崖下に視線を向けると、観光客で夜も賑わうアテネの街が広がっていた。色とりどりの明かりに包まれた街はまるで星屑のように瞬いて美しい。エーゲ海には夜間に出航する船の灯火が点滅している。聖戦が終結した今、何もかもが平和で穏やかだった。
「特に何にもないみたいですね。」
落ちついたムウの言葉に、サガは軽く頷いた。二人が歩くたびに暗い足下で砂利が小さな音を立てた。
今夜、ムウはシオン教皇の命令で「ある建物」を調べるように言われて来ていた。聖域から遠く離れた岩山の中腹、そこに古びた修道院が建っている。玄関部分の外壁は所々レンガが崩れ落ち、雑草が中の礼拝堂まで入り込んでいて、現在は完全に廃墟と化していた。無人となってから長い年月が経ち、建物に続く山道も荒れてしまっている。少々厄介な高い場所ということもあり、地元の住民もまず近づくことがない。古代ギリシャの遺跡と同じように、この修道院もこのまま自然に朽ち果てていく事だろう。
2週間ほど前。たまたま真夜中にバルコニーに出た教皇シオンは、この修道院に初めて異変を感じた。建物の中で小さな光が数回点滅して消えたのだ。それもほんの一瞬の出来事で、しかも相当小さな光だったので、普通の人間には到底気づけないだろう。しかし、シオンの目は確実にその僅かな一瞬を捕らえていた。気になった彼は、その日から同じ時間にバルコニーに出て観察していたが、数日何も起こらなかったのでやれやれと安心しかけた。ところが、ちょうど一週間後にあたる昨夜も光が現れたので、シオンはついに偵察させる事にしたのだ。たかが廃墟の調査に黄金聖闘士を指名する必要はなかったのだが、高齢による見間違いだと噂されたら後が気まずいので、ここは気遣いの必要ない愛弟子のムウを向かわせる事にした。
指定の時間にムウは白羊宮を出発し、岩山へテレポートできる地点に向かっていた。そこへ突然サガが現れたのだ。真夜中にも関わらず闇の中から現れたサガに、ムウは不覚にも驚きを隠せなかった。「寝つけなくて散歩をしていた」と言うサガに任務の話をすると、彼にしては珍しく興味を持ったようで、結局一緒に廃墟へ向かう事となった。
「これ以上の探索は必要ない。私が見ても大丈夫だ。シオン教皇も取り越し苦労だったな。」
「貴方まで来ることなかったのに。」
「気にしないでくれ。私は勝手についてきただけだ。」
サガは笑顔を見せた。聖戦後に復活してからのサガはとても穏やかで、少年の頃のような優しい雰囲気を取り戻していた。
「では、帰りましょう。私はこのままシオン教皇に報告に行きます。起きて待っているとおっしゃっていたので。」
「ありがとう……頼んだよ。」
建物を振り返ることなく、二人は聖域方面へと姿を消した。
「そうか、特に異変はないか……」
執務室でムウから報告を受けたシオンは少し不服そうに頷いた。自分は確かに見たのだ…幻を見るほど衰えていないはずなのだが…そう自負があったが、愛弟子がそういうならば仕方ない。ここで食い下がるとまるで老人が若者に喧嘩を売るようなみっともない状況になりそうだったので、シオンはぐっと言葉を押さえ込んだ。
「わかった、夜間ご苦労であった。下がってよい。」
ムウは一礼して立ち上がった。そのまま執務室の扉へ向かっていたが、ふと足を止めてシオンの方へ振り返った。
「そういえば、行く前にサガに会いました。」
「こんな真夜中にか?」
「はい。話をしたら一緒に行くと言うので…」
「そうか。命令もないのに珍しいな。」
「私も不思議に思いました。しかし、好奇心でぜひ行きたいと。どこかサガらしくないように思いましたが。」
「ふむ………」
ムウの言葉にシオンも頷いた。シオンは顎に軽く手を当てて考え事をしている。
「何か変わった様子は?」
「いえ、特に何もないのですが………ただ……」
ムウは少し言いにくそうに視線を逸らし、ふふっと小さな笑いを洩らした。
「失礼しました……変な言い方になりますが………同性の私から見ても、彼は以前より綺麗になったような気がします。」
翌日、シオンは珍しくコロッセオの様子を見に出かけた。清々しい青空の下、血気盛んな少年たちの声が響いている。ここ十数年、聖域にやってくる者たちは有望な若者が多い。聖戦での大活躍が見られたあの青銅聖闘士たち然り、アテナの聖闘士たちが時代を追うごとに強くなっていくのは誠に喜ばしい事だ。修行に励む若者たちの側に今日の指導役であるアイオロスとサガが並んで立っている。訓練の妨げにならないよう、シオンはなるべく距離をとってサガの様子を見ていた。
「…サガ……確かに以前と違うようだな…」
ムウの言う通りかもしれない。観察すればするほど、確かに彼は美しくなったと感じられる。聖闘士としての肉体美という意味ではなく、文字通り「女性的」という意味で。青みを帯びる銀髪も、今までより淡く優しい色合いに見える。これだけ強いギリシャの日差しを受けていてもその素肌はハッとするほど雪のように白い。腰のあたりが妙に色っぽくくびれており、たたずまいも優美で完璧なギリシャ彫像のようである。時折、サガと笑顔を交わすアイオロスもどこかウキウキとして嬉しそうだ。復活した彼らの間にはもう何のわだかまりもない。
28年前……側近の従者たちが妙な噂をシオンのもとへ持ち込んできた。ロドリオ村の住民が不思議な赤子の兄弟を保護しているという。双子の母親は臨月を迎えた身体でなぜか聖域を目指していた。しかし途中で力尽き、村で出産した後に亡くなった。住民たちは貧しいながらも皆で双子を育てるつもりだったが、双子が微弱ながらも光を放っていたため、これを怖れて聖域に助けを求めて来たのだという。
話を聞くなり、ただちにシオンはこの双子を引き取った。収穫用の藁かごの中で1つの毛布にくるまり、双子は噂通り黄金色の光を放っていた。シオンの顔を見るなり、二人は天使のような笑顔を見せてはしゃいだ。さらに双子が聖域に入ると同時に、今まで双児宮で沈黙を守っていた双子座の聖衣もすぐに共鳴し始めた。まだ赤子ながらも二人の持つ天性の小宇宙は「聖域の至宝」とも言うべき強大さで、未来の黄金聖闘士に相応しい。シオンは養父として双子に惜しみない愛情を注ぎ、直々に彼らを育てた。翌年には神童と名高いアイオロスも誕生し、これもまたシオンを喜ばせた。彼らは間違いなく「聖域の三巨頭」となるだろう。新しい世代の黄金聖闘士たちに期待し、何もかもうまくいくと信じていた…………あの日までは。
シオンはしばらく黙ってサガを見ていたが、若者たちが小休止に入ったのを見ると、静かにその場を離れた。
その日を境に、修道院の光は現れなくなった。
火時計が0時を示す位置を過ぎた頃、双児宮の入り口にサガが現れた。真っ黒なローブをまとい、一度立ち止まると周囲を用心深く観察している。月は雲の向こうへ隠れ、十二宮は水を打ったように静かだ。彼は深い闇に包まれた石段を足早に降りていった。
それから数分後…聖域から遠く離れた高い岩山の頂上にサガは立っていた。フードの奥からのぞく碧の瞳は、アテネの街明かりを越えて、遥か彼方・アッティカ半島の尖端を見つめていた。そこはポセイドン神殿の遺跡が建つスニオン岬である。サガは姿勢をそちらの方角に向けたまま、そっと両手を胸のあたりで合わせるようなポーズをとった。途端に両手の真ん中でパシッと丸い光が放たれた。それは一瞬だったが、目も眩むような小宇宙の光だ。その合図に応えるように、すぐにスニオン岬の方角でも同じようにフラッシュが確認できた。光の合図が交わされた直後、サガの目の前の空間に歪みが起こり、彼と同じ格好をした人影が現れた。二人は互いにフードをとって笑顔を交わした。
「3週間ぶりだな、サガ。」
「カノン……会いたかった……」
すがりつくサガの腰をしっかりと抱き止め、カノンはもう片方の手でサガの顎を掴み深く唇を重ねた。サガは切な気に瞼を閉じ、弟の抱擁に完全に身を預けている。美しい双子の恋人たちを穏やかな夜風が包んでいた。カノンはサガと唇を合わせたまま、今度は両腕で彼の身体を強く抱きしめた。カノンと会う夜、サガは必ず沐浴をしてから約束の場所に来る。身体に残る優しい石鹸の香りがカノンの鼻をくすぐった。しっとりとローブが温かな肌にまとわりつき、サガの身体のラインがはっきりと感じられ、その下は薄衣一枚である事もすぐにわかる。
「従者たちにしつこく飲みに誘われてな…断るのに手間がかかったよ。」
カノンの言葉にサガは微笑んだ。指先でカノンの頬を優しく撫で、その頬を包みこみ、今度はサガの方からカノンと唇を合わせた。憂いの似合うサガらしい穏やかな口づけだ。
「さあ、いつもの部屋へ行こう……」
互いの額と両手を合わせ、二人はテレポートしようとした。
「なるほど、合図の場所を変えたというわけか。」
突然響いた声に二人は驚愕して振り返った。他に誰もいなかったはずの頂上にもう1つの人影があった。闇の中から現れたシオンは、いつになく厳しい表情で双子を見つめている。
「ムウと一緒に建物を見に行ったのは、あれこれ余計な詮索されるのを阻止したかったからか? あの廃墟がお前たちの逢い引きの場所だったとは……」
咄嗟にサガは前に進み出てカノンを守るように後ろへ隠した。
「私が誘ったのです。弟は…カノンは私の命令に従っただけで……!」
「お前たちが考えている以上に、事はもっと重大なのだ。」
慌てて何とかこの場を納めようとしているサガをシオンは睨みつけている。
「やめろサガ、この方にそういうのは通用しない。」
サガの肩を掴み、カノンも自ら進み出た。その視線はシオンと強く合わされている。お互い一歩も譲らず、これから一戦交えるかのような雰囲気だ。観念したサガは項垂れたままシオンの前に片膝をつき、カノンもまた同じように並んだが、その目はうつむきながらも挑戦的なままだった。
やはり…彼らは以前と様子が違う。それぞれ明らかに変化している……
これほど間近に二人揃った姿を見るのは久しぶりだ。がっくりと気落ちしたサガの姿態は、最強を謳われる黄金聖闘士としての彼の印象からはかけ離れている。瞼を閉じ、長い睫毛を震わせる様は美しくたおやかな女性のそれと見紛うばかりだ。反して、サガと同じ顔のはずのカノンから受ける印象はまったく違う。彼はもともと気が強い性格だったが、今はその意志の強さに凛々しい青年の色香が加わり、堂々たる態度でシオンと対峙している。どちらもそれぞれに神々しく魅惑的だ。彼らは兄弟でありながら「男女一対」を示すような変化を遂げている。しかし、今のシオンには、この二人の変化こそ「怖れ」を感じる一番の要因だった。
「28年の歳月を経て、一度は命まで落としたというのに……それでもなお、お前たちはあの神託から逃れられないというのか……」
シオンは目の前の二人を悲しげに見つめた。
双子が2歳になった頃だった。執務室の絨毯の上で楽しげにじゃれあう二人をシオンはデスクから眺めていた。今はまだ幼いが、彼らにはいずれ聖闘士候補生として厳しい訓練の日々が待っている。本来ならば、他の候補生と区別するような扱いは慎むべきだろう。しかし直々に引き取ったせいもあって、シオンはその愛しさを誤魔化す事ができず、特別に二人を執務室で遊ばせていた。彼らは生まれながらにして容姿端麗だった。成長する度にきっと周囲を騒がせる美青年となるだろう。聖域の英雄となり、年頃の娘たちに追われ、公私共に幸せな人生を送るだろう……
そんな未来に想いをはせていると、執務室のドアがノックされた。訪れたのは聖域の神官たちだった。入るなり、彼らの視線はすぐに双子に向けられた。
「急用とは珍しい。何かあったのか?」
シオンの呼びかけに神官たちは一瞬口ごもったが、その中でも最長老の男が前に進み出て、強い口調で進言した。
「シオン教皇、聖域にとって非常に困難な禍の卦が出ております。」
「どういう意味だ? 私が見る限り、星の動きにまだ異常はないはずだが?」
「いえ、禍の源はこの子たちなのです。」
長老は双子を力強く指差すときっぱりと言い放った。途端にシオンの眉間に深い溝が走った。
「訳を説明せよ!」
思いがけない言葉に、返すシオンの声は怒りに震えた。まだ若い神官たちは恐れをなしたが、長老だけは怯まなかった。
「シオン教皇、貴方様がこの双子をこよなく愛されている事はよく知っております。今はまだよろしい。しかし、この双子は成長と共に、お互い強く引かれ会う宿命を背負っております。」
「………それがどうした?………兄弟愛がそれほど危惧しなければならぬ事か?」
「ただの兄弟愛ではございません。この双子は間違いなく双子座の黄金聖闘士を継ぐ者。そしてご承知の通り、双子座の祖神ディオスクロイは、女神アテナと同じゼウスの御子でございます。いつの日にか二人は必ずや一心同体となり、アテナと同格の神力をもって聖域に君臨する事となりましょう。」
シオンの額に汗が滲んだ。
「……おわかりでしょう。一心同体になった双子は女神を脅かしかねない存在になるのです。聖域は女神アテナの支配される地。二柱の神が同時に存在する事はできません。強すぎる力はいずれ聖域の災いに……また、強すぎる力ほど悪霊にも魅了されやすい。」
「………私に…私にどうしろと言うのだ?」
長老はローブの中から黄金の短剣を取り出した。途端に神官たち全員がシオンの前に平伏し、絨毯に額を擦り付けるほど頭を下げた。長老は震える両手に短剣を乗せてシオンに差し出し、絞り出すように苦しげな声で叫んだ。
「…シオン教皇!どうか、聖域のために……女神のために………今のうちにこの者たちを……!」
「黙れ!!……それ以上口を開く事は許さん!!!」
「お二人が駄目ならば、いずれかお一人を」
「黙れと言ったのだ。もう何も聞きたくない。」
目の前で交わされる激しいやり取りに、今まで遊んでいたサガとカノンがじっと神官たちを見つめている。エメラルドの大きな瞳はどこまでも澄んでいた。その純粋な輝きの中に、彼らを待つ哀しい宿命など一片も感じられない。身を切るような事実を突きつけられ、シオンの目に涙が浮かんだ。
「あの日から、私は神官たちと対立する状態になった。どんな宿命が待っていようとも、お前たちを信じていたかったのだ。ところが……神託があったにも関わらず、成長するごとにお前たちは反目し合い、一心同体になるどころか完全に決別していた。あの時は本当に不可解だったよ。その後は内乱があり、聖戦も起こり、私も一度は命を落としたが、復活後もお前たちが神託通りに動く素振りはまったく見られなかった。私はどこか安心していたのだ……」
うつむいたままのサガとカノンに近づき、シオンもまた身を屈めた。
「………いつからこのような事に?」
「……………聖戦が終わってすぐに。再会した瞬間から私たちはお互いが強く引かれあっている事に気づいたのです。廃墟の奥に修道士の部屋を見つけ、コンタクトを取ってそこで会うようになりました。」
小さな声で答えるサガの頬に涙が伝った。カノンは黙って一点を見つめている。
「カノン、お前がスニオン岬での監視を自ら申し出たのは、聖域を離れる事で私の目を欺くためか?」
「いいえ、それは違います。海皇軍の監視は自らが過去に犯した罪を忘れないため。それ以上の作為はありません。」
カノンはシオンの目を見据えて、はっきりとした口調で答えた。紳士的で何の曇りもない言葉だった。
「………確かに、私たちは声を聞きました……初めてそういう瞬間を迎えた時に、不思議な声を。」
涙を流していたサガも、今は真実を伝えようと真剣な眼差しでシオンを見ている。
「……願いはすべて叶うと。神としての力がついに覚醒したのだと……はっきりと声が聞こえました。だから、私とカノンは願ったのです。私たちの望みは唯一つ。互いを愛し、守り合うこと……支配ではなく、愛し合うことを。自らの意思で願ったのです。」
「シオン教皇、私たち兄弟に謀反の気持ちはありません。それでも、過去の罪のためにこの心を疑われるようでしたら、今ここで裁きを受けます。サガと共に。」
二人はシオンに対して頭を下げた。神の子である双子の潔い姿を見て、シオンは幼かった頃の純真無垢な二人を思い出した。
ああ、彼らには邪心などない。サガに取り憑いた悪霊は完全に去り、カノンも改心した。二人とも女神のために闘い、その比類なき力を発揮して平和のために命をかけた。あの聖戦での行動が彼らのすべてを物語っている。彼らは同じ父を持つ双子神として、姉であるアテナを守ったのだ。それに、今の彼らを繋ぐのは宿命でない。間違いなく「愛」によって結ばれている。女神が大切にされている、この世で最も尊い力……愛によって結ばれた彼らに対して何の杞憂があるだろうか?
シオンは深く呼吸し、黙って立ち上がった。
「あの時、神官たちと対立した私の行動は間違っていなかったのだな。」
二人はハッとした顔でシオンを見た。シオンは先程までとは真逆の、優しい笑みを浮かべていた。
「シオン教皇……」
「せっかく再会したというのに遅くなってしまったな。明日、二人に休暇を与えよう。この話はこれでもう終わりだ。」
そう言い残し、シオンは闇の中に溶け込むように消えていった。
ステンドグラスの窓から朝日が差し込み、つながれた二人の手を虹色に染めていた。整ったばかりの呼吸で互いの名前を呼び、頬を擦り合わせる。
「カノン……きて…カノン……」
サガの甘く切ない声に、カノンはすぐに深い抱擁で応えた。口づけを繰り返し、虹色の光の中で二人は再び愛を交わした。
シオンと別れた後、二人はいつもの部屋にテレポートした。それからは言葉もなく互いを求め、途中からはもう何度目か覚えていないほど愛し合った。僅かに色合いの違うシルバーブルーの長い髪がからみあい、真っ白なシーツに大きく広がる。
「ずっと……ずっとこの時が続いてほしい……」
「俺はそのつもりだけどね。」
掠れた声で囁くサガに、カノンは悪戯っぽい笑みを見せた。二人は額を合わせてクスクスと笑った。
「カノン……」
「どうした?」
「一眠りしたら、海に行かないか?……誰もいない……静かな浜に……」
「ああ、いいよ。風呂入るより楽しいしな。ラッコみたいにお前を腹に乗せて泳ぐよ。」
笑いながらカノンは片方の肘をついてサガの横に寝転がった。もう一方の手は常にサガの身体に優しく触れ、労うようにさすっている。
「それから街へ行って……食事をして……新しい部屋を探そう。」
サガの言葉にカノンは目を丸くした。
「お前にしては積極的だな。部屋か…ちょっとびっくりしたよ。」
「ちゃんとした部屋を借りたいんだ。小さくてもいいから。」
「そうだな、ここはいつ崩れるかわからんし。いいよ、それも見に行こう。」
サガは嬉しそうにカノンの首筋に両腕を回した。
「サガ……愛しているよ。生まれる前からずっと。この先も永遠に。」
「カノンを信じてる……ずっと側にいてくれ……カノン……愛している……」
幸せを約束する温かな抱擁。愛し合うたびに、二人は互いの中に美しい光を見る。
「この光は、世界を支配するための神力じゃない……この光こそ、愛する心そのものなんだ……神話の時代、双子神が権力よりも永遠の絆を選んだように……」
二人はそう確信していた。
「サガ、食事はどこの店にする?……サガ……」
いつの間にかサガはスヤスヤと寝息を立てていた。カノンは微笑むと、サガの頬にそっと唇で触れ、静かに寄り添って瞼を閉じた。
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相思相愛のカノサガです。出生について妄想してます。けっこうメルヘンチックだと思ってます。