No.951614

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝第5話

小次郎さん

生を全うした一刀。
見送る華琳に去就する想いは。

2018-05-08 00:05:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7976   閲覧ユーザー数:5775

火の力が弱まってきて、悲しみの声も小さくなってきたわね。

最後の貴方の願いを私達は叶える。

空に溶け込んで行く煙と共に貴方も世界の一部と為って行く、・・空に、大地に、空気にと。

そして、心も。

・・いつでも私達と共にいると。

 

一刀。

・・私達は、私は貴方に出会えて本当に幸せだったわ。

 

 

・・そう、かつて全てを憎んだ私達は。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝 第5話

 

 

本当に、本当にこんな方法しかないの?

全然納得出来ないっ、戦が無くなって民は平和に暮らしているのに、生活は大変だけど泣いてはいないのに!

・・どうして再び戦を起こそうと考えるのっ!

どうしようも無いほどに昂ぶる気持ちを抑えられない。

目の前にある多くの人の名が連なってある書状。

中身は様々な嘆願が書かれていて、私に決断を求めてる。

曰く、荊州は元劉表殿の領土だから同じ劉姓である私が治めるべき。

曰く、涼州は元馬騰殿の領土だから客将の立場となってる翠さんが治めるべきで、所属である蜀のものと。

同じ様に幽州も冀州も、魏国から返還を求めろって。

「朱里ちゃん、雛里ちゃん!どうして二人がこんなのを私に持ってくるの?全然分からないよ!」

「・・桃香様、これが蜀に住む者達の本心なのです」

「す、すべてとは申しませんが、臣下の殆んどの者が同意しております」

「そんな」

署名者を見直す、そこには確かに載っている、私の知る人達の名前が。

「それと、こちらの書状も御覧下さい」

差し出された書状は二通。

「か、漢王室と、呉国からのものです」

中身は同じで、華琳さんの国を恐れての協力要請。

どうして、漢王室も呉もウチと同じで魏から多大な援助を受けてるのに、それも無償に近い形なのに。

・・唯一の救いは、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、星ちゃん、紫苑さんの名が入っていない事。

「朱里ちゃん達はどう考えてるの?」

二人の名も入っていない、だったら一緒に皆を諌めてくれると思った私の気持ちは返って来る言葉で奈落に落とされる。

「・・桃香様、最早止められないんです」

元々余所者の私に従っていたのは華琳さん、魏国を恐れての臣従が大半。

二年前の戦では敗れたけど大きな損失を受けた訳ではなく、むしろ譲歩させて独立を勝ち取ったようなもの。

そんな弱気な国なら強気で攻めれば必ず勝てる。

「え、益州の人達は大陸の戦火を傍観し続けていた者ばかりです。実際二年前の戦でも最前線で戦って居た者は殆んどが共に益州に来た者達でした」

だから戦の、魏国の恐ろしさを理解出来ていない。

そして発展し栄華を謳歌している魏国が妬ましい。

「だったら私達も、もっと頑張って国を発展させたらいいじゃない!」

「・・益州は元は流刑地とされてた地です。ですが天嶮に守られますので力を蓄えるには最適で、だからこそ戦時中に私も桃香様へお薦めしました」

かつて漢帝国の劉邦のように。

「ど、どれほど頑張りましても逆に天嶮が災いして、小国の規模を超える事が出来ないのを皆さん分かっているのです」

だから劉邦も一度出てしまえば戻る事は無かった、似通った地である漢中から。

「申し訳ありません、桃香様」

・・この国の人達にとって、私は何だったんだろう。

戦をしないだけで満足していた私は期待外れだったのかな。

もう、この流れは止まらない事だけは分かってしまった。

だから愛紗ちゃん達も何も言わなかったんだね。

どんなに意に沿わなくても、私は王としての決断を下すことになるから。

 

 

雪蓮お姉様から王を継ぎ二年、何時かこの時が来るとは思っていた。

「冥琳、蜀は応じると思う?」

「おそらくは。益州・交州だけの国など如何に発展しようと知れたものです、他の領土は垂涎ものでしょう」

「そう、此方の準備はどうなの」

「雪蓮を大将に軍容は整っております、速やかに長江を渡り合肥城を陥とす事と為るでしょう」

漢が洛陽で蜂起し、蜀が漢中への侵攻、私達呉が合肥への攻撃。

そして連合軍での荊州北部攻略。

曹操の魏が幾ら強大でも対応に苦慮するはず、その内に魏国の不穏分子たちも動き出す。

領土の広さは利だけじゃ無い。

先の戦で祭や多くの将兵を失い、屈辱とも言える温情での沙汰。

これを素直に喜べるほど私達の想いは軽く無いわ、今こそ誇りを取り戻すのよ。

「蓮華様、お気持ちは分かりますが先ずは外交での交渉です」

「悠長な話ね、魏が認める訳ないでしょう」

「それでもです、万民の認める大義が必要ですから」

大義、ね。

・・いいわ、開戦の機を合わせるにも使えるでしょ。

必ず、必ず勝って見せるわ。

「後の政務は任せるわ。思春、少し剣の稽古に付き合って」

「はっ」

思春と鍛練で汗を流していると、珍しく思春の方から私に問いかけてきた。

「蓮華様、本当によろしいのですか?」

「・・今更よ。反対していた冥琳や穏も最終的には賛同したし、豪族達に後二十年耐えろなんて土台無理な話だったのよ」

私達呉国が領土としている揚州は広大で幾らでも発展の余地があり、二十年内政に専念すれば魏国に負けない国力を持てるが二人の論。

・・敗戦後の私達は必死に働いて、荒れていた領土はどうにか以前の姿を取り戻しつつあった。

少し余裕が出来始めた頃に噴出してきた魏国への報復。

それは瞬く間に広がり、遂には豪族達が挙って私に焚き付けてきた。

正直なところ私の心は揺れていた。

亡くなった祭や将兵の仇を討ちたい気持ちと、戦などせず国を強く大きくする事こそが祭たちに報いる事だと。

でも漢や蜀が動こうとする以上、天秤は大きく傾いてしまう。

雪蓮お姉様に相談しても、私の思うようにしたらいいと。

私は決断し、以降弱気な考えは一切捨てている。

今は勝つ事だけを考える、私は孫呉の王、孫仲謀なのだから。

 

 

一刀、貴方が天の国に帰ってから、もう、二年が経つのね。

私達も最近は貴方の事を口に出せるように為ってきたわ、時が少しずつ心を癒してくれている。

それでも朝に泣きはらした顔を見せる娘が途切れる事は無いけど。

私も時に顔を出さない日がある、本当に許しがたいわね。

さっさと帰ってきなさい、今なら去勢で許してあげるわ。

さて、魏領も戦乱の傷は癒えてきているし、いよいよ本格的に治世の始まりね。

山積されている報告書に目を通して、・・・どういう事かしら。

呉と蜀との交渉の報告書に不可解な文が記されていたわ。

荊州に涼州の譲渡?

理由が過剰に載っているけど感情論のみで真っ当な理が全く無いわ。

どうにも要領を得ないので担当の者を呼び出し事態を述べさせる。

ありのままを説明させるけど、理解するには頭も心も追い付かない始末。

真意をはっきりさせるよう指示する以外は出来なかったわ。

その後も交渉の報告は届くけど混迷は広がる一方で、遂には向こうが席を立ったとの事。

理解出来ない、一体劉備や孫権は何を考えているの?

私が二人に真意を問う文を出そうと思った時、桂花と稟、それに風が入室してきたわ。

三人の表情は硬く、いい知らせではないのを察する。

「・・華琳様、ご報告すべき事が御座います」

 

 

何じゃ、魏国の本城じゃと聞いておったのに質素な造りじゃな。

妾なら豪華絢爛に皆を驚かせるものにしてやるぞ。

うむ、やはり妾こそが皇帝に為るべきだったの、裏切った孫策が全て悪いのじゃ。

「七乃、孫権や劉備たちが魏を攻めようとしておるのは間違いないのか?」

「ええ、間違いありません。密告して褒美を貰っちゃいましょう♪」

「うむうむ、蜂蜜を沢山貰うのじゃ」

「いいですねえ。でもそれなら美羽様、いっそ城を貰って国を創っちゃいませんか?」

「おお、それは良い考えなのじゃ!」

妾たちの持って来た情報は飛び切りじゃ、其れ位は当然じゃの。

そうこう話している内に曹操たちが現れたのじゃが、・・な、何なのじゃ、この空気の重さは。

「袁術、何をしに来たの」

ぴい!こ、怖いのじゃ、も、漏れそうなのじゃ。

あの時の孫策みたいに殺気が出ている訳ではないのに、ずっとずっとずっと怖いのじゃ!

「ご、呉と蜀が密かに兵を集めてます。そ、その事を伝えようと思ってきました」

七乃が代わりに言ってくれたが、こんな余裕の無い七乃は始めて見るのじゃ。

「・・詳しく話しなさい」

「は、はい」

七乃の言葉を書記官が記していき、七乃も知る限りの事を全て話す。

「情報提供に感謝するわ、望みの褒美を言いなさい」

「いえいえ褒美なんて、魏での居住を許していただければ・・」

「・・いいわ、好きにしなさい」

城から出てようやく一息つき、七乃に先程の遣り取りについて質問するのじゃ。

「あんな雰囲気で城が欲しいなんて言える訳無いじゃないですか」

それはそうじゃ。

「魏でこれからは住むのかの?」

「はい、それが一番いいです」

「じゃが、これから魏では戦が起こるのじゃぞ?」

「戦?いいえ、美羽様。戦なんて起こりませんよ」

「は?どういう事じゃ、七乃?」

「そう、・・戦なんかじゃありません」

 

「・・・これから起こるのは、一方的な殺戮です」

 

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あとがき

小次郎です。

短めですが区切りがいいので投稿させていただきました。

今回からの話は外伝というよりは異伝が正しいかもしれません。

何話続くかは明言できませんが頑張って書こうと思います。

ご感想やご支援、読んでいただける事にお礼を申し上げます。


 
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