No.97051

それでも生きてゆきたい…(2004/02/02初出)

7年前に書いたKanonの栞メインのSSです。元ネタはその更に1年ほど前に描いた学漫です。
創作のきっかけはよく覚えていません。
が、栞ちゃんの回想シーンから思い付いたのかなと思ってます。

これが生き神少娘(ガール)の構想に繋がりました。

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2009-09-24 00:04:26 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:798   閲覧ユーザー数:789

 

 “手首ヲ切ッテシマエ。ソウスレバ楽ニナレル…”

 

 

  暗闇に包まれた部屋で、一人の少女がカッターナイフの刃を手首に当てようとしていた。

 

 

 “サア手首を切レ…。モウオ前ニハ死ヌ以外ノ選択肢ハナインダ…、栞”

 

  栞という名の少女は、悪魔の囁き(ささやき)に従い、今まさに手首を切ろうとしていた。

 その栞の瞳は生きることに疲れたのか、生気を失っていた。

 

 

 “何ヲシテイル。モウオ前ハ誕生日マデ生キラレヌノダシ、

  オ前ノ最愛ノ姉ハオ前ノコトヲ無視シテイル…。

  コレ以上生キテ何ニナル…。辛イダケダ…。サア…、手首ヲ切レ”

 

 

  その囁き通り、栞はカッターナイフの刃を左手首にあてがう。

 と、そこでふと彼女の脳裏に、昼間会ったあゆという名の

 ダッフルコートを着たたい焼きが好きな少女と、

 そんな少女をからかっていた祐一という名の少年が浮かび、カッターを握る右手が止まる。

 

 

  その時の2人のやり取りはどこにでもありそうな平凡なものだった。

 なのにその光景が何故か新鮮に見え、忘れられずにいたのだ。

 

 

  気が付けば彼女はカッターナイフを離し、涙を流していた。

 彼女の手首から血は流れていたが、大したことはなくやがて止まった。

 

 

 “もう少し生きてみよう…”

 

 

  そんな決意が彼女に芽生えかけたそのときだった。

 

 

 「クスクス…。

  ねえ…、そんなくだらないこと考えるより、

  いっそのこと死んだ方がいいと思いますよ?

  クスクス…」

 

 

 

 “誰ですか!?”

 

 

  栞はカーテンを開けてベランダの方を見回すが、誰もいない。

 

 

 「クスクス…。どこを探しているんですか?

  私ならここにいるのに…。クスクス…」

 

  その声は栞の後ろ、ドアのそばから聞こえてきた。

 恐る恐る振り返ると黒衣を羽織り、大きな鎌を持った者がいた。

 容姿から察するに若い女の様だが、白髪で黒いルージュを塗っており、

 その瞳は恐ろしいほどに冷たく感じられた。

 

 

 「あなたは…、誰ですか…?まさか…、死神…?」

 

  こみ上げてくる恐怖を懸命にこらえながら、

 冷たい笑みを浮かべている死神らしき者に訊ねた。

 

 

 「残念ながら半分間違っておりますよ…。

  私は…、そう、死神の遣いとでも名乗っておきましょうか?クスクス」

 

 「死神の…、遣い…?」

 

 「そう…」

 

 

 「そのあなたが一体何しにここに来たんですか?

  私に…、何の用ですか?」

 

  恐怖から大声を上げることは出来なかった。が、負けまいと

 そばにあったカッターナイフを死神の遣いに向けて、必死に抵抗を試みる栞。

 

 「まあ、落ち着いてくださいな…。そんなすぐに命を奪うことはしませんから…。

  まずはそのカッターナイフを離しなさい」

 

 「嫌です。あなたこそ私をその鎌で殺すつもりなんでしょ?

  死神の遣いさん。ねえ、どうなんですか?」

 

 

 「やれやれ…。まだ私のことを疑っていらっしゃる様ですね…。

  いいでしょう…。私の話を聞けばあなたの考えも変わるでしょう…」

 

 

  そう言って、死神の遣いは栞のベッドに腰掛けた。

 

 

 

 

 

 「まず死神の遣いである私の役目は生きることに疲れていながらも、

  死ぬことへの不安を抱いている者に対して

  何の躊躇いもなく死という選択肢を取れる様にその者達に囁く(ささやく)こと…。

 

  そう…、まさにあなたの様な方に自殺するキッカケを与える為にね…、

  あなたの元にうかがった…。そう言う訳ですよ…。

  クスクス…」

 

 

  自分を自殺させる為にここに来た。そのことに栞は驚愕(きょうがく)しつつも、

 いくらか余裕が出来たのか、すぐに死神の遣いをにらみ付ける。

 

 「あなたは何が言いたいんですか?何がしたいんですか?」

 

 「簡単なことですよ…」

 

  死神の遣いは冷たい笑みを浮かべたまま話を続ける。

 

 

 「あなたは生まれつき体が弱い。そのせいで今まで入退院を繰り返してきた。

  そして、高校に入学してからわずか1日で倒れ、入院生活を余儀なくされた。

  そして、誕生日まで生きてられぬという宣告をあなたの最愛の姉から受け、

  それからすれ違いの寂しい日々を送っていた。

  その中であなたは誰かとの出会い、そして何らかの変化を期待し続けていた。

  先ほどあなたは自殺を試みたものの、先ほど会った2人のことが頭に浮かび、

  結果としてそれが自殺を思い留まらせた…。

  まあ私的には残念でなりませんでしたがね。

 

  しかし、この際ハッキリと申し上げておきましょうか…」

 

 

  死神の遣いはベッドから立ち上がり、説教の口調で

 

 「恐怖や孤独、そして病魔といった苦痛との闘いの中で

  現世に期待を抱くよりは、今この世を去って

  来世に期待する方がより賢明な判断と言えるでしょう…!」

 

  その表情には先ほどの様な笑みはなかった。

 

 「わ…、私に今死ねと言ってるんですか?

  私が死んだらどうするつもりなんですか?」

 

  取り乱したい気持ちを必死にこらえつつ、栞は死神の遣いにやっとの思いで聞いた。

 

 

 「その点についてはご心配ありません。

  あなたの魂は天国、極楽浄土といった場所にまではさすがに行きませんが、

  少なくとも苦痛のない世界に連れて行くことは約束いたします。

  それもまた死神の遣いである私の役目でもありますし…。見なさい」

 

  死神の遣いの掌からポウッと何やら火の玉らしいものが浮かんできた。

 

 「これは先ほど自殺した者達の魂ですが、どうですか?」

 

 「どうって…?」

 

 「うめき声が聞こえますか?そんなことはない。

  むしろキッカケを与えた私への感謝、そして苦痛のない世界への希望でいっぱいです」

 

 「確かに…」

 

 「これでお分かりになったでしょう…?私はあなたの為に現れたんですよ。

  苦しみながら生きなければならないあなたの為に…。

 

  ここまで説明すればもう十分でしょう。さあ、今すぐに死を選びなさい」

 

 

 

 

 

  まやかしなんかではない。そう感じ取った栞は

 再びカッターナイフを手首にあてがおうとした。

 

 

  しかし、死を選ぶことがプラスになるのか、生きることがマイナスになるのか?

 そんな疑問が浮かんできた。

 

 

  先ほど会った二人のやり取りがどうしても忘れられず、それが自殺を思い留まらせた。

 だとしたら生きていてもきっと何かあるんじゃないか?

 

 

 「どうなされたのです?」

 

 「死神の遣いさん。せっかくですけど…」

 

  カッターナイフをしまって、死神の遣いをまっすぐな瞳でにらみ付ける。

 

 

 「私は自殺するつもりなんてありません!

  最期の最期まで諦めずに生きてやりますよ!」

 

 

 「な!!?」

 

 

  栞の生きるという宣言に、表情をほとんど

 変えることのなかった死神の遣いは初めて驚愕の表情を浮かべた。

 

 

 「何と愚かなことを!?ここまで説明しておきながら、

  それでもまだ現世に期待を抱くとは…!」

 

 「確かにあなたの話は悪くありません。ですが、

  私はあなたが思っているほど不幸だとは思ってませんし、

  今逃げたところで幸せになれるとも思ってませんから…」

 

 「なるほど…。つまりあなたは死ではなく、

  生と言う選択肢をお取りになるつもりですね…!?よく分かりました」

 

 

  死神の遣いは栞が死ぬ気がないと知るや否や、ベランダの窓を開け、

 

 「そうと分かれば、こんなところでの長居は無用ですね。お邪魔しました」

 

 「もう引き上げつもりなんですか?

  死神の遣いという割には諦めが早いんですね?」

 

 「死ぬ気のない者をいくら説得したところで時間のムダなだけですから…。

  まあ、あなたの朗報を期待しておりますよ。では」

 

  死神の遣いはベランダから外に出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふう」

 

  ベランダからそのまま屋根の上に移った死神の遣いには

 先ほどの栞の反対が残念でならず、

 

 「やれやれ、全く残念です…」

 

  雪積もる夜景を眺めながらため息混じりに呟いた。

 

 「本当は彼女を殺してでも無理矢理連れて行きたかったのですが、

  我々死神の遣い共はそれすら禁じられておりますしね…。

 

  まあ、良いでしょう…」

 

  再び笑みを浮かべ、

 

 

 「精々苦しむだけ苦しんでその挙句に、寂しくお亡くなりになりなさい!

  フフフ…、アハハハハハハハハハハハハ…!!」

 

 

  死神の遣いは高らかな笑いをあげて、夜の闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  一方、栞は先ほどの死神の遣いの囁きが未だに気になっており、

 時計の針が2時を回っていても眠れずにいた。

 

 (さっき死神の遣いという女の人の目の前で、思わず強がってみましたけど…、

  本当のところ私は一体どうなってしまうのでしょうか…?)

 

  不安になり、気を紛らわすべくベランダに出てみる。

 外の気温が病気の体に少々応えたものの、栞にとっては丁度良かった。

 

 

 (私はあの人が言った通りに自殺するべきだったでしょうか?)

 

  生きていくことへの不安は更に募っていった。が、

 

 

 (違う!そんなことはありません!)

 

  不安を打ち消すべく、頭を思い切り横に振る。

 

 (たとえそうなることが分かっていたとしても…、

  それしか残された道がなかったとしても…、それでも…。

  それでも私は生きたい…!残された時間を…、

  精一杯…、精一杯生きてゆきたい…!

  だから…、昼間会った祐一という人に、もう一度会ってみよう…。

  確かお姉ちゃんの学校の制服を着ていたから、そこで会えるかもしれない…。

  そこからの新しい何かを信じて…!)

いかがでしたでしょうか?

しかし久々に読み返してみると、ここに出る死神の遣いは

ただ単にゴタクを並べてるだけで何もしてないな~…(汗)。

 


 
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