水ようかんを売っているお店へ行って水ようかんを買おうとすると、先着で三十名までにしか売らないというような横柄なことを言っていたので、僕はなんとしてでも僕の分も売ってもらいたいと思い、そこをなんとかと言って水ようかん売りの店主にお願いをすると、店主はお店に付いている蛇口を指差して、その蛇口から出てくる水ようかんだったら持って行ってもいいよというようなことを言う。そんな蛇口から水ようかんが出てくるわけはないじゃないかと思いながら蛇口をひねると果たして水ようかんが出た。そんな、松山空港のポンジュースの出てくる蛇口じゃないんだから、高松空港のうどんだしの出てくる蛇口じゃないんだから、と思いながら紙コップに水ようかんを受けて、菓子楊枝でぷすっと刺して口に運ぶと確かにそれは水ようかんで、甘くて透明でかすかに飴色をしている僕の求めていた水ようかんだった。
なぜ、蛇口から水ようかんが? と尋ねると、水ようかん売りの店主は「人類は蛇口からあらゆるものを出したい欲望があるんだ」と語った。
「人類は蛇口からあらゆるものを出したい、それこそポンジュースやうどんだしをはじめとして、カレー、シチュー、ワイン、ビール、あらゆる液体、あらゆる半液体、それらすべてのものを蛇口から出すことで、人類はやっと救われるんだ」と店主は熱弁した。僕は分ったような分らないような、いやちっとも分らないような気持ちになって、そうなんですか、たいしたものですねと言って、紙コップに受けた水ようかんをちびちびと食べた。
外からは風鈴の音が聞こえていて、僕はもうすぐ五月になるなあと思いながら水ようかん売りの店先の固いベンチに座っていつまでも水ようかんをつまんでいた。
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オリジナル小説です