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「い、意外と難しいものね。そもそもこれ、こういう感じで合っているのかしら?」
「もう少しこう、力を加減したらいいんじゃないかな。ユリルは力いっぱいやり過ぎなんだよ」
ユリルに俺の世界のことを話すようになってから、夜に会う機会が増えていた。その中で、娯楽室で遊ぶこともあったんだが、ビリヤードに挑戦してみたところ、ユリルはかなり苦手みたいだった。対して俺は。
「一気に二つも入ったわ!今の狙ってやったの?」
「いや、偶然だけど、そうか、やっぱりこれぐらいの強さが一番なんだな。俺も未経験だけど、なんとなくの感覚でやってみて、それが正解だったみたいだ」
一度上手くいっただけなので、まぐれだと思っていたんだが。
「次も一発で……ね、本当にウィス、初めてなの?」
「……俺も驚いてる」
これを才能と言うのかなんなのかはわからない。でも、俺はさっきから百発百中、もっと言えば一打で二、三個のボールをポケットに収めることも少なくはなく、しかも何度やっても精度は変わらなかった。俺としては、本当に感覚的にやっているだけなのに。
「待って、ウィス。もういいわ。今度はあたしがやる」
「あ、ああ……」
「ウィスはさっき、こんな感じだったから――とぅっ!」
「ちょっ、ユリル、それはまた強すぎ……!」
キューに突かれたボールは、別のボールを弾きはしたが、その勢いが強すぎてテーブルから飛び出してしまう。……どう考えてもはりきり過ぎだ。
「ユリル。俺がまたやるから、よく見てて……」
「待って!もうウィスの力は借りないし、教えも請わないわ。あたしはあたし流にやるから」
「ユリル……?」
見ると、明らかに彼女の目は血走って……いや、目の中に炎が見えるようだった。漫画的表現でよくある、めらめらと燃えている、というやつだ。
彼女が負けず嫌いな性格だということはわかっていたけど、この屋敷に来てからその面は鳴りを潜めていた。いや、魔法の修行は自分自身との戦いだから、その気持ちが向けられる相手は常に自分自身だったんだろう。ところが今、彼女の闘争心は明らかに俺へ向けられている。
何をムキになって、と思いかけたけど、考えてもみればユリルはまだ十五歳の女の子だ。魔法学校は俺の世界における中学校に該当するみたいだから、今は高一程度の年齢。勝負事にムキになりもするだろうし、普段はかなり大人びているけど、本質的には熱くなりやすいんだろう。前にステラさんが、魔法使いの得意する魔法と、本人の気質はよく似ているものと言っていた。
だから、ユリルは熱いものを内に持っているし、防御や施錠を得意するステラさんは掴みどころがなく、本質というものを中々見せてくれないんだろう。
「弱くするなら……これぐらい、かしら」
今度は力が弱すぎたようで、キューはわずかにボールを叩くだけに終わる。――ああっ、しっかりと俺が見本を見せて、なんなら一緒にキューを握って、やり方を徹底的に教えてあげたい。でも、絶対にユリルはそれを望まないんだろう。
「それなりに力を込めて……これでしょう!」
今度はまた力を込めすぎて、ボールはテーブルを飛び出すことはしなかったものの、おかしな方向に転がっていってしまう。
「……………………」
どうやら、意外と俺は教えたがりみたいだ。今までそんな機会がなかったから、気づかなかったけど、こうしてユリルが悪戦苦闘している様を見せられると、どうにも我慢できない。
「ユリル」
「ダメ!!」
でも、頑固なユリルはそれを許してくれない。無理にやったら、ものすごく恨まれてしまいそうだ。
それからも何度もユリルは失敗して、その度に俺はやきもきさせられていた。
だけれど、彼女のそんな姿を見ることができて、少し安心できたのだった。年齢より遥かに大人だと思っていたユリルにも、年相応か、それよりもむしろ幼い部分はある。彼女はきっと、こうしてバランスを取っているんだろう。
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ただ遊んでるだけの回。かつての応募長編だったので、そりゃあこうもなります
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