「はぁぁぁぁぁ!」
銀髪を長い三つ編みにした褐色の肌の少女・楽進は足に込めた氣弾を城壁を登る敵に打ち込む!
「猛虎蹴撃!」
凄まじい爆発音と共に悲鳴をあげながら敵兵が吹き飛ばされていく。向こう側の城壁では夏候淵が素早く正確な弓術で敵兵を射落としていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
日も沈み、敵兵は攻撃をやめて包囲に戻ったが楽進の体力は限界に達していた。夏候淵が援軍を率いて駆けつけてくれたが、それでも数の上で籠城策を取らざるを得なかった。さらに彼女らは夏候淵が来る2ヶ月前から籠城しており、すでに部隊の疲労も限界に達していたのだ。
作戦本部になっている建物に戻った楽進は、疲労の為に椅子に座りこんだ。
「凪ぃ~元気だしぃ。もうすぐ援軍も来るはずやから」
彼女の真名を呼んで元気づけるのは親友である李典、真名を真桜である。
「しかし・・・洛陽の漢軍本隊に出したのだろう?ただの義勇軍などに援軍を出してくれるのか?」
「その辺については問題ないのー」
訝しげに李典を見る楽進の疑問に答えたのは于禁。真名を沙和という彼女も李典と同じく楽進の親友である。
「最近就任した大将軍さんはとっても有能な人で、庶民にも気軽に接する人だってもっぱらの噂なのー」
「しかし噂は噂だ」
「いや」
新たに作戦本部に入ってきたのは援軍の将・夏候淵だった。
「織田殿は粗暴だが、頼まれた事は断らぬ御仁だ。必ず来るだろう」
何か確信したような夏候淵の発言だった。
舞人率いる織田軍は、義勇軍が籠城する街が見下ろせる丘の上に軍を展開していた。総大将の舞人に率いる兵は―――
「まさか5千しか集まらぬとはな・・・」
「悔やんでも仕方ねぇよ、華雄。緊急の召集だったからこれだけ集まったとしても良しとしなきゃな・・・」
現在の織田軍は張遼隊2千、華雄隊2千5百、本隊5百とかなりの少数の兵で構成されていた。緊急の出陣となった為、兵がそろわずこの数しか集まらなかったのだ。
「閣下、どうしましょう?後発してくる相国様の援軍を待ちますか?それとも荊州方面の指揮を執る皇甫嵩将軍に援軍を請いますか?」
相変わらず名前が覚えられない副官が意見してくる。確かに月や皇甫嵩の援軍を待って攻城軍を破った方が安全ではある。
「けど、それを待ってたら籠城軍が耐えられんで・・・」
舞人が懸念していた事を霞が代弁した。敵軍は3万余。籠城軍は4千。ここまで落城しなかった方が奇跡という兵力差・・・大軍を率いるリスクの一つに『すばやく移動できない』がここで痛手となっているのだ。
「それじゃ突撃するか」
「ちょっと厠にいってくる」というような気軽さで舞人は断を下した。
「おう!さすがは舞人、話が分かる!」
舞人の断に喜んだのは華雄、慌てたのは副官だ。
「か、閣下!考え直してください!少数の我が軍で敵軍に突入するなど無謀です!」
慌てまくる副官の肩にポンと霞が手を乗せる。彼女の顔には諦めと戦える喜びが浮かんでいた。
「ま、諦めや。やけど安心しい。舞人は勝てん戦はせん人やから」
「張遼将軍~・・・楽しんでますね・・・」
「ははっ、まーな!」
月は天に上り、地上を明るく照らす。舞人はただ一騎、陣を離れて敵陣を遠巻きに眺めていた。
「ふん・・・」
さらに馬を進め、包囲陣を一周。
(水を漏らさぬ布陣ってやつか。さてさて何処から攻めたものかね・・・)
冀州での大敗を教訓にしたのか、指揮官がそこそこ有能なのか、夜襲に備えて歩哨が多く立ち夜襲に備えている。
自陣に戻った舞人は就寝前の兵に卯の刻(午前5時~7時くらい)に攻撃開始する事を通達し、それまでに起きて準備をしておくよう命じて眠りにつかせた。
月が沈み、太陽が昇り始めた頃、黄巾党軍の歩哨に立つ兵の一人はほっと一息ついた。
「ふぁ~・・・ったく奇襲なんかありゃしねぇじゃねぇか」
夜通し監視していたが、丘の上に布陣した敵軍は攻めてきやしない。
「・・・・ん?」
彼がすっかり気を抜いていた頃、地響きが鳴り響き―――
「て、敵襲ー!」
「明け方、敵の歩哨の気が抜けてきたところを襲う」
それが舞人の下した決断だった。先陣は華雄と張遼に定め、ただひたすらに城門を目指す。
「邪魔だ、貴様ら!雑魚はこの華雄の前に立つな!」
華雄の金剛爆斧が敵兵の頭を叩き割り―――
「お前らにこの神速の張遼が止められるかい!」
霞の飛竜偃月刀が翻って敵の首を飛ばし、彼女の部隊は敵陣を蹂躙する。先を行く彼女らの活躍を苦笑しながら舞人も愛刀を振るい、愛馬・舞月を彼女達に続けさせる。
敵陣を縦に切り裂いた織田軍は城門の前に辿り着き、霞が大声を上げて名乗った。
「ウチは董卓軍の将・張文遠や!救援に駆け付けたで!開けてくれへんか!?」
しばらくすると、城門が開いて織田軍を中に招き入れた。
城内に入った舞人たちを迎えたのは銀髪を三つ編みにした褐色の肌の少女と見覚えのある水色の髪の女性だった。
「織田殿」
「夏候淵殿か、久しいな」
舞人はひらりと馬から降りて、夏候淵と固く握手をする。舞人はさらに華雄と霞を彼女らに紹介し、夏候淵を彼女たちに紹介した。
「そうだ、織田殿。この娘達が大梁義勇軍を率いる楽進・李典・于禁だ」
「それじゃこの娘達がこの町を守備してたって訳か・・・」
舞人は感心して少女達を見下ろしていたが、彼女達は戸惑った様に舞人を見上げていた。
「夏候淵様、こちらの方は・・・?」
楽進が代表して夏候淵に質問した。それに彼女は「おや?」といった感じの顔を向け、
「ああ、お前たちは知らないのか・・・こちらは漢の大将軍・織田舞人殿だ」
『・・・』
目をそろって点にする3人。そして、
『えぇ~!』
3人は信じがたい事実に絶叫した。
「う、嘘やろ夏候淵様!こんな目つき悪い兄ちゃんが漢の大将軍なんて、なんかの冗談としかおもえへんわ!」
「ま、真桜!無礼だぞ!」
「李典、これは事実だ。彼が漢の大将軍だ」
「でも、なんだかカッコいいのー」
漢字で女が3人集まれば『姦しい』となるが、4人いればもっとうるさくなるなぁと舞人は頬を引きつらせながら思った。
「てめぇら好き勝手にぬかしやがって・・・」
「まぁまぁ、落ち着きぃ舞人。それよりも敵軍が退いていくで」
霞がブチ切れそうな舞人の肩を叩いて宥める。
「敵が退いた、か・・・追うぞ!」
「おう!」
「はいよ!」
「わかりました」
「え?は、はいっ」
威勢良く返事したのは華雄と霞。やれやれと言った感じで返事したのは夏候淵。夏候淵に続いて焦ったように続いたのは典韋。ちなみに副官氏は肩を落として溜息をついている。言っても無駄だと分かったらしい。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
副官の代わりに待ったをかけたのは楽進だった。
「我が軍はもとより織田様の軍はここまでの行軍でお疲れのはず。敵軍は荊州方面に逃げているようですから、その方面の軍に一任すればいいのでは・・・」
「楽進」
舞人はスタスタと彼女に近寄り、手の平をピタリと彼女の額に当てた。
「お、織田様!?」
いきなりの事に狼狽する楽進を無視して、舞人は―――
「あっ・・・」
楽進の体に氣を送り込んだ。太陽の暖かな光を浴びたような心地よさが彼女の身体を、神経を、血管を駆け巡る。
「どうだ?」
「・・・疲れが、取れたように感じます」
確かに彼女は防衛戦で氣を大量に消費し、疲労の色が濃くなっていたのは事実。しかし彼女はそれを親友である2人と夏候淵、典韋以外にはさらした事はなかったし、悟られていない自信があった。しかしこの青年は会ってすぐに気がついたのだ。
「疲れはとれたな?それじゃ行くぞ。ちなみにこれは命令だから背くなよ?」
大将軍・織田舞人率いる軍は彼を先陣に撤退する敵軍を猛追し、敵軍の殿を補足すると大将軍自ら切り込んでいった。世に自ら敵陣に切り込む大将軍など何人いただろうか?それも彼は蛮勇ではなく勝算を持って切り込んでいるのだ。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
「た、助け―――ぎゃぁぁぁぁ!」
「あの赤毛は織田だ!冀州の本隊を焼き殺した織田舞人だぞ!」
恐怖した敵兵の叫びがさらに恐怖を呼び、混乱が混乱を巻き起こした。山道を撤退する敵兵は谷に落され、林の中に逃げ込んでいった。
「もうこの辺でいいだろ。お前ら!勝鬨を上げろ!」
『オォォォォォォォォ!』
籠城や強行軍の疲労を忘れて自軍の勝利を天へと叫ぶ兵たち。その中心にいたのは深紅の髪をなびかせる青年だった―――
(すごい・・・)
楽進は大きな黒馬に騎乗する、炎のような印象をまさに『見せつける』青年に目を奪われていた。
(世の中にはあんな人がいるのか)
「な~ぎっ」
「わっ!」
楽進の背をポンッと叩いたのは李典。彼女の顔にはニヤニヤとした笑みが浮かんでいる。
「なんやなんや?あの兄さんに惚れたんか、凪?」
「な、なんだと!?そ、そんな訳無いだろう!?」
「そんな真っ赤な顔して否定しても全然説得力無いのー♪」
さらにそんな彼女を茶化すのは于禁。さらに典韋が手を組んで瞳をキラキラさせている。
「わー♪楽進さん、それって一目惚れですよ~♪」
「そ、そんな・・・」
年下の典韋の無垢な瞳に射抜かれて、楽進は反論の言葉もしおしおと凋んで顔を俯むけた。
(た、確かに胸がドキドキするし・・・これが恋なんだろうか・・・)
「ところでいいのか?真名まで教えてくれて・・・」
「えぇ。舞人殿は私たちの命の恩人。これくらいの礼はせねば私は主君曹操に首を刎ねられてしまいます」
舞人たちは夏候淵―――秋蘭たち全員と真名を交換し合った。最も舞人は真名が無いので下の名前で呼ぶようお願いしただけだが。
「流琉、飯ありがとな」
「いえ!お口にあったならうれしいです!」
「そういえばウチらあの時昼飯食ってなかったんよなぁ。晩飯は陣中で食ったけど」
舞人たちは料理が得意だという流琉の昼食を食べて、洛陽に帰還する事にしていたのだ。
「それじゃまた会おうぜ」
「さらばだ」
「ほなな~!」
手を振りながら去っていく3人を見送って、秋蘭は凪たちに向き直った。
「もうすぐ華琳様の軍も到着する。我々も帰ろうか」
凪たち3人も曹操に仕える事になったのだ。まだ正式採用ではなかったが彼女らなら主君に気に入ってもらえると秋蘭は確信していた。
彼女らが舞人と再会するのはしばらくの月日を必要とする。その再会の時、歴史は再び動くことになるのだが、神ならぬ彼女らにそれは知る由はない・・・
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第8弾、私が魏で1・2を争うくらい好きな凪と秋蘭の登場です!
・・・そろそろ呉の人々を出さなきゃなぁ