「・・・・・・・・・・・・」
ルイズは着の身着のままベッドで横になり、天井をボーッと見つめていた。
昨日からの濃密な出来事や、部屋に戻ったとき、待っていたワルドから『明日、結婚式を挙げよう』と告げられたことなど、考えないといけないことがありすぎて、彼女の脳が悲鳴を上げていた。
「・・・・・・着替えなきゃ」
数十分後、ルイズは自分が制服のままだということに気づいた。
部屋着に着替えるため、身体を起こす。
コンコン
見計らったようなタイミングで、戸を叩く音が聞こえた。
「誰?」
『メイドのシリカと申します。お休みのところ申し訳ございません』
「何かよう?」
『お嬢様のお身体をお拭きするようにという皇太子殿下からの申し付けにより、参りました。入ってもよろしいでしょうか?』
「殿下が・・・・・・、ええ。入っても構わないわ」
『失礼いたします』
ルイズが許可を出すと、数人のメイドが部屋の中に入ってくる。ルイズが見守る中、メイドたちは持っていたものをテーブルにセッティングし、ルイズに一礼する。
そして、一人を残して部屋を出ていった。
「大使様、こちらに」
「ええ」
ルイズは頷くと、ベッドから起き上がりメイドに近づき、用意されていた椅子に座る。
「まずはお召し物を脱がさせていただきます」
「お願い」
メイドはルイズに一礼すると、制服の上着や下着を脱がし、裸にする。それから、ぬるま湯に浸したタオルで丁寧にルイズの身体を拭いていく。
ルイズは、気持ちよさそうに目を細める。それと同時にオーバーヒートぎみだった頭がスッキリし、影武者ウェールズが言っていた『常に自分の心に問いかけなさい』という言葉を思い出していた。また、幼い頃よりぼんやりと想像していた、ワルドとの結婚が実現するというのに、あんまり喜んでいない自分に気がつく。
(結婚を望んでいない・・・・・・? そうよ。まだ、魔法をろくに出来もしない私が結婚なんて・・・・・・、いえ、ワルドは魔法ができない自分をあざ笑ったりはしない。それは分かってる。なら、なぜ・・・・・・?)
ルイズはメイドに身体を拭かれながら、影武者ウェールズの言葉通りに自分の心に問いかけていく。
ワルドとの結婚を喜んでいない理由を考える。自分が未熟だというのは、言い訳でしかないこともうすうす感じていた。
すると、不意にラ・ロシェールの『女神の杵』亭での『結婚するわ』という発言を、才人の前で言ったことを思いだした。
(どうして私はあんなことを口にしたのかしら・・・・・・、いいえ、答えは分かってる。才人に止めてほしかったからだ。でも、どうして・・・・・・? ま、まさか・・・・・・、いいえ、そんなはずはない。だって、相手は平民で使い魔・・・・・・)
ルイズは自分のわずかな恋心に触れて赤面する。しかし、その恋心を貴族としてのプライドが邪魔をし、ルイズは否定してしまう。
「お嬢様。何か粗相がありましたでしょうか?」
「い、いいえ。なんでもないわ。続けてちょうだい」
「はい。かしこまりました」
メイドの言葉に我に返ったルイズは、顔をふって冷静を装って笑みをつくる。メイドはルイズが何かを隠していると気づいてはいたが、それを見なかったことにして自分の役割を全うする。
「ありがとう。気持ち良かったわ」
「喜んでもらえたようで何よりでございます。それでは私はこれで」
「ええ」
身体全部を拭き終え、部屋着の着替えを手伝ったメイドは、ルイズのお礼に一礼すると、部屋を出ていった。ルイズは椅子から立ち上がると、明日に備えてベッドにもぐりこんだ。
(ワルドには悪いけれど、明日の結婚式は断りましょう)
身体を拭いてもらっている間に、じっくり自分の心に問いかけたルイズは、才人に対しての自分の心を確かめようという気持ちになっていた。そのため、ワルドとは結婚できないという結論に達していた。
明日、ワルドにそのことを伝えようと考えて、ルイズは才人がいないことに少しだけ寂しさを覚えながら眠りについたのだった。
***********
太陽がもうすぐ出てくる時刻。
俺は本物のウェールズに保険の“ラリホー”をかけてさらに睡眠の深度をあげると、使えることを“思い出した”ある特技の実験を行うため、神竜に戻った。
〔分身〕
まずは特技“分身”により、自分とそっくりな分身体を1体出現させる。
「モシャスができるか確かめてくれ」
「了解。〔モシャス〕」
分身体が“モシャス”の呪文を唱える。すると、目の前で分身体が、ウェールズの姿に変身する。
どうやら、分身体でも呪文は使えるらしい。これならば、ある作戦を実行できる。
≪どうやら上手くいったようだな≫
「ああ。そのようだね」
≪あと、もう一つの実験をしたいんだが、大丈夫か?≫
「大丈夫さ。どんな実験だい?」
≪モシャスの呪文で変身している時に、俺の呪文や特技ができるかどうかだ。できそうか?≫
「うーん・・・・・・」
ウェールズ(分身体)は顎をさすりながら天井を見つめる。
「駄目みたいだね。頭に浮かんでくるのは、ウェールズの呪文ばかりだよ」
≪そうか。やはり駄目か。できたら、“しんだふり”ができたんだが・・・・・・≫
「残念だったね。まぁ、僕が倒されても、君にはダメージが来ないのだから、できなくても大丈夫だと思うよ?」
肩を落とす俺にウェールズ(分身体)は苦笑の表情で肩をすくめる。
確かに分身体のHPが0になっても、本体の俺に影響はない。
だが、心情的には避けたいという気持ちもあるのは確かだ。
俺は腕を組んで顔をあげて考え込む。
≪・・・・・・仕方がない。プランBで行こう≫
「了解。見事な死に様を見せてあげるよ」
≪いやいや。俺は見ないし。ギーシュ達の無事を見届けないといけないからな≫
「そういえば、そうだったね」
俺とウェールズ(分身体)は、小さく笑い合う。
原作ではルイズは結婚を拒むが、原作通りにいくかは分からない。
だが、どっちになろうが、俺のやることは変わらない。
ギーシュを無事にトリステインに返らせるということだ。
≪まぁ、ルイズ達も心配だからな。もう1体分身体をつくるか≫
「そうだね。何かあれば、もう1体の僕が何とかしてくれるかもね」
俺はウェールズ(分身体)に頷くと、特技“分身”を行い、もう1体の分身体を出現させる。
分身体は“ドラゴラム”を唱えて、人間の姿テリーになる。
コンコン。
その時、ドアを叩く音がする。
俺とテリー(分身体)はすぐに“レオムル”の呪文を唱えて姿を消す。そして、ウェールズ(分身体)が声をかけた。
「誰だい?」
「パリーでございます。殿下。入ってもよろしいでしょか」
「ああ。いいよ」
ウェールズ(分身体)の承諾をとって、メイジのパリーが一礼して入ってきた。用件を訊ねると、パリーは直立のまま、応える。
「『イーグル』号および『マリー・ガラント』号の準備が整いました。非戦闘員を乗せ次第出港できる状態です」
「分かった。時間になったら非戦闘員を乗せて出港させなさい」
「かしこまりました。また、礼拝堂の準備が出来ております。いつでも結婚式が執り行える状態です」
「ご苦労。ワルド子爵と大使殿にも時間になったら礼拝堂に来るように伝えてくれ」
「かしこまりました」
パリーは一礼すると、回れ右して部屋を出ていった。
(作戦開始まであと30分。無事にトリステインに帰れるように頑張ってみるか・・・・・・。いや、俺が頑張っても意味がないか・・・・・・、才人。男を見せろよ~)
才人の行動に期待しつつ、俺は二人にルイズや才人のことを任せる旨を伝えてから、ギーシュのところに向かったのだった。
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死神のうっかりミスによって死亡した主人公。
その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。
第二十八話、始まります。
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