オベロンのいる玉座の間までやってきました。樹の屋根があって外からは見えず、護られている場所です。若い魔導師の姿のユリアーノを見て、オベロンは顔をしかめています。
「ん?お前は…ユリアーノか!」
「若返りの桃を食べたのです。オベロン」
「ふむ、して今日はわしに何用だ?」
「弟子のナターシャが寿命を縮めてしまったようなので、妖精の粉をわけて欲しいのです…」
「十五年前にわしの作った新しい掟は知っておるかな?ユリアーノ」
「人間の為に妖精の粉を使ってはならない…」
「よくわかっておるじゃないか?掟は破る事はできん」
「そこをなんとか…。私に出来る事なら何でもしますので」
「ならん!掟は絶対だ」
「お師匠様。私、別に明日死んでも良いよ?」
ナタは淡々とした口調で言いました。その表情は死に対する恐怖を微塵も感じていないようです。
「ナターシャ、なんでそんな事を言うんだ?」
「だって私、死にたかったんだもん」
「ナターシャ!死にたいなんて言ってはいけない」
「私にはお友達なんて誰もいないの。仲良しだった妖精のお友達もいなくなっちゃったし…」
「ジョルジュやピーターがいるだろう?」
「ジョルジュやピーターの声、昔は聞こえてたんだけど、大きくなったら聞こえなくなっちゃった。私とは喋りたくないのかも?」
「違う!それはナターシャが大人になったからだよ?」
「私の周りからみんないなくなっちゃうの。アークにもフラれちゃったし、もう生きてても何も楽しい事がないよ?」
「ナターシャ様、私はフッてなどいません…」
「まさか…お前は死ぬ為にお菓子の実を食べていたのか?」
「うん、死ぬのって痛そうで怖いから、ずっと出来なくて…。でもお菓子を食べるだけなら怖くないよ?」
「お願いです。ナターシャ様!自殺しようなんて、もう考えないでください…」
「私、学校でもずっといじめに遭ってたの。みんな心配するから黙ってたけど」
アークはナタの身体を抱き締めると大粒の涙をボロボロと溢しました。
…つづく
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書き残してしまったことを書きたくて考えた本編の続き第59話です。