No.94682

恋姫無双 袁術ルート 第二十六話 最強の籠城戦 

こんばんわ、ファンネルです。

随分と時がたってしまいましたが更新です。

最後まで見て行ってくれると嬉しいです。

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2009-09-10 18:06:17 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:22272   閲覧ユーザー数:17373

第二十六話 最強の籠城戦

 

 

一刀は虎牢関へと到着した。当然のことながら、恋やねね、霞は驚いた。

 

「ちょっ!!一刀、あんたなんでこんな所に来とんねん!!」

「………ご主人さま。ここ、危ない。」

 

汜水関を守っていた霞の無事な姿を見て一刀はホッとしていた。ホッとしている最中、ねねがとび蹴りをくらわせてきた。

 

「ぐは!」

 

一刀は地面を転げまわるかのようにのたまった。

 

「こら、馬鹿チ●コ!ねねたちの邪魔をしに来たんですか!」

「ち、ちがうよ……俺も戦いに来たんだよ……」

 

一刀は腹部を抑えながら言った。第三者が見ても痛そうに見えるが、ねねは一刀の発言に激昂し、さらに蹴りの追撃をした。

 

「何言ってやがるんですか!お前が来たってただの足手まといにしかならないです!さっさと洛陽に帰りやがれです!」

「……一刀、ここはメチャ危険なんやで。悪いことは言わん。ねねの言うとおり、洛陽に戻りい。」

 

ねねも一刀を心配しての言葉だった。霞もその事を知っているからねねの言葉に賛成していた。恋もただ頷くばかりだった。

 

「いやだ。俺は絶対にここに残るぞ!」

 

それでも一刀はねねたちの言葉を聞かなかった。当然のようにねねは顔を真っ赤にしながら怒っている。

 

「チ●コ!いい加減にしろです!」

「分かってくれ、ねね!」

 

二人の会話は平行線をたどっていた。一刀はここに残りたい。ねねたちは一刀をここにいさせたくない。両者とも純粋な思いだった。

 

「ねね、お前だって気付いているはずだぞ!」

「な、何がですか!?」

 

ねねは一刀をどうしても帰らせたかった。だが、一刀が言わんとする事を瞬時に理解してしまった自分がここにいる。だから、思わずとぼけたふりをしている。そんなねねの気持ちを知らず、一刀は言葉を続ける。

 

「ねね。お前だって本当は気付いているんだろ?俺がここに残ったほうが良いって。」

 

ねねは一刀の言いたい事を理解していた。だが、それを認めたくなかった。ねねは一刀の話を理解していたが、霞と恋は望外の外であった。二人には一刀とねねの話が分かっていなかったようだ。

 

「ちょい待ち。一刀、どうしてあんたが残らなきゃあらへんのや?」

 

霞はねねに訪ねたが、ねねは何も喋らない。一刀は詠たちからもらってきた書簡を霞たちに見せた。

 

「理由はここに全部書いてあるよ。」

 

霞は詠たちの書簡を見たとき愕然とした。自分たちの君主である一刀を戦場に送った詠たちの冷徹な策略に。同時に霞は許せなかった。一刀を戦場に送った詠たちに対してではない。自分たちの不甲斐無さで一刀を戦場に来させてしまった事が許せなかったのだ。

 

 

「………すまん、一刀。」

 

霞は一刀に頭を下げた。自分たちのせいで一刀を巻き込んでしまった。普段、おちゃけている霞だが、この時だけは神妙になっていた。

 

「気にしないでよ。これは俺が決めた事でもあるんだから。」

 

一刀は霞がどうして誤っているのか分っていた。その上で気にするなと言っている。

 

「それで、ねね。」

 

一刀はねねの方を見て、言った。

 

「詠たちだって認めてくれているんだ。分かってくれるよな?」

 

ここで一刀は詠たちの名前を出す。当然、ねねは反対など出来るはずがなかった。北郷軍が誇る軍師たちの策であるならばそれに意を唱えることなど出来るはずがない。

 

「………分かった!分りましたです!。せいぜい邪魔にならないよう後ろに下がっているなら、許してやるです!」

「ああ、ありがとう。」

 

ねねは憎まれ口を叩くが、それは一刀を心配しての言葉であった。恋も霞もその事を分かっていたために思わず苦笑してしまうほどであった。

 

 

一刀が虎牢関に到着してから、ねねは一刀が虎牢関にいる事を連合に流した。当然連合の動きが変わった。おそらく本気で向かってくるのだろう。

 

「……華雄、大丈夫かな?」

「だいじょうぶやろ。あいつは結構しぶといねん。一刀が言う通り、雪蓮が裏切っていないなら孫策たちが何とかするやろ?」

「……そうだね。」

 

一刀たちは陣形を整えつつある連合を前に、華雄の心配をしていた。一刀はみんなに雪蓮たちの事を話した。その時のみんなの反応は詠たちと同じだった。中でも霞の怒りようはなかった。無理もないだろう。華雄がやられた所を直に見てしまったのだから。それでも一刀は皆を説得した。雪蓮は裏切っていないと。根拠なんかないが信じると。みんなは一刀の性格を知っている。こんな風に言うなら一刀は考えを改めることはないだろう。そして彼女たちは不満を残しつつ、一刀の言い分を理解してくれていたのだ。

 

 

「ま、今は孫策の事なんか関係ないねん。見てみい。敵さんの旗を。」

 

霞は一刀に敵陣を見させた。

 

「敵さんは何と袁紹と曹操の軍や。敵さんはいったい何を考えとるんねえ?」

 

霞は苦笑しながら皮肉を口にする。それもそのはずだろう。曹操軍はともかく、袁紹はこの連合の大将だ。大将自ら前線に出る。普通はあり得ないことである。つまりそこから見出せる結論はこちらがかなりなめられているということだ。

 

「別にいいんじゃないかな?その方がこっちにとっても良いし。」

「それもそうやね。」

 

一刀は袁紹の事より曹操軍の動きの方が気になっていた。一刀は一度曹操にあっている。その時の印象は忘れたことはなかった。よく考えてみればこの連合ももしかしたら曹操が裏で手を引いていたのかもしれない。そう思えて仕方がない。

 

 

敵がこちらに向けて軍を侵攻し始めた。いよいよ戦いが始まる。だが、こちらの軍の士気は高いとは言えなかった。無理もないだろう。時間稼ぎとはいえ、この戦いは間違いなく負け戦みたいなものだ。誰だって傷つくのは怖い。

 

恐怖は人に伝染する。一刀は怖い思いを内に無理やりしまいこんだ。その途中、ねねがやってきた。

 

「チ●コ!もうすぐ戦いが始まるです。君主らしく兵たちに何か言葉をかけてやるのです。」

「……え?言葉?」

「そうです!こんな士気では戦えるものも戦えないです!」

「そ、そんな事言っても……」

 

ねねは士気が下がっている兵たちを指導者らしく鼓舞しろと言っているのだ。一刀は兵たちの方を見た。一糸乱れぬ列を並び、屈強な面構えをした兵たちだが、やはり恐怖心だけは拭い去ることはできないようだった。

 

「一刀、ガツンと言ってやり!」

「………ご主人さま、頑張って。」

 

霞も恋も一刀を励ましている。一刀は兵たちの前にきた。兵たちは少し驚き、『御使い様?』『御使い様だ!』と口にしている。騒然となっているのを霞が止め、一刀に言葉をせかせた。

 

「……ゴッホン!……ええと……」

 

辺りはシーンと静まりかえっている。みんな一刀の言葉を待っているのだ。

 

「あのさ……これから戦うんだけど、戦うってとても怖いことなんだと思う。」

 

一刀はこんな大勢の前で演説なんかしたことはない。だけど、これは自分にしか出来ない事だ。一刀は思った事を口にしていく。

 

「俺はみんなに戦えと……傷ついてくれと言っているのかもしれない。」

 

一刀の声には震えがあった。それは戦いに対する恐怖もあるだろうが、何より一刀を悲しませているのは自分の命令で兵たちの人生が大きく変わってしまうかもしれないということだ。

 

「でもさ、自分たちの家族とか友人とか恋人とかさ………そうゆう自分にとって大切な人を守るために戦えば怖さなんか無くなると思う。」

 

あまりにも根拠のない言葉だった。だが兵たちは何も反論せず、ただただ一刀の言葉に耳を傾けていた。

 

「俺にも守りたい人たちがいる。その人たちを守るために………みんな俺に力を貸してくれないか!?」

 

一刀は震えながら言葉を詰まらせながら兵たちに語りかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵たちが雄たけびを上げ、その声が骨の髄まで震わせた。間違いなく敵にも届くほどの叫びであった。

 

 

「……………」

 

一刀は放心状態だった。ただ、必死に言った言葉がこうも兵たちの士気を上げるとは思ってもみなかったからだ。

 

「さすが一刀や!かっこよかったで!」

「ふ、ふん!い、一応よくやったと言っておくです!」

「…………ご主人さま、かっこよかった。」

 

三人も一刀の事をほめたたえていた。兵たちも士気ををどんどん上げていく。一刀は分らなかった。どうしてこんなにも自分の言葉で士気を上げてくれるのかが。

 

一刀は気付いていない。兵たちは一刀の言葉で本当に救われていたことに。いきなりの戦。実戦経験の少なさ。連合と言う大きな敵。兵たちの胸の内はいつ裂けても不思議ではないほど張りつめていたのだ。

 

一刀はそんな兵たちの恐怖心を共に『共有』したのだ。指導者にとって兵は駒にすぎない。兵たちもその事をよく理解していた。だが、一刀は本気で駒にしか過ぎない兵たちの心配をしていた。そのあまりの徳の高さに兵たちは歓喜し、士気を上げたのだ。

 

 

連合軍 袁紹、曹操side

 

袁紹軍と曹操軍はすでに虎牢関の前まで来ていた。

 

「何かしら、今の雄たけびは。」

「品のない叫びですわね。おそらくわたくし達を前に内部分裂しているに違いないですわ!おーっほっほっほっほ!」

 

(そうかしら?………今の雄たけびは。)

 

曹操軍にも袁紹軍にも北郷軍の雄たけびが聞こえていた。袁紹の言葉も一理ある。これほどの規模の連合。半日で落ちた汜水関。そして情報の撹乱。これほどの事が起きているのだから敵が内部分裂するのは分かる。だが、曹操は袁紹の言葉に不安を覚えていた。

 

「さてと、準備が整いましたわね。行きますわよ、華琳さん。」

「え、ええ。分かったわ。」

 

袁紹の言葉に不安があったのは本当だったが、曹操はあまり考えないようにしていた。なぜなら今の北郷軍は瓦解寸前だ。それを立て直すことのできる人間なんかいるはずがないと思っていたからだ。

 

「……北郷……一刀。」

 

曹操はポツリとつぶやいた。北郷一刀が虎牢関にいる情報はすでに届いている。

 

(………まさかね?)

 

北郷一刀ならあるいは……などと曹操は考えていた。だが、それはあり得ないと思っていた。いくら北郷一刀が『天の御使い』と呼ばれている存在であっても、人の心の中にある恐怖心は拭い去ることが出来ようはずもない。

 

だが、もし、本当に北郷一刀がそれをやり遂げたなら間違いなく今までの中で最強の敵であることに違いないだろう。

 

曹操はそんな事を考えながら兵を行進させていた。

 

 

虎牢関side

 

 

「敵軍がまっすぐこちらに向かってきます!」

 

見張りの兵士が大声で告げた。先ほどのドンヨリとした空気はすでに無くなっている。みんな来るなら来いと言わんばかりの勢いであった。

 

そんな中、恋が城門前までやってきた。

 

「うん?恋の奴いったい何をしているんだ?」

 

一刀がそんな事を思っていた時、

 

「…………開門。」

「………えっ!?」

 

何と、恋が打って出ようとしていたのだ。

 

「ちょっ!?お。おい!ねね!」

「なんですか!耳元で騒がないでほしいです!」

 

ねねも恋が城門から出ようとしているところをちゃんと見ている。恋命のねねが全く止めようとしていない。

 

「だ、だって!恋の奴、打って出ようとしているぞ!」

 

この戦いは籠城戦だ。こっちから打って出るなんて愚かな行為でしかない。華雄だってそれでやられてしまったのに。

 

「はぁ……チ●コ。お前は恋殿の事をなにも知らないんですか?」

「………え?」

「恋殿は……」

 

ねねは一間を置き、誇らしげな顔で答えた。

 

「恋殿はあの天下無双、呂布奉先なのですぞ!」

 

そんな事を言っているうちに固く、重い城門は開いてしまった。

 

 

曹、袁軍side

 

 

「城門が開いた?」

 

信じられないことが起きた。曹操は今のこの状況が信じられなかった。曹操は北郷郡の状況を知っている。敵は時間稼ぎが目的なはず。ならばこそ、籠城は間違いない戦術だ。なのにどうして城門を開く?

 

「華琳様、奴です。奴が呂布です。」

「……一人?」

 

城門から出てきたのは呂布一人だけであった。当然、みんな疑問に思う。呂布が出てきたら城門は速やかに閉じた。

 

「いったい何のつもりなのでしょうか?」

 

桂花が聞いてきた。そんな事こっちだって聞きたいというのに。投降だろうか?ならばどうして奴一人だけなのか?それならどうして北郷軍は呂布に何も言わないのか?曹操はそんな事を思っていた時、呂布が単騎でこちらに迫ってきた。

 

「おーほっほっほっほ!何を血迷ったのか存じませんが、向かってくるなら仕方ありませんわね。皆さん、やーっておしまい!」

 

袁紹が呂布一人相手に大軍を送り込んだ。これであの蛮勇も終わりだろう。曹操もそう思っていた。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッガーン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何と吹っ飛ばされていったのは呂布ではなく、袁紹の軍だった。しかも数百人単位で。

 

 

虎牢関side

 

「………うそ……?」

 

一刀は開いた口が塞がらなかった。恋の通る場所に道が出来る。比喩や例えなんかじゃない。本当にあの地を覆い尽くすような大軍がどんどん吹っ飛ばされていったのだ。

 

「見ましたか!チ●コ!あれが恋殿の武なのです!」

 

ねねは恋の事を誇らしげに言う。恋はあの呂布だ。呂布の強さは三国志で知っていたつもりだったが、この強さはあまりにも規格外なものであった。だけど、恋の強さに対して恐怖はない。それどことかとても安心できるようなものだった。味方だったから良かったものの、敵の目にはどう映っているのだろうか?

 

「す、すごい!………あれ?」

 

一刀は恋に目を奪われていたが、ふとある事に気がついた。霞がいないのだ。

 

「なあ、ねね。霞はどこに行ったんだ?恋の強さを霞にも見せてやりたいのに。」

「霞にはやってもらっている事があるんです。もうすぐ現れると思いますから、そんな焦るなです!」

 

霞にやってもらっている事?いったいなんだろうと思っていた時、突如、断崖の上から複数の砂塵が舞っていた。

 

「な、なんだ?あれ。」

 

一刀がそんな事を思っていた時、断崖の上から複数の騎馬隊が崖を駆け、袁紹軍と曹操軍を横から横撃してのだ。

 

「あ、あれって………霞!?」

 

霞だった。霞が率いる騎馬隊は直角ともいえる断崖を難なく降り、敵に横撃をかけていた。ただでさえ、恋のおかげで陣形が乱れているというのにそのうえ横からの横撃。敵は見る影もなく散り散りになってしまった。

 

「………あいつら、あんなに強かったんだ……」

 

一刀はただ茫然となって彼女たちが敵を圧巻している様を城壁から見ていた。

 

 

曹操軍、袁紹軍side

 

 

「撤退、速やかに撤退しなさい!」

 

桂花は軍に速やかに撤退命令を出した。だが、そんな命令を出さなくとも兵たちはあっという間に逃げ出していた。それは袁紹軍も同じだった。

 

「華琳様!ここは危険です!早く非難を!」

 

曹操は呂布が自軍を圧倒している様を凝視していた。

 

「………あれが……呂布……」

 

曹操は恐怖で足がすくんでいたのではない。ただただ、戦う呂布があまりにも美しいものだから魅入ってしまっていたのだ。

 

「華琳様!」

「え?……ええ。今すぐ撤退するわよ!」

「御意!」

 

あまりにも早い決断だった。だが、英断だった。撤退を遅らせた袁紹軍の被害はこちらの比ではなかった。

 

両軍が撤退をしたために呂布はまるであたりを散歩するかの振る舞いで虎牢関に帰還していった。霞率いる、騎馬隊も直角ともいえる断崖を難なく登り、撤退していった。

 

 

虎牢関side

 

「呂布将軍の御帰還だ!」

「うおおおおぉぉぉおお!!」

 

恋が戻ってくると同時に、兵たちは喝采を上げた。敵勢が最もさかんな場所にぶらりと散策するように出て行き戻る。ただ、それだけのことで敵と味方の士気を逆転してしまった。

 

「………ただいま、御主人さま。」

「おかえり、恋。」

 

あれだけの奮闘をしたにも関わらず、息の一つも上げていなかった。不思議な事に一刀は恋に対して恐怖心を抱かなかった。あれだけの武力。敵はおろか味方さえも戦慄するあの強さ。それだけのものがありながら一刀は恋を怖がらなかった。それどころかすごく頼もしく見えるほどだ。

 

「うおおおおぉぉぉおお!」

 

兵たちの喝采はまだ止まらない。この勢いを利用しない手はない。当然、軍師であるねねはすぐに動き出した。

 

「チ●コ!すぐに兵たちに声を掛けろです!この勢いを逃す手はないです!」

「う、うん!分った!」

 

一刀は士気の上がっている兵たちに最後の追い込みをかけた。

 

「みんな!今の恋たちの武を見たろ!これなら俺たちにも勝機はある!」

「うおおおおお!!」

「勝てる!勝てるんだ!俺たちは勝てるんだ!」

「うおおおおお!!」

「みんな!大変だろうけど、あと一か月の辛抱だよ!あと一か月守れば俺たちの勝ちだ!」

「うおおおおお!!」

「守るんだ!自分たちの大切なものを!みんなで守るんだ!」

「うおおおおおおおぉおおおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおぉおおおぉぉぉぉおお!!」

 

先ほどの恋の武を見たためか。若干、一刀も士気が上がっていた。先ほどおどおどした態度ではなく、指導者らしい鼓舞であった。

 

「………ご主人さま、かっこいい。」

「あはは!恋のほうがかっこいいよ!」

「………恋、かっこいい?」

「うん!恋はすごくかっこいい!」

「…………クス。」

 

恋は、わずかに笑った。一刀も当然その事に気がついたが口には出さなかった。口に出してしまえば恋は笑顔をやめてしまうからだ。もう少しこの恋の笑顔を見たかった。

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

……

 

 

しばらくして、まだ敵は攻め入る様子はない。それもそのはずだ、先ほどのダメージは相当大きいに違いない。だが、一刀はそんな敵よりも気になったことがあった。

 

「なあ、霞はまだ帰ってこないのか?」

 

一刀が気になっていたのは霞の事だ。そろそろ帰ってきてくれてもいいと思うのだが、一向に姿が見えない。

 

「………霞、帰ってこない。」

「……え?」

 

突然、恋がとんでもない事を言ってきた。

 

「え、……ど、どうして!?」

「霞からの言伝です!」

 

ねねは一刀に手紙みたいなものを渡した。そこに書かれている内容は霞はこの虎牢関から離れて遊軍として動くという内容だった。どうやら汜水関での戦いで欝憤が相当溜まっていたようだ。適当に敵にあたって、混乱させるという策であった。

 

「………危険じゃないか?」

 

一刀は霞の事が少し心配だった。遊軍と言えば聞こえがいいがその実は、本体から切り離された部隊だ。最初は敵に効果的な打撃を与える事が出来ると思うが、遠からず包囲されてせん滅されてしまうのではないか?

 

「………霞なら大丈夫。」

「チ●コ。お前はあの馬術を見なかったのですか?」

 

確かに霞の馬術は天下一品だ。あの直角の断崖を降りたり登ったりできるのは大陸広しと言えど霞位なものだろう。

 

「確かに大丈夫かも………」

 

霞の馬術は自軍の中で一番だ、簡単には敵に見つからないだろう。それに本人も欝憤を晴らしたいと言っているのだから、どの道止めることなんか出来ない。

 

「………ご主人さまは、優しい。」

「ふん!ただ単に甘いだけなのです!」

「………あはは。」

 

こうして、北郷軍の籠城は最高の状態から始まった。

 

 

雪蓮side

 

 

北郷軍が籠城して早三日。雪蓮たちは後方の輜重隊の警護にあたっていた。汜水関での功績でこうなってしまったのだ。

 

「冥琳、どうだった?」

「いやはや……凄まじいものだったよ。呂布の強さは。」

「そう……あの子ってそんなに強かったんだ。」

「うむ。これなら一か月間、持ちこたえられるかもしれない。………そっちの方はどうだ?」

「うんうん。まだ起きないわ。」

「……そうか。」

 

雪蓮たちは今天幕の中にいた。雪蓮の横には気を失っている華雄がいた。雪蓮は華雄を倒したあと、自軍の陣地に連れ込み手当てをしたのだ。幸い、急所は外れていたために命に関わる事ではなかったが未だに意識が戻らない。

 

「……雪蓮。」

「うん?何?」

「いまさらだが、そんな奴を助けてどうする?」

 

冥琳は華雄の蛮行に対して腹が立っている。自分たちの策を潰されたからではない。将でありながら命令を無視し、君主である北郷を危機に晒している事に対して腹を立てているのだ。

 

「それもそうだけどさ………一応、情報を聞き出さなくちゃいけないでしょ?」

「それもそうだが………」

 

雪蓮と冥琳がそんな会話をしている時だった。

 

「う……う~ん……。」

 

意識の無い華雄がうなされていたのだ。

 

「あ、起きそう。」

「………おのれ……孫策め~……」

「………どんな夢を見ているのかしら?」

 

雪蓮はうなされている華雄のほっぺを突いていた。その時、ふと何かを閃いたようだった。

 

「孫策はここにいるぞ~。」

 

雪蓮は華雄の耳もとでそっと呟いた。その瞬間、

 

「孫策!」

 

華雄の両眼が大きく開いたのだ。

 

「あ、起きた。」

 

華雄はまだ体を起こすことが出来なかったが、首だけは動かせた。首を一生懸命使い、あたりの様子を見ていた。

 

「ようやく起きたのね。」

「なっ!?貴様は……孫策!…いたたたたた!!」

 

華雄はとっさに体を起こそうとした、だが、華雄の体はまだ動かせる状態ではなかった。

 

「無理に動くと傷が開くわよ。」

 

雪蓮は華雄の崩れた姿勢を元通りにしてやった。華雄は自分の体を見た。そこには丁寧に手当てされてた跡があった。おそらく……いや、間違いなく雪蓮たちが手当てしてくれたのだろう。だが、華雄は感謝の気持ちよりも先に怒りの方が早かった。

 

「孫策!私に情けをかけるつもりか!?」

「情け?」

「私は裏切り者に助けられるほど落ちぶれてはいない!」

「………華雄。落ち着きなさい。」

「落ち着けだと!ふざけるな!この裏切り者!」

 

華雄は駄々を捏ねている。雪蓮はそんな華雄に静かに言った。

 

「……華雄。静かにしないと殺すわよ。」

 

声は静かだったが、凄まじい殺気を放っていた。常人ならその殺気だけで息を引きとるかもしれない。当然、手負いの華雄は雪蓮の殺気に恐怖し、口を閉じてしまった。

 

「華雄、あなたは私たちに対して怒りを露にしているようだけど……私たちの怒りはそれ以上よ。」

「………どういう意味だ?」

 

雪蓮は間違いなく怒っている。だが、こちらが非難される覚えはない。雪蓮はそんな華雄に自分たちの経緯を話した。

 

 

雪蓮は華雄に話した。自分たちが裏切っていない事。連合に入らざるを得なかった事。一刀たちの狙いに気づき、それを連合側から補佐しようとした事。華雄の蛮行でその策がすべて無駄になった事。

 

「………嘘だ。」

「嘘じゃないわ。本当よ。」

「………それでは私は………。」

「そう。私たちの邪魔をしただけではなく、一刀たちを危険に巻き込んでしまったの。」

 

華雄はただ茫然としていた。だが、そんな華雄に雪蓮はとどめと言わんばかりに言葉を続けた。

 

「華雄、知ってている?一刀は今、虎牢関で戦っているのよ。」

「な、なんだと!?なぜだ!」

「あなたのせいに決まっているでしょ?」

 

雪蓮は教えた。華雄の蛮行のせいで一刀自身がおとりにならなくてはいけなくなった事に。華雄はあまりの情けなさに涙を流してしまった。

 

「………うっ……ひく……えぐ……」

 

あまりにも情けない。あまりにも自分が情けなくて人前で見せたこともない涙をボロボロと雪蓮の前で落としてしまった。雪蓮はそんな華雄を気遣うはずもなく、さらに言葉を続けた。

 

「華雄、あんたの言動から一刀たちの狙いが私たちの考えたものと一緒だったことは分かったわ。もうあなたに用は無い。傷が癒えたらどこかに消えなさい。一刀たちは私が守るわ。」

 

そういって雪蓮は華雄を一人にして天幕を出た。

 

「うわあああぁぁぁぁん!!」

 

華雄は一人になり、気が抜けたのか大きな声で泣き崩れた。

 

 

「少し言い過ぎではないのか?雪蓮。」

 

天幕から出た後、冥琳は雪蓮に聞いてきた。

 

「ふん!言い足りないくらいよ!」

「その割には、ずいぶんと懸命に介護をしていたな?」

「そ、それは……私のせいで死んだら後味が悪いからよ!」

「はいはい。」

 

そんな会話のやり取りをしているうちに、雪蓮は明命を呼び寄せた。

 

「明命!」

「はい、雪蓮様。」

「曹操軍の様子は?」

「はい、別段変わった様子はありませんでした。今日も一刀様たちにあしらわれていたようです。」

「そう……引き続き曹操軍の動向を探ってちょうだい。」

「はっ!」

 

そう言って明命は姿を消した。雪蓮は後方に配置されていても明命を使って情報を手にしていたのだ。今の雪蓮たちは各諸侯たちの監視のもとにある。汜水関での功績を妬んだためにこれ以上の功績を上げさせないためだ。

 

「雪蓮、北郷たちが心配なのは分かるが………余計な気は起こすなよ。」

「分かっているわよ。だけど、曹操の動きが気になってしょうがないの。」

「それは私も同じだ。だが、今の北郷たちは最強だ。簡単にやられはしないだろう。」

 

冥琳の言うことは分かる。虎牢関での籠城という戦術をとりつつ、霞に遊軍で敵を見出し、恋の武力で敵を倒す。単純な戦い方だが打ち崩すのは至難だ。だが雪蓮は嫌な予感がしていた。自分の勘は良く当たる。だから、余計にいやな感じになるのだ。

 

 

曹操軍side

 

 

一刀たちが籠城して十日目。曹操軍はいまだに一刀たちを崩せずにいた。

 

「包囲がだんだん遠巻きになっているわね。」

「はい。いつ出てくるか分らない呂布に対して兵たちが怯えているのです。」

 

曹操は後方から虎牢関の方を見ていた。その傍らに夏候淵がいる。

 

「か、華琳様~!!」

「しゅ、春蘭!?」

「あ、姉じゃ!?な、なんだその体は!?」

 

いきなり泥だらけになりながら傷ついた夏候惇が曹操のもとへやってきた。

 

「春蘭、説明しなさい。何があったの?」

「は、はい………グス………実は先日、敵の遊軍に部隊をボロボロにされてしまいまして……」

「………それで?」

「…うっ……ひぐ……そ、その遊軍を追いかけて、私も崖を登ったんです……」

「なっ!?」

「そしたら……その遊軍の将に登っているところを狙われてしまって……崖から突き落とされてしまったんです。うわあああぁぁぁん!」

 

曹操は眩暈を起こしていた。部下の夏候惇は頭が弱いのは知っていたが、まさかここまでだとは。そんな無防備な状態で崖なんか登っていたら敵に狙い撃ちにされるのは当たり前だというのに。いや、むしろ崖から突き落とされて生きている事を褒めるべきか?

 

「華琳様、馬鹿な春蘭はともかく、どの道その遊軍の将は捨て置くことは出来ません!」

「こらあ!誰が馬鹿だ!?誰が!?」

「うるさいわね!こっちに唾を飛ばさないでちょうだい!」

 

二人がギャーギャー騒いでいるため、曹操は夏候淵に答申を求めた。

 

「はあ……秋蘭はどう思う?」

「はい。姉じゃの気持ちはともかく、私も桂花と同じ考えです。敵の遊軍を無視することは出来ないでしょう。」

「………そう。」

 

曹操はあまりの惨状に頭を抱えていた。まさか呂布一人と僅かばかりの遊軍でここまで自軍がボロボロになるとは思ってもみなかったからだ。

 

「呂布や張遼だけではありません。軍を遊ばせ、外交を操り、城を守る。その見事さはすべて敵に軍師、陳宮にあるのかもしれません。」

 

夏候淵は今のこの状況を演出しているのは呂布なんかではなく敵に軍師である陳宮かもしれないと言った。確かにその考えにも一理あるが曹操の頭の中には陳宮よりも北郷一刀の方が恐ろしいと思っていた。

 

「確かに秋蘭の話も分かるわ。でも私にしてみれば、彼女たちの潜在能力をここまで引き出すことができる北郷一刀の方がよっぽど見事と言えるわ。」

 

曹操は夏候淵たち部下の方を見た。夏候惇と荀彧はいまだに喧嘩をしていた。夏候淵はため息をついたが曹操はそんな二人に聞こえるように呟いた。

 

「もし、北郷一刀とその部下たちが私の配下になったら、もうあなたたちは必要なくなるかもしれないわね。」

 

曹操がその言葉を出した瞬間、二人は喧嘩を止め、泣きながら曹操にしがみついてきた。

 

「そ、そんな!華琳様!どうか私だけは見捨てないでください!見捨てるならこの春蘭にしてください!」

「何を言うか!華琳様に見捨てられるのはお前の方だ!」

 

二人の取っ組み合いがまた始まった。曹操はため息をつきながら、

 

「冗談よ。」

 

と答えてあげた。すると二人の喧嘩はあっという間に止まってしまったのだ。

 

「でも、桂花、春蘭。」

「は、はい?」

「私の軍師と将でいたいなら、早く北郷軍を何とかしなさい。私は無能な人間を傍に置いておくほどお人好しではないわよ。」

「ぎょ、御意!」

 

そういって桂花と夏候惇は作戦のためにその場を急いで離れた。次に失敗すれば間違いなく見捨てられると思ったからだ。

 

「ふふふ。相変わらず華琳様は二人を使うのが上手ですね。」

「あなたがそれを言うの?秋蘭。」

 

曹操と夏候淵は二人で談笑していた。

 

「桂花たちにはああ言ったけど………もう私たちには時間がないわ。おそらく次に呂布が来たときが勝負になるでしょうね。」

「そうですね。その時は命に代えても私たちが呂布を止めてみせます!」

 

その通りだ。もう曹操たちには時間が残されていなかった。あと数日間、籠城されたら北郷軍の本体は長安に行ってしまう。そして北郷一刀も長安に向かってしまうだろう。北郷一刀を捕えるにはどうしてもこの虎牢関を突破するしかないのだ。

 

「………期待しているわよ、秋蘭。」

「………はっ!」

 

 

 

………………………………

 

 

……………………

 

 

………

 

 

 

一刀は気付いていない。確かに今の北郷軍は最強だ。だが、それは恋の力があって初めて最強と言われるのだ。恋は最強だ。最強であるが…………万が一恋が敵に不覚を取ったら、間違いなく北郷軍はあっという間に瓦解するだろう。

 

 

 

 

続く

 

 

あとがき

 

こんばんわ、ファンネルです。

 

更新が遅れたことをお詫びします。

 

華雄さんは生きていました。ですが当分は寝たきりです。

 

この袁術ルートも26話になり、凄まじい長編小説になりました。ですが未だに虎牢関。

 

………どうしよう?

 

最近、読む方に凝ってしまいました。次々に新しい作者さんの新しい作品を見て妄想力をもらっています。

 

次回は虎牢関の戦いの最後です。上手く描けるか分りませんが、ぜひ読んでいってください。

 

では、次回もゆっくりして行ってね。

 


 
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