No.954254

アリア

朝凪空也さん

祥子さんお誕生日おめでとうございます!

私もお祝いをお贈りしたい!という気持ちと、青江さんにこの曲を歌ってほしい!!という欲望から生まれた小話。


続きを表示

2018-05-29 17:36:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:421   閲覧ユーザー数:421

“Lascia ch’io pianga

 

mia cruda sorte,

e che sospiri la liberta`.

Il duolo infranga queste ritorte

 

de’ miei martiri sol per pieta`.”

 

 

 遠征先はすでに夜半であった。各々が野営をし明日に備えて眠っていた。

 

薬研藤四郎は喉の渇きを覚え、水を飲もうと起きだした。するとどこから微かに低く澄んだ歌声が響いてくる。声に導かれるように近づいていくと、予想していた通り、にっかり青江が倒木に腰掛けて歌っていた。彼はこちらに気がついていたようで、薬研が口を開く前に声を掛けてきた。

 

「やあ、薬研。起こしてしまったかな。」

 

「いや。水を飲むのに起きただけだ。」

 

そう言って薬研は自然青江の隣に腰掛けた。

 

「あんたが歌を歌うなんざ珍しいな。」

 

「そうかな。そうかもしれないね。」

 

「外つ国の歌か?何と言ってるかはわからんが、優しい歌だな。」

 

「ふふ、そう聞こえたかい。でもね、囚われのお姫様の、悲しい歌なんだよ。」

 

青江はそう言ったきり黙り込んだ。

 

「なんだってこんな所で歌なんて。眠れねえのか。」

 

薬研が尋ねると、たっぷりとした沈黙の後、青江は答えた。

 

「……君にだから白状するけれど、少し感傷的な気分になってしまってね。」

 

そして小さな声で付け加えた。

 

「この辺りには、悲しい霊が多い。」

 

そう言って再び黙り込んだ彼の骨ばった薄い肩に、薬研はその小さな頭をもたせ掛け、そっと目を閉じた。

 

「もう一度、聞かせてくれ。そうすりゃよく眠れる。」

 

青江は柔らかく微笑んで再びゆっくりと歌い出した。

 

 

『私を泣かせてください

 

残酷な運命に

 

溜息をつかせてください

 

失われた自由に

 

悲しみの鎖を解くのは

 

憐れみだけ』

 

 

 

 

 

出典:ヘンデル作曲『私を泣かせてください』


 

 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する