけだった。

 「破壊のために用意したそのことごとくが、逆の結果になるとは・・・どこまでも皮肉なものだ」

 一度目を閉じ、そして台座の方に体ごと向けて呟く。

 

 ――「北郷、外史の運命を覆した・・・〝この外史〟の貴様ならこの皮肉に塗れた俺を終わらせる事が出来るか?」

 

 憂いの呟きに応える者はなく、静かに空気に溶けた。

 この後しばらくして、一刀が自らここを訪れて戦うことになるとは、微塵も考えてはいなかった。

 

 

~あとがき~

 

 

 

えと・・・ややこしいことこの上ないと思いますが、最後まで読んでいただいた方には心から感謝申し上げさせていただきます。今回の話は私なりの外史の解釈となっているため、皆さんの考える外史とは全く違ったものであると思いますが、どうかご了承くださいませ。

さて・・・『三国に咲く、笑顔の花』も次回で最後、その後にサイドストーリーを一つとafter to afterの総まとめ(?)を書く予定ですのでもう暫しこのシリーズをよろしくお願いします。

それでは次回でまたお会いしましょう。

Kanadeでした。

 

 

 


 
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