No.973750

英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

soranoさん

3章開始 外伝~戦の鼓動~

2018-11-14 21:52:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2167   閲覧ユーザー数:1853

 

 

 

 

 

 

 

エレボニア帝国・東部クロイツェン州、旧公都ロンテグリフ―――――

 

~”四大名門”アルバレア侯爵家館・”当主”執務室~

 

エレボニア帝国の東部――――”クロイツェン州”。七日戦役の和解条約によって広大な領土の凡そ8割をメンフィル帝国に譲渡されたことで、僅か2割の領土を統括している”アルバレア侯爵家”の当主にして旧Ⅶ組のメンバーの一人――――ユーシス・アルバレアは端末である人物からの報告を受けていた。

 

「―――そうか。ログナー侯も欠席されるとは。”四大”から当主が出席するのは俺とそちらの家だけになりそうだな?」

 

「ああ、因果なことにね。ログナー侯も義理堅いというか不器用でいらっしゃるというか………1年半前の内戦後の謹慎をいまだ続けていらっしゃるとはな。」

 

「武闘派として兵を率いた身では慎重になるのも仕方あるまい。ましてや1年半前の内戦はレン皇女殿下とセシリア将軍閣下が考えた策によって内戦の終盤は所属は違えど、同じ領邦軍の兵達の命を奪ったからな。………1年半前の内戦で上手く立ち回ったように見えて、肝心な事には気づかずに呆気なく”戦死”した”総参謀”にも見習わせたい程の謙虚さと思うがな。」

 

「ユーシス………」

亡き兄の事を思い返しているユーシスの様子をユーシスの通信相手――――トールズ本校の卒業生で”ハイアームズ侯爵家”の三男であるパトリック・ハイアームズは心配そうな表情を浮かべた。

 

「フッ、ただの愚痴だ。ところで………”バラッド侯”とはどんな人物だ?」

 

「ハッ………噂通りの人物さ。――――ただ愚かで強欲ながら己の益には恐ろしく聡く、抜け目ない。どう会議を引っ掻き回してくれるか”世話役”として今から頭が痛くてね。」

 

「フフ………お前のお父上、ハイアームズ候がいらっしゃるなら少しは安心できるだろう。あの方ならば滅多なことで後れを取ったりはしないはずだ。」

 

「そうか………まあ父上のバランス感覚は大したものだと思うが。―――――しかし、サザ―ラントに続いて”三帝国交流会”が行われたクロスベルでも”事件”が起きている。どんな不測の事態が起こるかわからない。せいぜい君も気を付けてきたまえ。」

 

「フッ、言われるまでもない。頼みにできそうな面々の当てもあることだしな。」

 

「そういえば第Ⅱの演習とちょうど時期が重なるようだが………――――まあいい。個人的にも楽しみにさせてもらうとしよう。かつてのⅠ組のライバルの結束をね。」

ユーシスがパトリックとの通信を終えると扉がノックされた。

 

「―――ユーシス様。約束の方が見えられましたがどうされますか?」

 

「ああ、構わん。そのまま通してくれ。」

 

「はい。――どうぞ中へ。」

 

「あはは、ありがとー。」

ユーシスの許可によって扉が開かれると執事と共にミリアムが姿を現し、執事は恭しく礼をした後扉をしめた。

 

「ヤッホー!ユーシス、久しぶり~!」

 

「フッ………よく来たな、ミリアム。少し遅れたようだが。」

2年経っても相変わらず無邪気な様子のミリアムにユーシスは苦笑しながら近づいた。

 

「それが申請に戸惑っちゃってさー。なんでユーシスに会うのにいちいち許可取らなきゃならないんだか。」

 

「お前の立場からしたら当然すぎるとは思うが………」

 

「えいっ!」

自身の戸惑いに対して呆れた表情でユーシスが答えたその時ミリアムはユーシスに飛びつこうとしたが、ユーシスは身体を横に向けて回避した。

 

 

「だ、だからなんで避けるのさ―!?」

 

「いい加減に学習するがいい。お前も15歳だろう。少しは年頃の娘らしさを―――」

 

「ガーちゃん!」

 

「―――」

ユーシスがミリアムに説教をしたその時ミリアムはアガートラムをユーシスの横に呼び寄せ

 

「隙アリッ!」

 

「しま――――」

 

「ニシシ、捕まえた~!」

ユーシスがアガートラムに気を取られた瞬間、ユーシスの顔目がけて飛び掛かった。

 

「こ、こら――――離れるがいい!お前のその格好だと色々と危ないだろうが………!」

 

「まったく、髪型変えてカッコつけすぎじゃないのー?眉間のシワがこれ以上増えないようボクが和ませてあげる!」

 

「ええい、余計なお世話だ………!」

その後ユーシスはミリアムにケーキと紅茶を御馳走した。

 

 

「モグモグ、美味しー!この前アーちゃんと食べたパンケーキに負けてないかなぁ。」

 

「ふう、最近街の子らが似たように振舞ってくるが………教えたのはお前だな、ミリアム?」

 

「うん、そーだよ?ユーシスの所に来るたびになんか仲良くなっちゃってさー。良い子たちだよね、みんな!」

 

「………ああ、そうだな。(造られし存在………だからどうしたという話だな。まあこれ以上、背が伸びないかもと溜息はついていたが………)」

無邪気な様子で美味しそうにケーキと紅茶を楽しんでいるミリアムをユーシスは見守りながらミリアムの素性を改めて考えていた。

 

「んー?(モグモグ)」

 

「―――何でもない。それより結局、お前の方はどうするつもりだ?こちらの予定に変更は無しだが。」

 

「あ、うんっ!色々あったけどそれは大丈夫!ニシシ、うれしい!?ボクと一緒にバカンスに行けて!」

 

「フン、確かにバカンスと言ってもいいくらいの景勝地ではあるな。開かれるのは、脂びった思惑が入り乱れるような謝肉祭(カーニバル)だが。」

 

「あはは、うまいねユーシス!………はあ、でもやっぱり情報規制は喰らってるんだよねー。貴族関係やギルド関係、それにメンフィル関係やクロスベル関係とかあくまで限定的ではあるんだけど。」

鼻を鳴らして皮肉気に答えたユーシスの推測に無邪気に笑って答えたミリアムは溜息を吐いて困った表情を浮かべた。

 

「気にするな――――というか情報局としても当然の処置だろう。”鉄血の子供”であるお前はむしろ配慮されている方なんじゃないか?」

 

「それでもレクターくらい権限があればⅦ組や特務部隊のみんなをもうちょっと助けてあげられるんだけどな~。アリサやマキアスなんかも厳しそうだし。フィーとサラは………自分たちで何とかしちゃいそうな気がするけど。リィン達は………いざとなったら”英雄王”達がバックにいる上”ブレイサーオブブレイサー”達や”特務支援課”の人達とも親しいから、助けなんていらないだろうけど。」

 

「―――だから気にするな。お前がⅦ組の一員であり続ける方が何倍も価値があるだろう。」

 

「あ…………えへへ………もっかい抱きついてもいい?」

「却下だ。」

自分の気づかいにミリアムが嬉しそうな表情で自分を見つめて口にした提案をユーシスが断ると二人にとって聞き覚えのある音が聞こえてきた。

 

「あれっ、この音。」

「ああ、Ⅶ組関連だ。何かあったのか………?」

そしてユーシスがARCUSを起動させるとある人物の名前が出た。

 

「これって………!」

「まさか………!」

 

「久しぶりだな、ユーシス。ん………?なんだ、ミリアムもいるのか。」

「「ガイウス!?」」

ARCUSに映った人物―――――旧Ⅶ組メンバーの一人にして”ノルド高原”に住む”ノルドの民”であるガイウス・ウォーゼルを見た二人は驚きの声を上げた。

 

エレボニア西部・ラマール州、ラングドック峡谷地帯――――

 

一方その頃、エレボニア西部にある峡谷で黒い鎧の猟兵達と紫の鎧の猟兵達がぶつかり合い、その様子を崖の上から一人の”赤い星座”の猟兵――――――”閃撃”のガレスが観戦していた。

 

「………いつまで隠れているつもりだ。―――――”猟兵王”。」

「なんだ、気づいてたのかよ。」

ガレスが振り向いて呟くと物陰に隠れていたルトガーが現れてガレスに近づき、ガレスは身構えた。

 

「おいおい、閃撃の。見ての通り丸腰だぜ?警戒すんのはコッチじゃねえか?」

 

「――――失礼。だが貴方に見せる隙はない。”空の覇者”とほぼ互角の戦いを繰り広げるほどの強者たる貴方には………」

 

「ったく、何度か一緒に飲んだこともあるってのによ。………そういやぁ、俺達がハーメルを去った後に戦鬼のお嬢ちゃんがメンフィルの連中に殺られちまったんだってな。バルデルもシグムントも逝っちまって、ランドルフは抜けて最後の頼みの戦鬼のお嬢ちゃんが逝っちまった以上、”赤い星座”もさすがに”終わり”だろう?”閃撃”の、お前さんも含めて残った星座の連中もいっそ西風の旅団(俺達)の所に来て新しい猟兵団を作らねぇか?西風の旅団(俺達)も4年前の件で、赤い星座(お前さん達)のようにメンフィル帝国との戦いで仲間が相当殺られちまって、お前さん達”星座”同様俺達”旅団”も絶滅危惧種のようなものだ。同じ絶滅危惧種同士、手を組むのも面白いと思うし、お前さん達にとってもメリットはあると思うぜ。特にお前さん達星座は”オルランド”の家系が全滅してしまった今、団を維持する事も厳しいんじゃねぇのか?」

 

「………ありがたい申し出だが、我等にとっては不要な気遣いだ。………亡きシャーリィ様の………シグムント様とバルデル様の仇を討つためにも我等は必ず這い上がり、シャーリィ様達を討ったメンフィル帝国に心の奥底から後悔させる。――――それでは失礼する、猟兵王。」

ルトガーの誘いに対して静かな表情で断ったガレスは全身に黒き闘気を纏って決意の表情で答えた後目の前にある崖を跳躍して去って行った。

 

「やれやれ………どいつもこいつも”死”に急ぎやがって………”旅団”と”星座”相手に正面からぶつかり合って俺達を壊滅に追いやったメンフィル相手にリベンジを挑んだ所で、結果は同じだって言うのによ………」

ガレスが去った後溜息を吐いたルトガーは葉巻を取り出して葉巻に火をつけて一服し

「――――なあ、そう思わねぇか?」

「……………………」

不敵な笑みを浮かべて背後の岩に語り掛け、岩の物陰に隠れている人物はルトガーの問いかけに何も答えず武装を構えていた。

 

「独り言だ、構えるな。大佐―――――お前さんの親父には若い頃に世話になった事もある。こいつの銘柄も教えてくれたしな。」

 

「……………………」

 

「ま、フィーの件についてはいずれ礼をさせてもらうつもりだ。”俺達”を追い回すのもいいがせいぜい若いのを支えてやるんだな。ま、お前さんも十分若いだろうが。」

そして”独り言”を呟いたルトガーはその場から去って行った。

 

 

「ふう………参ったわね………4年前と同じじゃない。――――”大佐”か。久しぶりにその名を聞いたわね。」

ルトガーが去った後岩の物陰から姿を現した人物――――サラは溜息を吐いて苦笑した後懐かしそうな表情を浮かべた。

 

「”閃撃のガレス”にも殆ど気づかれてたようだし、ちょっとブランクを感じるわねぇ。最近じゃフィーもめきめき実力をつけてくるし、エステル達に関しては完全に追い抜かれちゃったしアラサーを実感するというか………って、あたしはまだ27!………もう少しで28だけど!あ、焦ってなんてないんだからね!」

自分の力不足を実感していたサラは自分自身に突っ込んだが、誰も答える者はいなく、そのむなしさにサラは冷や汗をかいた。

「コホン………それはともかく。――――最強の猟兵団2つに”竜”たち、そして紫の一団………正念場になりそうね―――――あたしにとっても”あの子たち”にとっても。」

そして今後の展開を予想したサラは真剣な表情で呟いた後その場から去りかけたが

「それにしても………子爵閣下とは全然タイプが違うけど。あれはあれでカッコイイオジサマねぇ♪」

立ち止まってルトガーの事を思い返してうっとりとした表情を浮かべた。

 

~エレボニア帝国某所~

 

「……………………」

一方その頃デュバリィが転移魔導具である場所に訪れ、”遺跡”と化している巨大な像を黙って見つめていた。

「――――遅くなった。」

「ふふ、いい子にしていた?」

するとその時アイネスとエンネアが転移魔導具で姿を現してデュバリィに声をかけた。

 

「遅いですわよ、二人とも。」

 

「すまぬ。――――だが”神速”であるデュバリィよりも早く到着しろというのも、少々無理があると思うのだが?」

 

「それとこれとは別問題ですわ。ただでさえ、私達はメンフィル・クロスベルの”蛇狩り”によって”執行者”や”使徒”達を狩られ続けているのですから、予定時刻よりも遅れれば”何かあった”と憶測してしまいますわよ。」

 

「………そうね。この間の”実験”ではとうとう、あの”劫焔”まで狩られてしまったとの事だものね。冗談抜きで結社も”滅び”に向かっているかもしれないわね。」

アイネスの指摘に対して反論したデュバリィの話にエンネアは静かな表情で同意した後複雑そうな表情で呟いた。

「アハハ、盟主に加えて”使徒”達までほとんど殺されちゃったこの状況で、未だ衰退しつつも勢力を保っている今の状況が”奇蹟”のようなものだものね。」

するとその時デュバリィ達にとって聞き覚えのある声が聞こえてきた後、カンパネルラが転移術によって姿を現した。

 

「貴方ですか………」

 

「久しいな、道化師殿。」

 

「ふふっ、それこそクロスベルの一件以来かしら?」

 

「フフ、そうだね。お互い大陸各地に行ってたし。これで西部の関係者は全員集合かな?」

 

「ええ。段取りを詰めておきましょう。」

そしてデュバリィ達はカンパネルラと今後の段取りについての打ち合わせをした。

 

 

「さて………と。当日の段取りはこれでよしとして………もう一度確認するけど、君達、本気で”今回の件を最後に僕達結社との縁を終わりにする”つもりなのかい?」

 

「ええ。3人で何度も話し合った末に決めた事ですわ。」

 

「我等は元々マスターに忠誠を誓っていた。そのマスターが結社から去ってしまった以上、我等が結社に留まる理由はない。」

 

「マスターの突然の結社脱退に戸惑っていた私達を2年もの間置いてくれたことには感謝しているけど………私達がお仕えするのはこの世であの方のみなのだから、あの方がいない結社にはこれ以上いられないわ。――――私達自身の為にも。それとも鉄機隊(私達)は行動の自由が認められている”執行者”ではないから、脱退は許さないとでも言うつもりかしら?」

疲れた表情で問いかけたカンパネルラの問いかけにデュバリィ達と共に決意の表情で答えたエンネアは真剣な表情でカンパネルラに問いかけた。

 

「アハハ、さすがにそんなことを言うつもりはないよ。君達に関しては”執行者”と同等の扱いをする事を、亡き盟主からも言われていたしね。それじゃあ現代の鉄騎隊の”結末”がどうなるのか、亡き”盟主”に代わり、”見届け役”である僕が見届けさせてもらうよ。」

エンネアの問いかけに対して苦笑しながら答えたカンパネルラは恭しく礼をした後転移術で去って行った。

 

「相変わらず何を考えているのかわからない人ね。」

 

「うむ。――――幾年経とうとも決して容姿が変わることがない事も含めてな。」

 

「あんな男の事等、気にするだけ無駄ですわ。――――それよりも行きますわよ。」

 

「うむ。」

 

「ええ。」

そしてデュバリィ達も転移魔導具によってその場から去って行った――――――

 

 


 
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