宿屋の朝食が振舞われるラウンジでふくれっ面のナタが怒り心頭に達していました。
「おじさん!どうして昨日の晩は帰って来なかったの?ナタ、ずっとひとりぼっちでさみしかったんだからね」
「朝っぱらから、あんまり大きな声で騒ぐんじゃない!他の宿泊客が聞いたらビックリするだろう?」
「ナタ、ずっと待ってたのに…。いつまで経っても帰って来ないから寝ちゃった…」
「そう言えば、魔法の勉強は進んでるのか?」
「ちゃんと勉強したよ?ヒーリングの回復力を五段階まで上げられるようになったから、かすり傷から骨折みたいな大怪我まで治せるようになったの!」
「そっか!よく頑張ったな」
ゲイザーはナタの頭をなでてやりました。ナタは満面の笑みを浮かべています。ラウンジでビュッフェ形式の朝食をトレーに盛り付けて、ゲイザーがカウンター席に持って行くと、ナタとフラウもゲイザーの両脇に腰掛けました。
「シスターはサラダだけですか?それでは腹が持たないでしょう?」
「私は神に仕える身ですから、肉や魚など命ある者を食してはいけないのです」
「シスターは大変ですね。私は肉や魚を食べないと耐えられそうもありません」
「今の私はもう神に仕える者とは呼べないかもしれませんが…」
ゲイザーがふとナタの方に目をやると、甘い物ばかりトレーに盛り付けていました。
「ナターシャ、野菜も食べなさい。ほら、私のを半分あげるから…」
「お師匠様と同じ事言わないで!ナタはこれが食べたいの」
「そんな風にデザートばかり食べてたら、ブヨブヨに太るぞ?」
「えーっ、それは嫌だ!」
ナタはデザートを食べるのをやめて、サラダをモリモリ食べています。宿屋の支払いを済ませると街の外まで歩いて、ナタにルーシーを召喚させました。ルーシーは三人を背に乗せて大空に羽ばたきます。
「おじさん、今日はどこに行くの?」
「獣人の国・マルヴェールに行ってみようと思ってる。シスター、案内を頼みます」
「マルヴェールに行くのは気が進みません…」
「確かあなたと血の契約を交わしたのは、マルヴェール国王フォン様という方でしたよね?」
「フォン様の事は私も苦手なので、お会いしたくありません…」
「シスターはフォン様から求婚されていらっしゃるのでしたよね?」
「その件は丁重にお断りしました…」
「マルヴェール次期女王になれるかもしれないのになぜです?」
「私には国を治める度量はありません…」
「あなたなら良い女王になれると思いますが、その気がないなら仕方ないですね…」
「私は普通の家庭を持って、普通の暮らしがしたいのです」
「あなたなら良い奥さんになれそうです。あなたを妻に出来る人は幸せ者でしょうね…」
「教会の運営資金を出してくださってるスポンサーからも、しつこく求愛を受けていたのですが、ずっと断り続けていました」
「スポンサーとは誰の事です?」
「スポンサーはエディ君のお父様の事ですね」
「エディ?あの子は貴族の息子だったのか…」
「エディ君のお母様は早くにご病気でお亡くなりになっていて、エディ君も幼い頃から病気を患っていたのですが、私の調合した薬で元気になりました」
「なるほど、それであのエディと言う少年は、シスターの事を尊敬していたのか…」
「私の薬でも治らない場合は獣人になるかどうか尋ねました。獣人になった場合、どうなるかも詳しく説明して…」
「よく騎士団にタレコミされませんでしたね」
「血の契約の話は信仰心の厚い者にだけ教えていましたからね。皆、口が固いのです。藁をもすがる気持ちで、助けを求めて来た者たちでした」
ナタが二人の会話に割って入ります。
「おじさんが言ってた辺りまで来たよ?」
「そろそろ地上に降りるとするか…」
ルーシーは森の中にある拓けた場所に降り立ちました。
…つづく
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
昔、書いていたオリジナル小説の第14話です。