No.976191

フレームアームズ・ガール外伝~その大きな手で私を抱いて~

コマネチさん

プロローグ『ある量産型轟雷のプラモ界反逆計画』

二年間小説投稿が滞ってしまったので、リハビリとしてこれを投稿します。ブラックジョーク多いので、もし腹立ったらごめんなさい。

2018-12-09 20:55:44 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:834   閲覧ユーザー数:833

 自分の作った物が意識を持って、友達になってくれたらどれだけ楽しいだろう。そんな風に考えた事はないだろうか。それは太古から神や妖怪のモチーフとして、そして現代のフィクション等で多くの題材となっていた人々の憧れや夢。そしてそんな事は叶わぬ夢と諦めてきた幻想。

 しかし時は未来世界、人工知能やロボット、プラモを戦わせるアミューズメント。SFと現実の距離が近づいてきた昨今、幻想は現実になりつつあった。

 

 

「ここは私が時間を稼ぐから!あなたは逃げてレティシア!」

 

 見渡す限り砂だらけの砂漠で二人の少女がそこにいた。

 

「そんな怪我では無理よイノセンティア!」

 

 イノセンティアと呼ばれた褐色少女が、レティシアと呼ばれた少女に抱えられながら訴えた。イノセンティアの右足は損傷しており歩けない。周りは戦場だ。黄昏時の砂漠で多くの者が銃を取り、剣を振るい、それぞれの武器で戦っていた。そして何より特徴的なのは、参加していた全員が少女だったという事。

 

「行ってよ!せっかくここまで来たのに!ここでやられたら二人ともやられちゃう!」

 

「バカ!二人で生き残ろうって約束したじゃない!ここであなたを見捨てたら何の為に私は!」

 

「あははは!愚かな人!」

 

 笑い声が響くと共に再び少女が二人降りてくる。紫髪、そして片目隠れの二人だ。

 

「友情確かめ合って、それで二人そろってやられるなんてねぇ」とロングヘアーで左目が隠れた少女が、

 

「仲良く二人でやられたいみたいね、お姉ちゃん」とショートヘアーで右目隠れが続く。二人とも赤目が特徴だった。

 

「悪いけど時間はかけてられないの。二人一緒にやられてもらうわよ」

 

「えぇー。またお姉ちゃんだけ?一人は私の獲物にしてよー」

 

 まるで狩りを楽しむといわんばかりの紫髪の姉妹、相対する二人はもう駄目だとお互い抱き合った。

 

「目を閉じていて……きっとすぐ終わるから」

 

「……うん」

 

 二人の表情は諦めが現れ始める。しかしその時だった。一発の実弾が二人の頭上を通過。姉妹の所に着弾し爆発。

 

「へ?わぁぁっ!!」

 

 完全に不意打ちだった。姉妹は情けない声を上げながら吹っ飛ぶ。何が起きたと茫然とするイノセンティアとレティシアの二人、そこへ砂塵を巻き上げながら少女が走ってくる。厳密には踵についたキャタピラで。だ。

 

「無事ですか?あなた達」

 

 バズーカを構えた銀髪の少女だった。戸惑いながらも「うん」と答える二人。二人の前に躍り出た少女はさっき撃った場所へ撃ち続ける。

 

「くっ!轟雷!!」

 

 爆炎を突き破りながら姉妹は飛び出してくる。

 

「やはりしぶといですね!アント!」

 轟雷、そう呼ばれた少女は弾切れになったバズーカを躊躇いなく姉妹に投げつける。それを大型の剣で切り裂く姉。

 

「中々あなたが出てこなかったんでリハーサルよ!でも来てくれたならもういいわ!」

 

「私達姉妹の力を見せてあげる!」

 

「ほざきなさい!一度も私に勝てない人が!」

 

「今日はこれを用意していたのよ!!マスター!!あれをお願い!!」

 

 アントと呼ばれた二人、姉の方が虚空に向かって叫ぶ。「解った」どこからともなく聞こえたその声の後に、二体の巨大な乗り物が落ちてきた。砂塵を巻き上げて着陸する二機。

 片方は左右に大型ガトリングガンの付いたエアバイク、もう片方は機銃の付いたタンクだ。

 

「ギガンティックアームズ!!」

 

「その通り!あなたの為に用意していた装備よ!いくわよ!ライ!」

 

「うん!レーフお姉ちゃん!」

 

 そう言うと姉妹はそれぞれギガンティックアームズと呼ばれた乗り物にそれぞれ乗り込む。レーフと呼ばれた姉はエアバイク『ブリッツガンナー』の操縦席に、ライと呼ばれた妹はタンク『ムーバブルクローラー』に、そのまま乗った。

 

「この辺りで最強のあなたを倒して私達は名を上げる!マスターの為に!」

 

「通常装備のあなたには負けないよ!」

 

「似合ってませんね!ムーバブルクローラー!!」

 

 血気はやる姉妹に対して轟雷が苦笑気味に言った。乗り物と言ってもムーバブルクローラーは乗り手と大きさが変わらないからちょっとバランスが悪い。

 

「うるさいな!動ければいいの!!」

 

 四脚の大型キャタピラを動かしながらライが装備していたミサイルポッドを撃つ。轟雷もキャタピラを使い後退しながら手に持った89式5・56㎜小銃で対応しようとする。自分に当たると予想したミサイルだけを撃った。残りのミサイルは自分の周りに着弾し爆発。

 

「くっ!」

 

 爆発に身も守るべく屈み、動きを止めた轟雷。そこを狙ってブリッツガンナーに乗ったレーフが大型ガトリングを撃ちながら轟雷に突っ込んでくる。

 

「例の装備でないあなたが勝てると思ったのかしら?!」

 

 そのまま轟雷にブリッツガンナーは突っ込む。質量兵器としてぶつけるつもりだ。高速で轟雷のいた地点を通り過ぎるレーフ、しかし手ごたえがない。何処に行ったと辺りを見回すレーフ。

 

「女の子相手に乗り物で突っ込むとは、絵面的に問題あると思わないのですか?」

 

「っ!!」

 

 真後ろから声がした。後ろに轟雷は飛び乗っていたのだ。そのまま轟雷は右肩のキャノン砲を向けて至近距離で発射。爆発するブリッツガンナーから轟雷は飛び降りる。と、同時にブリッツガンナーは炎上し墜落、爆発。

 

「お姉ちゃん!よくも!!」

 

 ムーバブルクローラーに乗ったライが怒りの余り轟雷に突っ込んくる。機銃とライ本人の武装を併用してくるも、轟雷は動じずに腰に下げた日本刀を持つとキャタピラで突っ込む。

 

「無限軌道の使い方はこちらの方が一日の長ありですよ!!そんな動き!」

 

「なめないで!!」

 

 軽快に敵の射撃をかわしながら轟雷は至近距離まで近づくと刀を振るう。その斬撃は乗ったライごとあっけなく叩き斬った。

 

「お!お姉ちゃーん!!」

 

 斬ったと言ってもライの切断は無い。叫ぶ少女は淡い光を放ちながら消えた。

 

「凄い……あんな鮮やかに……」

 

 少し離れた場所で見ていたイノセンティアとレティシアは轟雷の戦い方を茫然と見ているだけだった。

 

「これで残ったのは私達三人だけでしたね?」

 

 轟雷はそういうと目の前に半透明のディスプレイを出現させる。宙に浮いたディスプレイには参加者数が乗っており、残りの人数も表記されていた。轟雷とさっきのイノセンティアとレティシアだ。

 

「よっし!!これでこのバトルは私達の勝利です!」

 

 轟雷が笑顔でガッツポーズを取ると、バトル終了のアナウンスが出る。同時に周りの砂漠の風景が切り替わる。それは建物内、玩具店の中だった。しかしその大きさは人間の十倍はあろう。轟雷達が立っていた場所は巨大な丸テーブルの様な場所だ。

 

「通常装備でも余裕だね轟雷」

 

 少年、しかし轟雷の十倍はあろう巨人が話しかける。…否、周りが大きいのではなく、轟雷達が小さかったのだ。

 

「マスター、なぁに軽いもんですよ!」

 

 Vサインで笑顔で答える轟雷、離れた場所ではさっき倒された姉妹が同じく若者の手に乗り、対象を見上げながら泣いていた。

 

「ごめんなさいマスター!折角買ってもらったギガンティックアームズを!」

 

「えーん!おねぇちゃーん!」

 

 姉妹を慰める巨人。当然姉妹の大きさも轟雷と変わらない。その周りのいた少女たち全員が同じ様に巨大な人間を「ご主人」「マスター」または名前で呼びながら話をしていた。

 彼女達は『フレームアームズ・ガール』。身長15センチメートル。ナノマシンで構成された肌。ASと呼ばれる人工自我、プラスチックの武装を与えられた新世代ホビー、その製造目的は人間とのコミュニケーション、そしてフレームアームズ・ガール(以下FAG)同士でのバトルだ。

 

「あ!あの!」

 

 と、二体の、否、二人のFAGが話しかけてくる。さっき助けたイノセンティアとレティシアだ。

 

「助けて頂き有難うございます!」

 

「ん?お気になさらず。結果的に助けた形になっただけですから」

 

 恭しくお辞儀する二人にカラッとした対応の轟雷。

 

「でもあんなにカッコよく立ち回るなんて凄いです!どうしたらあんな風になれるんですか?!」

 

「そうですね……。自分が憧れた自分を目指す事ですかねー?」

 

「憧れた自分……ですか?」

 

「はい。私の元になった試作型轟雷ですね。彼女はFAGに多大な影響を与え、私達の基礎となったと言われているFAGです」

 

 試作型轟雷、製造元であるファクトリーアドバンス社(以下FA社)において第二世代型の先駆けとなったFAG、彼女はモニターとして選ばれたマスターの元で様々な経験と感情を学び、FA社の予想を超えた成長を見せた。

 

「私は彼女の様な影響を与える女になりたいんです。FAGの可能性を広げたい」

 

「凄い……壮大ですね」

 

「えぇ。その通り、FA社の発展に貢献し、いずれは……いずれは……えーと……」

 

 言葉に詰まる轟雷、どう言葉を選ぼうと悩んでる様だ。

 

「あの……轟雷さん?」

 

「あぁもうメンドクサイ!!シリアスやめ!!FA社!いえ!コトブキヤがバン○イのガン○ラを駆逐し!私達コトブキヤがプラモ業界の征服をする事です!!」

 

『え゛』

 

 突然の爆弾発言に聞き手の二人は固まる。

 

「考えてもみて下さい!ここ数年でプラモ業界はスタンダードであるガンプ○一強だった中、私達別メーカーも力をつけてきているじゃありませんか!!」

 

「そ、そんな事言われても……」

 

「あーあ、理想壊しちゃったわね」

 

 と会話の中に参加する新たな二人が、さっきのバトルで戦っていた姉妹だ。

 

「あなたは……」

 

「そう身構えなくていいわよ。私達が戦ったのはマスターの為、バトルから離れれば私たちは友達よ」

 

「私はアントのライ、こっちはお姉ちゃんのレーフだよ。アーキテクトタイプのバリエーションなんだ」

 

 打って変わってフレンドリーに接してくる目隠れ姉妹、ほんの少しだが警戒心を解く二人。

 

「『艦こ○』が流行ってアオ○マの戦艦スケールモデルとのコラボが始まりでした!艦娘フィギュアつけなくても展示シートと箱絵で売り上げ何倍にもなるご時世です!」

 

 フィギュア自体は別に出してるじゃん。とレーフはぼやく、が、轟雷は聞いてない。

 

「そのア○シマもVFガールで独自の美少女プラモ技術を見せつけました!今は美少女プラモが各メーカーの切り札にして技術披露のうってつけの場!しかーし!それに比べて○ンダイの美少女プラモの技術を見てください!

いえ!技術自体はフィギュアライズラボのフミナ見れば高いのは解ります!しかしですよ!その後出したダイバーナミの顔の造形!他のメーカーは表情部分はタンポ印刷で済ましてるのにも関わらず!バ○ダイはパーツごとの色分けでやってます!

これはいわば印刷の場合は個体ごとにいい顔あれば残念な顔も顔もあるという事ですが!成型の段階で顔が決まるという事は!一度顔が残念になった場合は、残念な顔が延々と続くことを意味してるんですよ!!どうせ子供は美少女プラモなんて買わないんだから、多少は高額になってもバンダ○も印刷にすればいい物を!!」

 

「間接周りは私達より出来いいけどね」とライ。

 

「ご高説はいいけど誰も聞いてないわよ。新参の二人はドン引きしてるわ」

 

「他にも言いたい事はあるんですよ!例えばガンダ○ビルドファイターズからダイバー○まで!声優でモデラー並にプラモがうまいという方は沢山いますが!現在ダイ○ーズまででうまい声優さんて出てましたか?!池澤春○さん出てないでしょ!?中○桜さん出てないじゃないですか!関智○さん出てないじゃないですか!!

特に大和○仁美さんと!バーゼラルドやってた長江里○さん出てないとかひどすぎます!!もう佳穂○美さんか綾○有さんでガンダ○の主役かヒロインやらせてくれないとこの怒りは収まりそうにありません!!」

 

「……あの、轟雷さんっていつもこういう人なんですか?」

 

 恐る恐る姉妹に聞く二人。

 

「昔っから変な所はあったわねー。どうも試作型轟雷の時から突飛な所はあったって話だけど」

 

「最近はなおさら酷いよね」

 

「何を言ってるんですか!いいでしょう!お教えします!私がどうして○ンダイに対して犯行意識を持つに至ったか!」

 

――

 

 あれはネットサーフィンしていた時の事でした。私ある情報を仕入れたのです。

 

「マスター!通販サイトのプレミアムバ○ダイでメガハウ○製のシルフィーカラー轟雷が出たと聞きました!バ○ダイサイトで轟雷が買えるという珍事件です!是非買いましょう!」

 

「いいけどお前予算的に一つだけだぞー」

 

 ○ガハウスはバンダ○の下請けで普段はガ○ダムキャラのフィギュアを作っています!なおかつ自社製品でコトブキヤとコラボしたりズブズブです!

 しかし轟雷を買おうとしていたら目についたものがあります!HGモデルのガ○ダムウーンドウォー○でした!そうです!あの発表してから10年、皆が要望出しまくってようやく通販限定販売となったあのガンダ○ウーン○ウォートです!

 どっち買うか迷った結果!可愛い私なら再販かかると思ってウ○ンドウォート優先しました!しかしいつまで経っても私の再販は来ない!のちに調べていたらイベント限定品でもう販売は無いと!

 私は泣きながらHGのウー○ドウォートを作りましたよ!塗装からウェザリングまで泣きながらやりました!そして写真撮ってネットにアップしながら誓いました!必ず模型業界のトップに私達FAGは踊り立つ、そして全てを支配する!と!ちなみに投稿名は『涙のウーンドウォ○ト』です!よかったら見て下さい!!そんでもって評価お願いします!

 

――

 

「ってそんなどうでもいい理由かい!!」

 

「むぎゅう!」

 

 レーフがツッコミとして轟雷にバックドロップをかける。レティシア達の視点では二人のパンt……ボディスーツが並んでモロ見えだった。

 

「轟雷お姉ちゃん。結局は○ンプラへの八つ当たりだけ?別メーカーの愚痴ばっかりだけど、どうやってガ○プラ越えるっての」

 

「む!ライ!知れた事ですよ!このまま私の実力を誇示し続け!全国の子供達に私を好きになってもらうのです!」

 

 起き上がりながら轟雷は言う。

 

「すっごい回りくどい!」

 

「さっき『子供は私達なんて買わない』って言ったじゃないですか……」

 

 必死に話についてこようとしたレティシアが続いた。

 

「それはそれ!これはこれです!そして私達が業界を乗っ取った暁には!」

 

「暁には?」

 

「『ねこぶそう』の著作権買い取って一大コンテンツとして育て上げます!」

 

 その場にいた全員があまりのショボさに言葉を失った。ねこぶそう、その名の通り様々な種類の猫のフィギュアに武装取り付けるコンテンツである。武装ごとの組み替えも豊富でプレイバリューは高い。

 

「ねぇ轟雷、乗っ取ってやる事がそれ?そんな小さいコンテンツを」

 

「小さくありません!レーフのバカー!」

 

 その瞬間、レーフの頬に轟雷の拳がヒットした。

 

「ぐあぁっー!」

 

 吹っ飛ぶレーフ。

 

「おねぇちゃーん!」

 

「動物のフィギュアに武装を組み付けるというコンセプトが重要なのですよ!美少女プラモが多い昨今、動物というのは独自です!しかもそれがにゃんこ!」

 

「猫好きなんですね……」

 

「うん……。しかし私達の大きさ的に本物の猫は小猫でも脅威です。15㎝の私達では愛玩動物も怪獣同然ですよ!ネコパンチはもはや鉄球!手元に置ける可愛い猫ちゃんが欲しい!」

 

「それが本心ですか……」

 

「うん……。しかし○ンダイは割とこういったコンテンツは早い段階で切り捨てます。ねこぶそうも第三弾発売まで来ましたがこれから先はどうなるか解りません!スコティッシュフォールドは出ましたが!マンチカンやメインクーンを出してくれるまでは続いてくれなければ!!ついでにガシャポンの換装少女も!」

 

「はいはい、ついて来れない子もいるんだから、そろそろ話題変えましょ。あなたの野心は解ったから」

 

 また暴れられたら適わない。とレーフは話を中断。轟雷もバックトロップを恐れてか、それ以上は言わなかった。

 

「それはそうと、今週末のFAGのサバイバルバトル大会、出るかしら?」

 

 壁にかかったポスターを見ながらレーフは言う。ポスター内容はさっき言った言葉の通り今週末FAGのサバイバル大会の告知だった。

 

「当然!また私が優勝しますよ!」

 

「フフ……そうはさせない……」

 

 轟雷は自信満々に言う。と、それを否定する声が聞こえる。聞き覚えの無い声に誰がいる。と辺りを見回す。と、天井から轟雷に似た赤いFAGが降りてきた。

 

「今度の優勝はボクが頂く。ボクの知名度を上げるために」

 

「迅雷タイプ?」

 

 迅雷、轟雷の軽量化をしたような姿のFAGだ。それに違わず忍者の様な素早い動きが特徴である。しかし個体差か、目の前の迅雷はどうにも目が虚ろだった。

 

「そう。ボクは各所の強いFAGを倒して回ってるの。ボクこそが真の迅雷だと知らしめる為にね……」

 

「へぇ、赤い迅雷とはね。こういうバリエーション機体もいるんだ」

 

「っ!!ボクはバリエーションじゃないー!!」

 

 その瞬間、レーフの頬に迅雷の拳がヒットした。さっきと同じ個所に

 

「あぁー!」

 

 またも吹っ飛ぶレーフ。

 

「おねぇちゃーん!!」

 

「フフ……そう、世間ではインディゴバージョン、つまり黒いカラーがバリエーションのはずなのに、もっぱらアニメではバリエーション機のインディゴの方が出ていたから、ボクの方がバリエーション扱い……フフフ……許さない……ボクの方がオリジナル、そして強いという事を証明する。その為にボクは戦う」

 

「アニメ本編見てない人にはワケ解んないよ」

 

「その為に、私に宣戦布告をしにきたというのですか?」

 

「その通り、それと……」

 

 迅雷はポスターを指さす。その先は優勝賞品の部分だ。

 

「優勝賞品はヘキサギアのレイブレードとボルトレックスのセット。それもボクは頂く。これはマスターの為に」

 

 ヘキサギアというのはコトブキヤの商品の一つ。有体に言えば荒廃した未来世界で戦うゾイド的動物メカとそれに乗る、もしくは歩兵として戦う兵士達の物語。プレイバリューも非常に高く、FAGへの取り付けも難なく行える。

 

「随分と豪華ですね。今回の優勝賞品は」

 

「いいでしょう!全て私が勝ちます!迅雷!私は負けませんよ!私の誓いは誰にも破らせません!」

 

「あ、準優勝の副賞もある。ねこぶそうセット!」

 

「え?!ねこぶそう!?」といきなり轟雷の誓いが揺らいだ。

 

「……轟雷さん?」

 

「と!何を言わせるのですか迅雷!何はともあれ絶対に私の座は譲りませんからね!」

 

「ボクが言ったんじゃない!でも負けないのはこっちも同じ!」

 

 その二体の気迫、それは先程の抜けた印象を吹き飛ばすのに充分。イノセンティアとレティシアの二人には轟雷が実力者だという事を思い出すのに充分な気迫だった。

 

「あの自信、なんやかんや言って実力者ってのは本当なんだよね」

 

「私達はどうするの?」

 

「記念位には出てみるかな。一応轟雷さんにも見習いたい所はあるし」

 

「まぁ私達の一存ではね。マスターに聞いてみましょ」

 

 マスター達はマスターで別の所で店内のプラモや商品を見ていた。……科学技術の進歩は人と違わない人形を生み出す事に成功した。人と同じという事は、当然時に不安定だという事も意味していた。

 

 

 そして大会当日、

 

「いやー、今日は随分人が集まりましたねー」

 

 轟雷がマスターの手に乗りながら感心の声を上げた。

 

「凄いです。こんな沢山の人が集まってるの見たの初めて……」

 

 今度はイノセンティアだ。初めての目にする人の集りに感激した様な声を上げる。いつの間にかマスター同士でも仲良くなっていた。

 

「なんだか……怖いですよ。あれだけの人が見てる中で戦うなんて……うまく出来るかな……」

 

 反面レティシアは緊張していた。こういった個体の反応の違いもFAG特有だ。

 

「大丈夫。まずは自分を信じて動きましょう」

 

「でもみて下さい。皆装備が段違いです」

 

 レティシアが周りのFAGを見る。ほとんどが値段の高そうな武装を装備していた。反面レティシアとイノセンティアはハンドガンとナイフ、そしてシールドだけ。

 

「でも使いこなせるかは別の問題です。確かに重武装同士だと装備スペックで差は決まりがちですが、乱戦になりがちなサバイバルバトルだと素早く動ける方が重要ですよ。フィールドをどう使うが鍵です」

 

「轟雷さん……」

 

「それに二人一緒で戦うわけでしょ?大丈夫。仲間がいる事はそのへんの武器よりよっぽど頼りになります」

 

「ぁ……!有難うございます!でも装備といえば、轟雷さんは通常装備でいいんですか?」

 

 レティシアは轟雷を見ながら言った。轟雷は手に持った小銃はともかく他は通常の装備だった。

 

「当然。使い慣れた装備が一番ですよ」

 

「でも前に言ってたじゃないですか。通常装備って、あれって他に装備持ってるって事ですよね」

 

「う……」

 

 その発言にどもる轟雷。不審に思うレティシア。更に追求しようとするが、

 

「あぁ、こいつの装備ね。○ンダイ批判する前まで使っていたんだけど突然使うの嫌がりだしてさ」

 

「マ!マスター!何を言うんですか!私は今のままでも十分強いからこの装備で良いって言ったんです!何が何でもこの装備で私は勝ちますよ!」

 

 そんなこんなでバトルが始まる。参加するであろうマスター達は皆手に六角形の小さな台座を持っている。これはセッションベースといってこれを合わせることによって仮想空間のバトルステージを生み出す機能がある。

 それはFAGのナノマシンと反撥し、FAGの触れるホログラフを発生、更に装備の転送、プラスチックの武器に攻撃力を与えるといった効果を生み出す。マスター達は全員巨大な丸テーブル状の機械の周りにぐるりと立つ。そして目の前のくぼみに全員がセッションベースをはめ込んだ。

 これによりセッションベースの効果は何倍にも増幅。何人ものFAGが参加できるフィールドを作り出す。

 

『フレームアームズガール!!セッション!!』

 

 参加していたFAGがそう叫び、バトルステージへとダイブする。

 

「サリーフォース!!といっても一人ですが、轟雷!!行きます!」

 

 轟雷がバトルステージへと降り立つ。今日のバトルステージは廃墟となった都市。辺り一面ガレキの山、大きさを合わせてかFAGを人間としてのサイズに合わせてある大きさだだった。そして天候は曇天。

 

「早速のお出迎えですか?!」

 

 フィールドに降り立って早々、弾幕の歓迎を轟雷は受けた。集団でFAGが撃ってくる。

 

「この店舗最強のFAG!まずはあなたを叩く!」

 

「優勝できなくてもアンタ倒せばマスターが褒めてくれるの!」

 

 轟雷の降り立った大通りはミサイルと大型ガトリング等重火器の嵐だ。轟雷は辺りを確認、周りは廃墟となったビルが立ち並んでる。傾いたビルが多い。

 

「あれは使えますね」

 

 そう呟くと轟雷はすぐさまビルに向かう。キャタピラを展開し、傾いたビルの外壁、垂直ではないが斜面を登る。

 

「何をする気かは知らないけど!無駄よ!」

 

 相手のFAGは瞬く間にビルを、轟雷のいる地点を狙って撃ちつづける。そうこうしてる内にビルは倒壊。

 

「やったの?」

 

「駄目だ!むやみに撃つな!」

 

「マスター?!」

 

 突如響いたマスターの声にFAGはハッとした。直後火器によって砕かれたコンクリートや石膏は粉塵となって人口の霧となってFAG達の周囲を覆った。

 

「うわっ!何これ見えない!」

 

 困惑するFAGとマスター達だがすぐさま轟雷の声が響いた。

 

「本当は上を取る目的だったんですけどね!」

 

 手伝ってくれた。と言わんばかりの声の直後、FAG達の周りで爆発が起こる。轟雷のバズーカだ。爆風が塵を、FAGを吹き飛ばすと同時に刀を構え見えているFAG目掛けて突っ込んでいく。

 

「雨だったらこうはいきませんでしたね!」

 

 無双する轟雷、それを少し離れた場所で戦っていた迅雷も、轟雷の戦いに気づいていた。長巻で相手のFAGを切り裂きながら呟く。

 

「……やるじゃない」

 

 

 そしてイノセンティとレティシアの方は……

 

「ほぼノーマル装備で来るなんて命知らずね!!」

 

「所詮は初心者だよお姉ちゃん!」

 

 例の姉妹につきまとわれていた。場所は商店街だったらしき廃墟の大通り、装備の余裕か悠然とした態度の姉妹、そして壁に身を隠しながら銃弾をしのぐ二人、

 

「くっ!このまま待っていたって!」

 

「レティシア、一つ私に考えがあるんだけど」

 

 イノセンティアがある提案をする。レティシアは聞くと了承。銃弾の隙をついてレティシアは相手のFAGの前にシールドを構えて躍り出る。

 

「諦めたの?!」

 

 好都合とばかりに撃ち続けるFAG、しかし上空、店舗の屋上から相手のFAG目掛けて降りてくる影が一機。イノセンティアだ。

 

「何?!」

 

 そのままイノセンティアは妹、ライのミサイルポッドを狙い銃弾を撃ち込む。弾薬の残っていたミサイルポッドはすぐさま誘爆し、姉を巻き込み、失格させる。

 

「嘘でしょー!」

 

「お姉ちゃーん!!」

 

「やった!」

 

「轟雷さんの言う通り!重装備なんて怖くないわ!イノセンティアがいればね!」

 

「レティシアがいてこそよ!」

 

 直後に『僕は?』『俺は?』と二人のマスターが突っ込みを入れた。

 

 

 そうこうしてる内に決着はつきつつあった。轟雷は荒れ放題の広場を散策しながら迅雷を探す。

 

「宣言してくれた以上は向こうから出てくれないと困るんですけどね」

 

 そうぼやく轟雷に迅雷の声が聞こえた。

 

「お待たせ!お望み通り来てあげるよ!」

 

「っ!?」

 

 直後、轟雷はとっさに今いた場所を移動する。さっき轟雷のいた足元が、そしてその周囲が、爆音と共に広場の至る所に火柱が吹き上がる。

 

「これは?!」

 

「火遁の術ってね!」

 

 一瞬動揺する轟雷だが、一本の竹筒が地面から突き出し、コンクリートを高速で突き進んでくるのが見えた。迅雷だ。そう判断した轟雷はキャタピラで後退しようとするが、真後ろは火柱、方向転換に躊躇してると竹筒は目の前まで来ていた。と、迅雷が地面から勢いよく飛び出す。当然轟雷の首を狩ろうという魂胆で。

 

「土遁の術!」

 

「っ!」

 

 逆手に持ったククリナイフをすんでの所でかわす。肩と背中のウェポンラックに様々な刃物を持ってるのが見えた。持っていた竹筒を捨てると迅雷は轟雷に向き直る。

 

「待ってたよ。さぁボクと遊ぼう!」

 

「強引ですね!」

 

 迅雷は上半身が一切ぶれない走り方で轟雷に接近、轟雷もナイフで応戦する。

 

「速い……!」

 

「シャァッ!」

 

 鍔迫り合いはせずにヒットアンドアウェイの戦い方だ。火柱をうまくかわしながら迅雷は切りつけては離れてを繰り返す。

 

「うまくボクに対応できてる辺り流石!それで通常装備だって言うけど!君の本気はどんなのかなぁ!」

 

「っ!あれは使わなくたってあなたには勝てるんですよ!」

 

「なにをそんなに頑なに嫌がるのか!まぁいい!そのままやられなよ!」

 

 迅雷は離れ様に苦無を投げつける。幾つか、轟雷の顔と体を狙った物は裁くが、それは劣りだった。左足のキャタピラに苦無が幾つか突き刺さる。

 

「キャタピラが?!」

 

「これで素早く動けないね!」

 

 今度は忍者刀との二刀流で切りかかってくる。小銃で応戦しようとするも迅雷の速さには当たらない。

 

「まぁやられても気にしないで欲しいな。君の言う○ンダイへの反逆はボクが受け継ぐよ!ボクが有名になればアニメはボクがメインヒロイン!ゆくゆくはくノ一ロボの代表として有名になるんだ!ビルド○イバーズも続編あったらアヤ○もボクのカラーにしてもらう!」

 

「いや○ヤメをあなたのカラーにしたって赤い彗星カラーにしかならないでしょ」

 

「ムキー!!」

 

 迅雷の一撃が轟雷を弾き飛ばす。

 

「いつまでもメタ発言続けたって白けるだけだね。そろそろ終わりにしよう」

 

 大鎌を構えて近寄ってくる迅雷、

 

『轟雷!このままじゃやられる!あの装備でいけ!』

 

「マスター?!い!嫌です!使いたくない!」

 

『お前こんな時になってまで!!』

 

「だってあれガンプ○……」

 

「マスターと喧嘩まですると余裕だね。そのままやられなよ」

 

 そう言って迅雷は鎌を振り上げた。「やられる」そう思った時だった。

 

「轟雷さん!」

 

 レティシアが轟雷の前に躍り出るとシールドで庇う。消耗していたシールドでは鎌を耐えられず貫通。レティシアの体を切り裂いた。

 

「っ!?」

 

「レティシア!?」

 

 間髪いれずにイノセンティアが横から迅雷に撃ってくる。邪魔だと言わんばかりに迅雷はイノセンティアに走る。

 

「レティシア!どうしてこんな事をしたんですか!」

 

 レティシアを抱きかかえる轟雷。一撃でやられたわけではないが致命傷だ。長くはもたない。

 

「憧れでしたから……」

 

「え?」

 

「最初に話をした時、言いましたよね。自分が憧れた自分を目指すって……。あなたの事……ちょっと変だなって所もあるけど、なんやかんやで憧れてるんですよ。……だからどうか、本気で戦ってください。そして勝って……イノセンティアが命がけで時間を稼いでる内に……」

 

 限界に来たのだろう。レティシアは光を放ちながら消えた。

 

「レティシアの言う通り……そうじゃなきゃ私達が頑張った理由がなくなっちゃうもの……私達が憧れたあなたとして……どうk」

 

 イノセンティアも倒れこみながら呟く、迅雷にやられたのだ。そして言い終わらない内に消えていった。それが轟雷のASに、心に火をつけた。

 

「……マスター、例の装備……使います!リナシメントアーマーを!!」

 

『遅いぞ轟雷!転送行くぞ!』

 

 マスターがそう言うとすぐさま装備を選択し転送、轟雷の体にアーマーが装着されていく。その装備は……

 

「アスタロト・リナシメントのアーマーか!」

 

 迅雷が驚愕の声を上げた。別メーカー品、ガ○プラのパーツだからだ。

「ようやく本気になったってわけ?!存分に遊べるね!!」

 

 疾走する迅雷、しかし轟雷は外側のサブアームで大鉈『バスタード・チョッパー』、大剣『デモリッション・ナイフ』をそれぞれ持つ。眼の前に迫る迅雷に対して轟雷はバスタードチョッパーを迅雷目掛けてブン投げた。しかしチョッパーは迅雷の眼の前の地面に突き刺さる。

 

「何をするかと思えば」

 

「イグニッション!」

 

「!?」

 

 轟雷がそう言った瞬間、チョッパー先端部に取り付けられた『火薬式ダインスレイヴ』が地面に打ち込まれる。その威力は地面を隆起させ、チョッパーを、そして迅雷を空中に巻き上げた。

 

「な!?」

 

「デモリッション!!」

 

 巻き上がる迅雷、その眼の前に轟雷は大剣を振りかぶる轟雷が飛び上がっていた。そのまま轟雷はフルスイング、慌てて鎌の柄で防御する迅雷だが、その勢いは凄まじく、鎌をへし折り迅雷を大きく吹き飛ばした。

 

「ぐぁぁっ!!」

 

 地面にバウンドする迅雷、轟雷はチョッパーを回収し悠然と歩いてくる。

 

「今のはレティシアの分、次はイノセンティアの分ですよ」

 

「くっ!それが君の切り札か!!ならばこちらも!マスター!切り札を!!」

 

 今度は迅雷の方に装備が、否、支援機が送られてきた。先述の姉妹が乗っていたギガンティックアームズを合体させたバリエーション機、ダークネスガーディアンだ。その姿はSFのパワードスーツそのもの。

 

「忍法!ダークネスガーディアンの術!」

 

「あんな切り札を!?」

 

「ボクの方も、これに乗ったら遠慮は出来ないんでね!覚悟しても……ら……ウ……ゥゥ」

 

 搭乗した途端に顔面を抑えて苦しみだす迅雷、少しだけ時間をおいて迅雷は顔から手を離した。白目が黒に切り替わっており禍々しい。

 

「!?」

 

「ハ……ハハハ!後悔ナんてスる時間も与エないヨ!!」

 

 声まで不安定なトーンとなっていた。迅雷はガーディアン両手、踝の部分から連装式のレーザーを連続的に放つ。大口径な上に左右4門ずつのレーザーは厄介だ。機銃を加えての弾幕は中々近づくことは出来ない。

 

「ドコへ行くノ?!蹂躙シてアゲるからコッちへおいデ!」

 

「とてもヒロインには見えませんね!!」

 

 引き撃ちに徹し、かわし続ける轟雷に迅雷は接近戦を挑むべく接近する。周りはまだ火柱がごうごうと上がっており轟雷が素早く動くのは困難だ。反面ダークネスガーデイアンは火柱をものともせずに突っ込んでくる。その姿はまるで迅雷が轟雷を追いかけまわす様だ。

 

『轟雷!作戦は解ってるな!』

 

「もちろんですよ!場所は……あそこがいいですね!」

 

 轟雷は開けた場所を見つけるとその場に足を止めた。迅雷は轟雷を握りつぶそうと左右の手、『オーバードマニピュレーター』で握りつぶそうとする。

 

「諦メたノ?!一思イに潰してアげル!」

 

 しかし轟雷は逆手持ちのバスタード・チョッパーを地面に突き刺し、ダインスレイヴを撃ち込んだ。轟雷は空高く舞い上がり、迅雷のマニピュレーターは空振りする。

 

「何ィ!」

 

「エクスプロージョン!!」

 

 そう言って轟雷は大鉈と大剣を合体させて一本の大剣へと形を変えた。そしてバーニヤを一斉に吹かし突きの体勢で迅雷へと突っ込む。近づけさせまいと迅雷は轟雷へ撃ちまくるが剣に当たったレーザーは拡散、轟雷の勢いは衰えない。

 

「そンな!」

 

「これがイノセンティアの分!!」

 そのまま轟雷はダークネスガーディアンを貫通。駄目押しとばかりに轟雷は大剣を振り上げて、

 

「そしてえぇっ!!エグゼキューション!!」

 

 思いっきり叩きつけた。直後、損傷限界値をを超えたダークネスガーディアンは迅雷ごと爆発。

 

「ボクが!ボクこソがメインヒロインにィィィ!!!」

 

 そして程無くしてサバイバルバトルは終了。優勝は……轟雷である。

 

 

「優勝おめでとうございます!轟雷さん!」

 

 閉会式が終わっての店内、バトルの舞台となったテーブルの上でレティシアとイノセンティアが轟雷に駆け寄る。マスターの手には優勝トロフィー、そして轟雷の背中には賞品のレイブレードインペルスとボルトレックスの二箱があった。

 

「二人とも、ありがとう。勝てたのはあなた達のおかげですよ」

 

 背負った箱を置きながら轟雷は言った。

 

「やっぱり轟雷さんは憧れの人です!私、今よりもっと強くなって見せます。轟雷さんに挑戦出来る位に」

 

「私もですよ轟雷さん」

 

「レティシア、イノセンティア……、だったら選別ですよ。これ持ってってください」

 

 そう言って轟雷が置いたのは賞品の二品の箱だ。

 

「え!?これって……」

 

「これは私達への規格も共通してますから。自分の強化パーツに組み込むもよし、普通に作って経験にするも良し。作ってもっと上手くなって下さい」

 

「って!俺を無視して話を進めるんじゃない!」

 

「あうっ!」

 

 轟雷のマスターが人差し指で轟雷を小突く。

 

「ま、あぁは言ったけど、轟雷が持ってっていいって言うんだから持ってっていいよ。うちじゃプラモは轟雷の方が多く買って作ってるからね」

 

「ふ……そう言う事です。さっき言ったでしょう?バトルの時にあなた達が発破かけてくれなかったら私は負けてました。受け取る正当な理由はありますよ」

 

「轟雷さん、やっぱりあなたは私達の憧れの人です」

 

「いやーそんな」

 

「いやこんな奴に憧れたって良いことないよ。憧れるんならもっと立派な人に……」

 

「マスター!!何言ってんですか!!」

 

――そして一週間後――

 

「プラズマキャノン!発射!」

 

 バトルステージでボルトレックスの……恐竜型マシンのパーツを組み込んだレティシアがキャノン砲を放つ。相手の複数のFAGは、何機かは倒されるが、二機はどうにかかわす。レティシアの髪型で追加されたシニヨンカバーが目立つ。

 

「お願いイノセンティア!」

 

「切り裂け!!キングオブクロォォッ!!」

 

 レティシアの号令にレイブレード……ライオン型マシンのパーツを組み込まれたイノセンティアがすれ違いざまに相手のFAGを切り裂き倒した。背中の翼の様な部分が巨大なビームブレードだ。イノセンティア自身も、装備に合わせてか猫耳を付けていた。

 

「いやー一週間で大したもんだわ」

 

「轟雷お姉ちゃんもあんな風にいきなり成長するなんて思ってなかったんじゃない?」

 

「余計なライバル増えちゃったわねぇ」

 

 いつもの店内、アント姉妹がバトルを観戦しながら轟雷に言った。あれ以来、二人は覚醒した様に順調に力をつけていた。

 

「ふんだ。先輩として誇らしく思うだけですよ」

 

「轟雷さん!見てくれましたか!?私達のバトル!」

 

 と、バトルを終えたレティシアとイノセンティアの二人が轟雷に寄ってくる。

 

「二人とも、立派になりましたね」

 

「もうあれ位軽いよ」

 

「まだまだですよ。いつか轟雷さんにも挑戦しますからね」

 

「ふふん。いつでも受けて立ちますよ」

 

 と、二人は手をつなぎながら悠々と離れていった。その後ろ姿は少し前の彼女達からは想像出来ない。

 

「やっぱり……あげてよかったですよ」

 

「フフ……余裕だね轟雷……」

 

 と、今度は迅雷の方が現れた。副賞のねこぶそうを一つ抱えて。

 

「迅雷、なんですかねこぶそうを持って」

 

「君に負けて解ったことがある。……このねこぶそうはいいね……実にいい。悔しさを癒してくれたよ……。もう寝るとき充電くんの周りに置くのが常識な位さ……」

 

 ねこぶそうを抱えた迅雷はちょっと幸せそうだった。

 

「なんですか!自慢にきたんですか!」

 

「半分はそうだね」

 

「ムキー!」

 

「でもボクの野心にもまた火がついたよ……ボクも自分がメインヒロインを目指すと同時にねこぶそうの普及を目指す。共に戦おう轟雷。バン○イを下し、ボクはメインヒロインとなり、ねこぶそうの宣伝と普及を行う」

 

「迅雷!えぇ!ガ○プラを下して私達がプラモ業界の頂点に!!」

 

 ガッシと握手をする二人、レーフとライは付き合ってられないとばかりに呆れた。

 

「ねぇ、増えたけど放っておく?」

 

「放っておきなさい。ねこぶそうはともかく、どうせどっちの野心だって分不相応すぎて出来やしないわよ」

 

『レーフのバカー!!』

 

「ぐぁぁーっ!」

 

「おねぇちゃーん!!」

 

轟雷と迅雷のダブルパンチに吹っ飛ばされながら、ライはレーフに駆け寄った。……人間の作った物は人間同様、複雑で愛おしい人間模様をみせていたのであった。

 

 

伏字使ったとはいえ、実在の個人の名前を出してしまいました。もし駄目なら修正します。

ちなみにアントはオリジナルです。


 
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